おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第406回 マジシャンやまちゃん

Vol.143 マジシャンやまちゃん

取材はトレードマークの緑色の全身タイツを脱いだ"素の姿"でお願いした。

[本日のフルコース]
札幌の人気マジシャンやまちゃんが告白!
「今の自分があるのはこの本のおかげです!」フルコース

[2018.12.17]

書店ナビ マジシャンに本のお話をうかがうのは「本のフルコース」史上初!札幌を拠点に緑色の全身タイツ姿でマジック・パフォーマンスを披露するマジシャンやまちゃんのご登場です。
「やまちゃんさん」とも呼びづらいので、ここから先はご本名の山崎隆宏さん、山崎さんと呼ばせていただきます。

公式サイトによると13歳から家族にマジックを披露するようになったとか。ハマッたきっかけは何だったんですか?
山崎 小さいとき、7つ上の姉ちゃんがちびまるこちゃんのトランプでカードマジックを見せてくれたんです。
それでもう、「すげー!」と感動して自分でもやるように。
ちょうどテレビでマリックさんが活躍していた時代でしたから夢中になって見て、マジック道具を買って必死に覚えていきました。

僕の人生でラッキーだったのは、入学した北海道釧路工業高校に地元のマジッククラブの会員だった先生がいたことです。放課後になったら職員室に行って教えてもらったり、こっちも「先生、これできる?」と披露したり。お互いを刺激しあうマジック仲間になってくれました。

それともうひとり、札幌の北海道工業大学に進学してからすごく目利きの友達と知り合えて、そいつにマジックを見せると「作品自体はいいけど、もっと他のやり方もあるんじゃない?」的に冷静に批評してくるんです。
「お、おう」とか言いながら、こっちも必死に考える(笑)。勉強になりました。
で、学祭で披露してからは「みんなにこんなに喜んでもらえるマジックっていいな」と真剣に考えるようになって。実際、就活で東京のマジックの会社に応募しましたが不採用になって現実の壁に突き当たりました。
書店ナビ その後山崎さんは一度仮設資材会社に就職しますが、やはりマジシャンの夢をあきらめきれず札幌にUターン。
すすきので働いた「かなりハードな日々」をなんとか生き抜き、通信会社の営業職で生活を建て直します。
26歳で念願のマジシャンとして独り立ちし、知人のツテや飛び込み営業で顧客を増やし、ステージ経験を積んでいきました。
山崎 まとめるとそういうことです(笑)。今回フルコースのお話をいただいてめちゃめちゃうれしくていろいろ考えましたが、自分のマジシャン人生に影響を与えてくれた3冊と、あと2冊は単純に大好きな本を選びました。
[本日のフルコース]
札幌の人気マジシャンやまちゃんが告白!
「今の自分があるのはこの本のおかげです!」フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

もものかんづめ
さくらももこ  集英社

2018年に乳がんで亡くなった著者の家族エピソードやOL時代の歓迎会体験を綴ったミリオンセラー・エッセイ。日本中がほのぼのしたアニメ「ちびまるこちゃん」とはひと味違う、〈真実のまるこちゃん〉の爆笑エッセイ。

山崎 この本は僕が人生で初めて読んだ"文字だけの本"。中学の朝読で読んで、僕ひとりだけ大爆笑してるんで周りから不思議がられました。
不謹慎かもしれませんが、おじいちゃんが死んだ話とかめちゃくちゃ面白いじゃないですか!
さくらさんの言い回しって独得で、さらっと書いて一見ふざけているようだけど、でもちゃんと読み手に「それしかない!」という感じで伝わってくる。
自分も大学時代にさくらさんの言い回しをまねて、なんちゃってエッセイを書いてたほど好きでした。
書店ナビ さくらさんの文体、たとえばこういうところですね。
「ジィさんが死んだよ」と私が言ったとたん、姉はバッタのように飛び起きた。「うそっ」と言いつつ、その目は期待と興奮で光り輝いていた。
山崎 そうそう!バッタって(笑)。ちょっとマジメな話をすると、マジックの同業で尊敬する諸先輩はたくさんいますが、自分にとって〈憧れの存在〉はさくらさんや爆笑問題のお二人とか、実は全然違う業種のひと。
うまく言えないけど、さくらさんの文体みたいなマジックをやりたいなっていつも思っています。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

