BOOKニュース
[2024.3.25]
[今週の一枚]
現在、三省堂書店札幌展で好評開催中!「脱がすとすごい本」を集めたブックフェア「本のヌード展」。画像は貴重な非売品コーナー。3/30土14:00から企画発案者である末澤寧史さんのトークイベントも開催(参加無料)。
2024年3月5日、経済産業省が書店を地域の文化拠点として位置づけ、その支援策を考える書店振興プロジェクトチームを立ち上げたというニュースが話題になりました。
今回の北海道書店ナビBOOKニュースがお届けするのは、すでに動いている書店支援の話題です。札幌のブックカフェと白老町の書店がこれからも「あり続ける」ために取り組む等身大の方法とはーー。
オンラインショップからの申し込みも簡単に
顧客の声から実現した「俊カフェサポーターズ」
「切実なお願いです」という一言とともに、2024年2月29日、札幌市中央区にある詩人谷川俊太郎さん公認のブックカフェ「俊カフェ」から、あるお知らせが発表された。
内容は、2018年から続く「俊カフェサポーターズ」(以下、サポーターズ)という支援システムの見直しと、それが通販サイトでも気軽に申し込めるようになったこと。
だが、それ以上に見る人の心を動かしたのは、俊カフェオーナー古川奈央さんが綴った次のような想いだったのではないだろうか。
自身の足で立ち、頭を使って工夫を凝らし、運営を続けていくのが筋ではありますが、
恥ずかしながら思いつく限りの事はやってまいりましたが、今も
明日の支払いをどうしようとあたふたする日々を送っております。
コロナ禍以降、どなたも大変な状況が続いているのは十分に理解しております。
どうか、ご無理のない範囲で、お力をお借りできましたら幸いです。(俊カフェ公式サイトBLOG2/29から一部抜粋)
この「切実なお願い」に心ある人たちが反応し、5000円から3万円までの5種類のコースを用意したサポーターズに続々と申し込みがあったと聞く。
詳しい話を古川さんにうかがった。
「俊カフェは2017年5月3日にオープンしました。1年目はありがたいことにたくさんのメディアに露出があり、お客様も来てくださって順調な滑り出しだったんですが、2年目になると"今日はなんだかお店が静かだぞ?"という日が増えてきて。当初は設けていた場所代システムを途中でやめたり、食事メニューも増やしたりして気軽にご来店しやすいような店づくりを続けてきたつもりだったんですが、だんだん静かすぎる日が続くようになりました」
そんなときに店の窮状を知る道外在住の顧客から「遠くにいる自分のような人たちが応援できるシステムがあれば」と言われたことがきっかけで、支援金額に応じて返礼品が届けられる初期の「俊カフェサポーターズ」システムが誕生したのだという。
店の行く末を心配する谷川氏からも返礼品用のサイン本が届けられ、これまでに50名以上からの支援を受け取っている。
当初は店頭でのフライヤーなどでひそやかに告知していたサポーターズだったが、2024年2月に設定金額を上方にリニューアルし、より人の目に触れやすいようオンラインショップでも掲載に踏み切った。
そこにはコロナ禍を耐えきってなお、ウクライナ戦争の影響による物価や光熱費高騰の影が落ちている。
月数万円の新たな出費がのしかかり、ようやく定着してきたイベント収入をもってしても依然余談を許さない状況になっているという。
場所貸しでも使える俊カフェ。書店ナビは取材で使わせてもらうこともしばしばある。
「正直にお話しすると今もいろいろと大変ですが、それでも"苦しそうだね俊カフェ"と言われるよりは、"楽しそうな空間だね"と思ってもらいたい。先日のサポーターズリニューアルの際にも金額以上のあたたかいご支援やお言葉をいただいて感謝の一言です。今年は〈ことば〉と向き合うイベントもたくさん用意していますので、私も楽しみにしています」
自らも詩作する古川さんの中には"谷川俊太郎公認"という唯一無二の特性を持つこの場所を、ここで育まれるポエジー(詩情)を守りたいという信念があり、そこに一点の迷いもない。
その一方で、カフェ経営者としてはスタッフの堀さんが作るヴィーガンスイーツを十分にアピールしきれていなかったという反省もあるようだ。
「ヴィーガンである堀さんがこういうスイーツを食べたいと試行錯誤を重ねてたどりついた"見た目も味も十分満足できるスイーツ"です。詩には全然縁がなくて、という方も気軽においしいヴィーガンスイーツを食べに来ていただけたらうれしいです」
人気のヴィーガンスイーツ(画像左)とこばらごはん。画像提供:俊カフェ
5月3日になれば俊カフェは7年目を迎える。その道のりは差し出した手を握り返してくれたサポーターたちが作ってくれた道程だったともいえるだろう。
「俊カフェサポーターズ」は5000円コースから3万円コースの5種類。俊カフェオリジナルのしおり・メッセージを書いたら谷川氏のもとに転送されるメッセージカード、俊カフェ通信の3点が全コーナーに共通しており、コースに応じてプラスアルファが変わってくる。
俊カフェ
白老町で始まる本気の「まちの本屋さん」づくり
「またたび文庫」クラウドファンディングに挑戦中!
