5冊で「いただきます!」フルコース本 北海道書店ナビ

書店員や出版・書籍関係者が腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

第333回 書肆吉成(しょし・よしなり) 吉成 秀夫さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が 腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.97 書肆吉成 吉成 秀夫さん

年二回、冊子「アフンルパル通信」を発行(現在、休刊中)。」アフンルパル(正式表記は「ル」が小文字)とは、アイヌ語で「地の世界への入口」の意味。吉成さんが手にしているのは特別号「ex.露口啓二特集」。

[本日のフルコース] 札幌の古本屋・書肆吉成さんが考えに考え抜いた 「古書店を始めたい人と読み継ぎたい」フルコース

[2017.7.10]

書店ナビ あまりなじみのない「書肆」(しょし)という単語は、本屋の意味。「すべての本が店頭に並ぶと同時に古本へとむかう」と教えてくれた札幌市東区の「書肆吉成」吉成秀夫さんに「古書店通になるには」フルコースをつくっていただきました。 北海道東部にある清里町出身の吉成さんは、小さいころから自他ともに認める「本の虫」。札幌大学在学中に「古本屋になる!」宣言をされたとうかがいましたが、きっかけは何だったんですか?
吉成 古本の奥深さを知ったころに、当時山口昌男さんが学長を務めておられた札幌大学に、古書目録を専門とする東京の「月の輪書林」のご店主、髙橋徹さんが坪内祐三さんと一緒に講演会にいらしたんです。 お話の面白さは言うに及ばず、そのあと山口学長や髙橋さんたちと一緒に、今はなき百貨店のそごうで開催していた古本展に初めて行きまして。 好きな古本を楽しそうに売り買いしながら生きていく人生があったのかと驚いて「古本屋宣言」をしたら、みなさんから「やめておきなさい」とたしなめられました(笑)。 大学卒業後はフリーターや古書店修行を経て、2007年に独立してから先にネットで開業し、2009年に東区に実店舗をオープン。2016年8月に現在の場所に移転しました。

札幌市東区北26条東7丁目にある店舗。冊子「アフンルパル」は、フルコース取材に先に登場した石山府子さんの店、古本とビールの「アダノンキ」さんにも置いている。

吉成 フルコースのテーマは北海道史関連の本にしようかとも思いましたが、やはり"餅は餅屋"で古本フルコースでいくことに。絞り込むのにかなり悩みましたが、北海道を軸になんとか作り上げることができました。
[本日のフルコース] 札幌の古本屋・書肆吉成さんが考えに考え抜いた 「古書店を始めたい人と読み継ぎたい」フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

タイム屋文庫 朝倉かすみ  マガジンハウス 舞台は著者の出身地でもある坂の町、小樽。道ならぬ恋に疲れた主人公の市居柊子は、亡くなった祖母の家でタイムスリップに関する本ばかりを集めた貸本屋を始める。高校時代に好きだったあのコが、タイムスリップの小説が好きだったから…。

書店ナビ 小樽、貸本屋、高校時代の恋、タイムスリップ本…これだけでもキュン死しそう。物語の設定づくりが上手な朝倉さんらしい作品です。
吉成 主人公が始めたのは古本屋ではなくて貸本屋ですが、私も柊子さんも勢いで店を始めたところは同じかなと。すべての環境が揃ってから開業しようと思うと、いつまで経っても始められないもの。 店をつくるということはお客様が来るということ。この本を読むと「お客様との出会いを期待してもいいんだよ」と次の人にも言いたくなる。まさにこれから開業したい人におすすめです。 ちなみに主人公が好きだった男の子は「吉成くん」。そこもポイントが高かった。

「自分用の『タイム屋文庫』は小樽在住の朝倉ファン、本間恵さんが作ったマップ付き(2009.9.2取材)。読んだあと、マップを片手に小樽歩きも楽しめます」

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

貧乏暇あり 札幌古本屋日記 須賀章雅  論創社 著者は実際に札幌市内で「古書すがや」を営んでいる。本書はその起床から就寝までを綴った日記を編集したもの。実は、私のことも書いてあり、「吉成くんが東区で店を開いたけど大丈夫か」と心配していただいた。

吉成 前菜の『タイム屋文庫』でやわらかいロマンを語りましたが、次のスープ本はキビシイ現実を知る本です。 業界の先輩である須賀さんは、失礼ながら表題のとおり貧乏なんです。でも須賀さんのどん底暮らしはキビシイというより「チビシィーー!」という感じの悲喜劇調。 底抜けに明るいし、いっそ突き抜けた優雅ささえも感じます。今回また読み直したら何度も笑っちゃって、勇気ももらいました。 それはやっぱり須賀さんが「本と共に生きているから」。奥さんの愛あるツッコミも抜群にいいんです。 古書店業界のことやセリの様子、お客様とのやりとりも詳細に書かれていて、実務本としても大変参考になります。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

独立社と札幌の貸本文化 藤島隆  北の文庫 著者の藤島さんは大学図書館司書のかたわら、長きにわたり図書館史や貸本文化について掘り起こし、貴重なインタビューや資料を集めてきた。その著者の最新の成果物。限定70部。

