おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第271回 北海道医療大学 薬用植物園・北方系生態観察園 准教授 堀田 清さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が 腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.47 北海道医療大学 薬用植物園・北方系生態観察園 准教授 堀田 清さん

薬用植物学と漢方を使った病気予防研究がご専門の堀田さん。

[本日のフルコース]
植物の力に魅せられた研究者がセレクト 「心と体の邪気を退散!免疫力向上本」フルコース

[2016.5.2]

書店ナビ はじめに選者である堀田さんについて簡単にご紹介します。 堀田さんは浦河町のお生まれで、もとは有機化学の分野で研究をされていましたが、36歳のときに薬用植物学・生薬学の奥深さに開眼。以降は「フラスコを全部捨てて」漢方の世界に軸足を置き、さまざまな野山に足を運んでは植物の姿をとらえてきました。 現在は、当別にある北海道医療大学の薬用植物園・北方系生態観察園の保存管理を任され、年4回一般市民を受け入れる見学会なども行っています。 写真の腕も玄人はだしの腕前で、写真エッセイ集『植物エネルギー ~北方系生態観察園の四季~』(北海道新聞社)や『びふか松山湿原の植物エネルギー』(植物エネルギー)を出版。2016年現在、次の写真集出版の準備も進んでいます。
堀田 はじめは薬用植物を覚えようと思って始めた撮影でしたが、撮り始めると今まで見たこともない植物の表情が見えてきて、すっかり夢中になりました。それにね、植物を撮っているといつも笑顔でいられるんです。僕にとってはカメラが"心の漢方薬"のようなもの。植物を撮りながら、大地の生命エネルギーをもらっています。

フィルムをミニボトルにいれたストラップ。「"これを持っていると元気になる"と言ってくれるがん患者さんもいます」

書店ナビ それでは免疫向上本のフルコース、解説をお願いします!
[本日のフルコース]
植物の力に魅せられた研究者がセレクト 「心と体の邪気を退散!免疫力向上本」フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

ニンジンの奇跡 赤峰勝人  講談社 お百姓さん一筋で生きてきた赤峰さんが、畑から学んだ病気にならない生き方!本の前半では完全無農薬農作物栽培法を完成させるまでの道のりが綴られ、私たちが毎日口から摂取する地球の恵みである食材の大切さと、西洋医学に頼らない病気予防方法を分かりやすく解説しています。

書店ナビ 「絶対不可能」といわれた無農薬リンゴ栽培に成功した青森県の農家木村秋則さんの『奇跡のリンゴ』は知っていましたが、こちらは大分県の野菜農家、赤峰さんのニンジンのお話なんですね。
堀田 ニンジンだけではありませんが、無農薬、無化学肥料の循環農法でつながる「なずなの会」をやっておられる方で、僕も講演会を聞きに行ったことがあります。 本書の中で一番納得したのは「傲慢」という漢字に関するくだりで、「人(にんべん)」が「土」から「放」れると書いて「傲」になる。これには「なるほど!」と思わず膝を打つ思いでした。 人間が土のことを思い出せなくなっている現代は、心と体の健康を損なっている人がとても多いでしょう。そうならないためにも、土を大切にする原点をこの本で思い出してほしいです。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

初めて読む人のための素問ハンドブック  池田政一  医道の日本社 漢方における病気予防の極意は「心身一如」=「心が元気なら体も健康!」です。具体的には「自然と調和」して、口、目、耳、鼻、肌から旬の感動を取り入れ、笑顔になるということ。漢方三大古典の1つ「黄帝内経(こうていだいけい)」・「素問(そもん)」にはそのことが詳しく書かれており、本書はそれを非常にわかりやすく解説しています。

書店ナビ 「漢方に興味はあるけれど勉強するのは難しそう」と尻込みしている人は案外多いと思います。
堀田 いやいや、全然難しく考える必要はないんですよ。風邪を引いたとか、足が痛いとか体の元気は傍目にもわかりますが、でも「自分の心の元気は誰が判断するの?」と考えたときに目安となってくれるのが陰陽五行なんだ、くらいに考えてくれればいいと思います。 「いま酸っぱいものが食べたいということは、こういう気持ちなんだ」とか、自分のことがよくわかるようになりますよ。

五臓の色体表。四季や感情、弱っている体の部位などすべての関連性が見えてくる。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

アナスタシア   ウラジミール・メグレ  ナチュラルスピリット ソ連のペレストロイカ後、お金と物欲に生きてきた著者がタイガの森の中で自立して生きるアナスタシアから、人間本来の笑顔で平和かつ健康的な生き方を学んでいく。主人公のアナスタシアは、漢方の説く病気予防の極意「自然と調和する」を具現化したような存在です。

