おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第336回 島崎町さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が 腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.99 島崎町さん

初の長編「ぐるりと」を書き下ろした島崎町さん。「夏休みの読書にぜひ!」

[本日のフルコース] 《大回転ノベル》「ぐるりと」出版!作家・島崎町さん選 「立ち向かう少年少女の物語」フルコース

[2017.8.7]

書店ナビ 札幌在住のシナリオライター島崎友樹さんは、ショートフィルムやドラマ、ラジオCM、舞台のシナリオを執筆。 2014年3月に公開された、琴似を舞台に中高生と大人が共同制作した80分の長編映画『茜色クラリネット』の脚本も手がけ、同作品はソウル国際青少年映画祭やヨーテボリ国際映画祭でも上映されて好評を博しました。 とご紹介しておきながら、今回フルコースづくりをお願いしたのは、島崎友樹さんではありません(笑)。 島崎さんのもうひとつの顔である「作家・島崎町」さんにお願いしました。 今年5月30日に新作「ぐるりと」(ロクリン社)が店頭に並んだ島崎さん。まずはご出版おめでとうございます!
島崎 ありがとうございます。「ぐるりと」は、2012年に短編集を出して以来、5年ぶりのしかも初めての長編になります。 最大の特徴は、物語にあわせて本を"ぐるりと"タテヨコを回転させて読み続けていくこと。

「はじめはページ上半分に書かれている縦書きの文章を読んでいきますが、主人公の「ぼく」こと小学六年生の佐田真一郎少年が図書室で不思議な本を見つけ、本の中に吸い込まれていくと"本を回して"下の段に書かれている横書きの文章を読んでいく、という仕掛けです」

書店ナビ すごい!ページ上の段が縦書き=現実世界で、下の段の横書きが異世界。よくこんな仕掛けを思いつかれましたね!
島崎 僕なりに調べたんですが、縦書きと横書きの両方の表記がある言語は珍しくて、英語には縦書きがないし、漢字を使う中国語でも今ではほとんどが横書きです。 また一般に、縦書きの文章は右から左に読むので右開き、横書きの文章は左から右に読むので左開きになります。 ということは、縦横両方の読み方ができる日本語は"本を回せば"同じ右開きにできる、というアイデアが浮かびました。 この《大回転ノベル》の構想から3年越し、ようやく出版できてうれしいです。
書店ナビ 「ぐるりと」も前述の映画「茜色クラリネット」も、ジャンルは少年少女の青春小説。フルコースのテーマも「立ち向かう少年少女の物語」です。島崎さんにとって青春小説やファンタジーの魅力とは?
島崎 これからご紹介する本を見ていただくとわかりますが、自分にとっては子どもたちの成長やがんばりについて書いたり読んだりするのが、とても楽しい。大人が読んでも心に響いて、元気や勇気をもらいます。
[本日のフルコース] 《大回転ノベル》「ぐるりと」出版!作家・島崎町さん選 「立ち向かう少年少女の物語」フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

穴 HOLES ルイス・サッカー  講談社 先祖代々不幸続きの少年スタンリーは、無実の罪で砂漠の矯正キャンプに送られる。そこで穴堀りの強制労働をさせられるが、スタンリーは立ち向かう。逆転不可能な状況を彼は変えることができるのか。読後感最高の、少年物語の傑作。

書店ナビ 「先祖代々不幸」「無実の罪」「砂漠で穴堀りの強制労働」と少年の肩には重すぎる運命が続きますね、スタンリー少年。
島崎 そうなんです。ネタバレにならないようにお話しますと、スタンリーくんがどうして不幸続きなのか、矯正キャンプの所長はどうして少年たちに、一見無意味にも見える穴を掘らせているのか、実はすべてに真の理由があるので、結末はぜひご自分で確かめてみてください。 矯正キャンプにはスタンリーのほかにも少年たちがいっぱいいて、それぞれのキャラクターが実に好き勝手に、脈絡もなくいろんな行動を起こします。その収集のつかなさを読んでいると、本来、子どもってそういうものだよなと気づかされる。決して大人のいう通りにならない、大人から見た子ども像がリアルに描かれているところも大変勉強になりました。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

I KILL GIANTS      作ジョー・ケリー/画ケン・ニイムラ  小学館 小学5年生の女の子バーバラは、呪文を唱えて海岸で儀式を行っている。「巨人を殺す」ために。クラスメイトからはバカにされイジメも受ける。だけど彼女はどうしても巨人を殺したい。巨人の正体を知ったとき、ひたすらはげしく胸を打つアメリカの少女マンガ。

書店ナビ 本書は2008年にアメリカで発表されて以来、6カ国語に翻訳されて大ヒット。アイズナー賞・イーグル賞にノミネートされ、外務省主催の第5回国際漫画賞優秀賞も受賞しました。

マルチリンガルイラストレーター、ケン・ニイムラ氏は、日本でもその活躍に注目が集まっている。

島崎 僕は少年マンガを読まずに育ち、日本のマンガ文化にあまり影響を受けていない分、アメリカの横書きコミックにも抵抗感がありませんでした。それで本書との相性がよかったのかもしれません。 アメリカン・コミックはフキダシの中の文字量が多いですし、コミックというよりは小説を読むような感覚。密度の濃い読み切りです。 物語のポイントは、なぜバーバラが家の2階をおそれるのか、彼女がいう「巨人」の正体とは?それを知ってからまた読み返すとぐっときます。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

