[短期連載]
北海道の読書人がいま、差し出す選書集
「いま、あなたとシェアしたい この本を このことばを」
[2020.3.9]
北海道書店ナビにご登場いただいた20人以上が快諾!
2020年2月から各地で報道されている新型コロナウイルス感染症の広がりにより、2月28日北海道に「緊急事態宣言」(2月28日金曜~3月19日木曜)が発表されました。
亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈りするとともに、一刻も早い事態の収束を願うばかりです。
この状況で日々の暮らしに向きあう私たちにも、何かできることはないのでしょうか。
北海道書店ナビが「いま、こういうときこそ読んでほしい本を紹介してもらうのはどうだろう?」と思い立ち、顔の浮かぶ皆さまにお声をかけたところ、たちまち20人を超える方々にご賛同いただきました。
それが今週から始まる3週連載の選書企画「いま、あなたとシェアしたい この本を このことばを」です。
掲載は3月9日月曜から3週に渡り、毎週月曜更新します。選者はお名前の五十音順ですが、個人事業主を優先してご紹介しています(北海道書店ナビからも撮影担当の麻生と記事担当の佐藤が最後の週に加わります)。
「本はいつもきみたちの味方、頼れる旅の道しるべ」。そんなうれしくなることばもいただきました。今週の10冊、ぜひご覧ください。
1)薄曇りのような不安をはらう極上料理
[選者]一万円選書で知られる「いわた書店」SNSの「中の人」いわたまさん
[シェア本]
- マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ
古内一絵 中央公論新社
[コメント]
住宅街の奥でひっそりと営業している夜食カフェ。そこでは「シャール」と呼ばれるドラァグクイーンが、その料理と話術で訪れる人を優しく包みこんでくれる。登場人物たちはギリギリと張りつめた毎日を送り、薄曇りのような不安を持っていて私たちとどこか共通する思いを抱えている。そんな彼らに供されるのは「春野菜のキャセロール」「シャンピニオンサラダ」「黄金の焼きカレー」「もちあわと南瓜のスフレ」など、思わずつばを飲み込むような優しい料理の数々。そっと息をついて誰のものでもない自分自身から湧き出る力に気づかせてくれるのです。4編からなる極上の料理と物語。本の中はどこまでも自由で最強です。あなたに寄り添う一冊になればと思います。
[もうひとこと]YouTubeチャンネルもよろしくお願いいたします!
2)猫と"青空"の手を借りてみる
[選者]北海道ブックフェスの代表も務める札幌ブックコーディネートの尾崎実帆子さん
[シェア本]
- 吾輩は猫である
夏目漱石 青空文庫
[コメント]
長い春休みに入った息子(高校生)、夏目漱石「こころ」についてレポート提出とのこと。「家に本がなければ青空文庫で読むこと」。なるほど今、小中高生は外出もままならないから青空文庫ね。しかし「こころ」ではユウウツな気分を助長しそうだな。そこで冒頭文があまりにも有名ながら最後まで読んだ人、あるいは読んだけれど内容を覚えている人はどのくらいいる?と聞きたい本作in青空文庫を。115年前の作品ですが、猫目線でシニカルにユーモラスにテンポよく人間を描くさまは、今の感覚で読んでもクスッと笑えたり、うーんと唸らされたり癒されたり。読み疲れたらスピッツの曲「猫になりたい」を♪「猫になりたい、言葉は儚い」
[もうひとこと]現在さっぽろブックコーディネートは通常営業です!本のご相談承ります。
3)じゃんけん絵本で笑い転げる!
[選者]司書資格を持ち、本イベントを企画するみんみん舎の加藤重男さん
[シェア本]
- でんせつのじゃんけんバトル
文 ドリュー・デイウォルト 絵 アダム・レックス 訳 中川ひろたか 河出書房新社
[コメント]
実は結構読まれている絵本。もっと読んでもらいたくて選書しました。
グーの「グリグリ」、チョキの「チョッキンナ」、パーの「パーペ」。
誰が一番強いかというバカバカしいけど笑える1冊。
グリグリは何でも力任せで勝ってしまうけど、どこか物足りない。
チョッキンナは何でも切って勝ってしまうけど、どこか物足りない。
パーペは何でも包み込んで勝ってしまうけど、どこか物足りない。
そしてついに3者が戦うときがきた。誰が一番強いのか!結果は?
