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第633回 BOOKニュース「堀内誠一 子どもの世界」展

「堀内誠一 子どもの世界」展北海道立文学館で好評開催中!
「anan」創刊アートディレクターが魅せる絵本の中の子どもたち

[2026.7.27]

7月4日からスタートした「堀内誠一 子どもの世界」展は9月6日まで。大きいぐるんぱが見守るグッズコーナーもぜひお立ち寄りを!

[今週の一枚]

本展キュレーターの林綾野さんが来道時に訪れた岩見沢市立図書館。全面ガラス張りの外は6月の緑に囲まれ、目を奪われる美しさだった。

戦後の日本社会で約80冊の絵本・70冊の挿絵本を発表

札幌市の北海道立文学館でただいま好評開催中の「堀内誠一 子どもの世界」展。「ホリウチ…?」と首を傾げる方は『ぐるんぱのようちえん』(作・西内ミナミ 絵・堀内誠一 福音館書店)を描いた人、詩人の谷川俊太郎が訳した『マザー・グースのうた』(草思社)の絵を担当した人だといえば、思い出してもらえるだろうか。

https://www.h-bungaku.or.jp/exhibition/pdf/sp202607.pdf

1965年に出版された『ぐるんぱのようちえん』も、1975年から76年にかけて全5集が発表された『マザー・グースのうた』も、時を超えて子どもたちの心をとらえてきたロングセラーだ。
太平洋戦争が終わり、日本が大きく変容を遂げようとする1950年代後半に絵本の世界にデビューした堀内誠一(1932-1987)は、生涯で約80冊の絵本、70冊にのぼる挿絵本を残している。

堀内絵本の大きな特徴は、作品に合わせてその都度、最適な表現方法を選んできた引き出しの多さにあると言われている。旅を愛し、世界各地への取材旅行や7年近くのフランス滞在など、世界の広さを見てきた堀内だからか、どの作品を見ても「これも、これも、同じ人が?」と驚くほど多彩な表現方法を試みている。(個人的には『てがみのえほん』(福音館書店)がそれを一番感じられた1冊だった)。
今回のように堀内絵本を俯瞰して見ることができる企画展は、堀内誠一という絵本作家を知るうえで格好のイントロダクションとなるだろう。

近年、全国各地で開催されてきた主な堀内誠一展は下記のとおり。

  • 2010年4月~6月 「堀内誠一 旅と絵本とデザインと」 徳島県立近代美術館
  • 2022年1月 「堀内誠一 絵の世界」 大丸ミュージアム〈京都〉 ※3年間かけて岩手や島根など全国9カ所を巡回
  • 2023年7月~9月 「堀内誠一 子どもの世界」 福井県ふるさと文学館
  • 2025年1月~4月 「堀内誠一展 FASHION・FANTASY・FUTURE」
    東京・PLAY! MUSEUM ※2026年4月~6月 いわき市立美術館にも巡回

2022年から全ての堀内展に関わっており、今回の道立文学館でもキュレーションを担当した林綾野さんに見どころをうかがった。

現在札幌で開催中の「堀内誠一 子どもの世界」は福井県に続く文学館での企画シリーズ。札幌会場特別展示として神沢利子作品の原画も追加されている。

「たろう」シリーズ、『ぐるんぱのようちえん』『おおきくなるの』

本展で見ることができる絵本原画は約100点(『ぐるんぱのようちえん』のみ複製原画)。大きく4つの章に分かれて構成されている。

1章目は、1960年発表の『たろうのばけつ』(作・村山桂子 福音館書店)から始まる「たろう」シリーズ。
遠い民話の時代でもなく戦前・戦中でもない、戦後という未知の時代をこれから生きていく子どもたち。「たろうのような"都会の子ども"が戦後初めて絵本の主役となって自主性を発揮する」(林さん)、そんな新しい絵本の中の子ども像が提示されている。

制作面でとりわけユニークだったのは、右開きのシリーズ作を左開きのハードカバー版に改訂するビフォー・アフター。画材やタッチに変化をつけ、視線を誘導する見せ方も変えるなど、堀内ならではの柔軟かつスマートな創意工夫が読み取れた。

展示会場に入るまでに館内でたろうたちを発見!

