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第441回 「ニューヨーク公共図書館」トークat札幌市図書・情報館

[イベントレポート]
ただいまシアターキノで絶賛公開中!
ニューヨーク公共図書館が具現化する「生き残る図書館」像

[2019.9.2]

来館者100万人突破!札幌市図書・情報館の原点とは?

2018年10月7日に開館した札幌市図書・情報館のコンセプトは、「はたらくをらくにする、課題解決型図書館」。

文庫やコミックを置かず、主な想定利用者を大人に絞り込んだところや、「蔵書の貸出しはせずに閲覧のみ」「ドリンクの持込みや会話もOK」という活気的なシステムが目立って話題になったが、実際に開館してみると毎日3000人近くの来館者が殺到した。
その勢いは開館半年後も衰えず、会社帰りだけでなく日中にも活用され、ノートパソコンを持ち込む、ミーティングルームを使うなど"大人の居場所"として定着しつつある。

当初は年間目標だった来館者100万人も8月早々に突破した。新しいものへの関心は強いが同時に警戒心も強い札幌市民から、これだけの評価を得ている同館は、一体どういうアイデアから生まれたのか。

その答えとなるキーワードが「ニューヨーク公共図書館」――。同館をつぶさに取材した在米ジャーナリスト菅谷明子さんの著書『未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告―』にあることが、2019年8月23日に図書・情報館で行われたトークイベントで明かされた。

未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告―

未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告―
菅谷明子  岩波書店
発刊は2003年。日本で初めてニューヨーク公共図書館について本格的に紹介した本。同館が市民に提供する多彩な情報インフラに驚愕する読者が多数続出。映画の公開と同時に再び注目を集めている。

この日のゲストは菅谷明子さんに加えて、9月7日からドキュメンタリー映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』が公開中のシアターキノ代表の中島洋さん。進行は図書・情報館の淺野隆夫館長が務めた。

『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』

moviola.jp

市民の"the best version of themselves"を支援する

前半は菅谷さんの講演から。はじめに映画のダイジェストを流しながら、各場面を補足解説した。
ニューヨーク公共図書館とは特定の一館をさすのではなく、4つの研究図書館と88の地域分館に分かれている。全蔵書数は5300万冊。350万人の利用者を対象としており、3500人のスタッフが働いている。

ダイジェストに映ったサービス内容だけでも、利用者の問いに答えるレファレンスに始まり、子どもたちのIT教育やIT環境支援(学校からの宿題がウェブで出るためウェブ環境が無い家にはルーターごと貸し出す説明会も行われていた)、さらにダンスサークルでシニアの女性が楽しそうに踊っている場面もあれば、エルヴィス・コステロのトークイベントもある。次に何が出てくるか予想もつかない驚きの充実度だ。

インターネットが台頭してきた90年代末、「この先図書館はいらなくなるのでは?」という声が聞こえ始め、そこに疑問を抱いたのが取材・執筆の動機だったと語る菅谷さん。

続けて「アメリカの歴史は移民の歴史。経済がまわるためにも移民の経済的自立を促す視点が図書館に備わっています」という前置きから紹介されたのは、4つの研究図書館の1つである「科学産業ビジネス図書館」。
専門性の高いデータベースの提供やビジネスプランの作成支援、キャリアコーチのアドバイスを通して起業や転職、サイドビジネスといったキャリア形成を多角的に後押ししている。面接に行くスーツやブリーフケースのレンタルまであるという。

こうしたキャリア形成のバックアップは、リタイア後のセカンドライフや出産・育児を終えた女性の社会復帰など年齢性別を問わず必要とされるものであるはずだ。

「この一連の支援の根底には図書館が、市民が"the best version of themselves"、すなわち"最高の自分"でいられるための情報を提供するという理念があります」と語る菅谷さん。
「日本の"いきがい"を訳した英語はありませんが、社会に参画して必要とされたいという思いは日米共通です。そう考えると図書館がここで提供しているのは、人間として生きていくうえでの尊厳を守るサービスなのでは」という言葉が、来場者の心に響いていく。