3者は永遠のライバルだけど、じゃんけんは誰もが平等に戦える楽しいコミュニケーションです。
[もうひとこと]じゃんけんでこのような絵本ができてしまうとは!
4)本を開いて別世界に飛び込む
[選者]札幌の豊平区で週2回営業する新刊書店「かの書房」のカノウアスカさん
[シェア本]
- 執筆中につき、後宮ではお静かに
田井ノエル ポプラ社
[コメント]
しんどい今だからこそ、小説、特にファンタジー作品をおすすめします。「本の虫」であり「執筆活動」をしている女性が家の事情で後宮入り。しかし彼女は皇后の座に全く興味なし!それなのに皇帝に気に入られ、後宮で有名になり、様々な事件を解決していく中華後宮物語。挿し絵のない文庫本で、どの年齢の方でも読みやすい一冊です。皇帝だろうが位の高い妃嬪だろうがかまわずにバッサバッサと論破する主人公がとっても痛快!そんな作品の中から主人公・青楓の言葉をご紹介します。「だれかの体験を、まるで、自分のことのように共有できる。家にいながら、冒険ができたのです」。本を開けば別世界に飛び込めます。刑事、医者、勇者…何にでもなれるのが本の良いところであり、私が長年本好きである理由の一つです。この機会に、作品の新規開拓してみませんか?
[もうひとこと]かの書房では『執筆中につき、後宮ではお静かに』サイン本も販売中です。開店状況などはTwitter(@kanosyobo_1216)にてお知らせしています。
5)MAYA MAXXさんの無料ダウンロード絵本
[選者]岩見沢市美流渡在住、ミチクル編集工房の來嶋路子さん
[シェア本]
- 卒業おめでとう
MAYA MAXX MAYA MAXX _ Luce
[コメント]
突然の休校や緊急事態宣言などにより、先の展開が見えずに、心がザワザワする日々を過ごしています。さまざまな危機に直面すると、わたしは本をつくりたくなります。自分にはこれしかできないからなのかもしれません。今回、娘の卒園式が中止となりそうな状況の中で、卒業とは何かを考えました。そして、これまでの自分を走馬灯のように振り返り、新たな門出に向けて気持ちをチェンジすることなのではないかと思いました。そこで、現在、新しいプロジェクトを進行中の画家・MAYA MAXXさんに「卒業おめでとう」という小さな絵本をつくって頂きました。わずか1日でMAYAさんは言葉をまとめ、公開することができました。みなさんも「卒業」を迎えるご家族やお友達にお渡しいただけたらうれしいです。
[もうひとこと]折ってたためば小さな絵本になるPDFの無料ダウンロードもアップしました。
6)正確な知識を楽しく理解する一冊
[選者]全国で有名なビール&モルトウイスキー専門店「Maltheads(モルトヘッズ)」の坂巻紀久雄さん
[シェア本]
- もやしもんと感染症屋の気になる菌辞典
著 岩田健太郎 絵 石川雅之 朝日新聞出版
[コメント]
お酒を扱うということは発酵物=菌の賜物を扱うということ。発酵漫画『もやしもん』はプロの立場としてお客様にいまでもよく推薦します。その石川雅之が挿絵を書いたこの本は、奇しくも横浜のクルーズ船の内情を暴露して時の人となった岩田健太郎の数年前の著書です。発酵菌ならば「かもすぞー」と可愛いものですが、病原菌ともなればどうしてもシリアス。でも『もやしもん』のキャラたちがうまく「毒」を中和してくれていて、本文も専門的ですが楽しく読めます。そして最後の「菌」はなんと「ホモ・サピエンス」(人類)。われわれの「毒」はここに登場するどの病原菌よりも強いのかも。でも現実に毒づかず、希望を持ってお店を営業しています。
[もうひとこと]
7)著者がWEBで無料公開!学校の怖い話
[選者]本を回して読む!『ぐるりと』を「島崎町」名義で発表している島崎友樹さん
