おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第362回 児童文学作家 栗沢まりさん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が 腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.116 児童文学作家 栗沢まりさん

2017年に出版されたデビュー作『15歳、ぬけがら』を持つ栗沢さん。 取材協力/まちライブラリー@千歳タウンプラザ

[本日のフルコース] 千歳の児童文学作家・栗沢まりさん選
"作家になりたい人"の物語フルコース

[2018.2.12]

書店ナビ 千歳在住の栗沢まりさんは2016年、第57回講談社児童文学新人賞の佳作を受賞されました。その作品に加筆修正をして出来上がったのが、2017年6月に出版されたデビュー作『15歳、ぬけがら』です。

取材協力いただいたまちライブラリー@千歳タウンプラザに寄贈された本には、読後の感想を書くメッセージカードが付いており、本書のカードには「すごくおもしろい」の文字が。

書店ナビ 主人公は、「いちばんボロい」と言われる市営住宅に母親と暮らす15歳の少女、麻美ちゃん。心療内科に通う母は荒れた部屋を片付ける意欲も、昼の仕事に就く気配も見せてくれません。
空腹のあまりマヨネーズをひとなめする場面や、パン屋の開店直後にタダでもらえるパンの耳を取りに行くところなど、味や匂いが立ち上ってきそうなリアルな描写でした。
栗沢 ありがとうございます。もとは短編の登場人物の1人だった麻美のことをもっと書きたくなって出来た作品を、こういう形で評価していただいて、本当にうれしかったです。
書店ナビ 作家になりたいというお気持ちはいつ頃から?
栗沢 うちの子どもたちは3姉妹でして、彼女たち向けにTVドラマの登場人物が出てくる二次創作みたいなものを書いたことはあったんです。
でも本格的に書き出したのは7~8年前から。いろんな本を読んでいるうちに「自分だったらどんなものが書けるのかな?」と思い立ち、書き始めたら320枚を最後まで書き終えることができて、自分でもビックリしたんです。
書いていて楽しかったですし、これがちゃんと書けているのかも気になって。千歳市立図書館で童話講座を開いていた升井純子先生に原稿を見ていただいたら、「本気で書いてみませんか?」と言っていただき、そこからご指導が始まりました。
でもね、升井先生から最初に言われた言葉が「トラックを走らせる力はあるけれど、荷物を積み忘れてないかい?」と。荷物、すなわち何を語りたいのか、テーマがまだ見つかっていない、と。
書店ナビ うわあ、さすが作家さんらしい、的を射た例えですね。
栗沢 ですよね。ようやく私なりの"荷物"が見つかり、『15歳、ぬけがら』を書いたあとも、今度は周囲の先生方から「人間を描くこと」を常に意識するように言われて、今も心に刻んでいます。
書店ナビ そんな栗沢さんが選んでくれたフルコースのテーマは「作家になりたい人の物語」。それでは一緒に見てまいりましょう!
[本日のフルコース] 千歳の児童文学作家・栗沢まりさん選
"作家になりたい人"の物語フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

作家になりたい!1
小林深雪  講談社

小説家になりたい女子中学生のお話。ティーン向けの青い鳥文庫なので気軽に読めますし、女の子が喜ぶ恋愛要素もバッチリ入っています。文章の書き方指南もあり。

書店ナビ 著者の小林深雪先生は、栗沢さんが応募した講談社児童文学新人賞の審査員。栗沢さんの作品のことも、こう評しています。

『放置自転車、15歳(、ぬけがら)』は、子どもの貧困をドキュメンタリータッチでリアルに描いた作品。子ども達のSOSを届けたいという作者の熱い思いが伝わってきました。
栗沢 ありがたいです。応募したときは、麻美たちが抱える行き場のない思いや立場を「放置自転車」と「ぬけがら」というふたつの単語で表していたんですが、加筆修正するにあたってより本質的な「ぬけがら」という言葉に絞り込んでいきました。
『作家になりたい!』は最近読んだ本ですが、巻末で主人公の弟たちが文章指南をしてくれるんですね。これがなかなかしっかりした内容で、物語を書いてみたいという方の入門におすすめです。

巻末の「天才双子の小説教室」より。「一作、書き上げよう!」とはまさに栗沢さんの作家体験そのもの。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

ナタリーはひみつの作家
アンドリュー・クレメンツ  講談社

12歳のナタリーが書いた小説に惚れ込んだ親友のゾーイ。大人たちを巻き込みながら自分がエージェントとしてはたらき、見事ナタリーの作家デビューを実現するまでの奮闘記。公募以外にもデビューの方法があるのです。

書店ナビ 1949年生まれの著者は、アメリカで「学校物語の帝王」と言われる児童文学の大家。『合言葉はフリンドル!』が有名です。
栗沢 私がこの本で一番共感したのは、編集者であるナタリーのお母さん。ナタリーとの親子関係が少しぎくしゃくしていたり、働く女性としての苦労などを読んだりすると、どうしても気持ちが入り込んでしまいます。
ナタリーと母親、ゾーイと相談役になってくれるお父さんとの関係など、親子の物語である側面も持っています。
今回久しぶりに読み返しましたが、あらすじを知っているはずなのに最後まで面白く読めました。アメリカの出版事情もよくわかって勉強になります。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

