おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第365回 まちライブラリー@ゆうまい絵本文庫 石橋 光子さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が 腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.117 まちライブラリー@ゆうまい絵本文庫 石橋 光子 さん

まちライブラリー仲間に囲まれて、充実した笑顔の石橋さん。 取材協力/まちライブラリー@千歳タウンプラザ

[本日のフルコース] 絵本の私設図書館を主宰する石橋さんの 「わたしの人生に並走してくれた絵本」フルコース

[2018.2.26]

書店ナビ 千歳在住の児童文学作家、栗沢まりさんに続き、今回もまちライブラリー@千歳タウンプラザさんの協力を得て、千歳のご自宅で私設図書館「まちライブラリー@ゆうまい絵本文庫」を開いている石橋光子さんにご登場いただきました。 旭川で育った石橋さんは結婚後、ご主人の転勤で千葉県市原市や宮城県塩竈市、苫小牧市、釧路を住み歩き、ご夫婦で「静かで野菜も花も育てられる」千歳に移住。その間、長男長女の子育ても経験されました。 2016年12月のまちライブラリー@千歳タウンプラザオープンに刺激を受け、自宅の一部を開放する「まちライブラリー@ゆうまい絵本文庫」 を始めたことは、下記のリンクからも詳しくご覧いただけます。

第346回 北海道ブックフェス2017レポート 植本祭 まちライブラリー@千歳タウンプラザ

石橋 わが家の子育てに絵本は欠かせないものでした。引っ越しのたびに荷物を整理することはあっても、絵本だけは必ず新しい土地にも連れて行き、子どもたちが家を出てからも手放すことはありませんでした。
千歳に来てまちライブラリーと出会い、まさか自分がわが家の絵本を使ってまちライブラリーを開くようになるなんて! まちライブラリースタッフの久重薫乃さんをはじめ、こうしていろいろな方々とつながることができたのも、すべて絵本たちのおかげだなあと実感しています。
[本日のフルコース] 絵本の私設図書館を主宰する石橋さんの 「わたしの人生に並走してくれた絵本」フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

ぐりとぐら
なかがわりえこ・おおむらゆりこ  福音館書店

子育ての最初の絵本です。野ねずみ兄弟のユーモラスなキャラクターと物語の温かさ、リズミカルな文章に母子ともに惹き付けられました。わが家では一番手あかつきの古書となっています。  

書店ナビ ご自宅からお持ちいただいた実物は、いまでは貴重な月刊予約絵本「こどものとも」時代の「ぐりとぐら」! 裏表紙に1975年4月発行とあり、持ち主のなまえを書く欄には「いしばしこうじ」。 石橋家ヒストリーを物語る思い出の1冊ですね!

こどものとも版『ぐりとぐら』。ところどころ修復の跡があるのも愛読された証し。

石橋 長男のときは初めての子育てでしたから、どんな絵本を選んだらいいか見当もつかなくて。幼稚園で募っていた定期講読に申し込み、最初に届いたのがこの本でした。 ぐりとぐらは兄弟ゲンカもしないし、他の動物たちにもとてもやさしいんですよね。長男と年子で娘も生まれましたが、2人ともこの絵本が大好きで、自分たちとぐりとぐらを重ね合わせていたのかもしれません。 最近、書店でかわいらしいトートバッグに入った7冊セットの小型版「ぐりとぐら」を見つけて、思わず自分のために買ってしまいました。 最初の絵本がこれで本当によかったです。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

三びきのやぎのがらがらどん
マーシャ・ブラウン 翻訳/せたていじ  福音館書店

息子の一番のお気に入りで、小学3、4年生になっても「読んで!」というリクエストがあり、母としてはいまだに「なぜ?」。でも長じて、このがらがらどんのようにたくましく自立する姿を見せてくれた息子の成長を思うと、息子と絵本の両方に感謝です。

書店ナビ 絵のタッチは写実的で荒々しく、確かに男の子受けするのはわかる気がしますね。

今見てもかっこいい三匹目。ノルウェーの昔話を下敷きにしている。

石橋 「これがいい!」と書店で選んだのも息子でした。トロルと闘う姿に憧れたのか、仮面ライダー世代の子ども心に響くものがあったのか…。
高校生だった息子がアメリカ留学したいと言い出したとき、実は一瞬渋ったのは私ではなく夫のほう(笑)。最後は本人が父親を説得して、私も笑顔で送り出したつもりでしたが、実はそれからが大変でした…。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

