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第492回 ブックフェスタ・ジャパン2020オンラインフォーラムレポート

ブックフェスタ・ジャパン2020  「北海道『本』事情」オンラインフォーラム レポート

北海道のキーパーソンのトークを千歳からライブ配信

大阪の小さなオフィスビルから始まった「まちライブラリー」は、森記念財団に所属し、大阪府立大学観光産業戦略研究所の客員研究員である礒井純充氏が2011年に個人的に提唱した私設図書館プロジェクト。
自宅でも始められる気軽さから全国に広がり、現在の開館数は約800カ所。
「個人でも地域社会の主役になれるという挑戦」(礒井氏)であり、本を媒介に地域の人々がつながるコミュニティスポットのような役割を果たしている。

まちライブラリー

machi-library.org

北海道には2020年10月現在14件。できた順に自治体名をあげると、札幌市、池田町、千歳市、旭川市、沼田町、登別市、釧路市、白老町、北広島市。各地の個人宅や病院、床屋など、さまざまな場所でまちライブラリーが展開されている。

まちライブラリー関係者が年に一度集うイベント「ブックフェスタ・ジャパン」は2015年から始まり、今年は新型コロナの影響を受けてオンライン・トークイベントを多数企画。
北海道は毎年9月にブックコーディネーターの尾崎実帆子さんが実行委員長を務める「北海道ブックフェス」が開催されていることもあり、10月4日に連携企画としてオンラインフォーラムがライブ配信された。

発信拠点は、日本で一番広いまちライブラリーである「まちライブラリー@千歳タウンプラザ」。同ライブラリーの長尾利華マネージャーを進行役に、提唱者の礒井さん、北海道ブックフェスの尾崎さん、そして一般社団法人北海道ブックシェアリング代表の荒井宏明さんがZoom画面に登場し、現在進行形で続いている北海道の本に関する取り組みを語った。

次代の読み手を育てる北海道ブックシェアリング

北海道書店ナビにも何度も登場していただいた一般社団法人北海道ブックシェアリング(以下、ブックシェアリング)は、2020年で活動13年目。
2020年9月にはNPO法人知的資源イニシアティブ(IRI)が毎年授与する「Library of the Year」のライブラリアン賞を受賞。
IRIが公式サイトで発表した授賞理由を読めば、荒井さんたちの献身的な活動内容がよくわかる。

ライブラリアンシップ賞2020 北海道ブックシェアリング 授賞理由

 北海道は、その地理的条件や厳しい経済・財政状況から、図書館設置率、学校図書館の予算措置率、無書店自治体数などがいずれも全国ワーストレベルにあるが、北海道ブックシェアリングは、その読書環境を少しでも改善するべく活動してきた一般社団法人である。2018年の胆振東部地震では、被災地にいち早く入り、図書館復興の先頭に立ったこと、書店のない地域に行ってブックフェスティバルを開催し、過疎の町の知的ニーズに応えてきたこと、また今年春には学校図書館サポートセンターを開設し、自治体の学校図書館づくりの本格的支援に乗り出したことなど、数々の地域の課題に向き合い、真摯に地道で戦略的な努力を重ねてきたことを評価した。

第482回 北海道学校図書館づくりサポートセンター

www.syoten-navi.com

道内179自治体の半数近くをまわったことがあるという荒井さんは、「昭和37年の百科事典がいまだに買い替えられていないところもあった」学校図書館の厳しい現状を目の当たりにし、読書環境整備の必要性を痛感。
「北海道の小中学生の読書意欲は決して低くありません。"うちのまちの子どもたちは本を読まない"というのは、怠惰な大人の言いぶんに過ぎない。すべてはこれからの読み手となる子どもたちのために」フットワークを活かして走り続けている。

ブックシェアリングの運営資金は、主に寄付金とバザーの売上から成り立っており、組織の独立性を保っているところも注目に値する。
2011年の東日本大震災や2018年の北海道胆振東部地震などの有事に率先して現地の図書館を支援するなど「使いたいときに使いたい額を自分たちの意志で決めることができる」ところも、活動継続のモチベーションになっているようだ。

