おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第344回 ヒューマンアカデミー札幌校 ゲームカレッジ学科長 辻 貴文さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が 腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.106 ヒューマンアカデミー札幌校 ゲームカレッジ学科長 辻 貴文さん

ヒューマンアカデミー専任講師となって9年目の辻さん。

[本日のフルコース] この取材で発覚!ずっと探していた絵本と再会! 「ゲームクリエイターになろうと思った本」フルコース

[2017.10.2]

書店ナビ このフルコース企画の選者は、推薦も大歓迎!今回も、「立ち向かう少年少女の物語」フルコースを作ってくれた札幌在住の作家島崎町さんから、ゲームクリエイターの辻貴文さんをご紹介いただきました。 お二人は、ヒューマンアカデミー札幌校ゲームカレッジに勤務する同僚の間柄。島崎さんはシナリオづくりなどの授業を受け持ち、辻さんはプランニングやコンテンツ制作を指導しています。

辻さんは、かつて北海道発祥のゲームソフト開発で全国に知られたゲーム会社ハドソン(2012年コナミデジタルエンタテインメントに吸収)のご出身。代表作は『天外魔境3』『絶対音感オトダマスター』『BOMBERMAN Act:Zero』。 現在はゲームカレッジ講師のかたわら、フリーのプランナーとしても活動されています。
島崎先生からフルコース取材のお話がきて、真っ先に浮かんだのが「自分が人生で影響を受けた本」でした。
ゲームクリエイターという職業選択を含めて、いまの自分を作ってくれた本を思い出して並べてみました。
[本日のフルコース] この取材で発覚!ずっと探していた絵本と再会! 「ゲームクリエイターになろうと思った本」フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

あらいぐまとねずみたち
大友康夫  福音館書店

大友康夫初の絵本。あらいぐま親子の家から食べものがなくなった!あとを追っていくと、とったのはねずみたち。あらいぐま親子は怒りますが、ねずみたちが食べ物に困っていると知ると…。

書店ナビ 今回の取材をきっかけに、辻さんが数十年ぶりに再会を果たした絵本が、この『あらいぐまとねずみたち』です!
辻さん、タイトル発見までのいきさつも含めてご紹介をお願いします。
僕にとっての《前菜本》は、小さい頃から家にいっぱいあった絵本というジャンルそのもの。いろいろなお話や絵に触れられたことが、今の仕事の原点になっていると思います。
なかでも一番ワクワクしながら繰り返し読んでいたのが、今回再会した『あらいぐまとねずみたち』でした。が、実を言うと、フルコースの取材を受けるまでタイトルも作者も思い出せなかったんです(笑)。 奥さんと一緒に剣淵町絵本の館にも行きましたが、見つけることはできませんでした。
自分が覚えている断片と言えば、横に長いサイズで、動物が2匹?出てくること、土の中に建物?みたいなものが描かれていたこと…。
書店ナビ そのお話をうかがって、フルコース取材のあとにFacebookで「どなたか知りませんか?」と投げかけたところ、なんと一日でナゾが解決!しかも見つけてくださったのは、辻さんの同僚の島崎さんでした!
島崎さんの
Facebookコメント
横長の判型というヒントから、福音館の『こどものとも』シリーズ(月イチで出る雑誌形態の絵本)は横長が多かったなあと。山をはって、サイトから全部の絵本を調べてみました。去年、60周年記念でサイトがリニューアルされて、調べやすくなってたのもラッキーでした!
教えていただいたとき、今年一番テンションが上がりました! 島崎先生、本当にすごいです!
早速書店で買ってきて読んだときは、まさに「これこれ!」という感じ。あらいぐまがねずみの家を作っている場面で、リクエストどおりに滑り台を付けたりするところは、今でいうところのユーザー・エクスペリメントの考え方だよなぁ~と思いながら読みました。 いやあ、うれしかった。やっぱり絵本はいいですね!

数十年ぶりの再会に喜ぶ辻さん(奥様撮影)。Facebookの情報募集では、ほかにも『ねっこぼっこ』や『じめんのうえとじめんのした』などの候補があがっていた。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

僕らの七日間戦争
宗田理  角川グループパブリッシング

校則で縛りつける教師や勉強を押しつけてくる親に対して反発する中学生たちが、夏休み中に仲間と廃工場に立てこもるジュブナイル作品。読んだ当時は小学生でしたが、中学生に憧れを持ちました。反抗、冒険、憧れなどがいっぱい詰まったエンタメ作品です。

書店ナビ 1985年に発行された本書は、その後「ぼくら」シリーズとして続きます。1988年には角川映画で映画化され、主演は当時15歳だった宮沢りえでした。
いまでは小説やコミック原作の映像化は当たり前のことですが、僕がまだ小学生だった時分は珍しく、この本を読んで初めて小説が映画になるというメディアミックスを意識するようになりました。
書店ナビ 辻さんが特に惹かれたところはどこでしたか?
登場人物と年齢が近かったので全員に共感できたところと、やっぱり主人公の菊地英治がかっこよかった。
まさに《THE・主人公》みたいなキャラクターで、やさしくて友達思い、正義感があって多少やんちゃなこともする。主人公の重要性を、無意識のうちに学んだ作品かもしれません。 