わすれられないおくりもの
   スーザン・バーレイ 翻訳/小川仁央  評論社

「空の巣症候群」になり、母も行動しようとボランティアへ。そこでサプライズ・プレゼントされたのがこの本です。絵本の奥深さを教わりました。 

石橋 息子に続いて娘も東京の専門学校に進んでから、気がつけば何もする気になれない「空の巣症候群」に陥りました。
「まさか自分はそうならないだろう」と思っていましたが、21歳で結婚してから子育てひとすじだったものですから、子離れの難しさは想像以上で…。しばらく家にこもりきりの日々が続き、さすがにこのままではダメだろうと思い直して、視覚障害者の方をお手伝いしたり少年院を訪れるボランティアを始めました。
そうやって少しずつ社会復帰し始めた頃に、ボランティア仲間のおひとりが「主人公のアライグマが石橋さんのように思えるから」と、この本をプレゼントしてくださったんです。
うれしかったですね。自分がこのアライグマのように周りの人に影響を与えている存在かどうかは、いまだに半信半疑ですが、少なくとも"そう思ってくださる方がいる"ことにとても励まされました。
今は70代からの青春を謳歌中(笑)。主人もこうして出歩くことを応援してくれています。

石橋さんはまちライブラリー@千歳タウンプラザで持込み企画「千歳を知ろう!」シリーズも展開中。毎回ゲストの人選・依頼も自身で行い、チラシ作りなどをまちライブラリースタッフがサポートしている。2018年1月23日は「千歳の宝・支笏湖」をテーマに、支笏湖自然保護官事務所のアクティブ・レンジャー、當山真貴子(とおやま・まきこ)さんをカタリストにお招きした。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

戦火のなかの子どもたち
岩崎ちひろ  岩﨑書店

岩崎ちひろ作品といえば、明るく淡い色調のやさしいタッチで知られていますが、この本は哀しみに彩られたモノクロの世界。「子どもを守る」という一心の強さにハッとさせられました。

書店ナビ 本書は1972年から73年にかけて、ベトナム戦争の末期に描かれました。銃弾が降るベトナムの子どもたちへの想いと、岩崎ちひろさんご自身が経験された第二次世界大戦の記憶をもとに綴られた反戦絵本であり、著者の最期の絵本となりました。
石橋 ちひろさんは1918年生まれなので、2018年は生誕100周年で、さまざまな記念展覧会の開催も予定されているようです。ご自宅兼アトリエ跡に建てられたちひろ美術館・東京や、安曇野ちひろ美術館にも行ったことがあります。
本書の中でシクラメンの花だけに使われている"赤い色"がいつまでも心に残ります。1人でも多くの方に読んでいただきたい内容です。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

あおばのもり
いしばしみつこ  ひかり出版社

千歳青葉公園は約290種の野草花や15本以上の巨木、30種近くの野鳥と動物たちがいる大自然の宝庫です。千歳市民となって40年の私にそのことを教えてくれたのは、手のひらの上の小さな青い鳥オオルリでした。

書店ナビ 本書の著者は石橋さんご本人。市立図書館の絵本作成講座に通って完成させた初めての、しかも全ページ仕掛け付きという力作です。
石橋 あるとき、うちにきれいな青い鳥が迷いこんできましてね。残念ながら見つけたときはもう息絶えていたんですが、それ以来「あの青い鳥はどこから来たんだろう」と考えるようになり、ようやく市内にある青葉公園の豊かな自然に気づくことができました。
私が"千歳の宝物"だと思っている青葉公園のことをたくさんの方に知っていただきたくて、「千歳を知ろう!」シリーズでは青葉公園をテーマにした回もありました。
この絵本の中では、あのオオルリは今も元気に青葉公園を飛び回っています。私に大切なことを教えてくれてありがとう、と伝えたいです。

出版社名は"光子さん"なので「ひかり出版社」と命名。第二弾も期待したい。

ごちそうさまトーク 地域の方々に安心して来ていただける場に

書店ナビ 今回のフルコースは、子育てのファーストブックから始まり、空の巣症候群からの脱却、そしてセカンドライフの使命を見出してくれた幸福の青い鳥…と、まさに石橋さんの人生そのものを語る5冊ですね。
選書を通してその人自身を知るというフルコース企画の主旨を、私どもも再認識させていただきました。
最後に「まちライブラリー@ゆうまい絵本文庫」の今後の抱負をお聞かせください。
石橋 いまは私の宣伝不足で来館者がいない日が続いていますが、考えてみれば、いくら私設図書館とはいえ知らない人の自宅を訪れるのは勇気がいりますよね(笑)。
今後はもう少しイベントを開いたりして、地元の方々に安心して来ていただける工夫を考えていきたいです。
書店ナビ まちライブラリー提唱者の礒井純充さんも一目置く石橋さんのご活躍、これからも応援しています。絵本が並走してくれた自分史フルコース、ごちそうさまでした!

まちライブラリー@ゆうまい絵本文庫

●石橋光子さん
青森県生まれ。21歳で結婚後、転勤で千葉や宮城、北海道各地を巡り、千歳に定住。2017年から自宅の一室で始めた「まちライブラリー@ゆうまい絵本文庫」は、毎週日曜日のみ13時から開館中。当初100冊だった蔵書は現在倍以上に膨らんでいる。

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