君だけの物語
   山本ひろし  小学館

離婚され、左遷された中年男性・山本ひろしが、離れて暮らす息子のために「物書きになろう!」と努力する体験談"風"の物語。主人公が師とあおぐ、作家「山本甲士」が出てきてアドバイスをするのですが…

栗沢 …実は本書の本当の著者は、実在する作家、『ノーペイン・ノーゲイン』で横溝正史賞優秀作も受賞された山本甲士さんなんです。
文庫になったときは著者名を実名に戻して、タイトルも『そうだ小説を書こう』に改題し、加筆修正もされているようです。
書店ナビ というと、実在する作家の山本甲士さんが架空のキャラクターである「山本ひろし」の体験記を書き、その物語のなかに自分自身を投影した「山本甲士」を登場させ、作家指南をしている…と。
うーん、頭の中がこんがらがってきそうです(笑)。
栗沢 ですよね。ですからそこはもう、あまり気にしないで(笑)。 私自身、物語を書き始めたときにいろいろな文章指南書を読みました。本書も物語だけに集中すれば、ためになることがたくさん書かれています。 例えば、「いいと思った文章は自分で書き写してみる」とか。こういうことは、プロの方から教わらないとわからないですものね。

受賞作から大幅に改稿した『15歳、ぬけがら』のラストシーン。「編集さんから"失敗してもいいので、登場人物が自ら動き出そうとするラストにしてほしい!"と言われた瞬間、あの場面がぱっと浮かびました」

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

私にふさわしいホテル
柚木麻子  新潮社

念願の新人賞を受賞したはずなのに、同時受賞の相手がアイドルだったため日陰の身になった主人公が、捨て身で作家デビューに挑む表題作ほか、デビュー後の闘いも5話ほど。そこまでやるのか!というほどの情熱に圧倒されます。

書店ナビ 著者は『ランチのあっこちゃん』で一躍ヒットメーカーとなった柚木さん。『伊藤くんA to E』も映画化され、勢いにのっています。本書の主人公、加代子の猛進ぶりも…かなりすごいですね。
栗沢 そうなんです。加代子のあまりの肉食っぷりに、これはもう、《肉料理》だなと。
通常は有名作家がカンヅメになって書くホテルに、仕事の依頼もないのに泊まり、そこに逗留している大御所作家の執筆を妨害して、自分に出番がまわってくるように画策したりして…。いや、できない、こんなことできないです私には(笑)。
それでも加代子の書きたいという情熱や、大御所作家の書き続けることの苦悩、編集者の心遣いなど出版にまつわる人物たちの感情がいきいきと描かれていて一気に読ませるところがお見事でした。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

物語ること、生きること
上橋菜穂子 構成・文 瀧 晴巳  講談社

小さい頃から作家になりたかった上橋さんの生きてきた道のりそのものが"作家になりたい人の物語"。最後の《デザート》でしっとりと書き手の思いを味わってもらいたいと思います。

書店ナビ 獣の奏者』や「守り人」シリーズで人気の児童文学作家・上橋さんを"心の師"と仰ぐ作家さんは多く、本書はその彼女にインタビューした内容がエッセイ風にまとめられています。
栗沢 私事で恐縮ですが、うちの次女が小学校4、5年のときでしょうか、「守り人」シリーズを読んで生き方が変わったと、大人になってから私に教えてくれたことがありました。
皇太子のチャグムが自分の運命を呪い、「なんでオレだけが!」と憤慨する姿を見て、「ジタバタするってなんで恥ずかしいことなんだ!」と悟ったそうなんです。
今思うと、確かにその頃すぐに起こしていた本人のかんしゃくもおさまって、すーっと落ち着いた感じになっていったことを私も覚えています。
書店ナビ 本が人生を変えた瞬間を目の当たりにしたんですね。
栗沢 そういう意味でも、私にとっては、まず上橋さんという人がいてくださることに「ありがとう」と、この本で雲の上のような存在の彼女の軌跡を読者である私たちに教えてくれて「ありがとう」。二重に感謝したい大切な一冊です。

「実は本書のあとがきに編集者・川崎萌美さんのお名前が載っていて、その川崎さんは『15歳、ぬけがら』の編集者でもあるんです!」

ごちそうさまトーク 第二作目も年内出版を目指して

書店ナビ 『15歳、ぬけがら』のあとはYA! アンソロジー『ひとりぼっちの教室』に「イッチダンケツ」を書き下ろされた栗沢さん。今後のご予定は?
栗沢 ただいま二作目を執筆中でして、年内の出版を目指して頑張っています。
『15歳、ぬけがら』のときに編集さんから「いつの時代にも残る物語にしたいから」と、"スマホ"という、もしかしたら数十年後には次代のデバイスに置き換わっているかもしれない単語を、一般名称である"携帯電話"に変える話を聞きました。
私がこれから書く物語も、そんな風に長く読んでいただけるものを生み出していきたいです。
書店ナビ 次回作も楽しみにしています!児童文学作家の栗沢さんが編んでくださった「作家になりたい人の物語」フルコース、ごちそうさまでした!

『15歳、ぬけがら』

●栗沢まりさん
帯広生まれの神奈川育ち。都留文化大学卒業。公立中学校で国語教諭として勤務後、塾講師、学習支援塾スタディアドバイザーなどを経験。『15歳、ぬけがら』で第57回講談社児童文学新人賞佳作を受賞。

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