おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第280回 株式会社あるた出版 編集部 O.toneデスク 和田 哲さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が 腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.53 株式会社あるた出版 編集部 O.toneデスク 和田 哲さん

「ブラサトル」の愛称で、街歩き研究家としても活動中の和田さん。

[本日のフルコース]
ブラタモリにも出演!街歩き大好き編集者の 「札幌の歴史を語りたくなる本」フルコース

[2016.7.4]

書店ナビ 2015年11月に放送された「ブラタモリ札幌編」をご覧になった方は覚えていらっしゃるでしょうか、中央区にある千秋庵本店でタモさん一行と合流し、その後嬉々としてすすきのや市電にまつわる歴史を紹介していた丸顔の案内人を。 彼の正体は、"札幌のおやぢ"のための情報誌『O.tone』のデスクを務める和田哲さん。大の街歩き好きを仕事にも活かし、本誌に「古地図と歩く」というコーナーを連載しています。 今回のフルコースもこちらの期待通りのテーマでつくってくださいました。
和田 僕が街歩きに惹かれたのは5歳のころ。「ブラタモリ」でもご紹介した「東本願寺前の電車通りがどうして曲がっているのか(他はまっすぐなのに!)」という素朴な疑問に気づいてからでした。 近所のおじさんたちに聞いたところ、皆が「曲がっていることは知っている」けれど、肝心の「なぜか」は曖昧なまま。学校で教わる歴史とは異なり、実は身近にあった歴史の謎を解き明かす面白さに夢中になって今に至ります。

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[本日のフルコース]
ブラタモリにも出演!街歩き大好き編集者の 「札幌の歴史を語りたくなる本」フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

さっぽろ文庫1 「札幌地名考」  北海道新聞社 地名は歴史の入口です。札幌の地理歴史がギュッと詰まったこの1冊こそ、札幌通になる入門書だと思います。

書店ナビ 「さっぽろ文庫」は当時板垣政権だった札幌市が主導になって進めた一大出版事業。さっぽろにまつわるあらゆる事柄を全100巻に収録するという、全国でも類を見ない郷土史編纂プロジェクトだったのではないでしょうか。
和田 いま考えてもすごい事業ですよね。私も「札幌を語る本なら」と真っ先に思い浮かんで《前菜本》にしました。 しかもその記念すべき1巻目は、やはり地名のお話。地名がまちの成り立ちにいかに密接に関わっているかがわかります。 例えば北海道に入植当時、開拓使が札幌の山鼻地区に新たに市街地をつくろうとして、先住していた四十四戸の家を二十四軒、八軒、十二軒の3グループに分けて円山や琴似に移転させたんですね。 それで移転先の地区名がそのまま「二十四軒」「八軒」になり、「十二軒」はのちに秩父宮様、高松宮様が地元の荒井山でスキーを楽しまれたことを記念して、「宮の森」と改称しました。 このように地名はすべての入口。面白いですよ。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

さっぽろの昔話〈明治編 上・下〉 河野常吉  みやま書房 札幌の草創期を「体験」した方々の貴重な証言集。歴史書には載らないようなエピソードや何気ないひとことまで、そそられます。

和田 編者の河野常吉さんが、北海道開拓期を生き抜いた古老の方々に聞き取りをした昔話なので、正直"話半分"なところもありますが、それにしてもどの話も実にいきいきとしていて引き込まれます。 出てくる人物も偉人ばかりでなく、あの当時を生きたみんなが主役。 「(追分方面から)札幌へ初めて魚を売りに行きしは大島駒吉なり」なんて、他の歴史書であれば「誰ですかそれは?」という人のことまで細かく記載されています。
書店ナビ 「明治三年頃の魚はホッキ、テックイ、チカの三種なり」。テックイとは、ヒラメですか。何を食べてどうやって生きていたかまでが記されているんですね。
和田 北海道の都は当初、江別のはずが、誰かが千歳川と豊平川を間違って記録した結果、豊平川沿いの札幌に決まった、なんていう話も載っています。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