コインランドリーで読み聞かせ、時代の変化に素早く対応

ニューヨーク公共図書館の支援対象はビジネスパーソンだけではない。MET(メトロポリタン歌劇場)にあるもう一つの分館「舞台芸術図書館」はアーティストや舞台・映画関係者にとって"宝の山"。
過去の名ステージのミニチュア舞台セットや本人提供の衣装など、次世代が参照したい資料が大量に保管されている。

スパイク・リーやアンディ・ウォーホール、トニ・モリスンら時代を切り拓いた先駆者たちも、図書館の恩恵を受けてきたことを公言しているという。
「先ほどのビジネス支援とアート支援、どちらも個人の力を強くしてくれるもの。そこにいかに投資するかを図書館が考えています」。

ほかに菅谷さんが印象的だったサービスは、コインランドリーでの読み聞かせだ。ヒスパニック系市民の中には洗濯請け負いのサイドビジネスでコインランドリーを長時間利用する家庭もあり、その間幼い子どもたちは手持ち無沙汰になる。
そこで図書館は自分たちからコインランドリーに出向いて、読み聞かせサービスを始めたという。

「現代社会のニーズや変化にマッチするサービスを提供する。生物学者のダーウィンの言葉に『唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である』とあるように、変化できる場であることが"世界最高峰"といわれる図書館を作れる秘密なのかもしれません」。

東京・岩波ホールの単館上映で始まった映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』は3時間半(途中に休憩が入る!)という長さにもかかわらず、徐々に口コミで評判が広がり、現在は4館に拡大された異例のヒットが続いている。
札幌・シアターキノでの上映に、ますます期待が膨らむ菅谷さんのトークであった。

図書・情報館の多様性に期待、利用を促す可視化のすすめ

後半はキノの中島さんと淺野館長を交えたクロストーク。

はじめに「菅谷さんの本に刺激を受け、当館のビジネス支援やくらしの課題解決の構想を練りました」と明かす淺野館長。
この日初めて同館を訪れた菅谷さんも「こういう図書館ができて札幌市民はラッキーですね。情報相談の窓口であるリサーチカウンターの存在が際立っているし、ライフスタイルひとつとっても恋愛、結婚、子育て、離婚、終活などの棚づくりがとてもおもしろい」と讃える一方で、データベースやリンクの充実など、ウェブサイトのさらなる発展を促した。

「菅谷さんの本は人にも勧めて何冊買ったかわからないほど」と淺野館長。図書館出身ではない自分を「開館以来、粘り強い司書たちが支えてくれた」と振り返る。

今年26年ぶりに「水と情報をテーマにした作家活動」を復活した中島さん。同じ建物に入る「札幌文化芸術交流センターSCARTS」との連携が進めば、アーティストにとって図書・情報館はますます魅力的な場所になると期待を寄せる。

「今回こちらの司書の方がゲストであるボクのことを事前に調べてくださって、ボクも知らなかった記事まで見つけてくれたリサーチ力にビックリしました。恥ずかしながら『図書館は本を借りるところ』と思い込んでいた認識が改まりました」。

『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』を上映する立場では、「図書館が身近な課題と同時に未来の課題も解決する場であることに驚きました。固定概念を捨て、視点を変えることの重要性はアートも同じ。ニューヨークに続いて札幌市図書・情報館が見せてくれる多様性を楽しみに、これからまじめに通います」と宣言した。

菅谷さんから図書・情報館への提言は「可視化のすすめ」。1階サロンスペースの活用やビジネス支援の成功例の可視化を通して、「自分らしさを輝かせることができる場」であるアピールが必要とうったえた。
そしてもうひとつは、アメリカの非営利消費者団体が発刊する月刊誌"consumer reports"のように「(広告主に左右されない)しがらみのない独立した情報の提供も、パブリックな施設の大事な役割」であることを強調した。

こうしたメッセージを受け止めた淺野館長は「今後も仕事、暮らし、アートを通じて"善く生きていくための図書館"として精進していきます」と語り、この日のゲスト・来場者に謝辞を述べて締めくくった。

「これから映画をご覧になる方は本とパンフレットに一度目を通してからご覧いただくと、映画をより深く読み込めると思います」(菅谷さん)

札幌市図書・情報館

www.sapporo-community-plaza.jp

『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』が絶賛公開中!

シアターキノ

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