[シェア本]
- 学校の12の怖い話
島崎町
[コメント]
2月27日、全国の小中学校へ休校要請が出たとき、僕は思いました。「子どもたちヒマするなあ。親御さんも大変だ」だからその日のうちに、自分の本をネットに無料でアップしました。
この本は、とあるクラスが経験する12ヶ月の物語。ひとつの月に1話ずつ、ちょっぴり怖い、奇妙で不思議な12の話。夢に現れるナゾの友達、ひとり多いクラスメイト、夏休みに育てた植物が……
本はいつもきみたちの味方、頼れる旅の道しるべ。そう思ってもらえたら。
[もうひとこと]『ぐるりと』のカバーイラスト募集コンテストもやっています。
8)美を善とする生き方に触れる
[選者]ヨーロッパの風を運ぶセレクトショップ「Fortuna(フォルトゥーナ)」オーナーの只野薫さん
[シェア本]
- 金子國義スタイルブック
著・編集 金子修、岡部光 アートダイバー
[コメント]
昔、金子國義さんを見かけたことがあります。双子の美男子を花束のように両脇にかかえ歩いていた金子さん。それは彼の描くシュールでお洒落な絵そのものでした。
「料理の盛りつけで、美意識を身につけなさい」「目でスケッチしなさい」「人にプレッシャーを与えるような花の生け方をしないの」等、この本は画家・金子國義さんのシンプルな言葉と作品で綴られています。
役者から歌舞伎舞台美術家に弟子入り、そして画家へ。様々な美意識を重ねあわせてきた金子さん。
「心地良いこと」「他者を不快にさせないこと」「礼儀を大切にすること」。今、金子國義さんのように美を善とする生き方の人は少ないです。だからこそ、その「粋」に惹きつけられるのです。
[もうひとこと]
9)シェアの大切さに気づく絵本
[選者]肌に優しいスキンケアブランド「SAVON de SIESTA」と直営店「Siesta Labo.」を営む附柴裕之さん
[シェア本]
- Life
作 くすのきしげのり 絵 松本春野 瑞雲舎
[コメント]
誰かのために、何かを用意して、その誰かが幸せになることが自分にも戻ってくる…そんなシェアの大切さや人は誰かとのかかわりの中で生きているのだということを教えてくれる感動の絵本。
もしもお金がこの世になかったとしたら、こんなお店ができるのでは?という私の理想です。
こんな時期だからこそ、たくさんの人に読んで欲しいと思います。
[もうひとこと]当店は通常営業しています。感染症対策に役立つ情報もまとめましたので、一緒にご案内いただければ幸いです。
10)老若男女の問いに詩人が答える
[選者]詩人谷川俊太郎さんの本や関連グッズを集めた「俊カフェ」の古川奈央さん
[シェア本]
- 谷川俊太郎質問箱
著 谷川俊太郎 イラスト 江田ななえ 東京糸井重里事務所
[コメント]
ほぼ日刊イトイ新聞での連載に加え、掲載できなかった質問に俊太郎さんが答えたものがずらり掲載。「どうしてそんなことまで聞くの!?」とクスッと笑ってしまうものから、生死についての切実なものまで、老若男女の質問に俊太郎さんがとても丁寧に、時にウィットに富んだ言葉で答えています。「あ、いま自分はこの答えを聞きたかったんだ」。そう思える答えと出会っていただけたなら嬉しいです。個人的に一番好きなのは、『谷川俊太郎質問箱』の帯にもなった、6歳のさえちゃんの質問に対する俊太郎さんの答え。愛って、そういうことだな…と思えます。
[もうひとこと]俊カフェはコロナに負けず絶賛営業中です。図書館が泣く泣くクローズになった今、本に飢えている方は是非ともお越しいただきたいです。1オーダーで本読み放題です。『谷川俊太郎質問箱』と続編の『星空の谷川俊太郎質問箱』どちらも俊カフェで閲覧いただけますし、販売もしています。