トランプマンのスーパーマジックマル秘テクニック
トランプマン  成美堂出版

バラエティ番組『なるほど!ザ・ワールド』で一世を風靡したトランプマン。終始無言でパフォーマンスし、白塗りメイクにマスクで顔を隠していたため、一時「タモリさんなのでは?」なんていうウワサが流れたことも。

山崎 これは中学2年のとき、初めて自分のおこづかいで買ったマジック本です。それがですよ、いざ書いてあるネタをやってみようとすると素人はまったく歯が立たない。そりゃあ、タイトルに「スーパーマジック」って書いてあるもんな!って感じでした。
書店ナビ マジシャンの修行はこういう専門書を読んだり、あとは専用の道具を使いこなしていきながら腕を磨いていくものなんですか?
山崎 プロマジシャンの動画を見て「これはどうやっているんだろう?」と技を解読するのも勉強のひとつですね。「出来た!」瞬間はやっぱりうれしいですし、どうにかして自分流にアレンジできないかと考えるのも楽しいです。
今この本を見たら、できる技もいっぱいあってそれもまたうれしいっす。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

新版ラリー・ジェニングスのカードマジック入門
加藤英夫  テンヨー

アメリカ人マジシャンのラリー・ジェニングス(1933~1997)は、世界中のマジシャンから"プロフェッサー"の愛称で親しまれていたダイ・バーノン(1894~1992)の一番弟子。天才的なカードマジックで後世に名を残した。

書店ナビ 本書の序文をラリー・ジェニングスの師、ダイ・バーノンが書いています。カードマジックをする日本人にとってバイブルのような本ですね。

著者の加藤英夫さんもまたカードマジックの名手で知られるマジシャン。アメリカに渡り、ラリー・ジェニングスの下で学んだ成果をまとめ、1972年に本書を刊行。山崎さんの私物はその後内容をグレードアップした新版。

山崎 この中に「まぼろしの訪問者」(原題はvisitor)という技があって、僕はそれの「効果」を初めて読んだとき、「絶対ムリ!」と思ったんです。
で、そのあとに種明かしにあたる「方法」を読んだとき、「なるほど!」と膝を打ちたくなる思いでした。
それくらい誰も考えたことのないすばらしい作品だったんです!

実はこのあと、「……やってみますか?」とおもむろにカードを取り出した山崎さんが「まぼろしの訪問者」を実演してくれた!見せてもらったこちらはただただ唖然、「ななななんで?」としか言えないスゴ技である。

山崎 ポイントは、お客様が選んだカードが2つに分けたカードの山の片方から片方へ、そしてもう一度元にいた山へと二度移動するところ。こんなこと、誰も思いつかないですから。あとはもう、練習あるのみ。
自分が初めて出来たときのことは今もはっきり覚えています。風呂上がりで、確か仏壇の前だった。
高校のときに買ったこの本でマジックにドハマリした、僕の人生の一冊です。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

藤子・F・不二雄異色短編集1 ミノタウロスの皿
藤子・F・不二雄  小学館

安孫子素雄と組んで「藤子不二雄」名義で活躍していたコンビを解消後、藤本弘は「藤子・F・不二雄」で作品を発表(安孫子氏は「藤子・A・不二雄」)。代表作は『ドラえもん』『パーマン』『キテレツ大百科』など。

書店ナビ ここから先は山崎さんが大好きな《デザート》2冊のご紹介です。1冊目は藤子不二雄の「絵柄がかわいいほう」、藤子・F・不二雄先生の短編集ですか。
山崎 そう思いますよね?その「かわいい」はずの藤子・F・不二雄先生もこんなにゾワッとする話を描いている!というギャップがたまらないのが、この異色短編集なんです。マジシャン仲間から教えてもらいました。
『笑ゥせぇるすまん』のA先生がこういうのを描くならまだわかるんですが、F先生が描くからさらに怖い!特に『自分会議』がオススメです。
マジックとは直接関係ないストーリーですが、相手を驚かせるギャップはマジシャンにとっても大事な要素。意識したいところです。

