おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第293回 No Maps 第11回札幌国際短編映画祭 スタッフ 本間 貴士さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が 腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.65 No Maps 第11回札幌国際短編映画祭 スタッフ 本間 貴士さん

取材は映画祭の事務局があるインタークロス・クリエイティブ・センターにご協力いただきました。

[本日のフルコース]
あなたの部屋にもきっとある? 「どうしても捨てられない積ん読本」フルコース

[2016.10.3]

書店ナビ "積ん読本"とは、買ってはみたものの数ページ読んだあと、なぜか進まず積んだままになっている本のこと。その積ん読本を取り上げた今回の選者は札幌在住、映画やアートに詳しい本間貴史さんです。 10月10日から始まる、「映画」「音楽」「インタラクティブ」の3分野が融合する国際コンベンション「No Maps」のなかでも、第11回札幌国際短編映画祭のスタッフとして、ただいま準備に大忙し!…のところを映画祭PRのために体を張ってご協力いただきました。
本間 札幌国際短編映画祭は今年から「No Maps」の1コンテンツとして新たな展開を迎え、ジャズのマイルス・ディヴィスやクラシック音楽をテーマにした長編映画なども上映します。 そのほかのプログラムも随時公式サイトで発表しています。世界各国の短編映画とあわせて気軽にお楽しみください。
●No Maps https://no-maps.jp/ ●札幌国際短編映画祭 主な会場は札幌プラザ2・5、シアターキノなど http://sapporoshortfest.jp/ [本日のフルコース]
あなたの部屋にもきっとある? 「どうしても捨てられない積ん読本」フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

メディアラボ―「メディアの未来」を創造する超・頭脳集団の挑戦 スチュアート・ブランド  福武書店 1987年に出版された『The Media Lab.』の日本語訳版。MITメディアラボの設立時(1979年)、資金の調達先は3つの産業グループと決められた。その3つとはパソコン産業、情報産業、そして日本。伝説の『ホール・アース・カタログ』編集発行人、スチュアート・ブランドによるMITレポート。

書店ナビ MITメディアラボとは、米国マサチューセッツ工科大学 (MIT) 内に設立された研究所のこと。 自由な発想のもと、テクノロジーと文化を結ぶ研究が進められ、いまも世界的な研究者たちが集まっています。
本間 この本を書いたスチュアート・ブランドが1960年代後半に創刊した雑誌『ホールアース・カタログ』(日本では『全都市カタログ』(宝島社)で発行)は、ベトナム戦争中のヒッピーカルチャーを背景に当時の若者に大きな影響を与えた総合誌でした。 2011年10月5日に亡くなったスティーブ・ジョブズも同誌の愛読者で、最終号の裏表紙に掲載されたメッセージ"Stay hungry.Stay foolish"を、2005年にスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチで引用した事でも有名です。 ジョブズをも魅了した雑誌の作り手が知の最先端であるMITラボの様子を魅力ある文章で紹介しています。一度最後まで読み通しましたがもう1回読み返したくて”積ん読本”フルコースに入れました。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

建築のイコノグラフィーとエレクトロニクス  ロバート・ヴェンチューリ  鹿島出版会 20世紀後半を生き抜いた建築家ロバート・ヴェンチューリの生き様を、彼がこれまで行った講演や雑誌の原稿等から読み解く。

書店ナビ アメリカの大学で建築デザインを学んだ本間さん、ポストモダンの建築家として知られるヴェンチューリがお好きだったんですか? 
本間 作品としてはオランダ人建築家のレム・コールハースやアメリカ人建築家のルイス・I・カーンのほうが好きなんですが、ヴェンチューリは本書で書かれているような仕事に対する真摯な姿勢に敬服しています。 建築を知らない人には少し難しいかもしれませんが、スピーチやエッセイの集積なのでどこからでも読めるところが魅力。 僕も全部は読み切っていませんが時折ぱらぱらめくったりして、いつまでもそばに置いておきたい一冊です。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

推理する医学 バートン・ルーチェ  西村書店 殺虫剤も農薬もない車の中で少年が有機リン酸中毒に…数々の奇妙な謎を医学的に解明してゆく推理小説タッチのドキュメンタリー。

