5冊で「いただきます!」フルコース本
書店員が腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ
Vol.4 コーチャンフォー釧路店さん
2014年5月に一部リニューアルしたコーチャンフォー釧路店。
[本日のフルコース] 村上春樹を心から堪能するコース 小悪魔風[2015.6.22]
書店ナビ | [書籍][文具][ミュージック&映像][食]の4つを文化を提供するコーチャンフォー。2014年10月には初の東京進出となる若葉台店をオープンし、今後のさらなる躍進にも期待が高まります。 |
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コーチャンフォー釧路店の児童書コーナーは黄色い機関車が目印。土日はちびっこでいっぱい!
釧路動物園を舞台にした絵本『キリンがくる日』は昨年、 第19回日本絵本賞読者賞【山田養蜂場賞】を受賞した。
320坪のステーショナリーコーナーは ビジネスバッグなど上質なアイテムも充実。
大小さまざまなグリーンコーナーは自宅用にもプレゼントにも使えそう!
書店ナビ | さて、今回の「村上春樹を心から堪能するコース 小悪魔風」を選んでくれたのは、コーチャンフォー釧路店のお一人です。実はこのテーマの他にもうひとつ、「くしろよろしく」(頭から読んでも後ろから読んでも同じになる回文!)と題して釧路にちなんだフルコースも作ってくださり、書店ナビ一同大感激! 鍛え抜かれた腕前を披露してくれたフルコース、早速見ていきましょう。 |
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前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書
神の子どもたちはみな踊る 村上春樹 新潮社 村上春樹らしさが存分に詰まった短編集。釧路市民としては「UFOが釧路に降りる」に出てくるラブホテルが『ホテルローヤル』(書店ナビ注:釧路出身の作家桜木紫乃さんの直木賞受賞作)だったのでは?と想像を膨らませてしまう。カエルさんに「カエルくん」と指摘されるのが嬉しくなったらハルキストの仲間入り。
書店ナビ | 村上作品を読み始めたきっかけは何ですか? |
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コーチャンフォー 釧路店 | 15年ほど前に『ダンス・ダンス・ダンス』を読んだのが、きっかけです。ミスチルの同題の曲が好きだったから、という安直な理由でした。大学生だった当時、品川のホテルのバーで友人とカクテルを飲んでいたら、隣にいた女性に突然おすすめのカクテルを聞かれて一緒に飲むことになりました。眼鏡が似合い、一つ一つの所作がそれぞれ几帳面な女性でした。今考えれば、彼女はユミヨシさんだったんだと思います。 |
書店ナビ | フルコースのテーマ「村上春樹を心から堪能するコース 小悪魔風」の「小悪魔風」にこめた思いとは? |
コーチャンフォー 釧路店 | 村上春樹は10代後半から20代前半に必ず読むべき作家です。30代になってしまうと、あの頃に良かったと思ったフレーズやシーンが色あせてしまうこともあります。でも、情緒的な比喩やリズム感のある言い回しなどは変わらず良いと感じます。そんな少し冷めた目で読んでしまう読者目線が“小悪魔風”です。 |
スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本
ダンス・ダンス・ダンス 村上春樹 講談社 あえて3部作を飛ばして読むのが小確幸(書店ナビ注:“しょうかっこう”と読む。氏のエッセイ『うずまき猫のみつけかた』に出てくる造語。“小さいけれども、確かな幸福”と記されている)。著者はあまりこの作品について語りたがらないが、10年前にこの本に出会ってたら必ず恋に落ちていた、と僕は思う。音楽が鳴り続けている間は踊っておこう。無性にハワイに行って、「ピナ・コラーダ」が飲みたくなる一冊。
魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく
海辺のカフカ 村上春樹 新潮社 藤圭子さんが亡くなった時に、佐伯さんのモデルはこの人だったんじゃないだろうかと感じた。別のエッセイで出てくる春樹さんと藤圭子さんの出会いも含めて読むと、新たな彩りが生まれる。「君が好きだからに決まっているじゃないか」というさくらの台詞が秀逸。
肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 村上春樹 新潮社 2つの世界が少しずつ近づいていき、やがて重なり合う瞬間に思わずため息が漏れる。雨が道路を染めていく様子など、情景描写の比喩が最も優れた作品だと思う。やれやれ、全く、あるいは、悪くない、と言った村上春樹用語が勢ぞろい。4年周期で読みたくなる名作。
デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで
国境の南、太陽の西 村上春樹 講談社 「子供たちは彼女のことを怖がるんだよ」と誰かが言った言葉に、止まってしまった人生と、動いていた人生の隔たりが寂しい。同じ時の中で、過去と現在と未来が同時に進行している流れが好き。読了後、あなたはきっと未来を向こうと思う。そうよね? その通り!
ごちそうさまトーク 第二のコースは「くしろよろしく」
書店ナビ | 同時に考えてくださったもうひとつのフルコース「くしろよろしく」のほうでも、前菜はこの村上春樹フルコースと同じ作品でしたが、他の4品は以下のとおりです。 |
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第二のコース 「くしろよろしく」 | スープ 原田康子著『挽歌』 「釧路はやはり“霧の街”。このダークなフレーズを 前向きに使うことができるのはこの小説があればこそ」 魚料理 小畑友紀のコミック『僕等がいた』 「建物や学校も釧路市民にはなじみの深いものばかり」 肉料理 桜木紫乃著『起終点駅(ターミナル)』 「秋に劇場公開される同題のタイトルを含む6話の短編集。 桜木さんの世界観はなんとなく9月がよく似合うように感じる」 デザート 西村京太郎著『特急「おおぞら」殺人事件』 「“さびしき町”釧路での殺人事件は読了後に余韻が残る切ないエンディング」 |
書店ナビ | 村上春樹フルコースを作るにあたって特に悩んだところはありましたか? |
コーチャンフォー 釧路店 | 100パーセントの恋愛小説『ノルウェイの森』を入れないで良いものか、は非常に迷いました。『グレート・ギャツビー』を読んで共感できたら、あるいはレイコさんが最後に目指した土地が釧路であったなら、「肉料理2」として入れたと思います。旭川の方は是非こちらも読んでください。 村上作品は全てがメタファーです。理解しようとせず、感じることが大事です。北海道が舞台の作品も数多くありますので、一度読んでみてください。 かっこう。 |
書店ナビ | 深い読み込みと作品世界への愛情が上質なハーモニーを奏でるフルコース、ごちそうさまでした! |