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第347回 北海道ブックフェス関連レポート●九州・福岡「ブックスキューブリック」大井さんトーク

北海道江別市美唄市で行われた大井さんのトークイベントに密着!

[イベントレポート]北海道ブックフェス&アルテ(本)(屋)の学校 ブックスキューブリック大井実さんのお話を聞く

[2017.10.23]

まちを元気にする「ローカルブックストア」店主をご招待

毎年9月、全道でさまざまなブックイベントが開催される「北海道ブックフェス」。2017年9月も盛況のうちに終了しました。
なかでも話題を集めたゲストが、福岡市で新刊書店「ブックスキューブリック」を営む大井実さんです。
9月22日に江別市で、23日はアルテピアッツァ美唄主催で大井さんのトークイベントが行われ、書店経営からまちの文化発信にいたるまでの熱いお話が大好評!
北海道書店ナビも両日に密着し、フルコース取材にも貴重なお時間をいただきました。
今回は、江別・美唄トークレポートをお送りします!

今年1月に「大好きな出版社」である晶文社から著書『ローカルブックストアである 福岡ブックスキューブリック』を上梓した大井さん

江別市大麻座商店街にある夜間営業の実験書店「ブックバード」2階で行われたトークイベント「福岡×北海道 本とまちの未来」は、対談企画。
ブックバード店主であり、北海道の読書環境を整備する一般社団法人北海道ブックシェアリング代表理事の荒井宏明さんが、地元ゲストとして大井さんを迎えました。

●北海道ブックシェアリング代表の荒井宏明さんが作った
「図書館をもっと楽しむための本」フルコースはこちら!
http://www.core-nt.co.jp/syoten_nav/archives/8438

●荒井さんが経営する「実験書店ブックバード & 走る本屋さん」紹介記事はこちら!
http://www.core-nt.co.jp/syoten_nav/archives/9422

北海道と九州という日本の両端で、本の力でまちを元気にする活動に取り組むお二人の話を聞きたいと道内各地から参加者が集まりました。

SF映画の金字塔にちなんで命名、「本屋の旅」が始まった

大井さんは1961年福岡市生まれ。同志社大学卒業後、「文化的な仕事に就きたい」と思い描き、東京でファッション関連の仕事に従事。
その後、憧れの地だったイタリア滞在で流行や過度な商業主義にとらわれない暮らしかたに感銘を受け、地方都市に根づいた個人書店の開業を決意。
老舗の書店でノウハウをを学んだのち、2001年に地元福岡市のけやき通りで15坪の「ブックスキューブリック」を開店しました。

店名は映画監督スタンリー・キューブリックの傑作『2001年宇宙の旅』から。
「本という媒体も(著者が描く)宇宙のようなもの。私も2001年から本屋の旅を始めるという意味で、キューブリックと付けました。
それにキューブリック監督は、映画をヒットさせる"商売"とつくりたいものを撮る"こだわり"の両立が非常にうまかったひと。そこにあやかりたい思いもあって、この名前にしました」と明かしてくれました。

さらに2017年9月13日には同じく福岡市内の人気店manu coffeeとのコラボショップ「COFFEE & BOOKS」をオープン。コーヒーを一杯200円から提供し、キューブリック選書による2000冊を自由に閲覧できるという、なんともうらやましい空間が誕生したばかりだそうです。

けやき通り店は吉田修一原作の映画『悪人』のロケにも使われた。「主演の妻夫木くんが来るから、といって休みのスタッフに出てきてもらいましたが、妻夫木くんが出ない場面でした」

福岡では「ブックオカ」、江別では「ブックストリート」

2006年から大井さんは地元出版社等の仲間とともに、毎年秋に福岡市内で古本市を軸とするブックフェス「ブックオカ」を継続しています。
「ブック×フクオカ」でブックオカ、「福岡を本の街に」という試みです。

トーク会場となった江別市座商店街も毎月最終土曜に古本市イベント「ブックストリート」を開催し、シャッター街が徐々に活気を取り戻しています。
一書店ではできないことも編集者やデザイナーなど「一芸がある仲間」が集まれば小さなうねりになっていく。九州と北海道の事例が交わされました。

ブックオカはいまでは6000人規模を集客する一大イベントに成長した。

対談相手の荒井さんが代表を務める北海道ブックシェアリングの活動目標は、「書店ゼロ自治体」が58カ所という全国ワースト1の北海道の読書環境を整備すること。地域によっては図書館貸出冊数に8倍も差があるといいます。

