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第578回 「ひらめき図鑑」2作目も重版出来!株式会社スペースタイム

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2023年7月1 日時点でAmazonの医学史部門のトップ2を本書の単行本とKindle版が独占!著者はスペースタイム(札幌本社)の楢木佑佳さん。

[新刊紹介]Amazonベストセラーにランクイン!
コロナの時代を体験した私たちの〈知の巡り〉を良くする
『医学の歴史ひらめき図鑑』好評発売中!

[2023.7.10]

サイエンスコミュニケーションのプロが作る「ひらめき図鑑」シリーズ

札幌本社の株式会社スペースタイムは、科学技術の仕組みや成果を社会にわかりやすく伝えるサイエンスコミュニケーションを得意とする企画制作会社だ。

北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット(通称CoSTEP:コーステップ)の一期生である中村景子さんが創業し、スタッフに、博士号の取得者も多数。
「"知の巡り"を良くする」というビジョンを掲げ、相談案件に対してファクトに基づき、より効果的な手法や表現を提案できるプロダクションとして全国のクライアントから信頼を集めている。

2019年2月には、出版社の依頼を受けてから3年越しで取り組んだ『科学史ひらめき図鑑』(ナツメ社)を出版。
副題にある通り「世界を変えた科学者70人のブレイクスルー」を紹介したところ、発売10日で重版がかかり、「文系ビジネスマンが買い求める、1万部超えの科学史図鑑」として話題の一冊に。

[新刊紹介]札幌の企業が得意分野で全国出版を実現 イラストで魅せる『科学史ひらめき図鑑』好評発売中! 『科学史ひらめき図鑑』 スペースタイム著 杉山滋郎監修 ナツメ社 - 5冊で「いただきます!」フルコース本 北海道書店ナビ

www.syoten-navi.com

そして2023年5月、その「ひらめき図鑑」シリーズの第2弾にあたる『医学の歴史 ひらめき図鑑』を刊行。
7月1日時点でAmazonの医学史ジャンルの1位を本書の単行本が、2位をKindle版が占めるという快挙を達成!
一体どんな本なのか、作り手たちの思いをうかがった。

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左が社会を動かした科学者70人の「ひらめき」にフォーカスし、その思考法に迫った前作。「ひらめき図鑑」シリーズを彩るキャラクターのイラストも著者の楢木さんが手がけた。

「身体を知る」から始まる独自の章立て&HIRAMEKIチャート

『医学の歴史 ひらめき図鑑』は章立てから他の医学史本とは異なっている。
〈第1章 身体を知る〉に始まり、〈第2章 病気を知る〉〈第3章 身体を診る〉、そして最後が〈第4章 感染症に挑む〉。単に時系列に事象を追うだけではない独自の構成だ。
スペースタイムの中村社長と執筆した楢木佑佳さんに解説していただいた。

「私たちがナツメ社さんから『次は医学史で』とお話をいただき、真っ先に参考にしたのが医学史の大家である順天堂大学特任教授の坂井建雄先生のご著書『図説 医学の歴史』でした。
実はまったくの偶然なんですが、坂井先生の研究室のWEBサイトを当社が作っていたというご縁もあり、『この坂井先生ってあの坂井先生?』みたいに話がつながって(笑)。これはもう、ぜひとも坂井先生に監修をお願いしたいと出版社に伝えた、という経緯があります」(中村さん)

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各章の冒頭には主な出来事を並べた年表を置き、その次に「HIRAMEKIチャート」を掲載。ひらめきのビフォー・アフターがわかりやすく視覚化されている。

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トピックごとに見開きで完結しているのでサクサク読める。社内でこの基本フォーマットを編み出したのち、育休から復帰した楢木さんが一気に執筆に取りかかった。

「その坂井先生の本をベースにしつつ、どんな本にするかを社内で考えたときに、情報を年代順にただ並べていくのはやめようねと。読者の皆さんが関心を持ってくれるようなストーリー性を大事にしたいねという話をしていました。
そこで考えたのが、そもそも医学の発展は〈身体を知る〉ことから始まっています。なので第1章はまずそこから。次に関心が高まっていくのが特定の〈病気を知る〉こと。例えば、がんならがんがどうやって病気として認知され、治療されるようになってきたかを第2章に据えました。

第3章の〈身体を診る〉は、診断や治療のブレイクスルーを起こした現代にまで用いられている医学技術の発展をまとめました。
医学の歴史は「見えるようになる歴史」で、最初は身体の中を見ることすらしなかった時代から解剖して中を見るようになり、それが肉眼から顕微鏡、電子顕微鏡……とどんどん解像度が上がっていく。
身体を観察する技術が発展しないと治療は一旦そこで停滞し、また見えるようになると先に進む。その繰り返しであることが実感できます。

そして最後はコロナのこともあり、感染症のことはしっかり入れたかった。それらを順に追っていくと〈身体を知る〉〈病気を知る〉〈身体を診る〉〈感染症に挑む〉の4章構成になりました」(楢木さん)

