5冊で「いただきます!」フルコース本
Vol.126 岡本書店恵庭店 齋藤 榛菜さん
新卒で帯広本社のオカモトグループに入社、書店員5年目の齋藤さん。
[本日のフルコース] 女性書店員から平成を生きる"私たち"へのエール!「女性の転機を女性著者が描いた本」フルコース
[2018.5.14]
書店ナビ | 道道46号線沿いに立つ岡本書店は、恵庭エリア唯一の大型書店。店内にキッズスペースもあり、週末ともなると家族連れでにぎわっています。 同店の文芸担当、齋藤榛菜さんにフルコースづくりをお願いしました。 「女性の転機を女性著者が描いた本」というテーマは、フルコース初。平成生まれで20代の齋藤さんがどんな本を選ぶのか、楽しみです。 |
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齋藤 | 基本はノンフィクションよりも小説を読むのが好きで、そういえば女性著者の作品が多いかも。 読み終わったあとに「こういう生き方とか選択肢もあるんだなあ」と明るく考えさせてくれる5冊を選びました。 |
「女性の転機を女性著者が描いた本」フルコース
前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書
コンビニ人間
村田沙耶香 文藝春秋
36歳の古倉恵子は大学卒業後、コンビニでバイト歴18年目。彼氏はなく、日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打つ。コンビニで心身の平和を保つ主人公の生き方は周囲から不思議がられ、「恥ずかしくないのか」とつきつけられるが……。第155回芥川賞受賞作。
書店ナビ | 芥川賞受賞時には著者の村田沙耶香さんが主人公と同じく現役のコンビニ店員だったことも話題になりました。 齋藤さんは、本書のどこが心に引っかかりましたか? |
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齋藤 | 周りからは"特異"だと思われている主人公が、そのことをまったく引け目に感じていないところ、悲壮感がないところが好きでした。 普通じゃない主人公に普通を求める周囲の人々を見ていると、社会の価値観って何だろうと思えてきます。 主人公みたいに生きたいわけじゃありませんし共鳴もできませんが(笑)、否定もしたくない。自分の人生、堂々としていていいんだなって感じさせてくれます。 |
スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本
女、今日も仕事する
大瀧純子 ミシマ社
《「ワークライフバランス」「自己実現」「バリキャリ」……。どれもピンとこない女性たちへ。結婚、就職、転職、出産、育児、クビ、経営、更年期...何があっても大丈夫!》。母親であり、(株)シナジーカンパニージャパン最高経営責任者でもある著者の女性たちへのメッセージ。
書店ナビ | 著者の大瀧純子さんは1967年埼玉県生まれ。学習院大学文学部卒業後システムエンジニアとして活躍し、出産・育児のため家庭に入ります。 その後在宅での商品開発やバイヤー職など、あらたなキャリアを積み重ね、2015年に本書を上梓後は講演会などに引っ張りだこです。 昭和生まれの女性として"こうあるべき女性像"・母親像"と葛藤した世代でもありますね。 |
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齋藤 | 大瀧さんの本を読むと、会社の右肩上がりの成長をあえて"目指さない"という選択肢や、ワークとライフを分けないなどの新しい考え方にはっとさせられます。 世間的には大企業信仰があると思いますが、小さい会社だからできることもある。読んでいて気持ちが軽くなります。 |
文芸書コーナー。本の感想をキャッチーにとらえた齋藤さん手書きのポップに引き寄せられる。
魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく
デートクレンジング
柚木麻子 祥伝社
喫茶店勤めの佐知子には、アイドルグループ「デートクレンジング」のマネージャーをしている実花という親友がいる。そのアイドルグループが突然解散して以来、追い立てられるように婚活を始める実花。初めて親友が曝け出した脆さを前に、佐知子は大事なことが告げられない……。