「大人はとかく"うちの地域の子どもたちは本を読まない"と嘆きがちですが、それは子どもたちが気軽に本と触れ合う場がないから」と指摘し、走る本屋さん「やまびこ号」に乗り、西興部(にしおこっぺ)村などの書店ゼロ自治体をまわっています。
「子どもたちの読書意欲に地域差はありません。どこも同じ。皆、本を読みたがっているんです」

東日本大震災後の読書会で読まれた不滅のロングセラー

続けて荒井さんが「本には人が自立できるように調律する力がある。ひとは本の力を簡単に手放すべきではない」と述べると、大井さんも大きくうなずき、持参した本のなかから一冊取り出しました。 それは精神科医ヴィクトール・E・フランクルの名著『夜と霧』でした。

『夜と霧 新版』
ヴィクトール・E・フランクル  みすず書房

ユダヤ精神分析学者がみずからのナチス強制収容所体験をつづった世界的なロングセラー。原著の初版は1947年、日本語版の初版は1956年。その後著者は1977年に新たに手を加えた改訂版を出版。2002年に日本で出版された新版の翻訳が本書にあたる。


この本を見た荒井さんが、驚きの表情を見せました。
というのも東日本大震災以降、陸前高田市立図書館の再建にも尽力した北海道ブックシェアリングでしたが、震災後に行われた同図書館の読書会で、この『夜と霧』が対象本に選ばれたというのです。
アウシュビッツ収容所での過酷な労働や被収容者が死に至る描写があるこの本を、まだ震災の記憶も新しい被災者の方々が読むと知って驚きましたが、聞けば読書会後、"読んで気持ちがラクになった"という声が圧倒的に多かったそうです」

こうした背景には、大井さんが指摘する本書の後半に理由があるようでした。
「人はなぜ生きているのか、(生き残った)自分に課せられた人生の意味について考えさせられる後半の盛り上がりに、読んだ人の心が揺さぶられるのではないでしょうか」

「まるでローリング・ストーンズのように」結末に向かって一気に昂揚していくこの古典的名著は、キューブリックの読書会でも取り上げられ、誰もが決まってあるフレーズに胸をうたれるそうです。
それはどんな一文なのか、私たちもぜひとも"自力で"確かめることにいたしましょう。

札幌や江別、伊達、帯広など各地から集まった参加者たち

「福岡×北海道 本とまちの未来」に参加した方々に感想をうかがいました。

●札幌から参加の女性

まずは大人が本にワクワクする環境づくりから

JPIC読書アドバイザーの資格を持っています。大井さんが話されていたように、メディアで書店が取り上げられるときはいつも、あまりいい話を聞かないので、「本とまちの未来」というタイトルが気になって参加しました。

ですが、荒井さんの「子どもたちの読書意欲はどこも同じ」という話や、キューブリックさんのイベントの成果を聞いていると、まだまだいろいろな打ち出し方があるとワクワクしてきました。

本のイベントというと、一部の人だけが盛り上がっているような印象を受けるので、たまにもっと間口を広くしたものがあってもいいように感じました。 子どもたちのためにも、本や読書に対して大人がもっとワクワクできる場が増えることが大切だと気づかされました。

●帯広から参加した山崎美華さん

「自分のまちで本を使って何ができる?」考えるきっかけに

ブックコーディネーターの尾崎さんを通してこのイベントを知りました。今年から会社で出版事業を始めたので、本に関わる方々のお話が聞きたいと思い、帯広より参加しました。

各自治体の読書環境を整備している荒井さん。「読書がその街で花開くのは50年以上かかると思っている」という先を見据えた一言が印象に残りました。
「(夜間営業の)ブックバードも私自身の人生も実験の連続です!」というくだりは、私の会社もまさに実験の真っ最中だと重ねながら聞いていました。

本の販売・営業をしていると、本と場所がマッチングすることでどちらもより輝く相乗効果に気づきます。今日のお話を聞いて「本はどんどん本屋を飛び出すべきだ!」という思いがますます強くなりました。
自分のまちでも本を使って何ができるかな?と考えるきっかけをくれたイベントでした。
まずは2020年の白老町「民族共生象徴空間」設立に合わせ、自社本『十勝のアイヌ伝説~豊かな大地~』の周知活動に活かせたらと思います。
ブックバードさん、またいつか来たいです!

