おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第383回 野田左官店 野田 肇介さん

 

Vol.131 野田左官店 野田 肇介さん

工房で土壁アートの作品を試作中。刻々と変わる土壁の表情を見続ける。

[本日のフルコース]
土の声を聞く北海道の左官職人が熟読!
「土と左官と建築を知る」フルコース

[2018.7.9]

書店ナビ 今回の選者は珍しく建築業界からのご登場。浦河町に工房を構える左官職人の野田肇介さんにフルコースづくりをお願いしました。

寒冷地・北海道は本土に比べると土壁の建物が少なく、建築資材の進化とともに土壁を塗ることができる職人が激減していくなか、今年の誕生日で40歳となる野田さんは実に貴重な、現役バリバリの左官職人のお一人です。
しかも仕事は、依頼のあった土地に由来する土の採取から始まり、調合・調色をしたのち、約20年の修業で鍛えた確かな腕で仕上げていく、名実ともに北の左官のエースのような存在です。
活躍の場は、住宅に限らず道内外の飲食店や企業にも顧客が多数。アート作品としての土壁の魅力発信にも力を入れ、ギャラリーで個展を開催するほか、帯広空港のターミナルビル1階にも北海道の四季を表現した作品が常設展示されています。

そんな野田さんですから、フルコースのテーマは「土と左官と建築を知る」。直球で投げ返してくれました。

工房の外に並べられた土壁のサンプル。土、水、漆喰(石灰にふのりを足したもの)、わらなどの配合を変えている。

ある年の冬、氷点下の夜から偶然生まれたオリジナルの土壁「しばれ」シリーズ。研究を重ね、表情をほぼコントロールできるようになったという。

野田 10代のときに左官職人の父に弟子入りし、その後国内外で活躍されている久住有生親方のもとで学び、2006年から故郷の浦河に戻ってきて今日までーー。自分の左官人生で強く影響を受けた本を順番に並べていったら、こんなフルコースになりました。
[本日のフルコース]
土の声を聞く北海道の左官職人が熟読!
「土と左官と建築を知る」フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

土のコレクション
栗田宏一  フレーベル館

日本全国の土の色がわかりやすく紹介されていて面白い! 一言で「土」といっても、その土地その土地でこんなにも違うものなのかと驚かされます。土を使った遊びなども学べる、土の魅力が詰まった一冊です。

野田 専門誌を見て久住親方のことを知り、「ここで学ばさせて下さい!」と現場に飛び込んだのが、25歳のときでした。
父のもとで学んだ環境とは全く異なるなか、道具・材料の並べ方や他の業者さんの動きをよく見ることなど、あらゆる角度から左官職人とはなんぞや、ということを教えていただきました。
ちょうどその頃に誰かに教えてもらったのがこの本。「なにコレ!」とものすごい衝撃を覚えました。

著者の栗田氏が軽自動車で全国を回って集めた土図鑑。北海道でもこんなに種類が!

野田 それぞれの地域で土の色が違うのはどうしてか?気候風土や気象条件の違いがどう影響しているのか、想像が膨らみます。
全国で珍しい白土も、北海道の大樹町では採取できるんですよ。きっと鉄分が少ないからかもしれません。
この本を見たとき、「北海道に帰る楽しみができた!」と思いました。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

日本の壁――鏝は生きている
山田幸一、佐藤嘉一郎ほか  INAXo

日本建築と土壁、そして鏝(こて)の歴史を学べる一冊。「左官」という仕事が長い歳月をかけて受け継がれてきたことがよくわかります。土を扱う職人として、素材に対する思いがすべて壁に表れるという点にも共感できます。

書店ナビ 監修も務めた著者の山田幸一さんは家業が左官屋だった研究者で、国内屈指の"壁博士"。かたや、佐藤嘉一郎さんは1921年京都生まれ。江戸期より続く井筒屋関谷家の別家・佐藤左官の三代目ーー。
ということは本書は一流の"玄人衆"が、日本古来より築いてきた伝統と知恵、理(ことわり)を次代に伝える、温故知新の書ですね。

左官職人の命、鏝は使う場面によって種類を変え、使いこむたびに研ぎに出す。現場によっては職人同士、サッカーのユニフォーム交換のように鏝を交換し合うことも。

長年愛用しているものは持ち手が野田さんの親指の形に凹んでいる。「体重をのせて圧をかけるとこうなる。ここまで来るともう手放せません」

野田 土を扱うという意味では、先人も現代の僕らも変わりはありませんが、やはり当時の人たちは今よりも時間をかけて素材と真摯に向き合い、今を生きる僕らはその技術を使わせてもらっている。
ルーツを知るとそのことがよくわかり、謙虚な気持ちで仕事に向き合えます。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

茶室 もてなしの空間
佐藤京子  相模書房
茶室は、にじり口(茶室の出入口)や天井の低さ、壁の見せ方、光の差し込み具合などすべての要素が、職人たちによる「おもてなし」の心から生まれています。お茶や左官に関係がない方にもぜひ読んでほしい、日本人の美意識の真髄がこの一冊に。

