おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第402回 空のアトリエ 小菅謙三さん

Vol.141 空のアトリエ 小菅謙三さん

大学で油絵を専攻していた小菅謙三さん。札幌国際短編映画祭2017のメインビジュアルも手がけた。

[本日のフルコース]
絵もデザインも、心も体ももっと自由に!
「見えないものと遊ぶ」フルコース

[2018.11.19]

書店ナビ 先週に引き続き、今週も北海道の砂川市にアトリエを構える小菅夫婦のデザイナーユニット「空のアトリエ」編をお届けします。
先に奥様の小菅真千子さんが作ってくれたフルコースは「風」がキーワードでしたが、今週ご紹介する謙三さんは「見えないものと遊ぶ」フルコース。

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●空のアトリエ

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書店ナビ 事前に記入していただいたお二人の取材シートを見ると、真千子さんは選書理由を2~3行に凝縮してさらりと書くタイプで、謙三さんのシートには熱い推薦エピソードがビッシリと書き連ねてある。おふたりの個性が光ります。
それでは謙三さん、自己紹介からお願いします。
小菅謙三
(以下、謙三)
僕は北海道の滝川市生まれです。金沢美術工芸大学で油絵を学んでから、東京で音響やグラフィックデザインの仕事をしていました。
東京には7~8年いたことになりますが、心のどこかにいつも「自分がこれからもずっといるところは東京じゃないだろうな」という思いがあり、2014年の春に北海道に帰ってきました。

彫刻家の五十嵐威暢(いがらし・たけのぶ)さんを軸とするまちづくり活動「アートチャレンジ太郎吉蔵」や、毎年滝川で行われている「太郎吉蔵デザイン会議」をお手伝いしているのは、先に真千子ちゃんが話したとおりです。

学生時代に油絵をやっていたこともあり、アトリエや旅先で絵を描く時間を大切にしています。
絵を描くという行為は、見えるものそのものを描くということと、イコールではないですよね。
見たものをイメージの出発点として、結果的に見えないものを描くことになる。
今回のフルコースも僕に「見えないもの」の存在を気づかせてくれた5冊を選んでみました。
[本日のフルコース]
絵もデザインも、心も体ももっと自由に!
「見えないものと遊ぶ」フルコース


前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

宇宙の声
星新一  角川書店

ショートショートの名手、星新一の宇宙冒険小説です。文庫1冊に2編収録なので《前菜》にするにはボリュームがありますが、宇宙空間でダイナミックに進んでいくストーリーは箸が止まらない面白さ!

書店ナビ 主人公のミノルとハルコは"電波幽霊"の正体をつきとめるため、基地隊員のキダや特殊ロボットのプーボとともに広大な宇宙へ旅立っていく……。ミノルたちが降り立つ星がどれもぶっ飛んでいる設定で、まるで「スタートレック」のような世界観にワクワクするSFジュブナイル小説です。
謙三 6つ年上の兄貴の影響で中学1年生のときに読んでハマりました。宇宙船の内部や奇妙な星々の描写に引き込まれて、空間を隅々まで想像する楽しさや"なんでもあり"の未来を思い描く喜びを知りました。
それにちょうどこの頃、3歳から通っていた絵画教室で画材を水彩から油絵に変えて、新しいことに挑戦する気持ちが高まっていました。自由なテーマで絵を描くようになったきっかけをくれた一冊です。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

サウンドスケープ―その思想と実践
鳥越けい子  鹿島出版会

美大生時代にサウンドスケープにハマりました。友達と"音活動"するなかでバイブルになったのが、カナダの現代作曲家マリー・シェーファーの『世界の調律』と、日本のサウンドスケープ研究家の鳥越さんがこの分野について解説するこの本でした。

書店ナビ 聞き慣れない「サウンドスケープ」とは、「作曲家のM・シェーファーが提唱する概念で、「音の風景」を意味する造語。騒音などの人工音、風や水などの自然の音をはじめ、社会を取囲むさまざまな音環境の総体をさす」(ブリタニカ国際大百科事典)。
ちょっとムズカシイ…?
謙三 たとえばヨーロッパでは"街のシンボル的な鐘の音が聞こえる範囲をその街の輪郭とする"というような音と風景のつながりを考える概念です。
金沢で暮らすことになったとき、お寺や神社が身近にある古都金沢ならではの情緒ある風景に囲まれる体験は、ほとんどカルチャーショックに近かったと思います。
蝉や鐘の音、祭りのかけ声が体に染み込んできて、坂道だと音の跳ね返りが違うとか、目を閉じると没入感がすごいとか。

自分でも機材を持ち歩いて録った音で風景画を描くような体験に熱中するなかで、何度も何度も読み返したのがこの本です。
サブタイトルにあるように理論と実践の両方について詳しく書かれている手引書なので、自分たちで活動しながら読書で「答え合わせ」をする楽しさを味わいました。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

絵とは何か
坂崎乙郎  河出書房新社

タイトル通り「絵」とは何かについて美術評論家の著者が「言葉」で真摯に迫る名著。ゴッホ、クレー、鴨居玲など具体的な作品を題材に、絵とは何か、描くとは何かについて哲学的に思考していて、やっぱり絵はいいなぁと立ち返る一冊です。