コロナの時代にサイエンスコミュニケーターの役目を再確認

前作・科学史の執筆中には2018年の北海道全域が停電するブラックアウトに遭遇。科学の発展を支えた先人たちに思いを馳せながらの執筆だったという楢木さんだが、今度は2020年から始まったコロナ禍の中、医学史を書くという思いがけない巡り合わせを体験した。
どんな思いで執筆にのぞんだのだろうか。

「今回の執筆にあたり、科学史の時に監修でお世話になった杉山滋郎先生(北海道大学名誉教授)から〈正しさを担保する姿勢〉を教わっていたことはとても大きかったと思います。
サイエンスコミュニケーターである私たちが手がける以上、まとめページや入門書の寄せ集め的なことはしないと決めていました。

坂井先生の本のように信頼のおける日本語の本と、医学の論文にも当たっていきました。論文は大半が英語で書かれているので、翻訳ツールを使い、それをさらに読み込む手間はありましたが、杉山先生がそうやって書くんだという姿勢を見せてくださったことがとても勉強になりました」

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現在はスペースタイムのつくばオフィスに勤務する楢木さん。論文作図などのグラフィックデザインやディレクションを担当。専門は生物学でミジンコの研究をしていた。博士(理学)。

楢木さんを見守っていた中村さんはーー。
「現在の医療はオーダーメイドの時代。患者さんやご家族が薬も治療法も選べる時代ですよね。マスクの着用も、ワクチン接種もそうでした。
ということは、個人個人がどれだけリテラシーを持っているかがとても重要になってくる。

知識不足や偏った知識に振り回されてしまったために誤った判断をして、それが重大な結果につながっていく…。そういった残念なケースを少しでも減らすのが、私たちサイエンススコミュニケーターの役目です。
ですから楢木がこの本を手がけたことはすごく意義がありますし、読者の皆さんに医学や科学のリテラシー向上の重要性を微力ながらもお伝えできるのではないかなと感じています」

2・5等身の万能キャラがマジメな医学史を楽しくわかりやすく

人の命に関わる題材である以上、どれも読み飛ばせない記述ばかりだが、その緊張感を和らげつつ、本書をチャーミングに仕上げているのが楢木さんの描くイラストだ。
2・5等身のシンプルなキャラクターたちが不思議な魅力をもって、当時の状況やひらめきの瞬間をゆるっと見せてくれる。

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キャラクターのプロトタイプ。「これに髪型・髭・眼鏡などのパーツをつけてその人になってもらいます」(楢木さん)

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モブキャラも大活躍!解剖されたり怪我をしたり病気になったり忙しい。よく見ると天然痘が原因で失明した伊達政宗公もいる。

第4章「感染症に挑む」では、日本人の名前が多く登場する。北里柴三郎や利根川進の名は誰もが知るところだが、ドイツの細菌学者エールリヒの実験を支えた志賀潔・秦佐八郎、百日咳のワクチンを開発した佐藤勇治・博子夫妻、そして自身が開発した世界初のエイズ治療薬を製薬会社が高価格で販売するのに憤慨し、適正価格で販売するための新たな治療薬を開発した満屋裕明。
彼らの存在はたくさんの人に知ってもらいたい。

医学はつねに流れの上にある、努力を重ねた先人たちに敬意を

本書が完成した今、思うことは。中村さんから回答してもらった。

「こうして医学史を俯瞰することで改めて感染症について考えさせられました。どんなに個人が健康に気をつかっても感染症には皆が一様に抗えない。
個人の病気と大衆の病気をどう考えるか、人間の視点で考える感染の悪とそこから始まる医学の進歩……特にコロナは社会における個人の役割や倫理観についても考えさせられる感染症だったと感じています。

もし今、この本の第5章を作るとしたらテーマは予防医学。発症した病気を治すのではなく、病気が発症する前のサインをキャッチしてコントロールするという予防医学の動きがすでに世界的に始まっています。
今後私たちの「病気」という概念が変わる可能性も秘めている、非常に興味深いテーマです」

最後は、「ナツメ社さんがよく待ってくださって」と感謝を口にする楢木さん。
 
「この本で一番皆さんに伝えたかったことは、医学はつねに流れの上にあるということ。過去の営みがダメだったということでも、現在の医療が万能ということでもなく、過去から続いてきた努力の上に現在進行形で努力を重ねている人たちがいる。
その事実に敬意を払いながら、私たち一人一人が自分の医療に向き合っていけるようになれたらいいなと思います。コロナ禍でワクチンを最善手だとしたのも、過去の蓄積があったから。そうした科学的な視点を皆さんに届けられたらうれしいです」

本

『医学の歴史ひらめき図鑑』
株式会社スペースタイム 楢木祐佳著 坂井建雄監修  ナツメ社

株式会社スペースタイム “知の巡り”を良くする

www.stxst.com

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