野田 実は茶室こそが左官職人の腕の見せどころ。かといって大工や左官、建具、畳などそれぞれの仕事が「われも、われも」と前に出過ぎてしまっては、侘び寂びの調和が台無しに。
むしろ、すべての空間を「引きの美学」で構成する茶室から、日本人の美意識を学ぶことができます。

いまは格段に便利な素材や道具が次々と開発されていますが、今後、職人が生き残っていくにはその職人がどれだけ美意識を持っているか、ということが問われていくのではないかと感じています。そのためにも茶の湯をはじめ、いろいろな分野に触れることの重要性を痛感しています。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

世界の不思議な家を訪ねて
小松義夫  角川書店

副題の「土の家、石の家、草木の家、水の家」とは、どれも世界共通の建築素材で建てられた家のこと。世界ではどんな家が作られているのか?また、そこでの暮らしは?著者が建築関係者ではなく写真家であるところも面白い。

書店ナビ 土の魅力から始まった本フルコースは、日本壁の歴史を学び、茶室でひと息。そのあとに野田さんが選んだメインディッシュは、一転して視野を外に向けた「世界の家」です。
野田 2009年にアメリカ・アリゾナ州に行き、藁ブロックで作るストローベイル工法の職人たちと技術交流をしたことがあり、すごくいい刺激をもらいました。
足元のことを学んだらやっぱり次はよその土地がどうしてるのかが気になって、本書を本屋さんで見かけたときは即買いでした。
世界各地の古建築や暮らしを知ると、今までの壁つくりで気がつかなかったことがひらめいたり、日本の技術と融合した新しい壁が生まれるかも知れない。そんな想像が膨らんでワクワクします。
いつか漆喰壁が美しいヨーロッパ、ドイツに行って現地の職人たちの仕事を見てみたいです。

新築以外にも土蔵や寺院、洋館の修復も野田さんだからできる仕事のひとつ。「先人が50年経っても壊れないものを作ってきたのなら、僕は100年経っても壊れないものを作りたい。その気概でやっています」

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

伊礼智の住宅設計作法
伊礼智  新建新聞社

左官を始めて20年が過ぎ、今年で40歳になる僕にとって、伊礼さんという建築家の建築や素材に対する考え方や美意識がいま、ドンピシャなのです。
副題の「小さな家で豊かに暮らす」は、茶室の「引きの美学」にも通じます。

書店ナビ 伊礼さんは1959年沖縄県生まれの建築家。本書は工務店向けの専門誌「新建ハウジング」別冊の連載を再編集したものです。
わかりやすい口調で、「居心地の良さ」を重視する設計論が展開されています。
野田 現代建築は派手なものから渋めのものまで多種多様ですが、伊礼さんの考える建築は、実に基本的。無駄な広さも派手な装飾もなく、茶室のように限られた空間=「小さな家」のすみずみにまで配慮して「五感で心地がいい」と感じる住宅設計を提案していく。左官壁もふんだんに使われています。

僕も若い頃は「もっと新しい壁の表現を!」といさみたった時期もありましたが、いまは「建築の中の一要素としての左官」を考えるようになりました。
建築家の意図とデザインセンス、住まう人の今と10年先を思い描きながら、壁を建築に融合させることに気がついた。その方向性を示してくれた一冊です。

ごちそうさまトーク 職人10人を取り仕切って一人前

書店ナビ これまでのキャリアの中で一番思い出深い現場は?
野田 4~5年前でしたか、東京の某所で「子どものために土壁がある家で暮らしたい」と言ってくださった施主様のお宅の壁を、北海道の建築家さんからのご紹介で手がけさせてもらいました。
とにかく塗る面積が広くて、職人は毎日10人体制。北海道から2名、東京の先輩職人や後輩スタッフという期間限定のメンバーで、それぞれ経験値の異なる人を動かす現場で約1カ月。この現場で随分鍛えられました(笑)。 

なにより出来上がったときに、ご家族全員に心から喜んでいただいて、自分の技術が必要とされたことを肌身で実感できました。
いつもと違う土地での経験を通して、左官職人として一歩成長できたのかなと思います。勉強させてもらいました。
書店ナビ 今後の目標は?
野田

左官の仕事は農業と似ていて、地道な作業の繰り返し。手を汚して土をいじることを繰り返す、大切な道具である鏝は研石ややすりをかけて丁寧に手入れを繰り返す……そんなひとつひとつの積み重ねで、何を残していけるかに挑戦しているんだと思います。

これからも“調和と表現”を念頭に置きながら、試したいことがいっぱいありますし、会ってみたい人もたくさんいます。自分に何ができるか、楽しみです。

取材後「これもいい本なんです」と出してくれたのが、2歳の愛娘・楓ちゃんと読んでいる絵本『じめんのうえとじめんのした』。パパの顔の野田さんだった。

書店ナビ ますますのご活躍、応援しています。北海道の土の匠のフルコース、ごちそうさまでした!

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●野田肇介(のだ・けいすけ)さん

1978年北海道浦河町生まれ。18歳から野田左官店を営む父、栄吾のもとで基礎を学ぶ。その後「当時専門誌で《若手ナンバーワン》と紹介されていた」淡路島出身の左官職人・久住有生氏に師事。2006年から帰郷し、自然素材と土を扱う伝統技術を継承しつつ現代のニーズに寄り添う左官の仕事で活躍中。

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