[本のある空間紹介]
地域貢献の志に守られて格好の物件が見つかりました!
ただ今改築中、札幌のシェア型書店「ぷらっとBOOK」
[2024.9.17]
札幌市中央区に誕生予定のシェア型書店。改装前の現場を訪ねた。
「糸島の顔がみえる本屋さん」を訪ねて札幌開業を決意
「自分が選書した本を販売したい」という希望者は書店オーナーまたは管理者が用意した書棚の一角を借り、オーナー側はその賃料等でハコとしての書店の運営を担っていく。 今、各地で盛り上がりを見せつつある「シェア型書店」の仕組みである。
東京・吉祥寺の中西功さんが2019年7月に始めた「ブックマンション」を皮切りに、2021年9月に開店した福岡県糸島市前原(まえばる)商店街の「糸島の顔がみえる本屋さん」(通称「糸かお」)や2024年7月に京都に誕生したばかりの「一乗寺BOOK APARTMENT」など、シェア型書店の先行事例は本州にいくつか存在する。
2024年4月27日、神田神保町に作家の今村翔吾さんがオープンした「ほんまる」が大きな話題を呼んだことも、まだ記憶に新しいのではないだろうか。
一方、札幌市内で書棚レンタルの導入例といえば、北18条のSeesaw Booksが知られている。 「みんなでつくる、みんなの書店」をコンセプトに掲げる同店らしく、2021年10月のオープン以来継続して棚オーナーを募っている。
書店ナビライターが2023年に借りていたSeesaw Booksの棚(現在契約は終了しています)
そしてついに2024年9月、おそらく北海道でも初めてとなる100棚以上の規模のシェア型書店ができるという朗報を聞きつけた。 企画者の星野恵さんに、本格的な施工が入る前の物件でお話をうかがった。
「シェア型書店にぴったりの物件がありますよ!」
場所は札幌市中央区の南4条東3丁目19番地。最寄駅「地下鉄バスセンター前駅」から徒歩7分の好立地!(2024年9月2日撮影)
「子どもに関わるすべての人が相互協力し、子育てに優しい社会を目指す」一般社団法人相互支援団体かえりんの代表を務める星野さんは、福岡県出身。 実家に帰省したおりに前述の「糸かお」を訪れ、「棚の前に立つと棚オーナー一人一人の人柄が伝わってきた」体験に突き動かされ、札幌でもシェア型書店開店の準備を進めてきた。
「今あちこちで世代の分断や気づまりするような子育ての話題が聞こえてきますが、きっと"その世代のことを知らないから、許容できないんじゃないか"。そう考えると、本は赤ちゃんから高齢者まで全ての世代を横断できる唯一無二のツールです。 子どもがマイノリティーになっていく時代の流れを考えると、今だからこそ本で多世代交流を図りたい。また他所から移住してきた人にも、ずっとそこに住んでいる人たちにも開かれた場所だと思ってもらえるような本屋にしていきたいと思っています」
店名は「ぷらっとBOOK」に決まり、すでに仲間が集うFacebookのグループもある。 だが肝心の物件が見つからず、頭を悩ませていた星野さんのもとに「シェア型書店にぴったりの物件がありますよ!」と不動産会社から連絡が来たのは、2023年11月のことだった。
「聞けば、オーナーさんが昨年亡くなったお父様から受け継いだ建物なんですが、生前お父様が地域貢献に熱心だったこともあり、"地域に貢献してくれるような団体あるいは個人であれば貸したい"というご意向を受けて、仲介者の方が私に声をかけてくださったそうなんです」
建物からわずか3分もかからない場所には新渡戸稲造記念公園があり、ここにはかつて札幌農学校(北海道大学の前身)の教授であった新渡戸稲造博士が1894(明治27)年に貧窮する家の子どもたちや晩学者のために開設した札幌遠友夜学校があったという。