星霜1 北海道史 1868-1874 北海道新聞社 《前菜》だった「さっぽろの昔話」を踏まえた北海道の通史。ジャーナリスティックな視点でまとめられています。

書店ナビ もとは北海道新聞に長期連載された『北海道百年』という記事を同名の書籍にして上中下の3巻で刊行。それを改訂復刻した全6巻のシリーズ本です。
和田 明治初期の庶民の生活まですくいとった「さっぽろの昔話」と、公的な史料である「さっぽろ文庫」、ちょうど両者の間をつなぐような位置にある本だと思います。 もとが新聞記事なので「○○だと言われていたが、のちに…」と、きちんと裏付けをとって検証されているところも信頼性が高い史料です。 あ、でも、だからといってカタイ内容ばかりではありません。 明治初期は遊女がいる花街が栄えており、札幌の北隣、元村(もとむら)に一杯屋の女、"台鍋(だいなべ)"という女性がいたそうです。 「台鍋とは二度と拝めたご面相ではなかったためのアダ名だが、"女は愛嬌"ーー三人いた女のうち、人気は台鍋が一番だったと伝えられている。」 この台鍋さん、本名「おいし」さんは札幌の歴史で最初に記録されている女性なんだそうです。
書店ナビ タモさんが聞いたら喜びそうな話題ですね。

札幌オオドオリ大学や道新文化センターの講師、HBC『今日ドキッ』の出演他、街歩きの話題でひっぱりだこの和田さん。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

地図の中の札幌 堀淳一  亜璃西社 古い地形図を読み解く楽しさを教えてくれる一冊。大きく変化した街の中に残る「変わらないもの」に惹かれます。

書店ナビ お持ちいただいたのは和田さんの私物。著者の堀さんのサイン本ですね。「ブラタモリ札幌編」でも随分本書が参考にされたようで、協力クレジットに「亜璃西社」とありました。
和田 タモさんに限らず、歴史・地理好きはまちの歴史を知れば知るほど、地図が見たくなります。 本書は「あれからどう変わっていったのか」もしくは「変わっていないのか」を知る手がかりとなる新旧の地図をふんだんに掲載。著者の堀さんが所蔵されていた古地図のコレクション自体にも十分価値があると思います。 古地図からどんどん想像を膨らませていき、「もし札幌オリンピックが開かれていなかったら札幌のまちはどうなっていたのか」なんていう妄想地図を楽しんでいるコアな街歩き好きの方を知っています。

同じ場所の昔といま、脳内タイムスリップが楽しめる。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

札幌市電が走る街 今昔 札幌LRTの会 昭和30~40年代と現在の定点で比べた写真が満載。名所でもなんでもない「普通の場所」の変化に興味が尽きません。

書店ナビ 出版元である札幌LRTの会は1996年に発足した電車好きの市民団体。LRTは、Light Rail Transitの頭文字で、「近代的・高機能な路面電車/軌道交通システム」の意味。和田さんも会員ですか?
和田 恥ずかしながら幽霊会員ですが、一応籍を置かせてもらっています。僕が子どもの頃から電車はいつも身近にあり、初めて覚えた漢字は「出口」と「入口」でした。その市電のいま昔を比較する定点写真は一見の価値あり! 市電に興味がない方でも「昔はこうだったのね」とか「この建物がまだ残っている!」というように素直な視点で楽しめると思います。

ごちそうさまトーク "神格化"されない札幌の歴史

書店ナビ 最後に、あらためてうかがいます。和田さんにとって地元札幌の街歩きやその歴史を探る面白さとは?
和田 2つありまして、まずひとつめは日頃見慣れている風景や街並みが「実はすごいストーリーを持っていた!」ということに気づく面白さ。 そしてもうひとつは、札幌というまちの特性にあると思います。明治維新後の1869年に開拓使が札幌本府を置いてから、札幌は都市としてまだ150年。ゼロからの歴史を掘り起こすことができる"若いまち"です。 ということは、歴史上の人物や出来事がまだ神格化されておらず、"勘違いしていた"とか"とりあえず試してみた"などの人間らしいエピソードが色鮮やかに息づいている。その人間らしさに愛おしさを感じます。
書店ナビ なるほど。先人たちの息づかいを身近に感じる札幌の歴史本フルコース、ごちそうさまでした!
和田哲(わだ・さとる)さん 1972年札幌生まれ。札幌、東京の広告代理店を経て2010年にあるた出版に転職。学生時代は法学部新聞学科の「もの書き志望」。「遠回りしましたが、ようやく趣味と仕事が一致した40代です」
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