おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第401回 空のアトリエ 小菅真千子さん

Vol.140 空のアトリエ 小菅真千子さん

 

[本日のフルコース]
北海道の空知(そらち)で暮らすデザイナーの
頬をなでる「いい風が吹く」フルコース

[2018.11.12]

書店ナビ 広い北海道の中央部、空知(そらち)支庁にある人口1万7千人のまち、砂川市。
デザイナー夫妻の小菅謙三さん・真千子さんが暮らしています。
夫妻の屋号は「空のアトリエ」(命名理由はのちほど)。グラフィックデザインだけでなく、WEBデザインや写真撮影もできるとあって、地元企業や個人店、生産者の頼もしい相談相手となっています。

今回は旭川ミツイパブリッシングさんに続いて、"クリエイター夫妻"によるフルコースを2週にわたって掲載します。
まずはレディ・ファーストで、真千子さんの自己紹介からお話を聞かせてください。
●空のアトリエ

soranoatelier.com

小菅真千子
(以下、真千子)
私の生まれは山梨県ですが、3歳のときから砂川ぐらし。小学校高学年の頃から夢は絵描きか建築家で、でも絵描きで食べていくのは難しいだろうから滝川高校のときに選択した進路は後者のほう。
道内の国公立大学奨学金が出て、建築が学べるところ、というすべての条件を満たしていた公立はこだて未来大学に進学しました。

卒業後は東京の空間デザインの事務所に1年強勤めたのち、北海道にUターン。2011年4月に独立して現在に至ります。
夫の謙三は高校時代の同級生で、彼も一度道外に出て北海道の魅力を再発見したUターン組。好きな本も物事へのアプローチも正反対ですが、人生で大切にしたい根っこのところは一緒でそこが面白いなあと感じています。
書店ナビ Uターンを迷っていたとき、大きな出会いがあったとか。
真千子 はい、東京で滝川市出身の世界的なデザイナーであり、のちに彫刻家になられた五十嵐威暢(いがらし・たけのぶ)さんの展覧会にうかがいまして。
五十嵐さんの叔父さんにあたる建築家の故・五十嵐正さん(1912~1981)が一度は東京の建築会社に勤めながら、帯広に設計事務所を構え、地元で500近くの建築を作ったこと、しかも建築家仲間に幾度も東京に帰ってこいと誘われても頑として断り、地元で顧客と一対一の信頼関係を築いていったことを聞いて、「私もそんな風に!」と思い、翌日会社に辞表を出しました。

その後五十嵐さんが滝川に作ったNPO法人アートチャレンジ滝川(現在はアートチャレンジ太郎吉蔵)のメンバーになり、五十嵐さんのアトリエ兼ギャラリー「かぜのび」が新十津川町にできたときに一年間だけ管理人を勤め、同時に立ち上げたデザイン事務所の屋号は「風のアトリエ」がいいんじゃないかと、五十嵐さんに付けていただきました。
そこから6年間活動したのち、謙三とチームを組む機会に屋号を「空のアトリエ」としました。
五十嵐さんは、私たちの北海道暮らしを語るうえで欠かせない存在です。
●現在札幌芸術の森で五十嵐さんの展覧会を開催中!~11月25日まで 五十嵐威暢の世界 

artpark.or.jp

[本日のフルコース]
北海道の空知(そらち)で暮らすデザイナーの
頬をなでる「いい風が吹く」フルコース


前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

世界 ポエマ・ナイヴネ
チェスワフ・ミウォシュ  港の人

ポーランドの詩人が戦火で紡いだ優しい言葉の数々は、大地を通り抜ける風のよう。20篇の短くも美しい詩は簡単に食べられるし、毎日触れていたいし、胃もたれしない心地よさがある。

書店ナビ 「いわゆる読書家ではないので、読んできた本はあまり多くありません」とおっしゃっていた真千子さんですが、《前菜》から一般にはあまり知られていないポーランド人の詩集をあげてくれました。
真千子 私の場合、小説や映画に感動するというよりも自分が日頃感じている感覚を「そうそう、そういうこと!」と凝縮してくれたことばに出会うとうれしくなって、そのことばの後ろにある世界が一気に頭の中に広がっていきます。

この詩集は厳しい戦火のなかでも希望や信仰について素直なことばで語られていて、思わず宗教とはなんだろうと想いをめぐらせます。
信仰は 水に浮かぶ木の葉や
露のひとしずくを目にして それが
そうあるべくしてあるのだと悟ること
   

(本書掲載「信仰」より一部抜粋)

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

人生を3つの単語で表すとしたら
一倉宏  講談社

「きれいなおねえさんは、好きですか。」(パナソニック)、「「うまいんだな、これがっ」(サントリー)で知られるコピーライター、一倉宏氏の広告用文章をまとめた一冊。 ことばだけでこんなにもキュンキュンさせることができるなんて。文字が心に風を吹かせる一冊。

書店ナビ 少し補足しますと、若者に人気ブランド「ユナイテッドアローズ」のセレクトショップ「グリーンレーベルリラクシング」の広告に使用された詩や文章(コピー)、プラス本書のための書き下ろしが収録されています。
真千子 この本は、東京のデザイン事務所で同期だった女の子が「真千子っぽいから」と探してプレゼントしてくれたんです。
一倉さんのコピーは、ことばだけで、しかもフィクションの力でここまで人をニタニタさせるなんて本当にすごいと思う。表現する方法はひとつじゃない。その自由度に感動します。

北海道で仕事をしていると、デザインだけでなくコピーも含めた商品展開を頼まれることも少なくないので、すごく参考にしています。
ちなみにタイトルの「人生を3つの単語で表すとしたら」の正解は、本書の最後のほうに。ぜひご自分の目で確かめてみてください!

