おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第309回 エヴァナム 真鍋 康利さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が 腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.76 エヴァナム 真鍋 康利さん

変わった社名の「エヴァナム」は「真鍋(manave)」の逆読み。なるほど!

[本日のフルコース] 高齢者向け情報誌『悠悠と。』編集長が推す 名物対談「百期百会」に登場した著者フルコース

[2017.1.30]

書店ナビ 2016年10月、高齢者向けの生活情報誌『悠悠と。』が通算100号を迎えました。創刊は1999年12月。以降、隔月の発行を地道に続けてこられたのが、編集長の真鍋康利さん。編集・取材・広告営業をほぼ一人で手がけておられます。

『悠悠と。』は奇数月20日発行。160円(税込)。書店販売はせず、定期購読のほか、病院や薬局、高齢者施設に届けられている。講読希望の方は、エヴァナム 電話011-522-2710 携帯電話090-9082-6556(真鍋)またはyuyu@evanam.jpへ。

書店ナビ 発刊のきっかけは、友人が家族のために車椅子を必要としたときに情報不足で困ったこと。当時勤めていた職場が早期退職者を募り始めたこともあり、「高齢者や介護をする・される方々が必要とする情報を届けたい」と、出版未経験ながら創刊に踏み切ったといいます。真鍋さん、49歳のときでした。 2017年1月20日には最新号が発売されています。あらためまして通算100号突破おめでとうございます。
真鍋 ありがとうございます。今回のフルコースは本誌の創刊から連載している「対談 百期百会」にご登場いただいた方々の中から、本を出されている5名で構成しました。 私より年長者も若い方も皆さん、自信に満ちた生き方をされています。
[本日のフルコース] 高齢者向け情報誌『悠悠と。』編集長が推す 名物対談「百期百会」に登場した著者フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

ほっかいどう映画館グラフィティー 和田由美  亜璃西社 映画の趣味を聞くとその人がわかる。青春時代どんな映画を観ましたか。昭和の映画館がなつかしい。私のベスト1は『ショーシャンクの空に』。

真鍋 『悠悠と。』を立ち上げたとき、人に紹介してもらって北海道の出版業界の大先輩である和田さんに会いに行きました。でも実はそのとき、苦手なタイプだなと思った(笑)。 それから三度目に会ったとき、好きな映画の話になったら和田さんも『ショーシャンクの空に』だという。一気に距離が縮まりました。 いまでは本誌に69回にわたる「いつだって根無し草」に続き、「酔いどれ女のモノローグ」を連載してもらっています。 私は大阪育ちなので本書に出てくる北海道の映画館になじみはありませんが、昭和の北海道にこれだけの映画館があったことに驚かされました。北海道の歴史を知る意味でも、よくぞこれだけの情報をまとめてくださったと敬服します。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

孤立死 あなたは大丈夫ですか? 吉田太一  扶桑社 さだまさしさん原作の同名映画『アントキノイノチ』に出てくる鶴見辰吾が演じた役のモデルは、吉田さん。遺品整理屋という仕事はこの人がいなければこの世になかった。

真鍋 吉田さんも人の紹介で会いまして、本誌で「い・ま・い・き」というコラムを書いてもらっています。日本で初めて「遺品整理専門会社キーパーズ」を立ち上げたひとです。 僕はいま66歳で、「終活」という響きはあまり好きではありませんが、僕が考える「終活」は、"現状を維持すること"。そのための片付けであったり、相続のことを整理する、あるいは歩くなどの健康づくりだと思っています。 誰しもが直面する深刻なテーマですが吉田さんご本人は実に明るくて、僕はとても好きなんです。

吉田さんが登場した「百期百会」。毎回、聞き手はフリーアナウンサーの橋本登代子さん。協力者として誌面づくりに尽力してくれる一人だ。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

人生という夢 小檜山博  河出書房新社 『人生という旅』『人生讃歌』に続く人生シリーズ3作目。この方の人生そのもの。いつもジワジワくるなぁ。 

書店ナビ 「人生」シリーズはJR北海道の車内誌に連載されているエッセイをまとめたもので、著者と同世代の読者から「自分の子ども時代を思い出す」と高い支持を集めています。
真鍋 小檜山さんは1937(昭和12)年、北海道の滝上町生まれ。想像を絶する寒さ、貧しさのなかで育った生い立ちが本書を読めばよくわかります。個人的には"親父の時計"の話が好きでしたね。 2009年10月3日には滝上町オシラネップ原野18線に、小檜山さんの小説『風少年』の一節を刻んだ文学碑が建立されました。 初めてお会いしたときに、その文学碑を見に行ったことがあると伝えたら、「ホントにあんな田舎まで見に行ってくれたの?」と大変喜んでくださいました。 そのご縁で、「百期百会」に出ていただきたいとお願いし、2号に渡っての掲載が実現しました。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

病院ライブで童謡・唱歌―ボランティアでみつけた新しい旅 井上堯之  近代映画社 2009年突然の引退表明。突然の小樽上陸。それからさまざまな出会いのなかで老いの尊厳を学習したそうだ。

