5冊で「いただきます!」フルコース本
書店員が腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ
Vol.22 ブックスメディアン明野店 長内 望さん
5冊とも私物を持ってきてくれた長内さん。「家の本棚ですか?もう大変なことに(笑)。そろそろまた整理しないと」
[本日のフルコース] 涙の数も、涙のワケもひとつじゃない。 泣けてくる読み切り少女マンガフルコース[2015.10.26]
書店ナビ | 2015年春から始めたフルコース企画、「いつ、コミックだけでつくってくる人が出てくるんだろう」と待っていたら、ついに登場しました。苫小牧の地元書店ブックスメディアンの長内さんです。 しかもただの「泣ける少女マンガ」じゃなく「読み切り」!これはうれしい。どんなに名作でも「最新刊は10何巻です」と言われるとちょっとハードルがあがりますが、1冊完結の読み切りなら買いやすくていいですね。 |
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長内 | 連載モノには連載モノの良さがありますが、雑誌で気になっていた短編が短編集に入ればもう一度読むことができますし、1話にまるごと1冊を使うぜいたくなところも読み切りの魅力だと思います。 いろいろ迷いましたが、私の中で何度読んでも「泣けてくる」5冊を考えてみました。 |
店内の一画には長内さんたちが考える月替わりコーナを展開。丁寧な手書きポップが添えられている。
[本日のフルコース] 涙の数も、涙のワケもひとつじゃない。 泣けてくる読み切り少女マンガフルコース前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書
手紙 谷川史子 集英社 なりすましの文通から始まる、思わずほろりとくるやさしい物語。当たり前だと思っていた家族の愛情が実はかけがえのないものだったと気づかせてくれる1冊です。
長内 | 作者の谷川史子さんが好きで、新作が出るたびに買っています。タイトルにもなっている短編「手紙」は、主人公の女子大生が酔ったいきおいで、他人宛ての手紙に返事を出してしまうんですね。そこから見知らぬ相手との文通が始まって…。 主人公のように、親の干渉をちょっとうとましく感じ始めた世代の方々に読んでほしい読み切りです。 |
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書店ナビ取材班A | オトコの僕からすると、少女マンガイコール「恋愛モノ」だと思っていたので、そういう話があること自体にいますごく驚いています。 |
長内 | 谷川さんは確かに、こってりとした恋愛モノよりも家族や人とのつながりを描いたお話が多い作家さんです。絵もお話の雰囲気もやさしくて、心が温まって泣けてくる。「じんわりきて、ほろり」の涙かもしれません。 |
スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本
式の前日 穂積 小学館 物語の終盤、それまで読み手が思い込んでいた登場人物の関係性が一瞬でくつがえされるネタバレ厳禁本!何気ない日常の場面が「実はこういうことだったのか」と心にしみて、必ず2度読みしたくなる短編集。
長内 | これも短編集ですが、タイトルになった「式の前日」って実はこれくらいのすごく短いお話なんです(と言って、長内さんが指でつまんだページはわずか10数ページほど)。 |
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書店ナビ | わっ、超短編なんですね。「式の前日」という一見ベタなタイトルから「はいはい、結婚式を迎える2人のお話でしょ。ちょっとモメたりするけど結局は感動ウエディングなんでしょ」と勘ぐってしまいましたが、どうやら違うようですね。 |
長内 | 2番目に収録されている「あずさ2号で再会」という話にも、同じように読者を驚かせる仕掛けがあって…スミマセン、これ以上詳しくは(笑)。 でも最後まで読み終えたら必ず、すぐに頭から読み返したくなって、ひとつひとつのセリフの“本当の意味”がわかった瞬間にぐっとくる。30代40代の大人世代なら余計に「身に覚えのあるほろり」で泣けてきます(笑)。 |
「巻末には『式の前日』の後日談が収録されています。そういう描き下ろしもうれしいですよね」…と言いながら読み返す目がシンケンですよ、長内さん。
魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく
朝がまたくるから 羅川真里茂 白泉社 「罪」をテーマに描く3編を収録。特にオススメは、幼い双子と「お兄さん」の逃亡劇を描いた「冬霞」。児童虐待についても考えさせられる深い物語です。
