おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第370回  ジュンク堂書店 旭川店 中島 孝浩さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が 腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.121 ジュンク堂書店 旭川店 中島 孝浩さん

手にしているのは《肉料理本》の2冊。この話で盛り上がる、盛り上がる!

[本日のフルコース] ジュンク堂書店旭川店から盛り上げたい! 外の世界の風が吹いてくる絵本フルコース

[2018.4.2]

書店ナビ 取材に行くのが毎回楽しみなジュンク堂書店旭川店さん。「クローズドミステリ」なんていう面白い切り口でフルコースを作ってくださった高田さんに続いて、勤務6年目の中島孝浩さんにご登場いただきました。 中島さんは普段、PC書や医学書をご担当です。フルコースもてっきり、そちらの分野かと思いきや……「絵本」ですか?
中島 テーマは選者が自由に決めていいと聞いてたので、あえて担当の縛りから外して考えてみました。ちょっと変わった絵本、大人同士でも勧めあえるような面白い絵本をご紹介します。
[本日のフルコース] ジュンク堂書店旭川店から盛り上げたい! 外の世界の風が吹いてくる絵本フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

空からのぞいた桃太郎
影山徹  岩崎書店

誰もが知っている童話『桃太郎』。でも、その『桃太郎』の世界を空からのぞくと意外な姿が見えてくる? 作者は日本を代表するイラストレーターのひとりで、俯瞰図を描かせたら右に出る者はいないという影山徹さんです。

書店ナビ 「桃太郎」といえば、あの桃が流れてきて中から生まれた桃太郎が鬼退治に行くという、おなじみの日本むかし話。それをこの絵本は……面白い!全ページが《空からのぞいた》俯瞰図で描かれています!

かの有名な「どんぶらこ どんぶらこ」の場面もご覧のとおり。右ページの真ん中寄りに桃が見え、左ページにはそれを見つけるおばあさんがいる。

中島 そうなんです。物語に脚色は一切加えずに、読者はただ従来の桃太郎の世界をドローン撮影みたいに空からのぞいているだけ。
ただし、この本にはミニ冊子が付いていて、その冊子の各ページの解説が、これまで私たちが考えもしなかったこと、「桃太郎はなぜ鬼ヶ島に行くと言い出したのか?鬼は桃太郎やその家族を襲ったわけではないのに」とか、「桃太郎のお供はなぜイヌ・サル・キジなのか?」などの疑問を投げかけてくる。
そこがこの絵本の最大の面白さ。帯に書かれている一言「鬼だから殺してもいい?」に、一発でつかまれました。

解説のミニ冊子。なぜ最初のお供がイヌだったのか? イヌは人間の一番古い友達だから?ではなぜ次がサルであり、キジなのか? 疑問は尽きない。

書店ナビ 世界を俯瞰すると、「そういえば、どうしてなんだろう?」という事の本質を考えるようになりますね。
この本の出版元である岩崎書店の経営者は、一世を風靡したベストセラー『もしドラ』の著者、岩崎夏海さん。秋元康氏に師事し、お笑い番組の放送作家としても活躍した岩崎さんの会社らしい、ユニークな視点に脱帽です!

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

しんでくれた
詩・谷川俊太郎/絵・塚本やすし  佼成出版社

詩人の谷川俊太郎さんがイベントでよく朗読している詩が絵本になりました。「しんだ」ではなく「しんでくれた」。食育の原点を教えてくれる一冊。

書店ナビ 帯には谷川さん自身のメッセージ「いのちは いのちをいけにえとして ひかりかがやく」とあります。本文を一部引用すると、

うし
しんでくれた
ぼくのために

この「ぼくのために」もすごいですが、その後にくる「ぼくはしんでやれない」という1行にはもう、うなずくしかありません
中島 初めて買って読んだ谷川さんの本は、ほぼ日の『谷川俊太郎質問箱』。ご本人は既に大家の域に達しておられるのに、若い人の考えにとても寛容であるところに感動し、ファンになりました。
食育の絵本はたくさんありますが、やさしい言葉で子どもたちに「ちゃんと食べてほしい」という思いがストレートに伝わるのは、谷川さんだからこそ。タイトルがやや強いので、あまり親しくない人へのプレゼントには難しいかもしれません。(笑)。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

ゾウの森とポテトチップス
横塚眞己人  そうえん社 
 

旭山動物園の坂東元園長がおすすめしていたので、当店でもいっぱい仕入れました。熱帯雨林の森が減っているボルネオ島と、私たちが何気なく口にしているポテトチップスの関係を写真でひもときます。

中島 僕が子どもの頃、旭山動物園の元園長、小菅さんとご近所だったご縁もあって、旭山動物園には毎年必ず行っています。
あそこも旅行会社と手を組んで、野生動物にとって厳しい現状が続く当地を旭川の高校生・大学生が視察する「ボルネオ・スタディ・ツアー」を企画したりして、この絵本と志を同じくする活動を続けています。