だが広大な北海道に対して常駐スタッフは2名。荒井さんも認める「力不足」を熱心なボランティアメンバーや支援者たちがカバーしながらともに歩んできた13年間は、「ひとの思いがつながった」道のりでもある。
全国でも同じような団体は見当たらないオンリーワンの活動で、北海道の読書環境を切りひらく。

北海道の広さに有効なワンデイブックス・オンライン化

続けて「北海道ブックフェス」実行委員長の尾崎実帆子さんが登場。今年10年目の節目を迎えたフェスの歩みを振り返った。
2010年11月の第一回目は「札幌ブックフェス」の名称で始まった同フェスは、「まちで"本"と遊ぶ」がコンセプト。
2014年から「北海道ブックフェス」に名称変更し、道内各地で展開されるようになった現在も、「本のチカラで街ににぎわいをもたらそう」というミッションに変わりはないという。

北海道ブックフェス

hokkaidobookfes.wixsite.com

開催月は毎年9月。レギュラー企画である古本市「ワンデイブックス」と書店以外のカフェや店舗でオーナーの好みの本を並べてもらう「ミセナカ書店」のほかに、朗読会やビブリオバトル、ゲストトークなど大小さまざまなイベントが開催されてきた。

ブックシェアリング同様、北海道ブックフェスの実行委員は尾崎さんと初代実行委員長の堀直人さんの2人のみ。
これまで斜里町や帯広市、函館市などの各地で行われた関連イベントはすべて地元の有志が発案したものだ。
「私たちから"これをやりませんか?"とお願いしたことは一度もなくて、北海道ブックフェスという枠組みだけを提供して、あとは主催者さんたちのやり方にお任せしています」
この北海道らしい"放任主義"によって、まちごとにカラーの異なるイベントが立ち上がり、尾崎さんたちも現地を訪れる「ブックツーリズム」を楽しみにしているという。

10年目の今年は「ワンデイブックス・オンライン」を開き、Zoom上で出店者が1人15分の持ち時間でおすすめ本を紹介した。参加者は東京・斜里・帯広・千歳・江別・札幌と各地から集まり、「北海道の広さを考えると、イベントのオンライン化は有効だと実感しました」と語る尾崎さん。
また新たに取り組んだ一般公募企画「みんなでつくる 北海道文学MAP 写真展」は、当初定めた9月末までの締切にこだわることなく、引き続き北海道ゆかりの文学作品に関連する画像を募集し続けたいとも打ち明けた。

「10年の区切りでフェス自体をやめるという選択肢もありましたが、よく考えてみると、別にやめることもないかと(笑)。情報拡散や集客の苦労はありますが、自分の本業のかたわら、できる範囲で楽しくやらせてもらっています」
次の10年の目標に前述の北海道文学MAPの充実も視野に入れながら、「これからも本への愛情を醸成する試みを続けていきたいです」と締めくくった。

北海道ブックシェアリング(江別)、北海道ブックフェス(札幌)に続く3番目の話題は「まちライブラリー@千歳タウンプラザ」。長尾マネージャーが解説した。
2016年12月23日「冬の嵐の中、開館した」まちライブラリー@千歳タウンプラザは、寄贈された蔵書数が現在約2万6000冊。コロナの今年は例外だとしても開館1年目からイベント数が550件、2年目は900件弱、3年目が約770件と、千歳市民が身近に企画・参加できるイベント発信の場に成長している。

全国のまちライブラリーを見てきた礒井氏はまちライブラリー@千歳タウンプラザの特徴として1)中高生の利用が多い(当初は想定していなかったうれしい誤算) 2)協力者たちと意見交換する「サポーター会議」が充実(互いの距離が近い) 3)スタッフ・サポーターたちが千歳のまちの構成員である(暮らす場所と働く場所が同じ)の3つを指摘。

