おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第390回 イラストレーター 松浦 シオリさん

Vol.136 イラストレーター 松浦 シオリさん

取材は、松浦さんが美術学部デザイン学科の非常勤講師をしている星槎道都大学さんにご協力いただきました。

[本日のフルコース]
たおやかな《平成美人画》で人気急上昇!
わたしの「描く道」を灯してくれたフルコース

[2018.8.27]

書店ナビ 札幌のイラストレーター、松浦シオリさんをご紹介するには、 まずこの本のお話からうかがいたいと思います。

ナオミとカナコ 奥田英朗  幻冬舎

書店ナビ 追いつめられた二人の女性が決意する前代未聞の殺人事件を描いた犯罪サスペンスの本書は、2016年1月に広末涼子さん・内田有紀さんの初共演でドラマ化(フジテレビ)されました。 そんな話題書の表紙画にいきなり抜擢された松浦さん!どういう経緯でお話がきたんですか?
松浦 2012年に応募した幻冬舎さんが主催する挿画コンペで準入賞したことと、そのあとに出した「ペーターズギャラリーコンペ2013」で審査員だった装幀家鈴木成一さんから賞をいただいたことが重なって、幻冬舎の編集者さんから声をかけていただきました。

専門学校を卒業してから半年後にいただいたお仕事だったので、まだ本当に駆け出しのころ。
プロとしてラフを何枚くらい描けばいいのかもわからず、まずは自分なりに10パターンほど考えて、「こういうパターンも描けますか?」と注文が来たらまた考えて…。微妙な表情の違いなど細かい修正も含めたら、最終的には40案か50案くらい出したかもしれません。
いい勉強になりました(笑)。
本が書店に並んだときは、友達が「出てるよ~!」と写メを送ってくれて、すごくうれしかったです。
いまも挿画のお仕事は大好きで、自分からは自発的に出てこないような発想を求められるところを楽しんでいます。
書店ナビ 松浦さんが使っているペイントツールはSAI。10代のときに、絵を描くことが好きな妹のためにお姉さんが自宅のPCにダウンロードしてくれたことで、使い始めたとか。
SAIのタブレットを駆使して描く、たおやかな女性ならではの曲線とミルキーな肌の質感は見るものを魅了し、昭和レトロの雰囲気をまといながら現代のセンスを感じさせる作風は《平成美人画》そのもの。今後の活躍がおおいに期待されるイラストレーターのホープです。

さいころから、人に絵を描いてあげたりするのが大好きだった松浦さんが、一体どういう道のりを経てイラストレーターになったのか。
フルコースの選書理由と一緒にお話をうかがってまいりましょう。
[本日のフルコース]
たおやかな《平成美人画》で人気急上昇!
わたしの「描く道」を灯してくれたフルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

日出処の天子 完全版1
山岸 凉子  KADOKAWA/メディアファクトリー

聖徳太子の少年時代を中心に、摂政になるまでを描いた少女漫画です。美女と見間違う美しさ、宮中の大人たちを手中に転がす狡猾さ、どう足掻いても叶わない同性への恋慕や母親との確執を抱えた廐戸王子の圧倒的な存在感に心奪われる名作です!

書店ナビ いま40代後半以上の方は、白泉社発行の少女漫画誌『LaLa』で連載(1980~1984年)していたことをご記憶かもしれません。
北海道出身の漫画家である山岸涼子さんの代表作です。
松浦 初めて読んだのは小学5 年生のとき。友達の家で見つけて、それまで知っている漫画の絵柄とはまったく違って衝撃を受けました! 
この漫画を読んで、《古(いにしえ) の日本》に強く惹かれたことが、いまの作風の下地になっていると思います。
いまも本棚の一番取り出しやすいところに置いて、「美しく強いとはどういうことか」を感じたい時に読み返しています。

「髪の流れの描き方も影響を受けていると思います!」

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

寺山修司詩集
寺山修司  角川春樹事務所

中学に入るころは詩を書くのも読むのも好きで、それを知っていたからでしょうか、姉が買ってきてすすめてくれた本です。幼いころから心情や物事を具体的な映像としてイメージする癖がある私には、寺山さんの世界観が自分の感覚の一部になったと錯覚してしまうくらい自分ごとに感じられました。

書店ナビ とくにお好きな一篇はありますか?
松浦 「ぼくは猫する」なんて、日本語としてはありえないのにすごく絵が浮かびますよね。

  ぼくの書いた詩から/一匹の猫が抜け出して/すがたを消し(中略)
  恋という字と/猫という字を入れ替えてみよう(中略)
  ぼくはすっかり/あなたに猫してしまった」と(中略)

言葉が生きものになったような世界に引き込まれます。

けれども、そんなイメージの世界を寺山さんがあくまでも《傍観者》として見ている詩の構図は、現在私が女性を描く時のまなざしのベースになっているのかも。
女性である私が美人画を描いていると、対象はすべて《自分の分身》のようにとらえられがちですが、私が描くときはいつも、彼女たちをこの世に実際に存在する女性たちだと思って描いています。
自分とは切り放した個であり、「何を考えているんだろう?」という答えを見つけたくて向きあう感覚です。

オリジナル作品のこの女性が読んでいるのは、本書の設定!

