室蘭出身の造形作家・山里稔さん。在野研究者の顔も持ち、木彫り熊に関する著書もある。新刊の主役はなんと「煙突」! 札幌市内のアトリエを訪ねた。
[新刊紹介]
煙突でふりかえる北国の生活文化
山里稔さんの自費出版『煙突の記録』が完成!
[2024.09.16]
石炭やコークス…北国の暖や工業を支えた煙突に着目
東京で国際見本市会場の制作を手がけ、TV CM制作会社に勤めた後、札幌へUターン。北海道美術学校卒業後、作品制作と並行して環境デザインの仕事に取り組んだ。
「木彫り熊」から「煙突」へーー。
2021年に『熊から造形へ 木彫り熊 未知なるコトで独り言』(熊学舎)を自費出版した札幌の造形作家・山里稔さんが、2024年9月1日、新刊を発表した。
タイトルは『煙突の記録 時代を彩った煙突の痕跡とその物語』。なぜ「煙突」だったのか、3年ぶりにお話をうかがった。
山里さんが立ち上げた熊学舎から出版された『熊から造形へ』と新刊の『煙突の記録』。A4変形・156ページの『煙突の記録』は本体2700円(税別)。
書店ナビ:この度は新刊発売おめでとうございます。前作はかつて北海道土産の代名詞であった木彫りの熊をめぐる本でしたが、今度の主役は煙突。いつ頃から構想されていたのでしょうか。
山里:20代のとき、東京から札幌に戻り企画やデザインの経験を積んだ後、環境デザイン会社を任されました。 友人に北海道デザイン協議会へ推薦され、会員仲間から「環境デザインの視点で北海道の文化についてレクチャーしてくれないか」と依頼があり、そこで考えついたテーマが煙突でした。
私がものごころついた頃は戦後の時代です。それに生まれが工業地帯で知られる室蘭ですから、私が住んでいた国鉄官舎の側には煙突から煙を吐き出している日本製鋼所や富士製鐵の工場があり、細長い社宅の屋根から何本もの煙突がつき出ている住宅と並んで、それらがあたりまえの光景でした。
個人宅や校舎などでも当時は冬になれば、生活状況に応じて石炭やコークス、薪、おがくずなどの燃料ストーブを使って暖をとっていたことを思うと、煙突を通して北国である北海道の生活文化を見つめ直すことができるのではないか。
そう思って道内各地の煙突の写真を撮り始めたのです。それが1960年代後半のことでした。
それでなんとかレクチャーを終えて、たくさん撮ったスライドや資料もしばらく寝かせていたのですが、ここ数年のコロナ禍で在宅時間が増え、年齢的なことも考えて身の回りを整理し始めたところ、この煙突資料が出てきたものですから。それを改めてまとめてみようかと。
書店ナビ:2021年に出版された木彫り熊の研究書『熊から造形へ』のほうが、煙突を飛び越して先に出来上がったんですね。
山里:熊のほうは2004年に亡くなった父親の遺品を整理していたときに、父親が退職記念にもらった立派な木彫り熊が出てきたのがきっかけでした。
煙突は木彫り熊よりもずっと前から調べていたテーマなのです。
撮り下ろしも加えて460点、道東を残した理由とは?
掲載写真点数は460点。さまざまな煙突が登場し、建築の知識がなくても楽しめる。
書店ナビ:460点の画像は全て山里さんが撮影したものですか?
山里:残っていたスライドをデジタルに変換したものもありますが、撮り下ろしを加えたり、自治体や施設から貸し出していただいたものもあります。
もう一度見に行ったらなくなっていた建物は昔のスライドを使い、古い建物が今も残っている小樽や函館にはもう一度撮影取材を行いました。
書店ナビ:膨大な量の画像ですが、それぞれに著作権表示がもれなく掲載されていて、公明正大な本づくりが徹底されていると感じました。
山里:若い人たちに「本て、こうやって作るものなのか」と思ってもらえるようなものを、私たちの世代が手間ひまをかけてやらないと。 特にこれからはAIの時代になり、著作権の線引きがますます曖昧になってきますから。著者の権利や思考をないがしろにしない出版文化がこれからも続いてほしいです。
書店ナビ:本書が網羅している地域は、道内のどのエリアですか?