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

旅をする木
星野道夫  文藝春秋

欲しかった言葉、出会いたかった感性、見たかった景色が詰まった一冊。噛むほどに大海原へと連れて行ってくれて北風がより一層愛しくなる。棺桶に入れてほしい本。

書店ナビ 写真家、探検家の星野道夫さんの本はこのフルコース企画にも、たびたび出てきました。
真千子 いつだったか、クリスマスのプレゼント交換でもらった本で、読み終わったときに即、謙三に「私が死んだらお棺に入れてね」と伝えました。そのあとも血肉化しそうなくらい何回も読み返しています。
凍てつくアラスカで五感がとぎすまされていく星野さんの混じりけのない生き様を読んでいると、なぜか涙がこぼれてくる。
次元は違うかもしれませんが、私にも北国があっているんだと再確認させてくれました。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

イモータル
萩耿介  中央公論新社

地元の本屋「いわた書店」さんが勧めてくれた一冊。物語が進んでいく場所や時代設定が変わるたびに、感じたことのない風が吹く。旅先で読んで、読み終わるのが惜しくなった本。

書店ナビ 砂川市の地元書店といえば、「一万円選書」で知られるいわた書店さん!現在「一万円選書」の応募は期間限定で、しかも抽選式。人気の高さがうかがえます。
真千子 旅をする木』を読み終わったあと、ご店主の岩田透さんにノンフィクション作家中村安希さんの『インパラの朝』を教えてもらい、その次に勧めてもらったのがこの本です。

あらすじを説明するのはちょっと難しいんですが、2018年5月に夫婦でラオスに旅行したとき、謙三はホテルの部屋でずっと絵を描いていて、私はこれをずっと読んでいました。
ヒンドゥー教聖典智慧の書』を軸に時空を超えた場面転換が多い本なので、ページをめくるたびに登場人物たちに吹く風が、そのときラオスにいる自分にも吹いているような没入感を満喫できました。

本の主人公のようにこの本にも旅をさせたくなって、そう走り書きを残して、私が持って行った本はそのままラオスに置いてきました。
それを手に取ったツーリストが旅のお供としてまた違う国に連れて行ってくれたらうれしいです。

素敵なご自宅兼アトリエでお話をうかがった。知人の建築家に依頼し、地元の工務店が頑張ってくれたそう。

デザート 空や風、月の声に耳をすませて

あいうえおの本
安野光雅  福音館書店

言葉はいらない。ユーモアは世界を救う。安野光雅氏の絵本は、ただ甘いだけじゃないのがいい。

書店ナビ ボローニャ国際児童図書展グラフィック大賞や国際アンデルセン賞など国際的な賞も多数受賞している安野さん。
美しいだけでも、甘いだけでもない世界観が、淡い色彩とともに私たちを楽しませてくれます。
真千子 私の母が安野さんの大ファンで、小さい頃から読んでいました。安野さんの本は"たくらんでいること"が多くて、描きながらにやけているご本人の顔が浮かんできます!
この絵本も例えば、「し」の文字に「七」福神の絵が対になっていて、よく見ると「し」の字の一部が「し」ばられていたり、縁を彩る植物絵に「鹿」がいる。自由奔放な風が吹きまくって、面白すぎます!

「一番好きなページは?」の質問に答えたのがこちら。植物に紛れて「う」さぎがいる。

ごちそうさまトーク 心の揺れを描いて少女たちを祝福

書店ナビ 真千子さんは砂川の馬具メーカー、ソメスサドルさんとも長い契約関係にあり、サイトやパンフレットのディレクションを手がけていらっしゃるとか。
真千子 これもまた五十嵐さんの声かけで始まった「太郎吉蔵デザイン会議」のご縁です。第五回のゲストにソメスサドルの染谷昇社長をお招きし、それがきっかけでお仕事をいただくようになりました。

これからもこの空知に暮らしながら、空や風、月たちから感じる生きていくための本質みたいなものを自分の中にいっぱい取り入れて、私たちのことを頼りにしてくださるお客様一組一組と丁寧に向きあっていきたいです。
書店ナビ 次週は真千子さんのお話を横で真剣に聞いていた謙三さんの出番です。今週は真千子さんセレクトの、風が五感に心地よい刺激を届けくれるフルコース、ごちそうさまでした!
●空のアトリエ

soranoatelier.com


●小菅真千子(こすげ・まちこ)さん 
山梨県生まれの砂川市育ち。公立はこだて未来大学情報デザイン専攻出身。東京で空間デザインの会社に勤務し、2008年にUターン。スタジオカメラマンを経て2011年、デザイン事務所「風のアトリエ」を設立。2017年に「空のアトリエ」となり、現在に至る。
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