第628回 BOOKニュース12月編
[2025.12.1]
[今週の一枚]

北海道立文学館で好評開催中の「おばけのマール」20年展。作者の中井令さんに作ってもらった「マールフルコース」https://www.syoten-navi.com/entry/2025/11/17/090000 も合わせてお楽しみください!
司書関係者50人以上が出席、北海道図書館研究会開催
「直木賞作家・門井慶喜さんによる地域資料調べ方教室」
2025年12月1日、北海道図書館研究会主催による「直木賞作家・門井慶喜さんによる地域資料調べ方教室」がかでる2・7で開催された。司書などの図書館関係者たち55名が参加した。
直木賞受賞作『銀河鉄道の父』や『家康、江戸を建てる』など特定の人物史や史実に基づいた歴史小説を得意とする門井さんにとって、図書館での史料集めは執筆に必要不可欠なプロセスだ。
2025年4月に出版された『札幌誕生』でも石狩市民図書館や川の博物館等を活用し、近代都市・札幌の誕生を描ききった。

- 札幌誕生
門井慶喜 河出書房新社 - すべてはここからはじまった――幕末から昭和のはじめにかけて、未知の土地・北海道にわたり、近代都市・札幌を作った、島義勇、内村鑑三、バチラー八重子、有島武郎、岡崎文吉の熱き物語!
第618回 新刊紹介 直木賞作家 門井慶喜『札幌誕生』インタビュー
図書館員の仕事の一つである調べもののサポートを「レファレンス」というが、今回のイベントは作家である門井さん流調査・情報収集術を聞かせてもらうというもの。参加者から事前に募った質問に門井さんが答えていく形で進んでいった。

「私の三大よく使う辞典は『国史大辞典』(吉川弘文館)、『日本国語大辞典〔第2版〕』(小学館)、そして古本屋で購入した『角川古語大辞典』(KADOKAWA)です」
門井さんが描きたいと思う人物や出来事を図書館で調べるときは、まず郷土史コーナーに行き、気になる本は片端から積み上げていくという。「それらを一度"自分にとって役立ちそうか"という視点で判別し、あとで書き込みすることも考えて手元に置きたい本は古本屋に発注します」
「面白いエピソードを探し出す視点を教えてほしい」という質問には、「そのエピソードが本人じゃなくても、あるいは現代においても通用する面白さがあるのか?ということを考えます」と回答。現在、日経ビジネスで連載中の小説『二宮損得』の主人公、二宮尊徳にまつわるエピソードを披露してくれた。
図書館以外の資料収集としては「明治以降の庶民の生活感を知りたいときは絵はがきを参照します」。質疑応答の時間になると、この回答に反応した参加者たちから図書館でも検索できる絵はがき情報などが寄せられた。

『札幌誕生』(河出書房新社)にも5人の主人公たちの意外なエピソードが多数収録されている。
50人を超える参加者の中には学校図書館関係者もおり、「子どもたちの言葉の力を育むには?」「小学生からのレファレンスに応じる際にこちらが留意しなければならないことは?」という問いからは教育現場の苦労が感じられた。 これらに対し門井さんは「語彙のやさしさや難しさは、文章の良し悪しとは関係がありません。文章は語彙ではなくて語と語の組み合わせで成り立っており、人は筋道で文意を理解している。子どもには少し難しいかなと思う語彙も、その筋道の中で安定していれば真意は伝わる」と語り、大人が先回りして平易な言葉を使う「子ども扱い」よりも「語の組み合わせ」をより意識してみては、と呼びかけた。

「自分が好きな作家の文章、好きな場面を書き写してみると、黙読ではわからないところが見えてきて勉強になります」
こうした資料収集や図書館活用に特化した作家の視点を聞くと、私たち読者が作品に向き合う気持ちもまた深まっていく。門井さんがいつか再び北海道に関する人物を取り上げてくれることを楽しみに待ちたい。
[新刊紹介]中西出版社長が惚れこみ2作目を出版
松本浦作品集『昭和100年 忘れてきた街』
門井さんが庶民の生活を知る貴重な資料として「絵はがき」をあげていたように、名所旧跡以外の場所や民家を写した絵や写真は時が経つほどに貴重な時代の語り部としての価値が高まってくる。
札幌の中西出版の林下英二社長が「在野の人」と評したスケッチ画家松本浦さんもその手を黙々と動かし続ける一人である。2025年、すなわち「昭和100」年の節目に2作目の作品集が出版された。

- 昭和100年 忘れてきた街 松本浦作品集
松本浦 中西出版 - 記憶の中の輪郭と、スケッチブックの線と色彩。あの頃気付かぬままに取り零してきた忘れ物を綴った画集。圧巻の巻末付録もぜひご自宅でじっくりとご鑑賞ください。
2020年に出版された1作目『路地裏探索 道草画報』は松本さんの絵に惚れ込んだ版元の林下社長からの声かけで実現。2作目も、と再び発破をかけられ、「前回で"一生に一度"のことだと思ったら二度もあるとは」と本人も驚く間に出版が決定した。
だが掲載されている風景は10年以上におよぶ地道なスケッチの歳月があるからこそ遺すことができた「忘れ物」ばかりである。「長野ワイシャツ」(2008年7月)や「銀泉」(2015年8月)、「坂本直行邸」(2021年4月)、「ひょうたん横丁」(2024年3月)など「わかる人にはわかる」光景が切なく胸に迫ってくる。

映写技師でもある松本さん(画像右)。直木賞作家桜木紫乃さんの著書『ふたりぐらし』(元映写技師が主人公)執筆に協力した縁で本作の帯の推薦文を桜木さんが書いてくれた。
スケッチの対象は「札幌の街」「石狩と鉄道と港の北海道」の道内に加えて、「飛行機に乗って」描きに行った東京や姫路、北九州もカバー。今年の年末年始、昭和を知る親族が待つ実家へのお土産にもよさそうだ。
かつて、どの風景にも在った人の呼吸と体温が、頁をめくるたびに立ちのぼってくる。 誰かの数えきれない思い出に、そっと触れるような作品集でした。
直木賞作家 桜木紫乃