おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第373回 北菓楼 企画部課長 大野 重定さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が 腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.124 北菓楼 企画部課長 大野 重定さん

北菓楼札幌本館2階のカフェで本館限定発売のチョコサンドクッキー「北海道廳立圖書館」を手に。

[本日のフルコース] 北菓楼の敏腕広報マン、大野さんの大好物! 「人生の豊かさを教えてくれる"食"の名本」フルコース

[2018.4.23]

書店ナビ 北海道みやげの定番「北海道開拓おかき」や自社の菓子職人が丹誠込めて作るバウムクーヘン「妖精の森」など、道内外にファンが多い北海道スイーツブランドの「北菓楼」。 砂川で産声を上げ、創業25周年の節目となる2016年3月に札幌市中央区に待望の北菓楼札幌本館をオープンしました。
建物のデザインは、堀安規良社長たっての希望で建築家の安藤忠雄さんに依頼され、元・行啓記念北海道庁立図書館という歴史をしっかりと引き継いだものとなりました。

大正15年に竣工された建物は、「竣工当時の景観を最大限保存・修復」を基本方針に菓子店として生まれ変わった。

2階には建物の歴史がよくわかるメモリアルルームが。ぜひのぞいてみてほしい。

メモリアルルームの一角に札幌本館に関わった人々の名前が刻まれた銘板が掲示されている。肩書きや立場を問わないシンプルな五十音順が気持ちいい。

書店ナビ その札幌本館開店を、社長との二人三脚によるコンセプトづくりから社内外の交渉、販売促進、広報活動まで大車輪の活躍で支えたのが、企画部の大野重定さんです。 札幌本館の大きなテーマである「サロン(=社交場)」も大野さんが提案されたとか。
大野 なにしろ歴史が長い建物ですから。北海道初の道庁立図書館として誕生したのちは道立美術館、道立三岸好太郎美術館、北海道立文書館別館となった経緯を考えると、その足跡を感じられる空間にしたいという思いは、堀社長とも共有していました。
お菓子と文化は切り放せないものですし、たくさんの方に集まっていただける社交場のような空間にしたい。そう思って「サロン」というテーマにたどりつきました。
実際、図書館設立当初の歴史を調べると、アイヌ文化研究家の更科源蔵(さらしな・げんぞう)氏が仲間と夜通し語り合うなどしてサロンのように活用されていたこともわかり、うれしい驚きでした。

2018年3月にやっと"2歳"になったばかりですが、これからも札幌の皆さんに愛され、同時に北海道の文化交流の場として根づいていけるように、さまざまな企画や商品を展開してまいりたいと思います。
書店ナビ 2018年4月にオープンした新店「KITAKARO L(キタカロウ エル) 」についてはフルコースご紹介後の「ごちそうさまトーク」でうかがいます。
それでは、大野さんセレクトの食に関する5冊を見てまいりましょう!
[本日のフルコース] 北菓楼の敏腕広報マン、大野さんの大好物!
「人生の豊かさを教えてくれる"食"の名本」フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

陰翳礼讃
谷崎 潤一郎  中央公論社

世界中の知識人や建築・インテリア関係者に多大な影響を与えている名著。大谷崎のような真のグルメたるもの、食べる前にまずその環境や食器にもこだわるべきことを教えてくれる。

書店ナビ いつ頃お読みになったんですか?
大野 学生時代だったと思います。日本家屋独得の光と影や和ろうそくの美しさ、漆塗りのお椀の品格……日本の美についてあまさず書かれていて「こういうことだったのか!」とショックを受けました。
何をどんな空間でいただくかは、とても大切ですよね。北菓楼では砂川本店と小樽本館に書棚を設置し、札幌本館2階のカフェスペースにも元図書館という空気を感じていただきたくて、床から天井にまで届く書棚に約6000冊の本を並べています。
その6000冊を発注し、並べるのも自分の仕事でしたから、北海道の自然や歴史、アイヌ文化、食にまつわる本の中にさりげなく自分が好きな星野道夫さんの著書を混ぜたりして。開店寸前まで並べ続けたので正直なところ、どこに何を置いたか後半は記憶がありません(笑)。
お子様が楽しめる図鑑や絵本などは手の届きやすい下のほうに置いています。気軽に閲覧していただけるとうれしいです。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

あなたのために いのちを支えるスープ
辰巳芳子  文化出版局

先の《前菜本》と並び、目から鱗が落ちる衝撃を受けたのがこの本。和食でも洋食でもスープとはこんなにも奥深く、そして手間暇かけ心を込めて作られるものなのかと読んでいて圧倒され、感動さえ覚えた。

大野 著書の辰巳さんが、食べ物を飲み込むことが困難な嚥下障害を抱えるお父様になんとか栄養がつくものを、とスープを作り始めたのが本書の始まりです。この絶対的な愛情がページの隅々から感じられます。

