おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
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第542回 BOOKニュース 2022年3月編

【NEWS01】
札幌出身の麻雀プロ&初代Mリーガーが自伝的小説を執筆
日本初、現役プロによる書き下ろし麻雀青春小説『渚のリーチ!』

渚のリーチ!
黒沢咲  河出書房新社

「秒速で、恋に落ちた」相手は人気俳優似の同級生でも、気になるあの店のスタッフでもなく、「四角い卓を囲んで牌をそろえていくあのゲーム」――。
日本初、現役の麻雀プロによる書き下ろし麻雀青春小説『渚のリーチ!』が今話題を呼んでいる。
著者の黒沢咲さんは札幌出身。上智大学理工学部化学科卒業後、会社員時代に日本プロ麻雀連盟のプロテストに合格。現在はプロ雀士として活躍している。

本書は、黒沢さん初の小説執筆。「競技麻雀のストイックなかっこよさを伝えられるような小説を」という編集者の依頼に共感し、自身をモデルとする新人麻雀プロ・渚の成長を描いた。
「強気のヴィーナス」のキャッチコピーを持つ黒沢さんらしく、物語は終始速いテンポで進む。麻雀のプロスポーツ化を目指し、2018年7月に発足したMリーグのドラフト会場の場面は、指名を待つ当事者ならではの緊張と興奮が伝わってきた。

麻雀には独特の「役」(ポーカーで言えば「ワンペア」「ストレート」のような手)があるが、麻雀未経験の読者は渚の心情だけを追っても十分楽しめる構成になっている。
何よりもYouTuberという職業がある現代に渚=黒沢さんのような自立の道筋があることを見せてくれるところも新しい。
「いつか自分も!」と開眼する"未来の渚"が現れることを期待して、中学や高校の図書室でも取り扱ってほしい青春小説だ。

【NEWS02】
各地に息づく鯨の物語を〈編む〉美術家・是恒さくらさんが制作
苫小牧・樽前浜のフリーペーパー「Carta Cetacea」

「Carta」(カルタ)とはイタリア語やスペイン語で「地図」を、「Cetacea」(シティシャ)は「鯨類」を表すラテン語。
「Carta Cetacea」で「くじらじまの海図」と名付けたフリーペーパーが2022年2月発行の第3号をもって「ひと区切り」がついたという。

実物を見てもらった方が早いかもしれない。制作の中心人物であり、2021年9月から苫小牧市で活動する美術家・是恒(これつね)さくらさんのサイトから全3号のpdfが無料でダウンロードできる。

Carta Cetacea / くじらじまの海図 - SAKURA KORETSUNE

www.sakurakoretsune.com

編集・発行は「タルマイ編集部」。苫小牧市美術博物館の学芸員やNPO法人樽前artyプラス、地元出版社の一耕社と共同で制作した全3号のフリーペーパーだ。

瀬戸内海に浮かぶ倉橋島の音戸(おんど)町で生まれた是恒さんの制作テーマは、「鯨にまつわる物語」。
「鯨が持つ多様なイメージについていろいろな土地でお話をうかがっていると、地理的に離れていても同じような土地の記憶に出会うことがあります。それはまるで、鯨が海を通していろいろな土地を結びつけているかのよう。鯨がいることで見つかる海辺の風景を追いかけています」

「苫小牧の海辺に昔、鯨の骨をまつっていた神社があった」という話を是恒さんが聞きつけたのは、2019年に樽前artyプラスに招かれて苫小牧を訪れたとき。
その後コロナ禍になり、予定していた海外渡航の延期を余儀なくされたが、苫小牧市美術博物館から企画展参加の声をかけられていたこともあり、「気になっていた神社のことも腰を据えて調べたい」と当地に家を借りることにしたという。

冒頭で紹介した「Carta Cetacea」は「企画展の前後にも続くような企画を」というアイデアから生まれたもの(企画展「NITTAN ART FILE4 土地の記憶」は3月13日で終了)。
江戸時代から鰯漁で栄えた「樽前(たるまい)浜」を舞台に、是恒さんたち編集スタッフが多角的な視点で集めた鰯と鯨にまつわる物語を読むことができる。

「Carta Cetacea」1号の表紙。カバーイラストは是恒さんが描いた。3号の表紙を合わせると"全貌"が見えてくる。

2015年以降、鯨を制作テーマと定め、アメリカ・アラスカ州や宮城県の唐桑半島、和歌山県などを訪れては収集した鯨の物語をリトルプレス『ありふれたくじら』にまとめて出版している是恒さん。
そのアーティストとしてのユニークさは、鯨の物語をリトルプレスに編集するだけでなく、そこから生まれたイメージを刺繍で表現するという重奏的な表現形態にある。
「英語のtextとtextileのように〈文章〉と〈織物〉は近い言葉で表されると言われています。数枚の布きれに刺繍をほどこして一つの作品が出来上がるように、各地に散らばる鯨の物語を集めたらまた新しい鯨のイメージが浮かび上がってくるのではないかと感じています」。そう語り、鯨を〈編む〉旅を続けている。

現在は登別や苫小牧で集めた話も盛り込んだ『ありふれたくじら』最新号を制作中。『ありふれたくじら』は現在、札幌市・CAI03で開催中の個展「潜る眸」の会場で販売中(会期は3月19日まで)。札幌での販売店も探している。是恒さんのサイトでバックナンバーを見て関心を持った方は、ぜひともご本人にお問い合わせを。
また、是恒さんはつねに「鯨にまつわる話」を募集中。苫小牧の弁天にあった〈鯨の骨の門〉を含め、あなたが耳にした鯨の物語があれば、メール(是恒さくら)でお知らせを。

SAKURA KORETSUNE - Exhibition Information 展覧会情報等

www.sakurakoretsune.com

是恒さくら個展「潜る眸」
  2022年3月19日(土)まで札幌のCAI03で開催中!
会期 2022年2月22日(火)~3月19日(土)
時間 13:00~19:00
休館日 日曜・月曜
会場 CAI03(札幌市中央区南14条西6丁目6-3)
主催 CAI現代芸術研究所/CAI03
是恒さくら(これつね・さくら)
1986年広島県生まれ。2010年アラスカ大学フェアバンクス校卒業。2017年東北芸術工科大学大学院修士課程修了。2021年より北海道苫小牧市在住。国内外各地の捕鯨、漁労、海の民俗文化を尋ね、リトルプレスや刺繍、造形作品として発表する。リトルプレス『ありふれたくじら』主宰。
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