Vol.44 (株)北海道住宅新聞社 編集部 プロジェクトマネジャー 栗原 史朗さん
栗原さんが追いかける取材テーマは実に多彩。「防災」「住宅」「商店街」「移住」「スポーツ」「道の駅」など幅広くアンテナを張り巡らせている。
[本日のフルコース][2018.9.17]
「北海道書店ナビ」運営会社コア・アソシエイツ(札幌市東区本社)より、このたびの北海道胆振東部地震により被害を受けた皆様に心よりお見舞い申し上げます。被災された皆様が一日も早く日常生活を取り戻せることを、心よりお祈り申し上げます。
今週は、2016年4月11日に更新した(株)北海道住宅新聞社編集部の栗原史朗さんが選書した「防災読本」フルコースをトップで再掲載いたします。
「ごちそうさまトーク」のあとには、当日札幌市北区(震度5)で被災した栗原さんの追記コメントも掲載しています。あわせてご覧ください。
書店ナビ | 今回の選者である栗原さんは、住宅業界の技術情報紙を発行する株式会社北海道住宅新聞社の記者のお一人です。平成20年に「札幌良い住宅jp」を立ち上げ、市町村職員向け政策情報誌の制作を受託するなど新たな媒体をつくりながら、取材範囲や発信力を広げてきました。 ちょっと裏話をしますと、栗原さんに事前に書いていただいた回答シートが新聞の防災特集記事並みのボリュームで、「さすが現役記者。筆がのってる!」と取材班全員で感激していました。 |
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栗原 | 本の解説を書いているうちについ原稿スイッチが入ってしまいました。僕らが取材・編集前にその分野の情報を得るため、頼りにするのはやはり「本」。本がきっかけで取材に行き、衝撃を受けて記事が深まったり、そのままプライベートに影響が及んだりすることもあります。 今回はその中から「防災」をテーマに選んだ3冊をご紹介します。日本は自然災害大国と言われるほど地震や津波、噴火、洪水などの災害に繰り返し見舞われてきました。またいつ大きな災害がやってくるかなんて誰にもわからない。 水害に弱い地域に暮らす札幌市民の皆さんは豊平川が決壊して自宅に泥水が押し寄せてきた場合、2階に逃げて数日を過ごせる備蓄を用意していますか。 旭川や北見、帯広などの極寒地で冬に停電を伴う災害が起きた場合、どうやって寒さをしのぐか考えている人が、どれだけいるでしょうか。 対策をしたほうがいいとわかっていても、なかなかやらないのが防災や健康の分野じゃないでしょうか。そんなことを考えながら読んだ思い入れの深い防災読本3冊です。 |
前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書
栗原 | 私が陸前高田市に取材に行ったのは、2015年の秋のことです。真新しい道路をダンプカーが何台も通り、あたりは仮設住宅、仮設店舗ばかり。市役所や病院、商店街、住宅街があったエリアは見渡す限りの更地でした。被災直後に肉親や家、備蓄などを失った人たちから、避難所となった学校の体育館でルールや役割分担を決めて助け合った話を聞くことができました。 |
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書店ナビ | 本来であれば、こういう災害時にこそ頼りにしたい自治体の人たちも皆等しく被災者であるため、「自分たちでできることをしよう」という気持ちを住人の皆さんで共有できたのかもしれませんね。 |
栗原 | 何よりも、防潮堤なんかに頼らずに「地震が来たらとにかく逃げる」、その意識を住民皆が徹底すべきだったと話していたのが、心に刺さりました。 災害の記憶は風化します。そこで津波の最高到達点を桜の苗木でつないでいく「桜ライン311」という活動も進められていました。被災直後に書かれた本と5年後の今。現場には少しずつでも前に進もうという陸前高田市民の姿がありました。 |
画像は「桜ライン311」公式サイトより引用。 http://www.sakura-line311.org/
魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく
書店ナビ | この栗原さんの解説を読んだ時点で胸がいっぱいになりました。災害を含めた有事のときのリーダー論を考えるうえでも、ぜひ読んでおきたい一冊ですね。 |
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栗原 | 経歴を拝見すると小野寺さんは小中学校の先生だったので、指導者としての資質はもともとお持ちだったんでしょうが、学校外のしかも自分自身も苦しい環境下で陣頭指揮をとるというのは、誰でにもできることではありません。 小野寺さんとともに避難所生活を体験した男性に直接お話を聞く機会がありましたが、「あの男は本物だ」とおっしゃっていた言葉が忘れられません。 |