本間 昭和60年に出た本ですが、確かそのころ司法解剖を扱ったTVドラマがあって、こういう医学ミステリー本に興味があったのかも。 著者は医学ジャーナリストで、日常的な疾患や食中毒などメディアで話題になった病因の"犯人探し"をする新聞連載をまとめた本です。 たとえば、紀元前の時代から鎮痛効果がある薬草が発見されており、そこから医学が発展してアスピリンが開発されたけれど、唯一の難点が胃荒れを引き起こしやすいこととか…僕はこの本を読んでからバファリン派になりました(笑)。 日本語訳がこなれていないところもあってどうしても最後までたどりつけないんですが、でもいつかは、と思っています。

札幌国際短編映画祭の運営に関わって16年目。海外ゲストの通訳としても頼りにされている。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

メディアの権力 デイヴィッド・ハルバースタム  朝日新聞社 メディアはいかにして「第四の権力」となったのか。CBSテレビ、タイム誌、ワシントン・ポスト紙、LAタイムズ紙の四大メディアの勃興と発展、政治権力との癒着と葛藤を膨大な取材と卓越した筆力で描いたノンフィクション。

本間 全4巻で、4巻の残りあと少しまで読み終えています。内容は権力の街ワシントンを舞台にしたメディアと政治家たちのパワーゲーム。 アメリカ大統領を辞任にまで追い込んだウォーターゲート事件を暴いた正義の新聞社もあれば、編集長が変わったと同時に記者渾身の告発記事を握りつぶすブラックメディアもある。とにかくダイナミックで読むほうも疲れますが、それでも手がとまらないほど面白い! 旅行に行くときはいつも持ち歩いてコツコツと読み進めてきました。
書店ナビ 複数名いる日本語訳者のなかにジャーナリストの故・筑紫哲也さんがいるところにも注目ですね。
本間 同じ著者の『ベスト&ブライスト』もこれが終わったら読もうと思って買っています。

アメリカの権力の深部に迫るデイヴィッド・ハルバースタム作品がお気に入り。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

森と氷河と鯨―ワタリガラスの伝説を求めて 星野道夫  世界文化社 主に北極圏を撮り続けてきた著者が遺した最後の物語。シベリアにおける日誌を収録。

書店ナビ 今年没後20年を迎えた動物写真家の星野道夫さん。特別展や雑誌の特集などが組まれ、星野さんを知らない世代からも注目を集めています。
本間 読みやすい写真エッセイ集なのでこれだけは最後まで読みました。 映画『地球交響曲(ガイアシンフォニー)』の関係者の来道時に少しご一緒させてもらったことがあり、その前後に手にした本です。 シベリアやアラスカで野生動物の写真を撮るために一人でキャンプをしたり、という星野さんの男っぽい生き方にはやはり憧れを感じます。

ごちそうさまトーク 「No Map」積ん読本?

書店ナビ 本間さんの積ん読本、なにか共通するキーワードを見つけられるかと思ったんですが、[工学&文化/建築/医学/メディア/シベリア]とあまりにも幅が広く、本間さんの頭の中自体が特定のジャンルに偏らない「No Map」のような…。 ただひとつだけわかったことは、"一冊も小説がない"ですね。
本間 そうなんです、フィクションはどうも「つきあわされている感」があってちょっと苦手。あ、でも短編映画は別ですよ(笑)。 フィクションやノンフィクションを問わず、短い時間だからこそさまざまなアイデアを試せるショートフィルムは、非常にチャレンジングなメディアだと思います。 まだ見たことがないという方もきっと楽しめる7日間が10月10日から始まりますので、皆さんを会場でお待ちしています!
書店ナビ 開催直前のお忙しいときにご協力いただいた積ん読本フルコース、ごちそうさまでした!
本間貴史さん 1966年札幌市生まれ。国内外のアーティストを招き、滞在中の活動を支援するNPO法人S-AIR理事。2007年から札幌国際短編映画祭の事務局を務め、今年も映画祭の中心スタッフとして奔走中。 ●No Maps https://no-maps.jp/ ●札幌国際短編映画祭 主な会場は札幌プラザ2・5、シアターキノなど http://sapporoshortfest.jp/
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