書店ナビ | 大ヒット作『赤ちゃんと僕』や『しゃにむにGO』などで長年「花とゆめ」を中心に活躍してきた羅川真里茂さん。目が大きくて男女ともに愛らしい“ザ・少女マンガ”なタッチですが、実は結構重たいテーマに挑むファイターでもあります。 |
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長内 | 私も羅川さん独特のかわいい絵柄を思うと、「罪」がテーマの作品集だといってもそこまでリアルな世界観じゃないだろうなと軽く考えていたら違った、全然間違ってました。かなりのリアル感です(笑)。 ある家に押し入った若者がそこで双子と出会い、なぜかそのまま逃避行に…という話も最後まで読むと、実は会うべくして会った3人だったということがわかってくる。お子さんがいる方、子育てや教育に関心がある方はぜひ一度読んでみてください。被害者の心情を思うと熱い涙が止まりませんが、救いはあります。 |
肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本
私たちの幸せな時間 原作/孔 枝泳 翻訳/蓮池薫 漫画/佐原ミズ 新潮社 刑の執行を強く願う死刑囚の男と3度の自殺未遂をした女。「死」を願う2人の「幸せな時間」とは…。最後は号泣間違いなし!生きる強さを与えてくれる長編読み切りです。
書店ナビ | 映画にもなった韓国の「哀絶ラブストーリー」をコミカライズした全242ページ。設定からしてかなりヘビーですね。男と女、そして生と死の物語。 |
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長内 | 初めて読んだのは5、6年前でしたが、そのときは読み終えてから「(2人の間に)なにかもっと他の選択肢があったんじゃないだろうか」とすごく納得がいかなくて。 読み返すたびに割り切れない思いがこみあげてきたんですが、最近になってようやく「これがベストな結末だったのかもしれない」と思えるようになってきました。 主人公2人を見守る看守の井上さんというキャラクターがいて、この人がまたいいんです。いま思い出してもちょっと、ぐっときて…。 |
あやういところを耐えきった長内さん。「ふーー、あぶなかったです(笑)」
書店ナビ | お気持ち、わかります。コミックに限らず名作に「思い出し涙」は付き物ですよね。 |
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デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで
愛蔵版 蛍火の杜へ 緑川ゆき 白泉社 6歳の少女が迷いこんだ森で出会った不思議な少年との交流を描いた本編、プラス描き下ろしの特別編と、他の読み切り2作を収録。結末はせつないけれど、読後はスッキリ!
長内 | 『夏目友人帳』で知られる緑川さんの初期の作品で、2011年にアニメ化されるタイミングで愛蔵版が発売されました。 映像は40分強の短い作品でしたが、原作の世界観を忠実に再現していたと思います。 主人公の蛍が出会ったギンが「人間に触られると消えてしまう」という設定が、全編を通してせつなさを盛り上げます。 描き下ろしはギン目線の物語。読み終えると、前向きな涙がぽろっとこぼれそう。毎年、夏のおわりに読み返したくなります。 |
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ごちそうさまトーク 「!」のどんでん返しに心を躍らせて
書店ナビ | 5冊を振り返ってみて、気づいたことはありますか? |
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長内 | これはきっと私だけではないと思いますが、小さいころから少女マンガを読み続けていると、たいていは「こういう話かな?」と筋書きが読めてしまう(笑)。 今回の5冊はどれもその予想をいい意味でハズしてくれるどんでん返しの作品ばかり。「そうきたか」「やられたなぁ」という驚きも含めて「泣けてくる」のかなと思います。 |
書店ナビ | 漫画家さんと読者の終わりのない知恵比べなのかもしれませんね。涙で心が洗われる読み切り少女マンガのフルコース、ごちそうさまでした! |
人気の本 ブーム去りのち 入荷する
中小の書店に並ぶのはメディアの露出が下火になったころ…。そこから続々と届いても「もういい、もういいんです(涙)」と言いたくなってしまうのが現場の本音だろう。大手出版社が国民的な作家の新作を独占販売・配給する試みもあったが、その一石の波紋やいかに。
ブックスメディアン明野店
電話番号 | 0144-55-6636 |
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住所 | 苫小牧市明野新町6-28-16 |