「必要に迫られ」掲げた生活目標。「感謝を持ち続け助け合って」「ひとりの犠牲者もなく(中略)元気で虻田町に帰ろう」。老若男女にわかりやすい言葉で綴られている。
肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本
書店ナビ | 津波は来なくとも災害で水道や電気、ガスなどのライフラインが止まってしまえば、自宅で食事がつくれない。そこを新潟という「米どころ」の力で住人が住人を救う。大都会の札幌では実現できないような助け合いですね。 |
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栗原 | 実際のところ、非常食の乾パンを渡されても水が無いと食べづらいですし、特に高齢者はなかなか喉に通らない。救援物資の菓子パンやおにぎり、お弁当にしても毎日食べ続けるとしんどくなり、食が進まなくなることで体力も落ちてくる。つまりは災害時に「できるだけ早く普段のあたたかい食事を取り戻すこと」が大事だということです。 こうした問題意識から新潟大学地域連携フードサイエンスセンターは、大学や地元の食品会社、自治体などが連携し、非常食のあり方について何度もシンポジウムを開催し、検討と発信を行ってきました。 医療、福祉、行政、ボランティア、食品加工など様々な分野の専門家の貴重な発言をまとめたのが本書です。私はこの本を携えて魚沼市に取材に行きました。 |
3冊に絞るまでの候補本も用意してくださった栗原さん。実家は余市のブルーベリー農園。フルコースのテーマを「防災」にするか「食によるまちづくり」にするか最後まで悩んだそう。後者のフルコースは次の機会にお願いします。
ごちそうさまトーク 防災を話し合う家族会議のすすめ
書店ナビ | いつもは5冊で構成するところを今回は3冊でありながら、読み手が防災のことを自分ごととして"咀嚼"したくなるベストセレクションでした。しかも3冊とも本で描かれた災害の地に栗原さん自身が足を運んでいます。 |
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栗原 | 本で学んだ知識を頭に入れて現場に行き、書かれていたことと現実の違いに戸惑ったことや、それ以上の感動や学びに出会ったこともありました。 できれば皆さんも本で得た知識が実際はどうなのか、その目と耳で確認に行かれると、著者が書かなかったことや時間の経過で変わっていることなど新たな発見があるかもしれません。 冒頭でも述べましたが、いつ大きな災害がやってくるかは誰にもわかりません。このフルコースをきっかけに防災家族会議を開いて、「そのときどうするか」を大切なご家族全員で話し合っていただけたらうれしいです。 |
書店ナビ | 本から得られる知識と現場の肉声を大切にする現役記者が存分に腕を振るってくれた防災読本フルコース、ごちそうさまでした! |
[2018年9月11日火曜 追記]栗原さんから以下のコメントをいただきました。
2018年9月6日に起きた北海道胆振東部地震(最大震度7)は、北海道が初めて経験する規模の地震でした。道内ほぼ全域295万戸が停電という「ブラックアウト」も、北海道民にとって初めての経験です。
自分は札幌市北区で震度5程度の揺れおよび停電を経験し、3時間後にはすぐにネットが使えなくなりました。
コンビニは非常電源で朝5時から販売を始めるところもあれば、朝8時ごろに体制を整えてから開店し、買い占め制限をするところもありました。どちらも被災者のことを考えた最善の対応に頭が下がる思いです。
車で携帯電話の充電ができ、テレビを見られたのが救いでしたが、見続けると悲惨な状況に心が沈み、メンタルが危うくなりかけました。
東日本大震災の取材でお世話になった東北の方々からお電話をいただき、皆さん、北海道のことをものすごく心配してくださっていました。
東日本大震災では、お身内の不幸や住宅・財産・職場を失うといった悲劇にとどまらず、1カ月間に渡る断水や計画停電など、事後の状況も非常に過酷だったことを思うと、今回遭遇した1~3日間程度の停電は、十分耐えうるものではなかったかと感じています。
9月6日の地震直後から、3年前に私が書いたブログ記事「真冬の北海道で大災害が発生したら、被災者は寒さに耐えられるのか?」へのアクセスが急増しています。
今回の地震がもし冬だったら、という懸念を大勢の道民が抱いているのかもしれません。
上記のフルコースでご紹介した東日本大震災、有珠山噴火、新潟県中越地震という3つの大災害の体験談は、日頃は防災意識の薄い道民が大停電を経験した今こそ、実感を持って受け止められる、滅多にない機会だと思います。
先人の並々ならぬご苦労と知恵が詰まった3冊から、新たな希望と現実的な防災手段を読み取っていただけたら幸いです。