謙三 この本を初めて読んだのは、19歳の浪人時代。僕が3歳から習っていた佐々木絵画教室の佐々木治先生に勧められて手に取りました。僕にとって佐々木先生は父親的な視点で導いてくれるメンター的な存在。
当時悩んでいた僕にいろいろ考えてほしいという意味で勧めてくださったんだと思います。
初めて読んだときは難しく食べにくかったけれど、うまくてうまくて忘れられない"魚の煮付け"的な読書体験でした。
絵に限らず「問いの立て方を教えてくれる」のが美学書、哲学書のすばらしいところだなぁと思います。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

星の巡礼
パウロ・コエーリョ  角川書店

スペインの巡礼路を通して主人公が覚醒していく物語。セレンディピティ(求めずして思わぬ発見をする能力)や直感、ひらめきなど普段なんとなく感じている「導かれる力」。読んでいる間にどんどん伸びて広がっていくサンティアゴへの道が、愛と同期したような深遠な色合いを帯びてきます。

書店ナビ 日本でも『アルケミスト 夢を旅した少年』が大ベストセラーになった著者のデビュー作です。
小菅さんの解説文に出てきた「サンティアゴ(・デ・コンポステラ)」は、ローマ、エルサレムと並ぶキリスト教三大聖地のひとつ。サンティアゴ巡礼に今も世界中から巡礼者やツーリストが訪れています。
謙三 大学を出て東京で就職する前に、スペインで絵を描きたい!という気持ちが高まって40日間遊学しました。
残念ながら滞在中サンティアゴには行きませんでしたが、この本を読んでいるとまるで自分が行ったかのように情景が浮かんでくる。ヨーロッパの空気が立ち上ってきて、見えないものが見えてくるイメージが鮮烈に伝わってきました。
一言で「スピリチュアル系」と片付けることもできるかもしれませんが、本書を読んでいくと、人智のおよばない神秘的なものを見せられて成長していく主人公に気持ちが共鳴して、「本に救われることがあるなぁ」と素直に感じることができました。
考えてみたら一冊の本との出会いこそ、何かの「導き」ですよね。
書店ナビ 確かに!書店で右の本を手に取るか左の本にするかで、その先の道が分かれていく。そう考えると、どの本と出会うかが一層大事に思えてきますね。

物語の合間にいくつかの「実習」が挿入されている。画像は「音を聞く実習」ページ。「数分間(中略)オーケストラを聞いているような気持で、まわりで聞こえる音のすべてに意識を集中する」とある。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

味の形 追川尚子インタビュー
追川尚子  ferment books

東京時代に月1回は通っていた、新宿駅東口地下にある酒場「新宿ベルク」の副店長、追川尚子(さこかわ・なおこ)さんプラス井野朋也店長も登場するインタビュー本。

書店ナビ 新宿ベルクについては幾つもの本が出ています。行ったことがないので基本的なことをうかがいますが、やっぱりこれだけ根強い人気があるということはおいしいんですか?
謙三 やったらうまいんですよ!マッシュルームを使った料理とか最高です。それでいて値段も高すぎず、店の雰囲気も何もかもが丁度イイ。
この本を読んで初めてわかったんですが、副店長の追川さんには「共感覚」(一つの感覚が他の異なる領域の感覚をひき起こす現象)があって、レシピを「味の形」で決めている。
誰かのレシピをアレンジとかじゃなくて、迫川さんの中の"正しい美"みたいなものがあのメニューに凝縮されている。
「だからどれもめちゃくちゃうまかったんだ!」という驚きと同時にストンと腑に落ちる感動が押し寄せました。
人の数だけ、その人の魅力がある。みんな、自分の力を活かして陽気に生きていこうねと思えるシメの一冊です。

迫川さんが描いた「ビールの味」のスケッチ。小菅さんは金沢で音を集めていたときに共感覚に関心を持ったという。

ごちそうさまトーク 正反対のふたりだから見えてくること

書店ナビ 真千子さんの「いい風が吹く」フルコースと、謙三さんの「見えないものと遊ぶ」フルコース。共通性を感じましたが、出てくる5冊は見事に違いましたね。

互いに相手のフルコースに聞き入っていた「空のアトリエ」小菅夫妻。

謙三 真千子ちゃんは読書とかでぐっときたことばと、普段使っていることばとの距離がとても近いひと。
僕はことばそのものよりも、ことばの周辺にあるものにぐっとくるほうなので、普段は、読んだ本よりもはるかに手元にあることばでしゃべっているというような印象です。
こんな正反対なふたりなので、真千子ちゃんと話しているうちに頭の中でこんがらかっていたことがどんどん整理されて簡単な一言に収れんされていく、なんていう経験も多々あります。
ふたりともデザイナーですが、手を動かす前に《この仕事で何が大事か》をいっぱい話し合って方向を定めていくやり方が、自分たちらしいのかもしれません。
書店ナビ おふたりお揃いでご協力いただきまして、本当にありがとうございました。北海道の空知で暮らす「空のアトリエ」さんのフルコース、ごちそうさまでした!
●空のアトリエ

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小菅謙三さん(こすげ・けんぞう)さん
滝川市出身。金沢美術工芸大学美術科油画専攻出身。東京で音響技師やデザイナーの仕事を経て、2014年に北海道にUターン。2017年に真千子さんと「空のアトリエ」を設立。地元の馬具メーカー「ソメスサドル」宣伝部にも在籍。

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