おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第236回 東京堂書店

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員が腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.13 東京堂書店 按田 弥生さん

文庫と児童書担当の按田さん、小4の男の子のおかあさんでもある。

[本日のフルコース] こども時代も、大人になってからも 「わたし」の栄養になってくれた本

[2015.8.24]

書店ナビ 札幌の北24条にある東京堂書店は医学書を取り扱う専門書店。病院や大学等に専門書を届けるかたわら、約60坪の一般書店も経営し、北24条界隈の皆さんから長く愛されています。 今回は勤務歴6年の按田(あんだ)さんにフルコースを作っていただきました。
按田 書店勤めをしていて恥ずかしい話ですが、私、胸を張って「趣味は読書です!」といえるほどの量は読んできていないと思います。 でも本は小さいころから大好きなので、今日はこれまで読んだなかでいまでも大好きな5冊を持ってきました。
[本日のフルコース] こども時代も、大人になってからも 「わたし」の栄養になってくれた本

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

まよなかのだいどころ

まよなかのだいどころ モーリス・センダック  冨山房 男の子が真夜中、部屋を飛びだして降りたったのは台所。そこでパン屋と出会い、不思議な体験をする絵本です。小さいころ母に読んでもらった本の中で一番鮮明に覚えている一冊です。

書店ナビ 名作絵本『かいじゅうたちのいるところ』でも有名なモーリス・センダック。大胆な画面構成とユニークなキャラクターにファンが多いですね。
按田 絵本って見開きで一枚の絵を見せるものが多いと思うんですが、センダックの作品はコマ割りがとっても面白いんです。コミック感覚で楽しめるからでしょうか、夢中になって繰り返し読んだ記憶があります。 「しあげはミルク!しあげはミルク!」というコックさんたちのセリフに自分で節を作って歌ってましたし、出来上がったパンがとにかくおいしそうで目がくぎづけに(笑)。フワフワしつつ噛みごたえがありそうなパンが大好き、といういまの好みはこの絵本の影響です。
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主人公がパンの飛行機に乗る場面。「いま見ても食べたくなっちゃいますね」

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

人生はニャンとかなる! 明日に幸福をまねく68の方法

人生はニャンとかなる! 明日に幸福をまねく68の方法 水野敬也・長沼直樹  文響社 猫の写真とともに偉人たちの名言・エピソードを掲載。写真に癒され、名言に「はっ!」とさせられます。姉妹本に『人生はワンチャンス!』と『人生はZOOっと楽しい!』がありますが、猫派の私はやはりこれをセレクト。各ページの切り離しが可能で、気に入ったページを貼ったり持ち歩いたりもできますよ!

書店ナビ 動物写真集ブームに火をつけたシリーズですね。按田さんはどのページがお気に入りですか?
按田 ええーとですね…(パラパラめくって)これ、これです。「苦手を克服する快楽」。息子がいま小学4年生で、漢字が苦手みたいなんです。(誌面を見て)泳げるようになったこの猫みたいに頑張ってくれたらうれしいな、なんて親は勝手に思ったりして(笑)。 でも基本はどのページも大好き。いつ見ても癒されます。

お気に入りのページを開きながら。「私は猫派なんですがなぜかうちには犬がいて。息子と一緒にやんちゃばかりです」。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

星の王子さま オリジナル版

星の王子さま オリジナル版 サン=テグジュペリ  岩波書店 世界中で読み継がれている“児童書”だと私も思っていましたが、中味はむしろ大人に読んでほしい物語です。自分に絶望しないよう、心の目でものを見ることの大切さを教えてくれます。

書店ナビ ここにある按田さん私物の『星の王子さま』は、懐かしいケースに入った岩波書店版。ウェブでご紹介している表紙は同じ岩波から出ている復刻版のほうです。
按田 今日ご紹介している“前菜”と次の“肉料理”と、この『星の王子さま』はどれも大人になってからあらためて買い直したものです。 『星の王子さま』を中学生で読んだときは、意味がわからないし難しい言い回しもいっぱいあったけど、とにかく惹かれました。「大切なものは目に見えない」とか、子どもごころにもストレートに飛び込んでくる文章があったから。 大人になったいま読んでもその魅力は褪せませんし、大人になったからわかるところもいっぱいある。一生そばに置いておきたい一冊です。 うちの子ですか? まだ読んでないみたいですが、私が「読みなさい」というよりは、できれば自分から手に取ってほしい。いつも手の届くところに置いてあります。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

