札幌ステラプレイス 5階の三省堂書店札幌店で好評開催中!
[BOOKニュース]
三省堂書店札幌店のオリジナル企画が面白い!
つくり手の人物像に迫る「新人出版社の履歴書」フェア
[2022.2.21]
2019年以降に設立した独立系出版社17社が勢揃い!
各社開業までの道のりを「履歴書」形式で紹介
いま、三省堂書店札幌店で開催中の「新人出版社の履歴書」フェア。ポップについている若葉マークは、各社ともに2019年以降に設立した"新人出版社"である証。
なかには「別に本業のある3人がたまに集まって本をつくる出版サークル」というユニット形態のところを含め全17社。
大半が初めてその名前を耳にする新たなつくり手たちが並んでいる。
担当書店員の工藤志昇さんにお話をうかがった。
「個人的にずっとあたためていた企画です。近年は鮮度や知名度ばかりが取り沙汰されがちな本ですが、"誰がどんな思いで作ったのか"、そこに光を当てたフェアを作ることも書店員の大事な務めの一つだと感じています」
その「誰が」を紹介するツールとして「履歴書」を活用したアイデアも秀逸だ。各社の回答を一冊の小冊子にまとめている。
本物の履歴書を元にフォーマットを作り、各社代表のプロフィールを記入してもらった。出版社にとっては自分と自社本をセットで売りこむ貴重なチャンス。私たち読者は「この人が作った本を買いたい!」という新たな動機を獲得する。
17社中、唯一手書きで回答した「麓出版」石崎嵩人さんの履歴書。各自が子供時代の思い出や進路を迷った時期、開業までの決意を綴っている。
ブックイベント「ヨマサル市」実行委員が協力
ネットつながりだった出版社もPRの好機に
「この企画を思いついた当初から"履歴書"というキーワードは浮かんでいました」と語る工藤さん。
「あとはどういう出版社さんに声をかけるか。自分一人では知識も限られるので、以前『ヨマサル市』でご一緒した下郷さんたちに相談しました」
「ヨマサル市」とは2020年に札幌の出版社・寿郎社に勤める下郷沙季さんと、元同僚で現在は都内の出版社に勤務する文平由美さんが始めた持ち込み企画。「思わず読んじゃう=読まさる本」との出会いをつくるブックイベントだ。
工藤さんから連絡をもらった下郷さん。
「ヨマサル市はもともと"札幌の読書文化を盛り上げること"が目標。本と読者を結ぶだけでなく、書店・図書館関係者や出版関係者たちもつながって日頃のフェアや出版企画が札幌から生まれたら、と思っていたので、工藤さんからのご連絡はとてもうれしかったです。
自社の寿郎社が出ないフェアに関わるのは初めてでしたが(笑)、できる限り協力させていただきました。
私が特に入れて欲しかったのは、ギャラリー併設のカフェを拠点とする札幌の出版社salon cojicaさん。オーナーと直接面識はないんですが、出している写真集がとても素敵なんです」
「履歴書」ポップには「自社のキャッチコピー」や工藤さんが書いた「書店員からひと言」も掲載。
札幌出身の後藤亨真さんが2019年8月に創業した「コトニ社」。出版社勤務時代に「もうちょっと読者の方々に寄り添った人文書や文芸書は作れないだろうか」と思ったのが開業動機の一つだという。
では、実際に声をかけられた出版社の方はどうだろう。工藤さんと以前からSNSでつながっていた兵庫県加東市のスタブロブックス代表の高橋武男さんは2020年4月に創業。
コロナ禍真っ只中の開業となったが、「ここで立ち止まるよりは走りながら考えた方が自分の性格にあっている」と思い、当初の予定通り看板をあげたという。
電話でお話をうかがった。
「工藤さんとはTwitterの相互フォローや僕が書いたnoteも見に来てくれたネットつながりでしたが、直接やりとりするのは今回が初めて。出版社を始めて一番実感しているのは流通の難しさです。僕たちみたいな小さい出版社は作った本をどこにどう卸して、店頭に届けたらいいのか、しかも採算を考えながら…となると試行錯誤の繰り返し。
今は書店さんからご注文いただいたら出荷する『返品条件付き注文扱い』なので、こういう自分たちのことを知っていただけるフェアは"ありがたい"の一言です」
履歴書に記入する、という斬新なアイデアも「2021年12月に自分の開業までの道のりをまとめた自社本『ローカルクリエーター』を出したばかりだったので書きやすかったです」
履歴書の最後に書く『本人希望欄』は遊び心も織り交ぜて、希望給与の代わりに「初版3000部を売り切る本を年3冊刊行…そうすればまともな給料を得られるようになる(笑)」と記入。企画の意図を汲んだ回答を寄せた。
- ローカルクリエーター
スタブロブックス編 スタブロブックス - 高橋さんは兵庫県加東市でどのように出版社を立ち上げ、地元とつながっていったのか。今だから実践できる地方×○○の暮らし方をたっぷり紹介。「ローカルクリエーター」の実例として同じ出版社仲間である利尻島の淡濱社さんも紹介されている。
各社が「開業するにあたり刺激を受けた本」や「今イチオシの本」も陳列。
「新人出版社の履歴書フェア」冊子の冒頭には工藤さんが書いた挨拶文が載っている。
著者のファンだから。大きな賞を受賞したから。新聞広告で目にしたから...。もちろんそういった理由で本を手に取ることもあるでしょう。
そうして手に取る理由のひとつに、「この人たちがつくったから」が含まれるのだとしたら、そしてそれが新たな読書の入り口になってくれるのだとしたら、このフェアはとても意義のあるものになると思うのです。
一冊の向こう側にはその本を出したいと思う出版社がいる。工藤さんが言う「一本芯が通った本づくり」を実践する17模様の人生を、ぜひこの機会に知ってほしい。
棚の場所は入口通路を少し進んで左側。自社企画用の棚を使った三省堂書店札幌店の「新人出版社の履歴書」フェアは3月16日まで!