5冊で「いただきます!」フルコース本
書店員や出版・書籍関係者が 腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ
Vol.52 北海道教育大学 岩見沢校 芸術スポーツビジネス専攻 スポーツマーケティング研究室 専任講師 曽田 雄志さん
[本日のフルコース・アラカルト編]札幌市中央区にある「ノルディーア北海道」オフィスでお話をうかがった。
[2016.6.20]
書店ナビ | 以前フルコース企画にご協力いただいた「のこたべ」編集長の平島美紀江さんからご紹介いただきました今回は元コンサドーレ札幌所属、現在は北海道教育大学岩見沢校の専任講師であり、「北海道からなでしこリーグ参入を目指す」女子サッカーチーム、ノルディーア北海道の球団代表を務める曽田雄志さんにご登場いただきました。 いつもの《ワンテーマで5冊を選ぶフルコース》とはちょっと趣向を変えて、曽田さんの読書ヒストリーをうかがってまいります。 |
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曽田 | 僕がサッカーを始めたのは小学4年生から。その頃は典型的な外で遊ぶ子で、本の思い出は江戸川乱歩の探偵シリーズくらい。「二十面相が不気味で恐かった」という記憶が残っている程度です。 中学に進んでも似たような感じで、本どころか映画やファッションとも縁遠い生活でした。いま思えば、好きなサッカー以外に趣味というものがなかったから。中学3年のときにJリーグができて、もちろん興奮しましたけど、「いつか自分もJリーグに!」とは全然思っていなかった。遠い世界のことのようでした。 そういう日々が、がらりと変わったのは札幌南高校に入ってから。いろんな趣味を持っている友達に出会えたことで音楽、ファッション、映画…スポーツ以外のカルチャーに関心を持つようになりました。 でも本はまだ、そうでもなかったかな。いま憶えているのは村上龍さんのデビュー作『限りなく透明に近いブルー』。もう読んでから大分経っていますが、読後の衝撃は鮮明に残っています。 主人公のリュウが性、暴力、ドラッグにまみれながら若さを打ち込める何ものかを見つけようとする。ジャンルとしては青春小説ですが、まったく泥くさくなくてどこか清潔感がある。スピーディーな文体もカッコよくて、同世代の自分たちに向けて発せられたメッセージを受け取ったように思えた本でした。 |
新装版 限りなく透明に近いブルー 村上龍 講談社 群像新人賞、芥川賞受賞の村上龍デビュー作。著者の原点であり、芥川賞選考会では評価がまっぷたつに割れた末の受賞も話題になった。
書店ナビ | 札幌南高校を卒業後、曽田さんはサッカーの強豪校である筑波大学に進学されました。 |
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曽田 | 自分が小さい頃からずっとサッカーをやってきたのは、やっぱり好きだったから。でも実は、小中高と日本代表になったことは一度もないんです。 それを考えると、自分の好きなものをとことん追求しないまま、この先の進路って決められるのかな?と疑問でしたし、他に将来の仕事としてイメージできるものが何もなかった。 それなら一度日本トップクラスのレベルを体験できれば、自分の立ち位置がわかり、その先にある何かが見えるかもしれない。そう思って入ったのが、筑波大学サッカー部でした。 |
書店ナビ | 部員が180人近くいて7軍まである名門サッカー部で、曽田さんは早々に1軍入り。この飛躍的な成長は何が原因だったと思いますか? |
曽田 | 自分のことなので恐縮ですが、サッカー選手に必要な三要素、技術と身体性と精神性のうち、あの頃の僕は"速く走る、高く飛ぶ、遠くに蹴る"といった身体性が高かったんです。 そうした強みを"自覚しながら活かす"術がわかるようになったんだと思います。どんなに速く走れても走り出すタイミングや場所をわかっていないと、チームメイトからは「おまえ、全然走ってないな」と言われてしまう。 そこをコーチたちの指導で引き出していただき、こちらも必死についていく毎日でした。 この頃、はじめての一人暮らしのさみしさもあって自然と本を読むようになり、谷崎潤一郎や三島由紀夫を読んでましたね。 特に三島由紀夫の『金閣寺』はインパクトがありました。主人公が金閣寺に病的な妄想を抱いていく姿に、ものの見方やイメージは人によって変わるものだということを学びました。 結局、物語が終わっても金閣寺は何も変わらずにあり続ける。難解な話なので全てが理解できたとは言いませんが、忘れられない一冊です。 |
金閣寺 三島由紀夫 新潮社 国宝・金閣寺焼失。放火犯人は寺の青年僧だった。31歳の三島が全青春の決算として告白体の名文に綴った不朽の傑作。海外でも高く評価されている。
書店ナビ | 大学を卒業したあとは、道民の皆さんがよくご存知の《コンサドーレ札幌の曽田選手=ミスターコンサドーレ》時代が9年間続きます。 現役時代はどんな本を読んでいましたか? |
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曽田 | 大学時代の友人たちの影響もあり、サッカー以外にも好きなことが一気に増えた20代、ヘンな話ですが、サッカー選手になってからいっそう本や映画、音楽、ファッション、建築とかも含めてカルチャーやアート全般に目が向くようになりました。 自分の引き出しが増えれば、「フランス映画のなかでもゴダールのこれが好き」と絞り込んで話せるようになる。自分が何を好きなのか、どういうものに心が動くのかをジャッジする感覚が磨かれた時代だったと思います。 映画はゴダールやカラックスが好きで、本はランボーやリルケの詩集も読みました。なんとなく自分とリンクすることばを拾うというか、探るような感覚で。 あと、『ドグラ・マグラ』や『家畜人ヤプー』も強烈な話だったので憶えてます。特に『ヤプー』は欲望の積み重ねが発する強大なエネルギーに圧倒されました。イタリアの映画監督パゾリーニの『ソドムの市』に通じるところがある。 もちろん社会的な善悪の判断は存在しますが、好きなことを突きつめたときのエネルギーはすごい。それは今も実感しています。 サッカー関連やメンタルを強くする本とかは読みませんでした。読んだことがありません(笑)。 |
リルケ詩集 リルケ 岩波書店 オーストリアの詩人リルケ(1875?1926)の初期から晩年にいたるまでの歩みを全貌できる一冊。特に『オルフォイスに寄せるソネット』は全篇収録。
家畜人ヤプー〈第1巻〉 沼正三 幻冬舎 日本人が「ヤプー」と呼ばれ、白人の家畜にされている二千年後の未来にさまよいんこんだ主人公たちの運命はーー。三島由紀夫、澁澤龍彦らが絶賛した「戦後最大の奇書」。
LLC「のこたべ」の平島美紀江さんとともに食育プログラム「アニマドーレ」の運営スタッフでもある曽田さん。