札幌から登別・室蘭方面に車で約1時間強、JRで移動してもほぼ同時間で着くところに人口1万5000人強の白老町がある。
北海道179市町村のうち、4割を超える書店ゼロ自治体だった時期もあったが、今は違う。
地域おこし協力隊の羽地夕夏(はねじ・ゆうか)さんが2022年6月に開いた書店「またたび文庫」があるからだ。
沖縄の読谷村(よみたんそん)生まれの羽地さんが白老に来るまでのいきさつは、以前北海道書店ナビでもご紹介した。
当初は移動本屋として活動していた羽地さんだったが、2023年からまちなかに拠点となる場所を借りている。
そこで「土地に根ざした学びと集いの場となる」まちの本屋を作るために、3月5日からクラウドファンディングに取り組んでいる。
北海道白老町。土地に根ざした学びと集いの場となる、「まちの本屋」をつくる! - クラウドファンディングのMotionGallery
フリーミッション型の地域おこし協力隊がまちの本屋に取り組む事例は全国でもいくつかあり(例:北海道大樹町「月のうらがわ書店」、新潟県出雲崎町「蔵と書」)、任期終了後も現地でそのまま本屋を継続する話も聞こえてくる(例:愛媛県今治市「こりおり舎」、福岡県那珂川市「古本屋くるり」)。
今回、羽地さんも2025年3月の任期終了を念頭に置きつつ、「それまでに店を回していけるようにしっかり準備をしておきたい」とクラファンを立ち上げた。
「移動書店はどこでも行けますし、イベント出店は集客が見込めるのでこれまで札幌や洞爺湖、帯広、羅臼にも出向きましたが、肝心の白老での開店日数が減ってしまい、内心申し訳ないという思いがありました。これからは、縁があって来た白老にしっかり還元できるようにまちの本屋を根づかせていきたいです」
移動書店からまちの本屋へーー。またたび文庫の新スタートにあたっては住民説明会も開き、店が稼働したときにどういう本が並んでいたらうれしいか聞き取りを行った。
住民説明会の様子。白老町の高齢化率は45パーセント。高齢者は新聞世代でもあり、書評で取り上げられた本や雑誌の要望があったという(以下4点画像提供:またたび文庫)。
本屋に限らず店舗を立ち上げるクラファンは、店舗改装費や什器等の調達資金を集めるために行われることが多いが、またたび文庫の場合、元は商工会事務所だった築50年の建物のリノベーションは仲間とともに「ほぼ自力」で終えたところが珍しい。
恵庭の「ゲンカンパニー」村上智彦さんを中心に進んだリノベーション。またたび文庫の移動書店用棚もゲンカンパニーの看板商品、新巻鮭の箱を使ったプロダクトを愛用している。
一番思い入れがある床は道産材を使用。恵庭の人気コーヒー店「きゃろっと」と町内の「かのうち珈琲」「カイザー」からもらったコーヒーかすを床に刷り込み、磨きをかけた。
写真展なども開催できる空間に。将来的には築年数が新しい場所への移店を視野に入れ、床や什器も取り外しができる仕様になっている。
では、目標額150万円の主な使い道とは何なのかーー。
「そのうち120万円を本の仕入れに使わせてもらいます。移動書店の時は持ち運べる本が限られていましたが、店舗を構えるとなると在庫1000冊は持っていたい。2024年5月のオープンには少なくとも800冊を揃えたいと思っています」
住民から要望があった絵本や雑誌、移動書店時代には手薄だった小説など「まちの本屋らしいラインナップ」の充実に向けて、中小書店向け取次会社や出版社との直取を通じて本を取り寄せていくという。
「白老にはアイヌ文化復興・創造の拠点である『ウポポイ』や町立図書館もあり、ありがたいことに学芸員さんや司書さんともいい関係を結べています。お互いに協力しながらこの土地の歴史や風土・文化を深掘りできる選書も増やしていきたいと考えています」
2023年5月に札幌で開かれた書店関係者の覆面座談会に出席したこともある羽地さん。レポート記事はこちら(撮影:クスミエリカ)
そしてもう一つの支援金の使い道は、「精神と時の部屋」(仮称)を作ること。
「店の場所はJRの駅から近く、歩いて数分のところに白老中学校があります。学生用の料金設定を用意して、学校の帰り道とかにひとりになれる空間として使ってもらいたいですね」
都会には数多あるカフェや休憩スポットも、住民たちの顔が互いに知れ渡っている地方に行くと見つけづらいこともあるだろう。
そんなこれまで明文化されづらかったまちのニーズにこたえていくのも、新しいまちの本屋の役割になりそうだ。
地域おこし協力隊という公的な肩書きがあるからこそまちに溶け込みやすく、人脈づくりや助成制度へのアクセスもしやすかった。
任期の3年間で"基礎体力"をつけたあとは、いよいよここから羽地さんの真の本屋力が鍛えられていく。
「人には皆 "表現したい!"という思いが心の奥底にあって、それを引き出す場所が本屋なのだと思っています。そうなれる場所をここ、白老にも作りたい。もう長らく本屋さんは大変だと言われ続けていますが、やる以上は自由に楽しくやったほうがいい。今回クラファンや店づくりを通して、その思いが確信に変わりました」
本記事を書いている3月20日現在、クラファンは目標額150万円に対して135万円を超えている。達成率に関わらず実行されるAll-in方式なので、寄せられる金額に多すぎるということはない。
住んでいないまちの本屋を応援する。それもまた、わたしたちの日常にささやかだが消えない喜びをともしてくれるのではないだろうか。