おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第412回 中西出版株式会社 編集 佐藤 香さん

Vol.147 中西出版株式会社 編集 佐藤 香さん

親会社である中西印刷株式会社の営業推進部にも籍を置く佐藤さん

[本日のフルコース]
編集者だって「もう活字はたくさん!」のときもある
それでも手にとるMYフェイバリット・フルコース

[2019.2.4]

書店ナビ 札幌市東区に社屋がある中西印刷株式会社は1912年に創業の老舗企業。自治体の郷土史や広報誌など多種多彩な印刷物を手がけているうちに、社内にも出版部門を作ろうという声が高まり、1986年に出版事業部を設立。
1988年には「北海道の文化を豊かにする」というモットーをかかげ、同事業部を中西出版株式会社として分離独立しました。

佐藤香さんは中西印刷で組版専用機に向かうオペレーターとして入社し、6年前から中西出版に異動されたそうですね。
佐藤 学生の頃から読書が好きで、組版をしているときも「あれ、ここ、このままでいいのかな?」と気がついたことはフィードバックしていましたが、本格的な編集業務は異動後が初めてです。
二人のベテラン編集者の仕事を見ながら日々勉強しています。
書店ナビ 御社のロングセラーといえば、北海道のSTVラジオで放送されている、史実をもとにしたラジオドラマ「ほっかいどう百年物語」(毎週日曜9:00~9:30放送)を書籍化した同名シリーズ。
現在第10集まで刊行されており、北海道命名150年の昨年は8年ぶりに新刊が出ました。
詳しい内容は最後の「ごちそうさまトーク」でうかがうとして、編集に携わった佐藤さんは、それでなくても忙しい年末の発行に向けておおわらわだったんじゃないですか?

北海道命名150年記念 ほっかいどう百年物語 上巻
STVラジオ編  中西出版

「北海道命名150年」を記念し、10集(2010年発行)以降に放送された回のなかから北海道の発展に力を尽くした先人たちの20の物語を収録した。


佐藤 あの時期は、起きている間はほぼ校正・校閲に追われて、「もう活字はたくさん!一文字だって見たくない!」という気持ちでしたが、それでも家に帰ると何かを見ていないと落ちつかない。気がつけば、手に取ってしまう本があるんですね。
どれもユルイ感じで恐縮ですが、そんな私の大好きな5冊をご紹介させてもらいます。
[本日のフルコース]
編集者だって「もう活字はたくさん!」のときもある
それでも手にとるMYフェイバリット・フルコース


前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

動物のお医者さん
佐々木倫子  白泉社

「H大獣医学部」で獣医を目指す主人公と仲間が織りなすキャンパスライフを描いたコミックス。ほぼ1話完結なので、主人公の卒業まで時を進めながらもどこからでも超個性的な登場人(動)物のゆるライフがサクっと楽しめる。

書店ナビ 1987~1993年にかけて少女マンガ誌『花とゆめ』で連載していた大ヒット作。作者の佐々木さんは北海道出身です。
佐藤 確か中学生の時に古本屋さんで手にとってハマったんだと思います。コミックの新刊が出るたびに買い、足りない既刊本は古本屋で見つけたりして全12巻コンプリートできました(現在は文庫版全8巻セットが発売中)。

犬を飼っていたので私はチョビが大好きでしたが、実家が農家で動物たちに囲まれて育った父もこれを読んで、「そうなんだ、馬は後ろを向くとイタズラするんだ」と頷いていました。
あと、ハムテルの両親や漆原教授とか実は世間の尺度ではかるとそれなりの立場にいるはずの人たちがみんな変わりもので、全然いばっていない。その力の抜けたところが、何度でもいつでも読める魅力だと思います。

お持ちいただいた私物は、貴重な「花とゆめ」コミックス版。「小型犬全盛のいま、リアルチョビを見かけなくなってさみしいですね」

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。
川上和人  新潮社

著者は「人口10万人に一人(自称)」という鳥類学者。"立て板に水"の名調子と広範な無駄知識が炸裂する文章を楽しむうちに、思いも寄らない危険に満ちた学者ライフを垣間見、冒険者気分を味わえる。

書店ナビ 動物のお医者さん』に続いて、鳥の研究者本。佐藤さん、動物好きですか?
佐藤 それがそうでもないんです(笑)。なのにときどき、動物の本、それも癒やし系写真集ではなくエッセイ系を買ってしまう。この本は会社の朝礼スピーチで紹介したこともあります。
中味はとにかく「そんなこと知らなくても生きていける」ことばかりですが、研究者ならではの理路整然とした筆で書かれていると面白くてやめられない。
絶海の孤島にフィールドワークに行くために体を鍛え出すとか、研究者本人の生態もわかります。

おすすめは、チョコボールのキャラクター「キョロちゃん」を鳥類学的に分析して特定しようとするエア鳥類学の章。「大きな嘴と前向きの目」から捕食者がいない地域で、樹上の果実を食べていると推測するあたりなんて、思わず誰かに言いたくなってしまいますよね。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

枕もとに靴 ああ無情の泥酔日記
北大路公子  寿郎社

エッセイ本を担当することになったときに、他社の本を見て勉強しようと思い、店頭で笑いが抑えられず買わざるをえなくなったウェブ日記の書籍化。2005年に単行本化され、2014年から新潮文庫にも入っている。

