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第392回 かの書房


[応援企画]札幌にちいさな新刊書店ができるまで
「かの書房」のチャレンジを追う《スタートアップ後編》

[2018.9.10]

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書肆吉成丸ヨ池内GATE店や大手書店で本屋の現場を体験

2018年2月、勤めていた書店が閉店する――。
思わぬ事態に、読書をこよなく愛する加納あすかさんの気持ちは固まった。小さい頃から夢だった本屋さんになる!

そう決めたあとは「開店にプラスになる経験を積むために」、たまたま同月のオープンに向けて動いていた新刊&古書店「書肆吉成丸ヨ池内GATE店」の求人に応募。はじめての開店準備を体験した。
このとき学んだことは、お客の動線の複雑さだ。
「店が見てほしい棚の順番と、お客様の動線は必ずしも一致しない。店は"この棚の次はこっちに来てもらって…"と考えても、お客様はご自分の関心に添って自由に動きまわる。当たり前の話ですよね(笑)。
でもそれが実際に体験してみないと、なかなかわからなくて。それからは、どこから見ていただいてもいいように棚全体で考える必要があることを学びました」

書肆吉成オープン後は「新刊書店を知りたい」と大型書店に勤務。大手独自のシステムを学んだのち、現在は市内の中規模書店に勤務している。

こうして振り返ると、加納さんが勤めていたあすか書店の閉店と書肆吉成のオープンが同時期だったことは、やはり運命の女神が微笑んだと思いたい。
加納さんの夢を知り、快く送り出した店主の吉成さんも「加納さんのチャレンジ精神を応援したい。成功のカタチをつくってほしいです」と期待を寄せている。

店の"名物"はサイン本と北海道出身・在住の若手作家推し!

書店を開くには、出版社と直接取引する以外は、取次会社と卸売取引契約を結ぶことになる。加納さんのような個人事業主の場合、トーハンや日販といった大手取次会社に口座を持つことは難しく、「取次の取次」と呼ばれる二次問屋を介して本の流通を確保する。
加納さんは元勤務先とも取引があった二次問屋、株式会社新進と契約することにした。

「新刊書店のオープンって何をするんだっけ?」と札幌の担当者が思わずもらすほど、チェーン店やFCでもない"ひとり本屋さん"が開業するのは久しぶりのこと。
その担当者が加納さんに送った言葉は「自分の店の"名物"をつくること」だったという。
どの店でもまったく同じ内容、同じ価格で買える本という商品を扱う以上、集客はその店に行きたくなる理由、すなわち「店の名物」にかかっている。

そこで加納さんが出した答えは、「サイン本を置き、若手作家、特に北海道出身・在住の作家さんを応援すること」。
知念実希人氏のサイン本で味わった、作家も書店員も読者もうれしい"三方良し"を軸にし、従来の書店の「北海道本」コーナーでは見かけなかったミステリーやライトノベル、BL、同人誌で活躍する若手作家を推すと決めた。

Twitterで「我こそは!という(道内)作家さんがいらっしゃったら是非教えてください!」と呼びかけたところ、個別の返事が追いつかないほど反響があった(この2018年8月12日のスレッドを読んでいるだけでも、道内にこれほど活動している作家たちがいるのか!と驚かされる)。

「通常、サイン本は予約や取り置きをしないで店頭販売のみですが、私の店では各地への配送も考えています。私自身が片田舎の上士幌町で育ったので、"都会"に行かないとサイン本が買えなかった悔しさはよくわかります。喜んでくださる方々のために、普通の書店ではやらないことをやっていきたい」と意気込みを語る。

本屋の卵を勇気づけた三冊の本

新店舗は、豊平区の自宅から通いやすいところに8坪の元カラオケスナックを見つけた。解体が終わり、着々と自分好みのリニューアルが進んでいる。
同時に、札幌市に申請する書類づくりと書店勤務、倉庫仕分けのアルバイトのかけもちに追われながらも、道内の書店や出版・図書館関係者に積極的に会いに行き、人脈を広げている(「一万円選書」で有名な砂川のいわた書店の岩田さんに会いに行った話は、次の更新時にご紹介したい)。

今回の書店ナビの取材には「書店開店のために必要なものを持ってきてほしい」とお願いしたところ、かばんから三冊の本を取り出してくれた。

本屋、はじめました ―新刊書店Title開業の記録―
辻山良雄  苦楽堂

長年リブロ社に勤務していたベテラン書店員の著者が2016年1月に東京・荻窪にTitleを開業。その全貌を記した本屋開業のドキュメント。


「一番ありがたかったのは、巻末に事業計画書や初期投資計画などの"そこが知りたい"情報が載っていたこと。開店一年目と二年目の動きはぜひ参考にしたいです」

《出典:『本屋、はじめました』巻末xix~xx》
 

本の雑誌 417号 2018年3月号
本の雑誌社

特集「本屋さんになろう!」。本屋をやめて本屋になった店主から、新聞記者をやめて本屋になった店主、出版社の前社長が開店した本屋の店長など、最近増え始めた独立系書店の実状に迫る26ページ。


「ちょうど勤め先の閉店が決まったときに出た号で、本屋になろうと思った自分の気持ちをそのまま受け止めてくれたように感じました。棚づくりを通してどういう光景にしたいのか。そこを真剣に考えることが、店主の仕事だと教わりました」

これからの本屋読本
内沼晋太郎  NHK出版

本屋B&B、八戸ブックセンター、神保町ブックセンターなどつねに書店業界の最前線を駆け続ける著者が15年考え続けた、新しい本屋像のすべて。「本の仕入れ方大全」収録。


「特に面白かったのは『第7章 本屋を本業に取り込む』と『第8章 本屋を本業から切り離す』。本屋を本業にするか副業にするか、いろいろな選択肢があることを知ったうえで、最終的に私は"やっぱり本屋として生きていきたい!"と覚悟が決まりました」

まさに本書のタイトルどおり、"これからの本屋"として走り出そうとしている加納さん。
彼女が幼いころにふるさとの上士幌町から書店がなくなって二十年近くが経とうとしているが、地元の図書館や隣町の書店に通ってまで読み続けた彼女が、こうして「本屋として生きる」ことを思えば、読書とはなんと長い歳月をかけて希望を育んでくれる営みであることか。

「加納書店」でも「ブックスかのう」でもない、「かの書房」という店名は、友人たちの感想を取り入れ、高校時代からの呼び名「かのちゃん」と一番しっくりきた「書房」の組み合わせに決めた。
2018年12月札幌市豊平区に開店する小さな書店を追いかけて、北海道書店ナビではこれからも定期的に情報をお届けする。
臨場感あふれる日々の動きを知りたい方は、公式Twitterもあわせてご覧いただきたい。

2018年9月6日に起きた平成30年北海道胆振東部地震のあと、
加納あすかさんに連絡をとったところ、ご本人も店も無事を確認。
店には書棚も入り、床と壁の張り替えへと進んでいる。

●かの書房 公式Twitter

twitter.com

●加納あすか
上士幌町出身。高校時代に熱気球操縦士ライセンスを取得。当時全国に二人しかいなかった女子高生操縦士として話題を集めた。現在も地元の熱気球クラブに所属。

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