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

週刊少年ジャンプ
講談社

マンガ雑誌の王様です。読み始めたのは小学校に入るくらいの時。当時は『北斗の拳』『キン肉マン』『キャプテン翼』『聖闘士星矢』『ドラゴンボール』といったアニメ・ゲームになったマンガが山ほどありました。男の子のワクワクが詰まっていた。

1980年代はジャンプがもっとも勢いがある時代。『聖闘士星矢』『ドラゴンボール』の第一話を誌面でリアルタイムで読んでいます。
特に『キャプテン翼』は、Jリーグの立ち上げもあって自分の世代はサッカーブームのド真ん中。もちろんオーバーヘッドキックは練習しました(笑)。
『北斗の拳』のアニメもTVで見ていましたが、TV放映よりも早く雑誌で最新話を読めるという環境にも夢中でしたね。
ちなみにこの頃まだファミコン専門誌がなくて、ジャンプの袋とじでドラクエ情報を読むのが楽しみでした。すべてにおいてジャンプが先駆けていた時代でした。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

ドラゴンクエストへの道
滝沢ひろゆき  スクウェア・エニックス

プログラムコンテストで堀井雄二と中村光一が出会い、ファミコンブームの最中に新ジャンル「ロールプレイングゲーム」を開発する実話のコミック化。この本でダイレクトにゲームクリエイターになりたいと意識しました。

書店ナビ ファミコン初のRPG「ドラゴンクエスト」を作った男たちの物語。それまではマリオやドンキーコングのようなアクションゲームが主流だった市場に、プレイヤーが画面のテキストを読んで成長していくという新ジャンル「RPG」を生み出しました。
ゲームクリエイターとしては、やはりこの本をはずせませんね。
小学校の同級生がコミックを持っていて、多分遊びに行ったときに読んだんだと思います。
「えっ、ゲームって作れるんだ!」という衝撃にガツンとやられて、こういう人たちもいるのなら自分にもできるんじゃないかと勘違いさせてくれた運命の一冊です。
自分でゲームを作るようになって10年以上経ちますが、初心を思い出させてくれる本でもあるので、いつでも手が届くところに置いています。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

三国志
吉川英治  講談社

今の日本の人気ゲームコンテンツである「三国志」を形作っているといっても大げさではない作品。劉備を主役に置くなど、日本風なアレンジがされている印象。武将の名前を覚える、戦略などのデータを読み解くなどゲームにつながる要素がいっぱいあったなと思います。

中学の図書館で横山光輝版「三国志」を先に読み、それからこの吉川版「三国志」を読んでどっぷりハマりました。それぞれの集団に主義主張があり、それぞれが信じる正義がある。そういう描き方に胸が熱くなりました。
登場人物の相関関係をノートに書いたり、「このとき、こいつがこっちの国にいたら勝ってたな」と想像してみたり。考えてみると、ゲーム会社に入ったらそういう作業ばかり。いまの根っこは、吉川「三国志」にあるなと再確認しました。

三国志で一番好きな登場人物は?「超雲ですね。忠義の人と言われています」

ごちそうさまトーク 次世代の原体験となれるゲームを

書店ナビ プレイヤーとしての辻さんのゲーム歴を教えてください。
初めてやったゲームはドンキーコングで、強烈に覚えているのはマリオです。ベスト1は、自分が物語好きなので、シミュレーションRPG『タクティクスオウガ』。プレステでやりました。
「ゲームなのにここまで選択させる?」という設定やキャラクターの成長ぶりがすごかった。衝撃を受けました。

いまはゲーム制作を教える側にいて、卒業生が第一線で活躍し始めたのがとてもうれしい。そういう若い才能を一人でも多く育成したいと思っています。 自分が作る側としては、幸いにも大作と呼べるゲームにも関わらせていただきました。この先の目標としてはテトリスやぷよぷよみたいに、のちのスタンダードとなるようなゲームづくりに関わってみたい。
自分にとって絵本がすべての原体験になっているように、これからゲームを楽しむ子どもたちの原体験となれるようなゲームを作りたいです。
いやあ、それにしても絵本『あらいぐまとねずみたち』と再会できてよかった!ありがとうございました。
書店ナビ こちらこそ《絵本WANTED》を楽しませてもらいました。辻さんというクリエイターを作った『フルコース、ごちそうさまでした!

■ヒューマンアカデミー札幌校

●辻貴文(つじ・たかふみ)さん
1977年札幌市生まれ。株式会社ハドソンを経て、2008年からヒューマンアカデミー札幌校ゲームカレッジ専任講師として勤務。現在はゲームカレッジ学科長。フリーではゲーム以外にイベントなども幅広く企画。

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