2つ目のコーナーは、『ぐるんぱのようちえん』や『おおきくなるの』(福音館書店)などの「子どもたちの目線や発見」が詰まった作品群だ。
『おおきくなるの』の制作時期は、ちょうど堀内家に長女花子さんに続いて次女の紅子(もみこ)さんが生まれる頃。絵本で親しまれてきた「◯◯くん」「◯◯ちゃん」という呼称から「わたし」という一人称を獲得する子どもの成長が、お姉さんになる「わたし」の心情を通して感じられる。

企画展初日の7月4日、文学館と俊カフェで林さんを聞き手に堀内姉妹のトークイベントが開催された。俊カフェでは紅子さんが数々の貴重な手紙資料を披露し、一家のフランス暮らしエピソードで盛り上がった。写真左から俊カフェオーナーの古川奈央さん、花子さん、紅子さん、林さん。

父・堀内誠一が居る家 パリの日々
堀内花子  カノア
1974年、42歳のときに家族を連れてパリ郊外へ移住した堀内誠一。本書は当時中学1年生だった長女の花子さんがその思い出を綴った初エッセイ。父親の意外な素顔のほか、安野光雅、澁澤龍彦、石井桃子、瀬田貞二らとの交流秘話も掲載。

世界を広げるファンタジー・科学絵本、札幌限定コーナーも

展示後半は、『わらべうた』『マザー・グースのうた』からなるファンタジーの世界と、堀内がひときわ自身の好奇心や探究心を注いだ科学絵本の世界。
戦後、世界に扉を開いた日本は世界の児童文学全集が図書館に並べられるようになり、1953年には「母の友」(2025年3月号で休刊)、56年には「こどものとも」、69年には「かがくのとも」が創刊され、一般家庭と絵本の距離が急速に縮まっていった。

ファンタジーと科学絵本という一見正反対のように見える両分野だが、今回林さんがキュレーションの柱に据えた「堀内絵本に描かれた子ども像を中心に、絵本というビジュアル表現が時代とともにどう変わっていったのか」という問いかけを念頭に見ていくと、各作品の解像度がさらに深まっていきそうだ。

展示の最後は「札幌会場特別展示」として、堀内たちが北海道旅行をしたときの記録資料や、少女時代を北海道で過ごした児童文学者神沢利子が作を、堀内氏が絵を手がけた作品『ふらいぱんじいさん』(あかね書房)、『銀のほのおの国』『てんのくぎをうちにいった はりっこ』(どちらも福音館書店)コーナーが。どれもスケールの大きい作品世界に魅せられる。

このほか堀内絵本をじっくり読める読書コーナーとは別に、原画作品のそばに常に閲覧用の絵本が配置されているなど閲覧者思いの配慮も細やか。アクスタやシール、マステなどのグッズコーナーも目移りしてしまう楽しさだ。

「堀内誠一」で検索するとかわいいLINEスタンプも好評発売中!大人になってから読んでも楽しい堀内絵本。「出かける」ことがとても大切な体験に思えてくる。

「anan」「BRUTUS」伝説のアートディレクターだった堀内誠一

絵本作家の堀内誠一には、もう一つの顔があった。それは雑誌「anan」や「BRUTUS」「popeye」「olive」等、日本のファッションマガジン史を牽引してきた綺羅星のような雑誌の創刊に携わったアートディレクター堀内誠一としての活動だ。

デザインやイラスト、ファッション、広告、音楽などクリエティブに興味がある人には、AD堀内の"天才ぶり"がつぶさに描かれたこちらの本もおすすめ。
「日本最初のヴィジュアル・ファッション・マガジン「アンアン」。その視覚の砦の主(あるじ)はADの堀内誠一だった。」(本書P8より)

49冊のアンアン
椎根 和  フリースタイル
1970年3月20日、国内の女性ファッション誌といえばドレスの型紙つきだった時代に、写真というメディアを使って読者に"ライフスタイル" "夢" を提示する雑誌として「アンアン」創刊号が発売。当時編集室に身を置いた著者が書き下ろす、奇跡のような49冊・2年間の足跡。

新しいものが生まれでるとき特有のカオスな環境下で、飄々と自身のアンテナが動くがままに頭と手を動かし続けた堀内。
「普通のADなら、このソファのふたりのピンボケで気力の感じられない写真をボツにしただろうが、堀内は、この写真を見開きの2頁にし、記憶に残るものにした。」(本書P212より)

本書で「稀代のイリュージョニスト」とも書かれた堀内は、「アンアン」編集室を抜けたあとに家族と共にフランスに移住。メールもスマホもない時代に日本の出版社と航空書簡でやりとりを重ね、そこから数々の傑作絵本が生まれている。

雑誌でも絵本の世界でも群を抜いた堀内のキャリアは全て、少年時代から愛してやまない「絵を描く」ことに起点があるとキュレーターの林さんは指摘する。
原画100点からにじみでる「絵を描く」喜び。会場を出たあとに残る晴ればれとした気持ちの理由は、そこにあるのかもしれない。

本展は2026年9月6日まで。会期中、読み聞かせやブックトーク等イベントも多数企画されているので下記の公式サイトでご確認を。

館内にあるフォトスポットで記念写真もぜひ!

北海道立文学館 特別展「堀内誠一 子どもの世界」

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