書店ナビ スパイダースでの活躍のあと、沢田研二さんとバンドを結成したり、太陽にほえろ」「傷だらけの天使」など数々の名曲で知られていますが、一度引退していたことも小樽にいたことも知りませんでした。
真鍋 井上さんを一言で表すと、"音楽をやる坊主"。すごく真摯に人生の意義や人の道とは、ということを考えているひとです。 2009年に小樽のライブで具合が悪くなり、運ばれた南小樽病院の大川博樹先生が音楽好きで、当時いろいろと思うところがあった井上さんに居場所をつくってあげた。 その大川先生の紹介でご本人と知り合い、私もこういう遠慮のない人間ですから連載を頼んだり、「百期百会」に出てもらったり。 そうしたら本書で井上さん流の口調で「真鍋のバカヤローが」と書かれちゃいまして(笑)。まあ、それが最後は「真鍋さん ありがとう」になっていてほっとしました。いまは東京で音楽活動も再開されています。

100号掲載の「お祝いの言葉」を読むと、関係者による真鍋さん評は「エネルギッシュで行動的」「剛と柔を併せ持った、根は心優しい男」「人なつっこい性格と情熱、そしてその根拠のない自信(笑)」「身体に似合わず繊細で心優しきライオンのよう?」

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

後生大事に―父 高田好胤のおしえ 高田都耶子  芸術新聞社 著者の高田都耶子さんは、1967年から1998年まで奈良薬師寺管主であられた高田好胤氏のご息女。修学旅行で好胤氏の法話を聞いた人もいらっしゃるはず。「ありがたい」「お陰様で」「もったいない」この三つの言葉が日本人の心の背骨です。

真鍋 高田都耶子さんに出ていただいた「百期百会」も2号に渡って掲載しました。お父様の残した言葉をみなさんに伝える役目をしっかりとお務めになられて、ご本人も東大寺で受戒・得度されて「華聖(けしょう)」の法名を受けています。 名師の教えは、あたりまえのことをあたりまえのようにおっしゃっていて、特に難しい話ではないんです。今回フルコースをつくるにあたってあらためていいなと思い、《デザート》に入れました。

ごちそうさまトーク プライベートは痛快時代小説好き

書店ナビ 続けて真鍋さんがもうひとつ考えてくださった「頭の芯の疲れがとれる痛快時代小説」フルコースをご紹介します。

前菜

『天の梯 みをつくし料理帖』 高田郁  角川春樹事務所 「澪の一生懸命さと周りの人々のなんと魅力的なことか。ハッピーエンド万歳」

スープ

『待ち伏せ街道ー蓬莱屋帳外控』 志水辰夫  新潮社 「シミタツ節が江戸時代に出現。かっこよすぎだろう。シリーズ3作目、ますます快調」

魚料理

『千両かんばん』 山本一力  新潮社 「職人の職人らしい生き様。この人の作品にはどれも人情がちりばめられ、読ませてくれます」

肉料理

『旅立ノ朝ー居眠り磐音江戸双紙(51)』 佐伯泰英  双葉社 「大河小説がとうとう完結。磐音も素敵だが、酔いどれ小藤治も魅力的なじいさん」

デザート

『夜鳴きめし屋』    宇江佐真理  光文社  「『ひょうたん』の続編。「深夜食堂」の原型?著者の宇江佐さんが亡くなったのは今世紀最大の損失」 

書店ナビ こちらも面白そうなフルコース、ありがとうございました。 最後にまた『悠悠と。』に話を戻しますが、真鍋さんが100号まで続けてこられた原動力は何でしょうか。
真鍋 「人の役に立つ、元気になる」情報を発信したいという思いもありますが、根っこはやはり、僕自身がやっていて「面白い」から。 憧れの女優である倍賞千恵子さんや故・三笠宮家寛仁親王殿下に直接会ってお話をうかがうなんて、この仕事をしていないと到底望めないこと。 苦労がないとは言いませんが喜びのほうが大きく、読者や協力者の皆さんに支えていただいて、ここまで来れたことに心から感謝しています。 もともと出版業界出身ではないので"プロがやらないことをやる"精神で、これからも自分や読者の皆さんが知りたいことを追いかけていきたいです。

"ヒゲの殿下"の愛称で親しまれた三笠宮家寛仁親王殿下にご登場いただいた「百期百会」は4号連載の特別編。

書店ナビ 人生の先輩たちの知恵と経験が詰まった『悠悠と。』の足跡をたどるフルコース、ごちそうさまでした!
●真鍋康利さん  大阪府大阪市出身。北海道大学水産学部卒業。自動車関連会社を退職後、1999年に地域生活情報誌『悠悠と。』発刊のため、株式会社エヴァナムを設立。記事・編集担当の澤田良一さんとともに隔月(奇数月)20日発行を継続中。発行は1日たりとも遅れたことがなく、増ページの100号を除いて44ページのボリュームを毎号守りぬいている。 株式会社エヴァナム http://evanam.jp/  『悠悠と。』は年刊定期購読がおすすめです。 年間定期購読1,600円(年間6冊、送料・税込) 講読希望の方は 電話011-522-2710 携帯電話090-9082-6556(真鍋) FAX011-522-2711 またはyuyu@evanam.jpまで。
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