書店ナビ 一瞬「ファンタジー小説なのかな?」と勘違いしてしまうような不思議なお話ですが、著者のメグレさんが出会ったシベリアの森で暮らすアナスタシアさんの生き方は、世界中の人々に影響を与えているんですね。
堀田 ロシア語の原書は10巻まであり、日本語は現在5巻目まで出版されています。 僕はね、この本をどう思うかは読んだ人の心持ち次第だと思うので、内容についての議論には興味がなくて、ただ自分だったら「こうありたいな」と思うだけ。 僕が常日頃大切に思っている大地の生命エネルギー、すなわち「気」はどこからくるのかといったらそれは間違いなく太陽からだろう、と。その太陽の光を受け入れる重要な存在が、光合成のはたらきを持つ植物であり、僕らは植物エネルギーから元気をもらっている。アナスタシアさんはまさにそんな生き方を実践している人だと思います。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

東京ブラックアウト 若杉冽  講談社 東京大学法学部卒の現役官僚が出版した書。漢方では宇宙全体が陰陽の力で成り立っていると説いている。当然人間世界もそう! 平和で争い事が無くなることを願う人たちを「陽」とするならば、その逆を進む人たちは「陰」。陽の人間は陰の存在を知り、その存在を認めたうえで光を目指す。陰の世界に生きる人たちを知る本としてはすばらしい教科書だ!

書店ナビ ジャンルとしては、前作の『原発ホワイトアウト』と並んで、有事のときの政治経済界の黒い策謀を描いた"告発ノベル"です。
堀田 自然農法や自然エネルギーを支持している人たちって、一般に心やさしい人たちが多いでしょう。だからきっと、この本に出てくる登場人物たちの行動原理なんて思いも寄らないだろうし、「なんでそんなことを!」と驚くばかりだと思う。 でもやっぱり実現したい社会を目指すには、そういう黒い人たちのことも知らないと(笑)。楽しくない内容ですが、おおいに勉強になります。

2007年には北海道医療大学発のベンチャー企業、株式会社植物エネルギーを設立。有機JAS認定農場で育ったダイコン葉エキスが入った手作りせっけん「すずしろの花」を開発、製造販売している。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

北海道の湿原 辻井達一・高田雅之・岡田操編集   北海道新聞社 「地球上から植物たちがいなくなったら人間はだれも生きてはいけない」とは、科学で証明するまでもない絶対真理です。ですから植物豊かな大地には、心も体も元気な人が多く、争い事も少ない! 北半球で最も豊かな自然が残る大地である北海道のことを知る本としてお勧めです。

書店ナビ 北海道新聞の連載を一冊にまとめた2007年発刊の科学読み物です。釧路湿原やサロベツ原野、オホーツク海沿岸や道東の湿原、雨竜沼、大雪山系など道内の湿原の特徴を18人の執筆陣が解説しています。
堀田 それからこの本には、北海道の湿原開発のことも書かれているところがとてもいい。その昔、石狩平野に広がっていた豊かな湿原がさまざまな国土開発を経て姿を消していく…先人の葛藤やご苦労が心に沁みます。

ごちそうさまトーク 襟裳岬灯台のような人になりたい

書店ナビ 今回の5冊は一般的な健康書とはひと味違う切り口の免疫向上本でした。ちなみに堀田さんがいつもニコニコ、お元気でいられる秘訣はなんでしょうか。
堀田 僕も人間ですからイヤな思いをすることはありますが、基本はそういう負の感情をため込まず、執着しない。 ほら、よく会話で「はけ口にされた」と思うことあるでしょう。やさしい人ほどその対象になりやすい。そういうときは会話を自分から打ち切ること。「じゃっ!」と言って、すぱっと挨拶してその場を去る。「じゃっ」は「邪っ」だから(笑)。その場で負の感情を捨ててくると、さっぱりしますよ。 あとね、僕、襟裳(えりも)岬が大好きなんです。でね、僕も襟裳岬灯台のように闇の中でも遠くから光って見える、そんな灯台のような人間になれたらいいなと思っているんです。 この世から闇はなくならないけど、だからこそ光は必要ですからね。
書店ナビ 光と闇、陰陽のなかでしっかりと自分の心と体を見つめ、整えていくためのフルコース、ごちそうさまでした!
●堀田さんの活動がすべてわかるサイトはこちら! ココロもカラダも元気になる!「元気の種」 http://www.hoku-iryo-u.ac.jp/~maruho/index.html
2015年5月から北海道書店ナビは書店員さんや編集者の方にお願いしています、「お好きなフルコースを作ってみませんか?」と。素材はもちろん皆さんが愛する本を使って。 《前菜》となる入門書から《デザート》として余韻を楽しむ一冊まで、フルコースの組み立て方もご本人次第。 読者の皆さまに、ひとつのテーマをたっぷりと味わいつくせる読書の喜びを提供します。
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