左から司会進行の北海道ブックフェス実行委員長尾崎実帆子さん、大井さん、荒井さん

イタリアで安田侃と出会い、20年ぶりのアルテ里帰り

大井さんの2日目のトークイベントは、江別から美唄市に移動。
現在、市内に単独書店がない美唄市で、しかもなぜ安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄トークイベントが?
その答えは大井さんの著書『ローカルブックストアである 福岡ブックスキューブリック』に書かれていました。

1990年、東京でのバブル景気も後半の頃、ファッションやイベント業界に身を置く喧噪的な生活に違和感を覚え始めていた大井さんは思いきって会社を退職。将来を探るためにも、憧れの地イタリアに足を向けました。
そこで知人を介してピエトラサンタに工房を構える彫刻家、安田侃氏と出会い、「悠久の時間をかけて生み出された石をコツコツと彫って巨大な彫刻を作るなどというスケールの大きい仕事」にカルチャーショックを受けたと述懐しています。

以降、日本に戻ってから3年半、大井さんは安田氏の制作プロジェクトをサポート。現マネージャーである安田琢さん曰く「僕の大先輩」という間柄だったのです!

大井さんが関わった初めての安田侃展覧会、1991年にミラノで開かれた「彫刻の道」展のポスター、パンフレット。「まちと人、彫刻が一体化した夢のような空間でした」

こうした長年の縁と北海道ブックフェス関係者との人脈がつながり、2017年9月にアルテピアッツァ美唄が企画する「アルテ○○の学校」第11回○○は、(本)(屋)が実現。当地を約20年ぶりに訪れた大井さんの"アルテ里帰り"ともなるトークイベントが開催されたのでした。

「アルテ○○の学校」は、「誰もが参加できる、小さな発見の場」として毎回異なるテーマのゲストを招くトークイベント。これまで「湿地(しめっち)」や「古民家」など多彩なテーマの学校が開催されている。

芸術広場とキューブリックに等しく流れるDNAとは

自己紹介を終えたあと、大井さんは「安田さんから学んだこと」として次のように述べました。

「94年のイギリス・ヨークシャーで行った野外展覧会の準備のときです。当時はまだパソコンもない時代でしたが、会場の拡大写真とそこに置く彫刻のミニチュアだけで安田さんの頭の中にはもうイメージが膨らみ、当日の画(え)が見えていた。
この『イメージ喚起力』は、我々のような一般人にもことを進めるにあたって非常に有効な力になると感じました。
私も開業前に、どこに何を置いてどういう本屋にしようかという心躍るイメージを確かなものにしていきました。実際、開店後は大きな変更もなく、思い通りの店に仕上がっています」

窓の外には安田侃彫刻が静かにたたずむ。アルテピアッツァ美唄のストゥディオ アルテに約30名の参加者が集まった。

「アルテ○○の学校」やコンサートなど各種イベントを開催し、美唄が誇る文化発信拠点となっているアルテピアッツァ美唄と、福岡の文化・コミュニティスペースとして定着・拡大し続けているブックスキューブリック

「本屋は地域の縁をつなぐ文化インフラ。アートは体験することが大切なように、書店が提供する本との出会いも豊かな人生には必要不可欠なもの。
いま自分たち書店は少数派ですが、絶対に必要な存在であると声を大にして言い続けていきたいです」

そう語る大井さんのことばに、トーク進行役の安田琢さんもあとを続けます。

アルテピアッツァとは芸術広場の意味。文化的な側面を含めいろんなことの窓口となる『広場』の役割を、この場所は担っています。
そういう意味では大井さんがやっていることも、僕たちアルテがやっていることも同じDNAを持っている。今日はそのことを再確認できてうれしかったです」

2日間にわたる北海道でのトークイベントの最後を、大井さんはイタリアのジャーナリストであり児童文学作家であるジャンニ・ロダーリ(1920年~1980年)のことばで締めくくりました。
第二次世界大戦の徴兵を病身で免れたロダーリは、身内の収容所行きや親友の死を経験し、レジスタンス運動に参加したと言われています。

「みんなに本を読んでもらいたい、
文学者や詩人になるためではなく、
もうだれも奴隷にならないように」

トーク後の著書サインにも列ができ、ひとりひとりと丁寧に話し込む大井さんの情熱は、伝播する特性がひときわ強いようです。
今後北海道から福岡のブックスキューブリックを訪れる人々がさらに増える予感がしたアルテピアッツァ美唄の9月でした。