5冊で「いただきます!」フルコース本
書店員が腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ
Vol.3 六畳書房 店番 武藤 拓也さん
武藤さんが手にしているのは、開店祝いに札幌のくすみ書房のスタッフさんからいただいたお手製のブックスタンド。
[本日のフルコース] 町議になったワタシが考えた まちづくりが気になる人のための本[2015.6.1]
書店ナビ | 2014年11月25日、人口1万3000人の浦河町に町民出資型の本屋さん「六畳書房」がオープンし、話題になりました。営業時間は毎週火曜(2015年5月から月曜に変更)の一日だけ。それでも毎週2、3万円の売上を積み重ね、“在り続ける”ことを自らに課しています。 今回は「六畳書房」の発起人であり店番でもある武藤拓也さんにお話をうかがいました。実はこの武藤さん、2015年春に行われた町議会議員選挙で浦河町議会議員に当選されました。武藤さん、おめでとうございます。 |
---|---|
武藤 | ありがとうございます。六畳書房の店番はこれからも続けるので、地元の皆さんには今までどおり気軽に来ていただきたいです。 |
書店ナビ | 今回は「まちづくり」をキーワードにフルコースを考えていただきましたが、フルコースに行く前にまだ知らない人のために「六畳書房」の自己紹介をお願いします。 |
くすみ書房“本屋のオヤジ”の7つの助言からスタート
武藤 | 武藤 六畳書房の誕生には札幌のくすみ書房さんが深く関係しています。2013年6月のことです。くすみ書房さんが閉店の危機にあると聞きつけて、『マガジン航』というサイトに「くすみ書房閉店の危機とこれからの『町の本屋』」という記事を書かせてもらいました。 その翌月から僕は総務省の「地域おこし協力隊」として浦河に赴任し、移住促進やふるさとテレワークなどの仕事を通じて浦河のまちづくりに参加していました。一方、くすみ書房さんはクラウドファンディングで店の再起をかけたプロジェクトを立ち上げ、僕が周りに声をかけて皆でその中の10万円コース、店長の久住邦晴さんに出張講演をしてもらうコースに申し込んだんです。2014年2月に浦河に来ていただきました。 |
---|---|
書店ナビ | その当時、浦河にはコンビニ以外に新刊書籍を扱う書店がない状況だったとうかがいました(2015年5月現在BOOK・NET・ONE浦河店で一部新刊を発売中)。 |
武藤 | ええ、そんな状況で久住さんに「浦河に本屋さんが作れますか?」というテーマで講演をお願いしたんです。そこで久住さんが考えてくれたのが、次の7つのアドバイスでした。 1.利益を目標とせずに、在り続けることを目指す。 2.借金はせずに、すべて現金払いで。 3.開店資金は町民の寄付で。 4.家賃がゼロの場所を目指す。 5.小さくスタートし成長する本屋を作る。 6.人が集まるコミュニティ本屋を作る。 7.小さくても浦河の子どもたちに自慢できる本屋を作る。 |
書店ナビ | 閉店危機を乗り越えてこられた久住さんだからこそ言える“等身大の本屋づくり”の知恵が凝縮されていますね。 |
武藤 | いま浦河に住んでいる千人近くの小中学生たちが「本屋のないまちで育つ」状況をなんとしても食い止めたいと願う久住さんの熱意を感じました。 |
六畳書房は縁側のある民家で営業中。 毎週月曜13:00〜22:00と、夜遅くまで開けている。
店名どおり、スペースは畳六畳分。ぎしぎしと廊下が鳴るのもご愛嬌。
一口店長方式でオープン!夜7時以降が書き入れどき
武藤 | 久住さんからこの7つのアドバイスを聞いたとき、地元の皆さんの盛り上がりが、まあ、すごかったんです。皆さん口々に「これなら浦河に本屋さんができるんじゃない?武藤さんがやったら?やりなさいよ」(笑)と。一口1万円・5千円・2千円の3枠から申し込める「一口店長」方式で呼びかけたところ、開店資金の約30万円が一気に集まり、現実的に本の仕入れができるようになりました。 |
---|---|
書店ナビ | この民家はもともと武藤さんが多目的コミュニティスペース「かぜて」として借りていた場所だったとか。知恵と意欲と場所とタイミング、すべてが揃っての「六畳書房」2014年11月オープンだったんですね。 |
武藤 | 棚もすべて寄贈品でお金はかけず、営業日は今は月曜ですが、今年4月までは毎週火曜の週1日。午後1時から夜10時までの営業で、夜7時過ぎになると会社帰りの方々で混み合います。 オープンから半年が経ちましたが、営業日数にするとまだ30日(笑)。開店当初はメディアで取り上げられたこともあり、一日の売上が4〜5万円。今はその半分くらいかな。売上が細くとも「在り続ける」ことを目標とし、浦河に必要とされる存在として定着していきたいです。 |