齋藤 | 佐知子にとってまぶしい存在だった実花は、キャリアを失って急に婚活に走るんですが、彼女は芸能界にいたため一般社会の常識が欠けて結構空回りしてしまうんです。 しまいには結婚している佐知子に「結婚してる人にこの気持ちがわかる?」と八つ当たりしたりして、二人の関係性が変わるところがとてもリアルだなあと感じました。 最後に二人が取った選択肢は、私にとっても新しい選択でした。社会に適合することと友情を続けること、いろんな要素を考えて選んだ道が清々しいです。 |
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肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本
肩ごしの恋人
唯川恵 集英社
等身大の女性を描く第126回直木賞受賞作。「女」であることを最大の武器に生きるるり子と、恋にのめりこむことが怖い萌。対照的な2人の生き方を通して模索する女の幸せ探し、新しい家族のあり方を描く長編恋愛小説。
書店ナビ | 《魚料理》本も女性2人の友情や対比を描いていますが、《肉料理》でもるり子と萌の2人が主人公ですね。 |
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齋藤 | 《魚料理》のほうが具体的な展望を示しているとするならば、《肉料理》は紆余曲折を経て主人公たちがつかんだ考え方を通して私たち読者も元気が出る、という感じです。 |
書店ナビ | 特に好きだったところは? |
齋藤 | 全体を通して名言が多い作品で、「我慢強い女にならないでいよう」とか「こんなに頑張っている私が幸せにならないわけがない!」とか、こうして言葉だけ読むと単なる自己中に思われるかもしれませんが、そのシチュエーションでこういうことが言えるんだ!と感動してしまう場面がいっぱい出てきます。 幸せの定義や家族のありかたも含めて、価値観はいろいろあっていい。この取材のためにあらためて読み直しましたが、やっぱり元気が出てきました。 |
「物語の結末は"そうきたかー"と驚く反面、納得できちゃうような感じです」
デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで
新装 ぼくを探しに
シェル・シルヴァスタイン 講談社
「ぼくはかけらを探してる、足りないかけらを探してる、ラッタッタ さあ行くぞ、足りないかけらを……」。シカゴ生まれの著者が描く永遠のベストセラー。解釈は読者次第。なんとも力の抜けた線で描かれた、誰にとっても大切な《自分さがしのものがたり》。
齋藤 | すみません、この一冊だけフルコースのテーマである女性著者ではないんですが、小学校のときから仲がいい女友達が3人いて、彼女たちから誕生日プレゼントにもらった本なので入れさせてもらいました。 自分にはなにが欠けているのか、そしてそれが満たされて"完全"になったら本当に幸せなのか。人生の本質をやさしく問いかけてくれる絵本です。 "まあるく"終わりたいので《デザート》に。 私たちの4人グループは自由な人が多く、私は大体「じゃあ、こうしようか」というまとめ役(笑)。でも彼女たちが自由なおかげで、私もラクに過ごせたんだと思います。住んでいるところはバラバラでも今もずっと連絡を取り合っています。 |
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ごちそうさまトーク 悩んでいる気持ちをラクにするのが読書
書店ナビ | 齋藤さんの選書を見ていると、他人や慣習が決めた枠に縛られない、新しい女性の生き方を描く女性著者と齋藤さん世代の女性読者の響き合いを感じます。 |
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齋藤 | 私自身のことをいうと、結婚願望もあまり強くなくて「こういう人もああいう人もいていいんだよなあ」と、価値観が広がっていけばいいなと思っているんですが、実際にはきっといろんな事情で悩んでいる女性もいっぱいいらっしゃると思います。 そういう人たちの悩んでいる気持ちをラクにするのが、私たち書店員が薦める読書だと思うので、この5冊を通していろんな可能性を知ってほしいです。 |
書店ナビ | 人を否定しないことで、"わたし"にも"あなた"にもやさしくなれそうなフルコース、ごちそうさまでした! |
●齋藤榛菜(さいとう・はるな)さん
恵庭市出身。北海道教育大学卒業後オカモトグループに新卒入社。NetGalleyで発売前の新刊を読み、棚づくりの参考にしている。姉がいて、「この人も自由人です」と笑うしっかりモノの次女。