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

宇野亜喜良 少女画 六つのエレメント
河出書房新社

人生で初めて買ったイラストの作品集です。当時はまだ、イラストレーションと漫画の区別もできていないような高校生。近所にあった書店でたまたま、手に取りました。宇野さんの、自由でありながらどこか重たいイラストや、ここまで描ききる宇野ワールドに釘付けになりました。

書店ナビ 日本イラスト界の至宝のような存在、宇野亜喜良さん。寺山修司の舞台美術やポスターを手がけたことで知られています。本書はお得意の少女画を中心に、作品とエッセイをテーマ別にまとめた一冊です。
宇野さん独得のダークファンタジーの世界は、高校生には少し強烈だったのでは?
松浦 そうなんです。人の目にふれるイラストなのに、こんなに自由に描いていいんだ!と驚きました。でも個性が爆発しているようで、実は見る側の気持ちのいいところでまとまっている。奇跡的なバランスです。
しかもどの絵を見ても一目で宇野さんだとわかる。たぐいまれな作家さんだと思います。 

当時もイラストを描くのは好きでしたが、それが社会と繋がるというイメージをまったくもっていなかった私が、イラストレーターという職種を志すきっかけとなったこの作品集は、私の原点。《お守り》のような一冊です。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

ショートカット 林静一画集・林あまり歌集
林あまり著/林 静一イラスト  サンリオ

私には最も影響を受けている画家が二人いまして、ひとりは女性の目を通して美人画を描いた上村松園(うえむら・しょうえん)さん。もうお一方が本書のイラストを描いている林静一さんです。フルコースの話が来たとき真っ先に、この本が頭に浮かびました。

書店ナビ 昭和世代にはロッテの梅味キャンディー『小梅』のキャラクター「小梅ちゃん」や、同棲生活を描いた漫画『赤色エレジー』が長く記憶に残る林静一さん。この方も美人画の名手です。
松浦 専門学校に入ってから古本屋さんで、これもたまたま見かけて買いました。
林静一さんが描く《存在そのものが美しい女性像》に全身を揺すぶられるような衝撃を受けて、「この画集の女性たちはなぜ美しいんだろう?」「なぜ、そんな表情をしているんだろう?」と考えていくうちに、《私が思う美しい女性像》も自分の中に思い描くことができるようになりました。

中央の本書を取り囲む松浦さんの作品は、確かに《直系》の匂いを感じさせる。構図や佇まい、仕草も強く影響を受けているという。

書店ナビ 林さんが描く女性たちのどういうところに惹かれますか?
松浦 一見するとすごく単純化された線を使っていても、実はその線で女性のすべて、女性特有の二の腕やふくらはぎの膨らみやうなじの美しさなど、何もかもが伝わるところ。
ムダなものがなにもない、空間の使い方にも感動を覚えます。
そして一番好きなところは、どの女性もはかなげで美しいというだけでなく、芯の強さを感じさせるところ。
一人の構図でも、その孤独は自らがすすんで選んだ孤独であるような意志の強さを感じます。
色数も少ないのにここまで豊かに描けるなんて…自分がこの境地に達するまであと何年かかるのか、いまはとても想像できません(笑)。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

ティル・オイレンシュピーゲルのゆかいないたずら
リスベート・ツヴェルガー著/ハインツ・ヤーニッシュ絵  太平社

ティルは14世紀の北ドイツに実在したとされる奇人(道化師)で、さまざまないたずらやとんちで人々を翻弄した話が伝承されています。この絵本はそれらの中からエピソードを選んで、文と絵をつけたものです。

松浦 これは専門学校時代に、先生に「構図が美しいから見てごらん」と貸していただいて知った本です。
いま思うと、当時は日本画を意識した作品に挑戦しようとしていた時で、日本画は空間の美でもあるので、きっと先生は「空間を使うとはどういうことか、この本から学びなさい」という親心で貸してくださったのではないかと感じています。
絵以外にもティルの破天荒ないたずらに元気がもらえたりして、いまも特別な一冊です。

私が先生から教えられたように、いま教える立場にいる私も「これは!」と思った本を学生たちに積極的に紹介しています。
私にとっての『ティル・オイレンシュピーゲル…』のような一冊と、みんなも出会ってくれたらうれしいですね。

本書からリスベート・ツヴェルガーにハマり、作品を買い集めた。

ごちそうさまトーク 本との出会いに導かれていまがある

書店ナビ お話をうかがって驚きました。小中高そして専門学校と、松浦さんの成長の節目、節目にぴたりと「運命の一冊」に出会ってきたんですね!
松浦 自分でも本当に恵まれた本との出会いが続いていたんだなと、ビックリしています。
実は専門学校を出るときに一度どこかに就職しようかとも迷いましたが、「もし何年後かにデビューしようと思ったときは、自分のようなイラストのニーズも含めて周りの状況が変わり、タイミングが遅かったと後悔するかもしれない」と思い、フリーランスとして活動を始めることにしました。

まだまだ駆け出しですので、いまの目標は描き続けていくこと! 家族や友人たちの応援に力をもらって、新しい表現の女性像を描いていきたいです。
書店ナビ 本との出会いに導かれて、イラストレーターのいまがある松浦さんの運命のフルコース、ごちそうさまでした!
●松浦シオリ(まつうら・しおり)さん

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北海道芸術デザイン専門学校イラストレーション専攻卒業後、フリーのイラストレーターとして活動。デジタル制作での美人画を得意とし、奥田英朗著『ナオミとカナコ』、澤地久枝著『14歳〈フォーティーン〉満州開拓村からの帰還 』(集英社)などの書籍挿画や広告イラストも経験。星槎道都大学美術学部デザイン学科非常勤講師。札幌在住。
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