目次では掲載されているスープが美しく系統だてて紹介されている。

書店ナビ 「あなたのために」というタイトルが改めて心に響きますね。
大野 そうなんです! 私たち食のメーカーは「お客様のために」という目線を忘れてしまうと道を誤ってしまうもの。
手前味噌で恐縮ですが、当社は社長が「うちのお菓子は、従業員たちが家に持って帰って家族に食べさせてやりたいと思うものを作ろう!」と決めて始まりました。今も変わらぬ原点になっています。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

頬っぺた落とし う、うまい!
  嵐山光三郎  マガジンハウス(文庫本は筑摩書房
 

20の料理にまつわる連作料理小説。食通の著者による料理描写が実に見事で、読んでいてたまらなく食欲を刺激される。さらにストーリー展開も巧みで、小説としても非常に愉しめる。

書店ナビ 著者の嵐山光三郎氏は画期的な芭蕉論を展開した『悪党芭蕉』で泉鏡花文学賞読売文学賞をダブル受賞。軽妙洒脱なエッセイの名手としても知られています。
大野 本書は街道文化を研究している助教授、神崎圭一郎の料理譚。奥さんと離婚した原因も湯豆腐の食べ方だったという食通の主人公が、一話ごとに最後は「う、うまい!」とうならされる設定がとても効いています。
「涙の茶漬け」の章では、主人公が「泣くほどうまい」茶漬けをいざ食べる段になると、"あること"が発覚して「なあんだ」というちょっと笑えるオチもある。気持ちよく一本とられました。

「本に囲まれて暮らすのが幸せ」という読書家の大野さん。自宅にある本は約2000冊!

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

味覚を磨く
服部幸應三國清三  角川書店

崩れに崩れた日本の食生活に危機感を抱き、食育に情熱を注ぐ食の大家お二方による食育の講演記録プラス対談も掲載。人生における食の大切さや食育の必要性をこの本から多くの人々に知っていただきたい。

大野 僕が"食育の二大師匠"と仰ぐ、料理研究家の服部幸應さんと日本が世界に誇るシェフ三國清三さんのご本です。幸いにも仕事でご縁があり直接お会いする機会があるのですが、お二方ともご多忙にも関わらず貴重な時間を割いて、僕みたいな若造にいつも食育の大切さを真剣に語ってくださいます。

食って単に健康のために栄養を取るだけじゃない。食べ方の教養や立ち居振る舞い、素材や調理法に関する知識を学ぶ重要な時間です。それが理解できると、子どもにとって親と食卓を囲む時間がどれだけ大事かも見えてくる。
僕も小学3年の息子がいて、好き嫌いや食べ方について繰り返し注意していますが、本人のためにもうるさく言うのが愛情だと信じています。"食べる"って一生モノですから。

大野さんの私物は貴重なサイン本。「僕の人生を変えた1冊です」

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

言葉にして伝える技術ーソムリエの表現力
田崎真也  祥伝社

「肉汁がじゅわっと」「思ったよりもクセがなくて」という表現ではNG。美味しい食事やワインを楽しんで、さてそれをいかに上手く言葉にして伝えられるか。いや、いかに今、"伝えられていない"か。世界一のソムリエがひもとく伝えるためのロジカルシンキング

書店ナビ 勉強熱心な大野さん。現在はワインも勉強されているんですね。
大野 はい、菓子メーカーの広報宣伝としてお客様にどう美味しさを伝えたらいいかを考えるとき、この本からたくさんのことを学びました。
五感で感じたものを的確に分析し、表現し、理解・記憶する。言葉にして伝える情報の中には、もちろん伝え手である自分自身のことも含まれます。その難しさを面白がりながら、表現力の向上に精進していきたいです。

ごちそうさまトーク 札幌2店舗目「KITAKARO L」もオープン!

書店ナビ 5冊を振り返ってみていかがですか?
大野 広告代理店やIT企業を経て転職した今の仕事ですが、やっぱり自分は食が好き。これを一生の仕事にできて本当によかったです。 2018年4月7日には札幌で2店舗目の路面店「KITAKARO L(キタカロウ エル)もオープンしました。LはLABO(ラボ)=研究室の意味。これまでとは違った新しい商品展開で若いお客様にも親しんでいただける店づくりを目指します。
書店ナビ 温故知新の札幌本館と、実験的な試みが楽しみな「KITAKARO L」。どちらも札幌自慢の注目スポットになりそうですね。そんな北菓楼さんの魅力を発信し続ける大野さんのおすすめ本フルコース、ごちそうさまでした!

北菓楼

●大野重定さん
1972年札幌市出身。亜細亜大学法学部卒業後、東京の広告代理店やIT企業で営業・販促を経験。知人の紹介により社長直々の面接を受けて2004年から北菓楼勤務。プライベートでは春からカヌーに挑戦中。

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