伝記作家の蝦名賢造が残した大著『札幌農学校』(「札幌農学校」復刻刊行会)は、まるまる1章が札幌遠友夜学校について割かれており、以下のような記述がある。(以下、引用は同書から。可読性を考慮し、書店ナビが適宜改行した)
設立当初の遠友夜学校は学校といっても小さな民家にすぎなかった。付近の子供たちを集めて、週に2回暗いランプのもとで破れ畳に座らせて、希望する学科を教える寺子屋形式のものであった。
その後、授業は毎晩行われるようになり、しかも日曜の夜は新渡戸自身が修養講座を受け持つようになった。その当時は、国民教育といっても児童の不識学者が多く、小学校の経費は区町村のまかなうところで、国庫の援助はなく、授業料も高かった。また一般民衆の生活水準は低く、(中略)授業料も徴収せず教科書も無料配布するこの夜学校には、たちまち多数の生徒が集まり熱心に学ぶようになった。
(第9章 札幌遠友夜学校 P270より)
脈々と流れる修養の精神が令和のシェア型書店に結実
もうお気づきかもしれないが、星野さんへの打診があった物件の故オーナーは、この札幌遠友夜学校に通っていたことがあるのだという。
『札幌農学校』を読むと、札幌遠友夜学校は札幌農学校の教員や学生たちが無償で務めた〈先生〉に引けを取らないくらい〈生徒たち〉の意欲も非常に高く、遠足や月見会、討論会などを開いては交流を深めていた。
それになんといっても札幌遠友夜学校では単なる知識の詰め込みではなく、人格形成を重んじる「修養」の精神がすべての学びを貫いていた。
物件の持ち主であった故人が2階をカルチャーセンターにしていたのも、地域のために役立ちたいという札幌遠友夜学校出身者だからこその思いがあったに違いない。
「もし札幌にこの遠友夜学校の一施設がなかったならば、当時無学のままに一生を終わってしまったであろう、数千の人材を育成しうる機会は永久にあたえられなかったであろう。」(P285)
そんな学びの恩が時代をめぐっていま、地域に開かれた本屋を始めようとしている星野さんのもとに届いたことに思わず運命的なものを感じてしまうのは、本屋好きの深読みだろうか。
星野さん自身も「こんな貴重なルーツを持つ建物と出会えたことが奇跡のよう。オーナーご家族の思いをうかがって、シェア型書店にこれ以上ふさわしい場所はないと確信しました」と、追い風を感じている。
2階建ての1階に星野さんの活動に賛同した生活クラブと共に入居し、そこを間借りする形で入居が決まっている。
創生イーストの新たなコミュニティ拠点としても期待
場所が決まると、開店準備は一気に動き出した。星野さんはシェア型書店運営のために友人と3人でワーカーズ·コレクティブを結成。あとはFacebookのグループを見ていると日々最新情報が更新され、新しい書店が生まれるまでの道のりを星野さんと一緒に追体験できそうだ。
気になる棚数を尋ねると「100弱くらい」。棚作り等に必要な資金はもうじきクラウドファンディングで支援を募り、そのリターンに「棚オーナー権」が含まれる。書店の完成は11月を目指しているという。
関心がある人はぜひFacebookのグループに入ってほしい。
シェア型書店経営のコツは運営する側にも棚オーナーにも極力、負荷をかけないオペレーションを見つけることにある。
「常駐するスタッフは考えていません。棚オーナーの方々に交代で店番をしていただき、店番がいる日のみを営業日とします。営業も午後1時からおそらく5時まで。街の駄菓子屋みたいに現金でやりとりすれば、カードに不慣れな方も安心してお店に立てると思います」
創成イーストと呼ばれるエリアの新たなコミュニティ拠点としても期待が膨らむシェア型書店「ぷらっとBOOK」。
今後の続報もどうぞお楽しみに!
気になる方は下記のFacebookグループをチェック!
札幌にぷらっとBOOK(シェア型本屋さん)を作りたい!
https://www.facebook.com/groups/806916836991905