現在「一口店長」は一口5千円。 店頭に自分のおすすめ本とポップを置くことができる。
本の仕入れはネット等を使って自力で工面しているが、 くすみ書房に一部委託することで新刊や話題本も手に入る。
入ってすぐの場所に浦河特集の棚。
「凄い技術を駆使して染め上げております!」気になる。
本の並びは武藤さんの編集力が試されるところ。
「店長は出資してくださる皆さんで、 僕はそれをお預かりしている身。だから“店番”なんです」
畳に寝そべりながら読めるところに児童書や絵本を置いた。 浦河の子育てにも一役買っている。
ロングセラーが売れる店、「ありがとう」に応えたい
書店ナビ | 六畳書房さん、売れ筋の傾向はありますか? |
---|---|
武藤 | 一口店長のおすすめ本を見てもわかるとおり、いわゆる著名な作者が書いたベストセラーよりも、“知る人ぞ知る”のロングセラーが人気です。カート・ヴォネガットの『国のない男』とか、ミシマ社の『病気にならないための時間医学』とか。一口店長のおすすめ本が売れたらまた補充して、本の売上は全額、次の仕入れにまわしています。何度も来てくださるお客様のために、棚をどうフレッシュにしていくかが今後の課題です。 |
書店ナビ | 思い出深いエピソードをひとつ教えてください。 |
武藤 | 取材でよくお話していますが、開店当日に「オープンありがとう」という言葉をいただいたことです。「おめでとう」じゃなくて「ありがとう」。その気持ちにこれからも応え続けていきたいです。 |
書店ナビ | お話ありがとうございました。 それではここから、まちづくりをテーマにした武藤さんのフルコースを一気に皆様にご紹介いたします! |
前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書
希望の国のエクソダス 村上龍 文藝春秋 2000年に出版された小説ですが、今読んでも色褪せない。それは「中学生が自分たちでまちをつくる」というわくわくする物語を通じて、現在の日本の諸問題が浮かび上がっているからだと思います。ちょっと突飛な設定のお話ですが、まずはこちらから。
スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本
地域社会圏主義 山本理顕 LIXIL出版 「まちづくり」の話題になるとよく出てくる建築の話。専門書は難しすぎてわからないことも多いと思いますが、本書は単なるハードを超えた新しい建築(住宅)のあり方を提示してくれます。「こんな生活楽しそうだな」と素直に感じられる一冊です。
魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく
限界集落の真実―過疎の村は消えるか? 山下祐介 筑摩書房 どうしても「都市」の言葉で語られがちな「田舎」。著者の山下祐介さんはいつも「田舎」からの目線で誠実に語ろうとしているように思います。いつも「効率」で片付けられてしまいがちな「田舎」ですが、本書を通じて別の視点で見つめることができるのではないでしょうか。
肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本
発展する地域 衰退する地域: 地域が自立するための経済学 ジェイン・ジェイコブズ 筑摩書房 公共事業や大規模資本の誘致ではなく、まずは自分たちの手でものを生産して自立し、他所と交易するという、今では前提になってきている地域経済の考え方を述べている名著。かなり厚い本ですが、そこまで学術的ではなく比較的読みやすいと思いますのでぜひ。
デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで
美しき日本の残像 アレックス・カー 朝日新聞出版 「まちづくり」の前に、まず自分たち自身を知ることも大事です。アメリカ人という“他者”である著者だからこその視点も踏まえながら、あらためて「では自分たちはどうするか?」と自問するきっかけになると思います。最後のデザートに、著者の感じた日本の美しさをたっぷりとご賞味ください。
ごちそうさまトーク 理想のまちづくりに向かって
書店ナビ | 取材当日は武藤さんに六畳書房の道のりをじっくりとうかがい、後日あらためてフルコースの回答シートを送っていただきました。地元の皆さんとともに実現する、理想のまちづくりに向かって希望の味がするフルコース、ごちそうさまでした! |
---|
「僕が忙しいときはお隣りの方が手伝ってくださったり、 皆さんに助けていただいている六畳書房です」
売るよりも 本でつながる 楽しさを
本スペースの隣には武藤さんがいる和室があり、たまに「よろず寄り合い所」と化すことも。本を媒介に町議さんとも気さくにつながることができる。六畳書房の魅力はそこ、なのかも。