書店ナビ 独立社の創業者、足助素一(あすけ・そいち)は、札幌農学校の出身者。有島武郎と親交が深く、明治末期に札幌で貸本屋、独立社を立ち上げました。
吉成 独立社はその後20年間続くんですが、3回名前が変わっている、すなわち反体制の思想を持つ4人の経営者に受け継がれていきました。徐々に思想弾圧が激しくなっていく大正初期に、社会主義者である経営者のひとりが特高に検挙されたという記録も残っています。 そうした時代性を色濃く反映しながら、札幌の貸本文化がどう生きのびていったのか。 その歴史を刻んだ人たち、そしてその記録を後世に伝えるという大切な仕事を続けている人の存在を、これから開業を考えている皆さんにぜひとも知ってほしいです。 同じ著者の『貸本屋独立社とその系譜(北方新書11)』(北海道出版企画センター)なら、手に入りやすいかもしれません。

ここで男性のお客様が吉成さんに声をかけて、気になる本(写真)があるという。ひとしきりやりとりをして購入されてお帰りになった。値段交渉や本の内容について語り合うのも、古書店ならではの光景だ。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

札幌古書組合八十年史  高木庄治、佐藤市英、須賀章雅 他  札幌古書籍商組合 2013年5月に500部限定で出版された本書は、三部構成。第一部の通史はおよそ150年前の札幌開府から筆が起こされており、第二部は座談会。現役店主たちの生の声が詰まっている。第三部は年表などの資料編。

書店ナビ メインの肉料理は文字通り、がっつりこってりの業界八十年史!スープ本の著者であり組合員の須賀さんが書いた紹介記事を見ると、本書ができるまで「企画から約5年、作業着手から足かけ4年」かかったとか。 札幌の古書店の始まりは明治25年狸小路に店を構えた「尚古堂」さんなんですね。
吉成 組合ができたのは昭和4年秋。尚古堂二代目の代田茂さんたちが小樽の同業者と共同で結成しました。  第二部の座談会、現役老舗の先輩たちのほうは僭越ながら私が司会を務めています。司会という立場ですが、実際は聞き手として「教わる」という側面が強かった。大変勉強になりました。手前味噌になりますが、札幌の古書店の歩みがすべて詰まった必読の組合史です。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

植民地時代の古本屋たち 樺太・朝鮮・台湾・満洲中華民国 空白の庶民史 沖田信悦  寿郎社 最後は札幌・小樽を離れて、国境の向こうへ。樺太・朝鮮・台湾・満洲中華民国の「外地」へ渡った古本屋たち。各地での古書店事情を知ることができる詳細な記録。

書店ナビ こういう、公的には日があたってこなかった、けれども生命力にあふれた庶民の歴史に着目する札幌の出版社といえば、やはり寿郎社さんですね。土肥社長にもフルコースを作っていただいたことがあります。
吉成 そうなんです。「よくぞ出してくれました!」と土肥さんにお礼を言いたいくらい。植民地の古本屋とひとくちにいっても、満州では東京のように思想本が売れ、台湾では趣味・生活本が人気など各地で特徴があったようです。当時の店舗分布地図やルポなどの資料もふんだん。 なにより、戦火をものともせず古本屋がどこにでも入り込んでいくバイタリティに元気をもらいます。

著者の沖田氏は現役の古書店主。千葉県船橋市で鷹山堂を営む。本書で「外地」へと拡充していった古書店ネットワークの全貌を明らかにした。

ごちそうさまトーク 本があれば、どこででも生きていける

書店ナビ 今回は、「悩みに悩み抜いた結果」吉成さんがどうしても落とせなかったデザート本をもう2冊ご紹介いただきます。
吉成 岩崎書店の絵本「としょかんバス・シリーズ」から『みさきめぐりのとしょかんバス』と『大草原のとしょかんバス』です。 『みさきめぐり…』は道東の納沙布岬をまわる移動図書館バスのお話。『大草原…』は酪農のまち、標茶町が舞台です。 私が生まれた清里町も人口数千人のまちで(現在は約5000人)、大きい図書館も本屋もないなかで生まれ育ったことを振り返ると、最初の本との出会いを作ってくれたのは図書室でした。そんな私が今は本を後世に受け継ぐ仕事に従事している。 この図書館バスのようにどんな形になっても、本はいろんなところにめぐっていく。その営みがこれからも変わらず続くと信じたいですね。 本があればどこででもできるし、どこででも生きていけるんです。古書店をやろうと思う人間は。

「『みさきめぐり…』の運転手のおじさんの造形がよくわかる。世間的にはちょっとうさんくさいけど、性根の悪い人間じゃなくて子どもたちにはやさしいんです」

書店ナビ 古書店を営む人たちが時代と土地、すなわち縦にも横にも有機的につながっていることがわかると、これから古書店を見る目が変わってきそうなフルコース、ごちそうさまでした!
●書肆吉成 http://camenosima.com/ 買取連絡先TEL 011-214-0972 ●吉成秀夫さん 北海道清里町出身。札幌大学在学中に当時学長だった文化人類学者の山口昌男氏や同じく文化人類学者の今福龍太氏、詩人の吉増剛造氏たちから薫陶を受け、卒業後、札幌の伊藤書房で古書店営業を学んだのちに2007年4月1日「書肆吉成」を開業。店名は吉増氏が名付け親。札幌古書籍商組合加盟店。