おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第345回 株式会社まんだらけ 札幌店 ヴィンテージ 海馬担当 岩城 理恵さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が 腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.107 株式会社まんだらけ 札幌店 ヴィンテージ 海馬担当 岩城 理恵さん

岩城さんのさわやかな笑顔と持っている表紙のギャップがすごい、怪奇色のフルコースが誕生!

[本日のフルコース] まんだらけ札幌店から第二の刺客が登場! 「裏・怪奇名作新書まんが」フルコース

[2017.10.9]

書店ナビ 今年2月、まんだらけ札幌店の大井健一朗店長に「週刊少年ジャンプ"黄金"タイトル新連載号」フルコースを作っていただき、まんが買取・販売のプロフェッショナルの実力にシビれました。
今回は「第二の刺客を送り込んでほしい」とお願いして、勤務11年目の岩城理恵さんにご協力いただきます。
岩城さんの「ヴィンテージ 海馬担当」とはどういうジャンルですか?
岩城 「ヴィンテージ」では戦前から90年代位までに発行され、すでに絶版になった古書を取り扱っており、「海馬」はサブカルやスピリチュアル関連が中心。私は主にコミック・アニメ本を担当しています。

怪奇まんがといえば、楳図かずお先生や水木しげる先生を連想される方は多いと思いますが、そちらを「表」とするなら今回ご紹介したいのは「裏」の巨匠たち。いまの時代にはない強烈な作風で、読者の心をつかんで離しません。すべて新書で揃えてみました。
[本日のフルコース] まんだらけから第二の刺客が登場! 「裏・怪奇名作新書まんが」フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

不気田くん(全3巻)
犬木加奈子  ぶんか社

陰気で不細工でブキミな少年不気田(ぶきた)くんが「真実の愛」を探し求める物語。嫌われ者の不気田くんには実は悲しい秘密が…。

書店ナビ 《前菜本》からいきなり濃い!ブキミな不気田くん…ネーミングのインパクトとそれに負けない絵柄にいま釘付けです。
岩城 作者の犬木先生は、北海道出身の方です。『不気田くん』は絵柄がこんな感じなので「子どもが読んだらトラウマになる!」と思われがちですが、実は一話一話が非常に道徳的で、わがままや意地悪なふるまいをした子たちはちゃんとお仕置きにあう。因果応報を教えてくれます。
そういう意味では、実はとても子ども向け。それに不気田くんの抱える「秘密」が明かされたとき、乙女心を直撃されます(笑)。
書店ナビ 全3巻を買い取るとしたら、おいくらになりますか?
岩城 初版は1995年。キレイな状態でしたらセットで5000円くらいでしょうか(以降、買取価格はすべて2017年9月末現在の参考価格です)。
最終巻の3巻が特に見つからないです。

こちらは『不気田くん』の後に書かれた『不思議のたたりちゃん』。なんとOVAにもなっている!「少女漫画版『魔太郎がくる!!』ですね」と岩城さん。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

蔵六の奇病
日野日出志  少年画報社

働かず日々絵を描いてばかり、人から蔑まれる蔵六はある日奇病にかかる。全身を醜い出来物に覆われ異形となっても、そこから出る膿を「美しい」と感じ、膿で絵を描き続ける蔵六。美醜の真偽とは何か、生きる意味とは何かを考えさせられる作品。

書店ナビ 上の解説を読むと、これまた壮絶な…。著者は『地獄の子守唄』や本書で欧米読者の間でもカルト的な人気を誇る日野日出志さんです。
岩城 先ほどご紹介した犬木先生の師匠にあたる方です。日野作品の大きな特徴は「子どものときに読んでトラウマになったのに、大人になったらどうしてももう一度読みたくなる」中毒性。
よく見ると絵は繊細で、日野先生ご自身が描きたいものに寄せる妄執が絵から立ち上り、心がザワつきます。
物語も美醜や生死の二律背反のなかで、最後は母胎回帰や宇宙回帰といった世界の一部となる姿を私たちに見せてくれる、唯一無二の世界観です。

買い取るとしたら1万円前後、初版でキレイなものは珍しいのでもっと高くなります。買いとったまんが雑誌が、持ち主の方が怖すぎて見たくなかったのか、日野先生のところだけホチキスで綴じられていて「最高!」と思いました(笑)。日野先生もお知りになったら、きっと喜んでくれたと思います。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

侵略ガニ
眉月はるな  ひばり書房

工場からの化学廃液で狂暴化した「カニ」が人々を襲いまくる!どの頁を開いてもカニ、カニ、カニ…小さなカニにおびえ狂い逃げ惑う人類、高すぎるテンションに置いてけぼりの読者。新書ホラーのいいところがすべて詰まった良作。

岩城 眉月先生は非常に寡作な方で、漫画家の他にアニメーターもされていたようです。「なぜカニ?」という、ちょっと吹き出してしまうような設定に、生死を振り回される登場人物たち。いろんな意味でフトコロの深い作品です。買取価格は1万円かな。
出版元のひばり書房は、1958年日本初のホラーコミックアンソロジー「怪談」の出版を皮切りに、その後も代表的な「ひばり黒枠」など数多くの怪奇まんがを世に送り出し続けた出版社。ホラーコミック愛を"こじらせてしまった"人たちには半ば神格化されているような存在です。
そのひばり書房創業者のご遺族と連絡がとれまして、今年5月まんだらけの恒例行事「大まん祭」の一環として中野サンプラザでトークイベントを開いたところ、大変好評を博しました。

この日岩城さんが着ていたTシャツは、イベント限定で作られたファン垂涎の特製グッズ!

