おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第349回  藤女子大学 人間生活学部 人間生活学科 准教授 船木幸弘さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が 腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.109 藤女子大学 人間生活学部 人間生活学
准教授 船木幸弘さん

社会福祉士の資格も持つ船木先生。藤女子大学花川キャンパスの研究室を訪ねた。

[本日のフルコース] 体験学習のエキスパートがアドバイス! 職場で役立つ人間関係づくりフルコース

[2017.11.6]

書店ナビ 今回フルコースにご協力いただいた方は、藤女子大学の船木幸弘先生です。先生のご専門領域は「人間関係トレーニング」。
地方公務員時代に体験学習の楽しさに開眼し、ボランティア活動者や教職員、組織・法人の職員に向けた体験学習ファシリテーターとしてのキャリアも積んでこられました。
2005年に公務員を志願退職したあとは大学で教鞭を取り、2017年9月に職場での人間関係づくりを学ぶ著書『Off-JTに活用する人間関係づくりトレーニング』を上梓されました。

Off-JTに活用する人間関係づくりトレーニング
星野欣生監修/船木幸弘著  金子書房
「働きやすい職場をめざして人間関係を楽しく学ぶ」ための必読書!

書店ナビ 船木先生が念頭に浮かべて書いた本書の対象読者は、病院や社会福祉施設保育所や学校などの対人援助専門職が多い職場で働く方々あるいはその人事・教育担当者たち。
OJT(On-the-Job Trainig)』ではなく『Off-JT』、職場を離れて行う研修として、体験学習を用いるさまざまなエクササイズが掲載されています。それらを実践していくことで「誰もがいきいきと働ける職場づくり」に役立ててもらう教科書のような本ですね。
船木 私が現在の研究分野に目覚めたのは、名著『人間関係づくりトレーニング』(金子書房)の著者である星野欣生(ほしの・よしお)先生の影響です。この新刊でも星野先生に監修をお願いしました。

「体験学習の第一人者」として名高い星野欣生氏の著作

船木

若い皆さんは学生のころ、勉強の5教科は教わっても「人間関係」や「コミュニケーション」を授業で学んだ経験はないはずです。
  ところが社会に出ると、なによりもそれらのスキルが求められ、とまどい、悩み、せっかく就職した職場をわずか数年で、早ければ数カ月で辞めてしまう。
この事態を「いまどきの若者は」と決めつけてしまうのは、決して根本的な解決につながりません。
むしろ雇用する側の企業や組織の意識改革が問題解決の第一歩。そう願って、お役に立てるようなさまざまなエクササイズを掲載しています。

例)チーム活動体験型のエクササイズ『ダンボール迷路』
5~6人で、ダンボール迷路を造ることが課題。
この課題を達成する過程で起こる様々な事柄から、
チームとして活動する際のメンバーとしてのあり方や
チームビルディングを学んでいきます。

フルコースのほうも、いま自分が所属されている組織やコミュニティを見直したいと考えている方を念頭に置きながら、組み立てていきました。

[本日のフルコース] 体験学習のエキスパートがアドバイス! 職場で役立つ人間関係づくりフルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

思考のトラップ 脳があなたをダマす48のやり方
デイヴィッド・マクレイニー  二見書房

さまざまな認知バイアス、論理的誤謬、ヒューリスティック……気づかぬうちに人間は自分の脳にダマされている。本書を読めば、自分が自分のことを全くわかっていなかったと痛感する"自分確認"のよりどころとなる一冊。

書店ナビ 著者のマクレイニー氏は心理学とテクノロジーを専門とするジャーナリスト。真実を明らかにするまなざしを"内なる自分"に向けたのが、本書のようですね。
「非常時にはみんなパニックになる」「ストレス解消にはガス抜きするのがいちばん」「複数の人で話し合ったほうが問題を解決できる」、これらの項目は全部「ウソ」!なぜなら…というようにカラクリが解き明かされていきます。
船木 人間関係づくりの出発点はまず自分自身と「むきあうこと」。自分のことは自分が一番よく知っている、と我々は思いこみがちですが、実は無意識のうちに環境や周囲の人から影響を受けている。このことを自覚するだけでも、現状を変える大きな第一歩になります。
書店ナビ 「自分は全然ワルクないのに部下が育ってくれない」なんて思っている人にも読んでほしい本ですね(笑)。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則
エドガー・H・シャイン  英治出版

「親切のつもり」の行為が、実は相手にとっては迷惑だったということもある。なぜ、こうした齟齬が起きてしまうのか、そして起きてしまったときはどうすればいいのか、の疑問に答える名著。

書店ナビ 職場に限らずボランティア活動の現場などでも、この「良かれと思って」問題を耳にすることがあります。
船木 「助けたい」という思いは純粋でも、その行為は実は相手に適さない、そして相手が望んでもいないことかもしれない。とかく人間は、自分本意に考えてしまいがちです。
例えば、職場で部下が失敗したからといって、次からその仕事を代わりに上司がやってしまうと、部下の真の成長にはつながらないですよね。上に立つ人間は、下の成長を「待つ」のも大事な仕事のひとつです。
ちょっと耳が痛い話かもしれませんが、本書を読んでこうした根本的な問いかけに向きあっていくうちに、本当の「協力関係」とは何かということが見えてきます。