例えばですが、書店ナビの皆さんもきっと今日ここに来るまでの間に一度はパーム油のお世話になっているはず。石けんで手を洗う、口紅を塗る……その全てにパーム油が関わっていて、でもそもそもパーム油ってどこから来ているんだろう? そのことをわかりやすく教えてくれる写真絵本です。
書店ナビ 原材料と製品、ひいては暮らしのつながりを知ることが、自分にできることを考え始める第一歩になりますね。

著者の横塚さんはTBS『情熱大陸』にも出演したことがある自然カメラマン。前例がなかったイリオモテヤマネコ親子の撮影に成功している。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

『水の生きもの』
タラブックス  タムラ堂(あるいは河出書房新社)

南インドの小さな町ティルヴァンミユールにある小さな出版社「Tarabooks (タラブックス)」を知っていますか? タラブックスの絵本づくりは全て手仕事。人の手によるものなので、シルクスクリーンで刷られる仕上がりに同じものはないという、宝物のような絵本です。

中島 タラブックスの絵本が当店に入荷してきて、はじめて見たときの衝撃は今も忘れることができません。一言で言うと、「なんだこれは!」。
紙は色・質感ともにハンドメイドペーパーならではの味わいがあり、印刷の香りがページをめくるたびに立ち上る。
しかも描かれている題材は、インドの神話や伝統に息づく不可思議な生きものや自然のモチーフたち……。

1994年にタラブックスを設立したのはインド人女性のギータ・ウォルフとV.ギータの2人。自社で抱える職人たちの生活環境の向上や作家の権利を保護する姿勢で、「世界が注目する女性起業家」に選ばれた。

中島 1冊1冊が職人たちによって手製本で仕上げられ、シリアルナンバーも付いている。これはもう、自分も買うしかありません。
今日は私物を持ってきましたが、紙の本独特の匂いが大好きでいつもはビニールに入れたまま(笑)。

ボローニャ・ラガッツィ賞優秀賞を受賞した代表作『夜の木』。中島さんの私物は1000部中の785冊目というシリアルナンバーが。

中島 こんな素敵な絵本ですから世界中から愛されていて、旧作の重版や新作が発表されてもたちまち売り切れに! 当店でも積極的に入れていますが、見かけたときがお買いどきです。
3000部作るのに3カ月かかるという、クラフトのような絵本が実は1冊3000円台! 最高のお買い物になると自信を持っておすすめします。

同じ作品でも版ごとにインクの色を変えている!『水の生きもの』の第四刷(左)は多色使いになり、より鮮やかな印象に。

書店ナビ 絵本の実物を見たあとは、タラブックスがどういうビジネスモデルになっているか、その全容を描いた『タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐ本を作る』(玄光社)もあわせて読みたくなりました!

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

桃太郎が語る 桃太郎
文・クガユウジ/絵・岡村優太  高陵社書店

2017年に出版以来じわじわと話題になっている、名作童話や昔話の主人公たちが一人称で一連の出来事を語ったら?の「一人称シリーズ」です。現在、『浦島太郎』『桃太郎』『シンデレラ』が出ています。

書店ナビ 《前菜本》は「上から」の俯瞰視点でしたが、今度は主人公の額にカメラがあるような「主役目線」。いろんな視点で切り取る絵本があるんですね!
中島 1冊目の桃太郎が面白くてハマりました。桃太郎も実は鬼がこわかったとか、これまでにない主人公像が楽しめます。
浦島太郎、ちょっとチャラいんです。亀を助けた後に「おーい、おんがえししてもいいんだぞー」とか言う(笑)。シンデレラも実は計算高くて、そうきたか!と笑っちゃいます。

「チャラい」浦島太郎。一人称が「おいら」というのも新鮮!

ごちそうさまトーク 絵本にしかできないことがまだある

書店ナビ 俯瞰視点の驚きや食育&環境の学び、インド生まれのハンドメイド本の美しさや、やっぱり面白い視点スイッチ……共通点はなんだと思いますか?
中島 どれも絵本でしかできないことというか、テキストを追いかけるだけの電子書籍では出せない魅力を放っていますよね。
昔話なんかは定石を知っているからこそアレンジを楽しめるという側面もありますが、本屋にはまだまだ皆さんが知らないこういう本もいっぱいあるんですよ、ということを知ってもらえたらうれしいです。
書店ナビ 絵本のテーマというと"内面"に向かいがちな印象がありましたが、中島さんセレクトの絵本はどれも"外の世界"に開かれていて、とても気持ちのいい風に当たったような心持ちになりました。絵本という媒体の可能性も教えていただいたフルコース、ごちそうさまでした!

ジュンク堂書店 旭川店

●中島 孝浩(なかじま・たかひろ)さん
1975年旭川市生まれ。北見工業大学卒業後、測量設計などの仕事を経て旭川冨貴堂南6条通店に勤務。その後2011年6月のジュンク堂書店旭川店開店時に転職し、現在に至る。

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