書店ナビ 大井店長のフルコース取材のときに「マンガは作家と読者の共同作業」という名言をいただきましたが、出版社さんも読者に愛されてうれしいでしょうね。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

吸血伝シリーズ
白川まり奈  曙出版

日本に蔓延し始めた恐ろしい奇病「チスイタイ病」。人類総吸血鬼化、バンパイアモノかと思いきや、物語の結末ははるか宇宙へと向かっていく…。ホラー漫画界において楳図かずおが《太陽》であるならば、白川まり奈は《月》。この名作が忘れ去られてしまう世の中なんて私は信じられません。

岩城 この『吸血伝』シリーズは雑誌連載ではなく、コミックの描き下ろし。『吸血伝』『吸血狩り』『続吸血伝』『吸血大予言』の4冊セットでこその、この内容、この世界観だと思います。
白川先生の手にかかると、吸血鬼伝説も日本昔話の竹取物語もノストラダムスの予言も同じ線上に存在し、読んでいくうちに「なるほど、そうだったのか!」と思わず納得させられてしまう一大叙事詩に収れんされていきます。
2000年に故人となられて、残念ながら生前日の目を見ることはありませんでしたが、間違いなくホラー漫画界の天才のお一人です。


そして最近、白川先生の未公開原稿が発見され、2017年にまんだらけから新刊『犬神屋敷』が発売されました!これはもう事件です!今日は私物ですが、その現物も持ってきました。

時代を越えて息づく白川作品。「影森奇蝶」名義の作品もある。気になる吸血伝シリーズ4冊での買取価格は「6万円以上。1冊単体でも2万5千円スタートでしょうか」

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

呪われた遊園地
関よしみ  角川書店

楽しいはずの遊園地が血に染まる…美しく繊細な少女漫画タッチで綴られる狂気は、さながらジェットコースターのよう。どこを開いても狂っていないコマはない!唯一無二のパニックホラーの名手・関よしみを存分に堪能できる、元気の出る1冊。

書店ナビ 確かにこの作品は「あ、フツウの少女漫画じゃない?遊園地でデートして元カレが…」と油断すると、危ないですね。
岩城 フルコース5冊の中では一番絵が普通ですよね。ナチュラルに読めそうで、実はホラー漫画として一番ギャップがあるという(笑)。
同じ遊園地を舞台とする物語が3話収録されています。ネタばれにならない程度に言うと、別にこの遊園地に呪いやたたりがあるわけではなく、一番恐いのは人間なんだということを、絵柄が醸し出す不思議な違和感とともに教えてくれます。
著者の関先生は今もTwitterで近況を知ることができますが、本書に関しては探すとなると、かなり難易度が高いと思います。

ごちそうさまトーク 死ぬまでまんがでビックリしたい!

書店ナビ あらためてヴィンテージ作品の魅力とはなんでしょうか。
岩城 私自身、まんだらけに入社してから知った世界ですが、今の時代の作品では決して読めないタッチや描写、予想できない展開がヴィンテージの最大の魅力。読めば読むほどのめりこみます。

コミックファンのお宝が待っているNORBESAビル2Fのまんだらけ札幌店。

岩城 当店に来られるお客様を読み手のプロとすると、私どもは買取・販売のプロ。
お客様に納得していただくために一生懸命こちらも勉強して知識を増やしたいという仕事的な思いと、「死ぬまでまんがでビックリし続けたい!」という私個人の思い入れもあるので、これからもたくさん読み続けたいです!
書店ナビ まんだらけさんに取材するといつも、熱い仕事愛を聞かせていただけるのでこちらもうれしくなってしまいます。まんだらけ第二の刺客、岩城さんのフルコース、ごちそうさまでした!

 まんだらけ札幌店
北海道札幌市中央区南3条西5丁目1-1 NORBESAビル2F
TEL.011-207-7773
12:00~20:00 年中無休

●岩城理恵(いわき・りえ)さん
北海道苫小牧市出身。求職中にまんだらけ札幌店の店頭で求人募集を知り、即日履歴書を出して後日採用。勤務歴はアルバイト時代を含め2017年で11年目。家の中はトイレ・廊下・お風呂場…と「本のないスペースがない」暮らしを満喫中

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