ドラえもんの大ファンという山崎さん。誕生日12月3日は偶然にも「マジックの日」!まさにマジシャンはやまちゃんの天職なのだ。

デザート スイーツは別腹!ということでもう一皿

だいじょうぶだよ、ゾウさん
ローレンス・ブルギニョン作 ヴァレリー・ダール絵  文溪堂

幼いネズミと年老いたゾウは仲良しコンビ。ある日、ゾウは「もうすぐ遠いゾウの国にいって、もうもどらない」とネズミに告げる。はじめは受け入れられないネズミだったが…。

山崎 本屋さんで何気なくて手に取った絵本だったんですが、立ち読みしているうちに自分でもビックリするくらい大泣きしちゃって!これはちゃんとお金を出して買わなきゃダメだと思いレジに行きました。
ネズミが成長していく姿がもう愛しくて……人生で乗り越えなきゃいけないものってあるよな。俺もがんばろう!と読み返すたびに大泣きして、うちの奥さんに「また泣いてる」って笑われてます。
書店ナビ 現在1歳半のお子さんと一緒に読める日が楽しみですね。
山崎 ですね。でも今年32歳になる自分が、まさかマジックで家族を養っていけるようになるとは、学生時代は思ってもいませんでした。
高校の先生、大学時代の友人、お世話になった通信会社の社長さん……人生の節目節目にいい出会いに恵まれて、ホントありがたいです。

ごちそうさまトーク 凍りついた窮地を救ったお客様の一言

書店ナビ 小さい頃から手先が器用だったんですか?
山崎 いえいえ、その正反対。僕は不器用なんで人一倍練習するしかないんです。それにどんなに練習してもマジシャンとして一番大事なことは「本番で成功するメンタル」があるかどうか。

まだ駆出しだったとき、ビール愛好家の方々が集まる宴席でコップから落ちないはずの水が全落ちしたことがあったんです。
そこで笑いが起きればよかったんですが、僕もすっかり顔面蒼白になっちゃって会場中が「失敗じゃね?」的な不穏なムード一色に。
でもそこでお客様の一人が「ビールを飲まないから失敗したんだよな」と言ってステージにドンッとジョッキを置いてくれたんです。
書店ナビ 粋なお客様ですね!
山崎 救世主か!って思いました。僕、お酒はあまり飲めないんですけどさすがにその場は一気飲みしてやり直したら今度は成功、大喝采です。
その後もどんどんジョッキが差し入れされて、最後はフラフラになりました。
おかげでその宴席には翌年も続けて呼んでいただいて、4年目はウコンを飲みながらステージに出て行きました。

これはたまたま失敗から始まった話ですが、僕は基本、こんな風に毎回「二度とできないショー」をしたいんです。もっといっぱい名前が売れて、北海道から全国各地にわざわざ呼ばれるマジシャンになって、それでも地元で今と同じような活動を続けたい。それが今後の目標です。
書店ナビ 緑の全身タイツは初期の頃から着用されているとか。
山崎 あるとき、コスプレで来るという決まりがあって着始めたのがきっかけです。キャラを覚えてもらいやすいですし、袖やポケットがないタイツ姿で仕掛けをどこにも隠せないはずなのにいろいろやるのでお客様の驚きが倍になる。
あとは緑色なので、目にやさしいマジシャンやまちゃんです(笑)。
書店ナビ やまちゃんのステージ同様、とっても楽しいエピソード満載のマジカルフルコース、ごちそうさまでした!
●マジシャンやまちゃん
新年会や歓送迎会の盛り上げ役に!お友達や職場の方々とやまちゃんのステージを体験してみませんか?

green-magician.com

●山崎隆宏(やまざき・たかひろ)さん
釧路市出身。北海道工業大学(現・北海道科学大学)卒業。営業職や飲食店勤務を経て小さい頃からの夢だったマジシャンとして独立。緑色の全身タイツを着用し「マジシャンやまちゃん」を名乗る。28歳のときに株式会社Green magic設立。30歳で開いた初のワンマンショーには300人近くが集まった。現在出張マジックショーやイベントに出演するかたわら、マジック教室も開催する。
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