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第454回 「森の出版社ミチクル」新刊情報

[新刊情報]
岩見沢市美流渡にある「森の出版社ミチクル」
オール手描き!88ページの新刊は『やまの会と語った死ぬと生きる』

[2019.12.9]

従来の出版セオリーにとらわれない、混じりけのない本づくり

岩見沢市街から車で約20分、人口400人の集落・美流渡(みると)で暮らす編集者、來嶋路子さんが、長らくこの人たちについて書き続けていることは耳にしていた。
北海道のせたな町で暮らす生産者グループ「やまの会」。大泉洋主演映画『そらのレストラン』のモデルになった人たちだ。
來嶋さんがインタビューをしたのは、5人の「やまのひと」プラス「うみのひと」を加えた計6人。
2019年10月、とうとうその肉声が一冊の本にまとまった。しかもまさかの《オール手描き》本。本文中、パソコンの入力文字は一文字たりとも出てこない。
これはぜひとも話を聞きに行かねば、と2019年10月から借りている美流渡の仕事場を訪ねた。

やまの会が語った 死ぬと生きる 

やまの会が語った 死ぬと生きる
絵・文 來嶋路子  森の出版社ミチクル
來嶋さんの個人レーベル「森の出版社ミチクル」から出版された第三弾。カラー88ページ。印刷は中西出版。1400円(税別)。希望者はミチクル編集工房のサイトやFacebookでお問い合わせください。

仕事場でおかあさんと一緒に過ごすみひろちゃん。

仕事場でおかあさんと一緒に過ごすみひろちゃん。

書店ナビ気になる取材対象者と出会い、自主企画で取材を重ねて本を出す、というところまではよくある流れですが、本書はなんとイラストだけでなくテキスト入力もパソコンを使わずにオール手描き!
読むほうとしては、フツウの文章を追うよりもかえって集中できて一気に読み切ることができました。
このアイデアはどこから生まれて来たんですか?

來嶋私は普段、出版社さんから書き手としてお仕事をいただくときも一度手描きで文章を書いてからパソコンで清書をするんですね。なので、もともと手描きは苦じゃないんです。

この本の場合は、2017年10月から「やまの会」のメンバーである大口義盛さんにお話を聞くところから始まったんですが、取材が進めば進むほど筆がとまってしまった時期もあったりして相当難航していたんです。
おまけに彼らをモデルにした映画まで先に公開されてしまって、これはマズイ!ということになり、そのときに「待てよ」と。
全部ぶっつけ本番の手描きでやるならスピーディーに進むし、なにより彼らの話す熱量みたいなものを、パソコンのフォントよりも手描きのほうが生々しく伝えることができる。そう思って、この形で進めることに決めました。

やまの会と語った死ぬと生きる原画

これが原画。鉛筆は息子さんの文房具を拝借してBか2B。來嶋さんは東京造形大学で絵画を専攻していた。

プロのスノーボーダーから転身して農業を継いだソガイミツハルさんは、とにかく話す人。そのボリュームをそのまま誌面に表した。「"僕のところだけ字が小さいところがいい”っておっしゃってました」

人物ごとの色替えは、色紙を使っているわけではなく印刷で表現!「文字もイラストもモノクロなのにぜいたくなオールカラー本です(笑)」

書店ナビタイトルの「死ぬと生きる」もドキリとしますが、「羊を一頭も殺したくない」「目標は世界平和です」「なんとも思わない」など、一般的な生産者インタビューでは聞けないせりふがたくさん出てきました。

來嶋「森の出版社ミチクル」で出す本としてこれが3冊目になるんですが、今回特に決めていたのは「自主規制なし、本当に感じたことしか書かない」ということ。
これが通常の商業ベースにのせる出版物であれば、「たとえ本人がそう言ったとしても読者にヒかれるかもしれないから、この表現は変える」ところがあったと思います。でもそれはしなかった。したくなかったんです。
出版のセオリーにとらわれない新しい本づくりがしたかったから。

書店ナビそれは売り方にも表れていますよね。確か、1作目の『山を買う』や2作目のミニ絵本『ふきのとう』も全てAmazonや取次を通さずに版元であり著者である來嶋さんが講演会での販売や郵送を含めて直接、買いたい人に販売しています。

來嶋『山を買う』はありがたいことに地元の喜久屋書店さんが取り扱いたいと言ってきてくださって200冊くらい売れました。おかげで重版もしています。

私も美術誌の編集部に勤めていたことがあるので、取次を通したほうが全国各地に売ることができるし、今の出版の仕組みだと著者に入る印税が1割前後だということも理解しています。

でもそういう既存の形式から、そろそろ違うベクトルが出てきてもいい。小ロットでも確実に欲しい人に届けることができて、版元であり著者である私もきちんと売上を手にすることができるんじゃないか。
新しい出版の可能性を少しずつでも感じているところです。

アート・デザインに強い編集者として講演を頼まれることも多い來嶋さん。2019年3月、札幌にて。みひろちゃん、だっこひもで熟睡中。「子連れで仕事先に出向くのも、思いきってやってみると受け入れてくださるところが多かったです」

次作は多年生植物のイタドリがテーマ。小樽のテキスタイル工房Aobatoの協力を得て、葉っぱを直接紙面に定着させる技術も試作中。完成が楽しみだ。

書店ナビ「こんなことは世間に通じないかも…」と小さく考えてしまっているのは他でもない、自分なのかもしれない。そう気づかせてくれる來嶋さんの本づくり、これからも注目していきます!

ミチクル編集工房

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みひろちゃん。

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