山里:北海道の上のほうは留萌市や増毛町、旭川市で、あとは岩見沢市、三笠市、美唄市、夕張市などの空知方面、札幌市、小樽市、室蘭市。道南は函館市です。
帯広や道東方面にも、もちろん良い建物はいっぱいありますが、そこはあえて残すようにして「面白そうだから自分も掘り下げてみたい」と思ってくれる人たちに託そうかなと。
なんでも自分ひとりでやってしまうと、せっかく光が当たったテーマに膨らみが生まれづらい。煙突も木彫りの熊も、北海道の文化です。興味を持った方にどんどん展開していってほしいですね。
画像から再燃する故郷の思い出、心を豊かにする北海道土産に
「ここ知ってる!」と見覚えのある建物で盛り上がるが、同時に日頃まじまじと煙突を見ていなかったことにも気づかされる。
書店ナビ:掲載されている建物は公共施設や校舎、駅舎、歴史的建造物、集合住宅、個人宅、工場、商店や飲食店・美容室、銭湯、教会などなんでもあり!煙突をテーマにすると、これら全ての建物を横断できるのかと驚きでした。
山里:載っていない建物は、お寺くらいでしょうか。工場の写真集などはみなさんも見たことがあるでしょうが、煙突に特化した写真集、しかもそこに北海道の生活文化をひもづけた本はおそらく他にないと思います。
書店ナビ:文章もレイアウトも全て山里さんが手がけられたとか。
山里:できるだけ文章を少なく、話題も煙突から広げすぎないようにして、視覚言語としての煙突を自由に読み取ってもらうことを念頭に置きました。
建築の専門家の方でしたら建築的な視点で考察することもできるでしょうし、一般の方は純粋に昭和の子ども時代を思い出すかもしれません。
うちも煙突ストーブの思い出といったら、冬に朝起きて朝食ができるまでの間、男兄弟たちは寒いからストーブを囲んでじっと立って待っている。そんな姿がよみがえってきます。
アトリエに並ぶ山里作品。「本づくりも作品づくりと同じで、やり始めたらキリがない。夢中になって楽しみました」
書店ナビ:北海道出身者や住んだことがある道外在住の方にも見てほしいですね。
山里:東京や神奈川、京都に長年住んでいる道産子の友人たちからは「これを見ているとやっぱり自分は北海道人だと実感した」という感想をもらいました。
北海道の人は本州の人たちによく菓子折りを持っていくでしょう。もちろん、おいしいお菓子もおなかがくちて喜んでもらえるけれど、これからは心を豊かにする北海道土産としてこの本のことも覚えてもらえたらうれしいです。
北海道らしい良い建物が依然、各地に現存しています。
それらを残すためにも、まずは知ってもらいたい。そんな願いも込めました。
書店ナビ:木彫り熊も煙突も、普段は見過ごされているような存在に北海道文化の水脈を見出す山里さんの視点に、毎回感服しています。
2024年9月1日に発売された『煙突の記録 時代を彩った煙突の痕跡とその物語』(熊学舎)、取り扱いたいという方はぜひ熊学舎さんまでご一報ください。
『煙突の記録 時代を彩った煙突の痕跡とその物語』の購入方法
熊学舎から直接購入
お申し込みE-mail : booksjagon138@gmail.com
販売店一覧
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マリヤ手芸店 店頭販売とYahoo!ショップもあり
北海道札幌市中央区北1条西3丁目3-17 時計台前仲通
TEL 011-221-3307 -
ギャラリー犬養
札幌市豊平区豊平3条1丁目1-12 TEL 011-813-0515 目3-17 時計台前仲通 -
TO OV cafe(ト・オン・カフェ )/ gallery
北海道札幌市中央区南9条西3丁目2-1 TEL 011-299-6380 -
円錐書店 店頭販売とオンライン販売「日本の古本屋 円錐書店」もあり
北海道札幌市中央区南9条西3丁目2-1 TEL 011-299-6380
https://www.kosho.or.jp/abouts/?id=1000600 -
CAFÉ ESQUISSE ESQUISSE(カフェ エスキス)
北海道札幌市中央区北1条西23丁目1-1 TEL 011-615-2334