自己紹介動画でも、利用者やスタッフが綴るこの場所の魅力は、「心のオアシスと呼べるところ」「イベントがたくさん」「清潔感&安心感」「おしゃれ」「人と人がつながる場所」と讃える言葉が続き、各自の日常にしっかりと根を下ろしている様子がうかがえた。

礒井×荒井×尾崎クロストーク
「本当のところ、本の力でまちづくりってできますか?」

3団体の自己紹介が終わったあとは、この日長野県蓼科から参加した礒井氏が進行する荒井・尾崎両氏とのクロストーク。

礒井おふたりが10年、13年と活動を続けてこられたモチベーションはなんだと思いますか?

荒井原動力は、(誰でも図書に接することできる環境があるという)"当たり前のこと"を当たり前にしたいという思い。もうひとつはやっぱり、ぼく自身が本が好きなんです。自分が好きなものに関わっているので、いまの活動が自分に合っていると思います。

尾崎私の本業は店舗を持たない本屋兼ブックコーディネーターで、ブックフェスをやるといつも新しい発見があり、本に対する思いがより強くなる。ゲストの方の謝礼とか頭を悩ませるときもありますが、終わったらまたやろうと思う。その繰り返しです。

礒井現在、全国に800カ所近くあるまちライブラリーは、60%以上の方が個人、ひとりでやっておられて、その方たちに「うまくいっていると思いますか?」とアンケートを取ると、肯定的な回答は4人に1人。ひとりでやっている方の自己評価がすごく低いことが見てとれます。
これはぼくの私見ですが、ひとりでやっていると不安を抱えこみがちで、仲間がいれば互いの対話を通じて自己肯定感がアップする。
おふたりがここまで続けてこれたのは、周囲の方々と上手にタッグを組んでいるからなのかなという印象を受けました。

最後の質問です。これは自分自身への問いかけでもありますが、本当に本の力でまちを変えることはできるのでしょうか?

尾崎レギュラー企画である「ワンデイブックス」や「ミセナカ書店」を開くと、そこには単純に本を媒介にしたコミュニケーションが生まれます。
それって本屋さんでもネットでも見られない光景で、小さいことかもしれませんが、そこかしこでそういう空間を生み出せるのが本の力なのかなと感じています。

荒井本の力でまちづくりをしようと思うと、適切なタイミングや核になるひとが必要だと思いますが、自分の場合は"反対方向"から考えていて、そもそも本が土台になっていないまちづくり、本にまともにアクセスできない環境でのまちづくりはありえない。
その"当たり前"を北海道に取り戻すには、おそらくとんでもなく長い時間がかかると思いますが、少しでもそこのゴールに近づけたい、その一心です。

礒井昭和46年に新聞連載された井上靖の絶版本『星と祭』は、琵琶湖の湖北地方に残る十一面観音巡りを題材にした物語ですが、近年、滋賀県長浜市の有志が集まって復刻プロジェクトを立ち上げ、見事2019年10月20日に『星と祭』は復刻。新しくガイドブックも作り、再び"聖地巡礼"の観光コースとして脚光を浴びることに成功しています。

井上靖『星と祭』復刊プロジェクト

hoshitomatsuri-fukkan.com

礒井これは非常に希有な例かもしれませんが、地元の方々の思いが集まって結実したという点では我々も学ぶことがたくさんあります。
最初から「まちづくりのために!」とまなじりをあげて社会問題に挑むよりも、この復刻プロジェクト関係者や尾崎さん、荒井さんのように自分が楽しめている姿勢を保つことが、活動の継続につながりそうですね。

今年のように時代が大きく変わるときこそ、ひとりひとりの力が大事になってきます。来年もぜひ、北海道の皆さんと連携してこの話の続きができたら、と思っています。本日はありがとうございました。

まちライブラリー

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一般社団法人北海道ブックシェアリング

booksharing.wixsite.com

北海道ブックフェス

hokkaidobookfes.wixsite.com

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