書店ナビ 札幌出身・在住のエッセイスト北大路公子さん。酒量の多い自由奔放な人生が女性読者の心をわしづかみにしています。
骨太のノンフィクションを次々と出している硬派の出版社、寿郎社さんから出ているところも面白いですね。土肥寿郎社長(北大路さんのペンネーム命名者)もたびたび登場します。
佐藤 すごいですよね。日記なので日常が描かれているんですが、私は下戸なので「これは私が知っている日常じゃない」(笑)。自分とかけ離れたワンダーな日々にただただ驚くばかりです。
民話風の創作、謎の考察が淡々と続いて気がついたら引き込まれて続巻も買っていました。さらりと出てくる酒量に読むたび驚愕します。
「文中には時折ウソも混じっております」なんて読者を煙にまくところも、かないません。

もとは日記サイト「エンピツ」に投稿していたもの。土肥さんは「こっぱげ」および「KP」という名で登場。「ご本人にお会いしたこともありますが、呼べませんね」と佐藤さん。ええ、書店ナビも口がさけても呼べません。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

犬神家の一族
横溝正史  角川書店

エッセイが続きましたが、一番読むのは推理小説です。時代は終戦直後、信州の財閥・犬神家の莫大な遺産の唯一の相続人を巡り、家宝「斧・琴・菊」に見立てられた三重殺人事件を、名探偵・金田一耕助が解く超有名作。

書店ナビ 何度も映像化されてきた本作。結末がわかっているのに見てしまう人も多いようです。佐藤さんにとって本書の魅力とは?
佐藤 推理モノというより、一見不釣り合いな"凄惨な猟奇殺人"と"純愛"の両方を心置きなく楽しめる様式美が最大の魅力だと思います。
映像のほうは犯人がわかって金田一耕助が去るところで終わるのが常ですが、原作はこの一連の殺人事件を起こした相続の顛末がどうなるのかまでしっかり描かれていて、読者も納得してページを閉じることができます。
最近また読み返してみたら、犬神佐兵衛翁がどうしてあんな遺言書を残したのか、もしかするとその意図は"身内をちょっとたしなめる"程度だったのではないかと気づいて、また物語の世界観が変わって見えました。

あの有名な佐清(すけきよ)マスクは、市川昆監督の映画で初めて見たとき、ビックリしました。勝手にお面型だと思い込んでいたので!あと、純愛を貫くふたりは絶対、美男美女であってほしい。そうじゃないと「ちっ」って思います。

私物の文庫は「もうボロボロ」。今は電子書籍でも読んでいる。「文庫の旧版はカッコで始まる文が一字下げなんですよね」と、さすが組み方の違いもチェック!

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

裁判長! これで執行猶予は甘くないすか
北尾トロ  文藝春秋

「興味本位」を旨に小さな事件ばかりを傍聴した裁判ノンフィクション『裁判長! ここは懲役4年でどうすか』の続編。前著はただ今家庭内行方不明で、残った本書は近年の風呂の友(一度湯船に落としたし)。

佐藤 動物番組も好きなんですが、ドラマのオフシーズンに放送される「警察24時」系番組もよく見ます。
飲酒運転で捕まるひとって口を揃えて「飲んでない、飲んでませんよ?」って言いますよね。泥酔して立てないひとも必ず「大丈夫、大丈夫ですから?」って言う。誰が見ても大丈夫じゃないのに(笑)。

この本に出てくる人たちもほぼ同じやりとりを重ねていて、そういうところに人間の根源的な「しょーもなさ」があるように感じます。
でも、そういう「しょーもなさ」こそが実は私たちに身近なもので、社会的に小さな事件を起こした人たちは昨日スーパーですれ違ったひとかもしれないし、友達の友達かもしれない。そんなことに思いをはせる一冊です。

ごちそうさまトーク 「聞き言葉」から「書き言葉」に変換

書店ナビ 前述した『北海道命名150年記念 ほっかいどう百年物語 上巻』の編集、お疲れさまでした。
もともとラジオドラマ用の原稿があり、それを書籍用に編集し直す作業だとうかがいました。
佐藤 ラジオは「聞いてわかる」原稿ですが、書籍にする段階で今度は「目で読みやすい」文章への再構成が必要です。「金もうけ」なんていう単語も、ラジオではさらりと聞き流せても、文章になるとドキリとする。そういう表現も洗い直しました。
『ほっかいどう百年物語』は道内の各学校の図書室に置かれたり、引用文献としても各所で使っていただいているため、事実関係も念入りに確認します。数えきれないくらいの校正・校閲に追われる日々でしたが、やっと上巻をお届けすることができました。ぜひお手にとってご覧ください。
次の目標は、 春以降に下巻を出せたらと考えています。
書店ナビ 仕事では郷土の誇りを支えるしっかりとした本に関わり、プライベートでは大好きな本で気持ちをリラックス。佐藤さんのバランスのいい読書ライフを彩る、お気に入り本フルコース、ごちそうさまでした!
●中西出版株式会社
佐藤香(さとう・かおり)さん
札幌生まれの札幌育ち。札幌市立高等専門学校卒業。東区の自宅から南区の高校まで1時間近くの通学時間も読書に費やした学生時代だった。中西印刷株式会社を経て、2012年から中西出版株式会社に勤務。NPO法人自費出版ネットワーク認定自費出版アドバイザー。
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