船木研究室では震災以降、毎年東北の被災地を訪ねる「顔の見えるボランティア」活動を継続中。この報告書の制作も先生はヒントを出すにとどめて、あとは学生たちが考えている。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

人と人の「つながり」に投資する企業 ソーシャル・キャピタルが信頼を育む
ドン・コーエン、ラリー・プルサク  ダイヤモンド社

人がそこにいて、その人が周りにいる人たちと互いに影響を与える。そこから得られる様々なベネフィットが企業を強くする。豊かな『ソーシャル・キャピタル』を備えた企業の事例を紹介しながら、企業活動の中核に存在するものを解き明かす。

書店ナビ 今回船木先生にフルコースをお願いしたいきさつは、以前フルコース取材にご登場いただいた北海道住宅新聞社の栗原記者が先生から新著を献本され、「こういう面白い本を出した先生がいますよ」と書店ナビに連絡をくれたことが発端です。
船木 その例でいうと、私が栗原さんに献本したことが「投資」になり、そのおかげでこうしてフルコースでも取り上げてもらえるという実りのある社会的な貢献につながっている。これも「ソーシャルキャピタル」の一例です。
一人ではできない人と人との「つながり」で生まれる効果を資産と考える。それを実践している企業の話を読んでいると、「自分たちもこうありたい」という希望が湧いてきます。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

なぜ、人と組織は変われないのか ハーバード流 自己変革の理論と実践
ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー  英冶出版

人は変わる必要性を認識していても、85%の人が行動すら起こさない?「変われない大人」たちに向けて発達心理学と教育学の権威が編み出した「免疫マップ」は、問題の本質をあぶり出す究極の変革アプローチ。組織のリーダーや政府・教育機関など、さまざまな個人と組織の変革を導いた豊富な事例も紹介されている実用書。

船木 拙著の重要な参考文献であり、執筆への意欲をかき立ててくれた本です。変革を阻む根本的な原因を見逃すことがない「免疫マップ」は、いわば自分の処方箋のようなもの。
具体的な内容はぜひ読んでいただきたいと思いますが、私がさらに本書で注目しているのは、著者のキーガン氏が説く「大人の知性の3段階」です。

研究室の棚にも「大人の知性の3段階」の資料を発見!

船木 キーガン曰く、大人の知性とは、指示を待つ忠実な部下に見られる「環境順応型」から始まり、次は自分で意思決定をする「自己主導型」に進む。
一般的なリーダーはここで良しとしがちですが、実はその先には複数の視点と矛盾を受け入れて学び、自分を柔軟に変えていく「自己変容型」の知性がある。
スティーブ・ジョブズのような世界のトップ・リーダーと言われた人たちはここに該当します。
世界のリーダーたちにとっても決してなだらかではない自己変革の道のりを、私たちはいとも簡単にあきらめてしまってはいませんか。
職場の人間関係を変えたいと願うリーダーたちの必読書です。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

トランジション 人生の転機を活かすために
ウィリアム・ブリッジズ  パンローリング

人生には、失恋、結婚、転職、死別、昇進、引越しなど、転機(トランジション)が連続する。その人生の転機をどう活かすかの解説書。

書店ナビ フルコース中、一番手に取りやすそうなテーマですね。
船木 『『Off-JTに活用する人間関係づくりトレーニング』を出すときに、この「トランジション」という一言をタイトルに入れようとしたんですが、どうしても上手くいかず。悔しくて、まえがきに盛り込んでいます(笑)。
私が著書を出せたのもトランジションであり、もしかするとこの記事をご覧の皆さんにもトランジションが起きようとしているかもしれない。
本書にはこんな一節があります。
「人は跳び上がる前に、かがまねばならないのだ。このような旅はまた、たった一人で行くしかない。」
今まさにトランジションの最中の人も、これから迎えるであろう人にも、この書を頼りに一歩ずつ前に進んでほしいと心から願っています。

先生私物の『トランジション』には表紙の見返し部分にびっしり書き込みが!

ごちそうさまトーク 血肉となる洋書翻訳の食べごたえ

書店ナビ 「人が育たない」「人間関係が上手くいかない」と悩んでいる皆さんに大きな示唆を与える5冊、どれも"食べごたえ"がありますね。
船木 実は5冊どれも個人ではなかなか購入しない、読む気になれない洋書(翻訳本)からあえて選んでみました。
少しハードルが高いかもしれませんが、読んで得られるものはとてつもなく大きく、ご自分の血肉になってくれるはず。人間関係づくりに、人材育成に、そして皆さんの成長にお役に立てたらうれしいです。
書店ナビ 人や職場を変えようとするには、まず自分の視野を広げることから始めたい。トランジションの予感にあふれるフルコース、ごちそうさまでした!

●藤女子大学の船木先生の紹介ページ https://www.fujijoshi.ac.jp/dept/humanlife/human/staff/Yukihiro_Funaki/

●船木幸弘(ふなき・ゆきひろ)さん
士幌町出身。士幌町役場や社会福祉協議会など地方公務員として23年間勤務。2005年の志願退職後、弘前学院大学社会福祉学部専任講師を経て、2010年から現職に。北海道石狩市社会教育委員。

(株)コア・アソシエイツ
〒065-0023
北海道札幌市東区東区北23条東8丁目3−1
011-702-3993
お問い合わせ