Black Jack―The best 12stories by Osamu Tezuka(1)

Black Jack―The best 12stories by Osamu Tezuka(1) 手塚治虫  秋田書店 無免許の天才医師ブラックジャック。法外な治療費を請求し、神業的なテクニックで患者を治していくヒューマンドラマ。ジャンルはマンガですが、私的には「哲学本」だと思っています。

按田 はじめて読んだのは小学生のとき、おばの家で。マンガなのにザワザワして、見ちゃいけないような気もして。表立って読めない雰囲気がありました。
書店ナビ 秋田書店のこの文庫コミックシリーズは全17巻。お持ちいただいた数冊にフセンがついていますね。
按田 心に残っているエピソードで、1巻からは「人面瘡」と「ときには真珠のように」。特に後者は、本来であればどんな難病でも治せるヒーローのブラックジャックに、恩師の本間先生が命をかけて伝えるメッセージが心に響きます。 あと、9巻収録の「二人三脚」は何度読んでも大泣きしてしまって…スミマセン、いま見てもきっと涙腺があぶないので手に取れません(笑)。
書店ナビ わかります。私も読んでティッシュに埋もれた一人です。
按田 自分の読書経験から一冊をあげろ、と言われたら、私は迷わず『ブラックジャック』を選びます。人として大切なことや命のことを教えてくれた人生の哲学書です。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

増補新版 北海道野鳥ハンディガイド

増補新版 北海道野鳥ハンディガイド 大橋弘一著・谷口高司イラスト  北海道新聞社 タイトルどおり、北海道の野鳥図鑑。情報量が多くて満足度高し。眺めているだけでも楽しいし、バードウォッチングに携帯するもよし! カモ好きの私には必携本です。

按田 札幌って案外カモがいる川が多くて、お休みの日やふとしたときに何時間でもカモを眺めているのが、癒しの時間です。 ネコのような鳴き声にてっきりウミネコだと思っていたらオオセグロカモメだったことも、この図鑑を見てわかりました。
書店ナビ 著者の大橋さんは北海道のネイチャーマガジン『ファウラ』の編集長です。この図鑑もまさに「プロの仕事ここにあり」といいたくなるような完成度の高さに惚れ惚れしてしまいますね。
按田 実は前版の『北海道野鳥ハンディガイド』も持っていたんですが、増補新版が出たのを知って、どうしても欲しくなって買い直しました。プロならではの撮影角度や詳しい解説、とてもリアルな野鳥イラストに「すごいなぁ」と感心しながら楽しく読ませてもらっています。 図鑑というと子ども時代に読むもの、というイメージがありますが、大人の自分が知りたい内容が詰まっている図鑑と出会えて、とてもうれしいです。愛読しています。

子どもと一緒に本を読む時間を大切にしている按田さん。 「小さいころは『まよなかのだいどころ』を何度も何度も読み聞かせしました」

ごちそうさまトーク 好きなものから本にたどりつく

書店ナビ 冒頭で「趣味が読書とはいえない読書量」だと謙遜されていましたが、動物好きで、人としてあるいは親として大切なことを忘れずにいようとする按田さんならではのフルコースが出来上がりました。
按田 そう言っていただいて、ありがとうございます。書店員としてはやはり少しでも読書の面白さを広めたくて、皆さんも自由に、自分の好きなものから本にたどりついてくれたらうれしいです。 今回のフルコースを振り返ると、いくつになっても好きなものって変わらないんだなと気づかされました。この5冊と出会えて本当によかったです。
書店ナビ 「わたし」の栄養になってくれた愛読書のフルコース、ごちそうさまでした!

書店川柳

発売日 東京よりも 二日遅れ

発売日から北海道まで本が届くには二日かかる。これを知らないお客様が案外多い。「当店だけでなく北海道の店頭にまだ並んでおりません、とお伝えするのが心苦しくて…」。こればかりは書店員もなんともしがたい。書店でお金を払ったらその場に転送される、なんていう近未来まで我慢、我慢。

2015年5月から北海道書店ナビは書店員さんにお願いしています、「お好きなフルコースを作ってみませんか?」と。素材はもちろん皆さんが愛する本を使って。 《前菜》となる入門書から《デザート》として余韻を楽しむ一冊まで、フルコースの組み立て方もご本人次第。 読者の皆さまに、ひとつのテーマをたっぷりと味わいつくせる読書の喜びを提供します。
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