海辺の王国 ロバート・ウェストール  徳間書店 第二次世界大戦さなか、ドイツ軍の空襲により家族を失った少年ハリーは、海岸線を歩いて旅に出る。心細い道中で、犬を相棒にしたり、不思議な人や冷たい人と出会ったり別れたり。そうしてハリーが終点で見たものは…。宮崎駿も愛する、児童文学の巨匠の代表作。

書店ナビ ロバート・ウェストール氏は本書で栄誉あるガーディアン賞を受賞しました。
島崎 海外のコワイ物語を読んで勉強したくて、ウェストールが書いた傑作「かかし」を読んだところ、確かにその衝撃的なコワさに魅せられまして。もうちょっと読んでみようかなと手に取ったのが、この本です。 ハリーの道中には、少年文学にはあまり出てきてほしくない悪い人も出てきます。また、いい人さえも心に暗部を抱えているという真の人間描写に向き合っている。作者が、物語に強い信念を持って書いているのが伝わってきます。 主人公の描写についても、大人が思い込んでいる子ども像、すなわち"未熟な人格"ではなく、自分なりの行動理由を持っている一人格として書いている。それはウェストールが、心の底から子どもを信頼しているからなんだと思います。 結末まで読んだ自分としては、ハリーの行く末が気になります。読んだ人と語り合いたいので、僕が教えている専門学校でも学生にすすめています。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

23分間の奇跡  ジェームズ・クラベル  集英社 その日、新しい先生が来た。彼らの国は降参したから、別の国から先生がやって来たのだ。新しい先生は授業をはじめる。だけどジョニーは立ち向かう。新しい先生のウソを見抜く。それでも先生は、たくみにみんなの心を変えていく。そうして、23分後に…。

島崎 テレビ番組「世にも奇妙な物語」でも、この原作を使った回が1991年に放送されました。原作は短編ならではのキレ味で物語が進み、最後の一行にたどりついた瞬間にゾッとします。 僕自身、専門学校の講師として教育業界の末席にいるので、この本を読んだあとは襟を正したくなる思いになりました。 日本を取り巻く政治経済情勢が非常に不安定な今こそ、大人が読むべき一冊。読後いい意味で、今までと同じではいられなくなります。

さすがシナリオライターでもある島崎さん。各本のあらすじもお話し上手で、聞いてるこちらが「それでそれで?」と前のめりになってしまう。

夜食 眠れぬ夜に食べる愉楽

はてしない物語 ミヒャエル・エンデ  岩波書店 いじめられっこのバスチアンは、本屋で出会った不思議な本『はてしない物語』を読みはじめ、しだいに物語の中へ"入りこんでいく"。読書とは物語の世界を旅することだとわからせてくれる古典的名作。食べ応えのある長編だけど、眠れる夜に少しずつ読んでも楽しいはず。  

島崎 もうすっかりボロボロになってしまいましたが、はじめて読んだのは小学5年生のとき。実は本をちゃんと読もうと思って、最初に手に取ったのが「はてしない物語」だったので、僕の読書人生は1冊目にして方向性が決まったようなものでした。

奥付を見ると1982年9月の6刷(初版はその3カ月前の6月)。見返しも子ども心をとらえる美しさにあふれている。

赤い文字は現実世界、緑の文字はバスチアンが入りこむ本の世界。あれれ?島崎さんの「ぐるりと」も縦書きが現実世界で、横書きが…「はい、影響受けまくりです(笑)」

島崎 「ぐるりと」を執筆中にあらためて「はてしない物語」をがっつり読みこむと、大人になったからこそ気づく細部の面白さや実験的な取り組みに感嘆するばかり。 「昔読んだ」という方にも読み返してほしく、ちょっとずつ読み進める《夜食》としてご紹介させてもらいました。

ごちそうさまトーク 本の中から出たとき、少年少女は成長する

書店ナビ フルコースを振り返ってみて、いかがですか?
島崎 やっぱり自分はストーリーが好き。面白いストーリーが読みたいし、書きたいんだなと再確認しました。 「本の世界に入る」とは比喩的にいいますが、「はてしない物語」も自分の「ぐるりと」も文字どおり、主人公が"本の中"に入っていけるのは、ファンタジーだからできること。書いていても、とても楽しいです。 そうした異世界やいつもと違った状況下で、彼・彼女たちが難題に立ち向かい、せいいっぱいがんばってくれる姿が、僕も含めた読者の心を揺さぶるのだと思います。 「ぐるりと」も偉大な傑作たちのように長く読み継がれていったら、うれしいです。

取材場所は「ぐるりと」出版記念パーティーも行った「サンドヰッチと季節のスープ ちどり」さんにご協力いただきました。 http://chidori.cafe/

書店ナビ 物語の少年少女たちと一緒に大人読者も成長していける、ジュブナイル小説の輝きがまぶしいフルコース、ごちそうさまでした!
●島崎町(しまざきまち)さん  1977年札幌出身。札幌学院大学卒業後シナリオを独学で学び、島崎友樹の名でシナリオライターとして活動。「札幌デジタル映画祭1999」最優秀賞、「2002函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞短編部門」グランプリ。 脚本を書いた短編映画『討ち入りだョ!全員集合』(2005年)は国内外で多数受賞。STV制作の連続ドラマ『桃山おにぎり店』(2008年)は「国際ドラマフェスティバル in Tokyo 2009 ローカルドラマ賞」を受賞。 2012年、短編『学校の12の怖い話』(長崎出版)で作家デビューし、2017年5月に書き下ろした長編第1作「ぐるりと」が好評発売中。ヒューマンアカデミー札幌校ゲームカレッジ講師。 島崎町『ぐるりと』のブログ
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