5冊で「いただきます!」フルコース本
書店員が腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ
Vol.17 江別港 橋本 恭子さん
コミュニティカフェ「江別港」のスタッフ橋本さんは、同じビル1階「麺こいや」のキッチンスタッフとしても活躍中。
[本日のフルコース] 血縁が巻き起こすミステリーで 北欧5カ国を巡るフルコース[2015.9.21]
書店ナビ | 2015年9月は「北海道ブックフェス」の開催月。全道各地でさまざまな本にまつわるイベントが開催されています。 江別会場はここ、江別市の大麻銀座商店街にあるコミュニティカフェ「江別港」。昨年はフェス中に行われたビブリオバトルを取材させていただき、今年はフルコース企画でおじゃましています。 フルコースを作ってくれたのはスタッフの橋本さんです。先ほどまで1階にある「麺こいや」さんのキッチンに立たれてました。 |
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橋本 | はい、普段は「麺こいや」で調理もしますし、江別港のスタッフとしては手描きポップを作ったり壁のペンキも塗ったり。主人(江別港代表の橋本正彦さん)と一緒にまちとひとをつなぐイベントづくりをしています。 |
書店ナビ | 今回は北欧ミステリー、しかもフィンランド、ノルウェー、アイスランド、スウェーデン、デンマークの5カ国が舞台の5冊を選んでいただきました。たくさん読んでいらっしゃるんですね! |
橋本 | 北欧雑貨もミステリーも大好きなので最近特にハマっています。 |
9月12日からの3日間、江別港では古書市やビブリオバトル、0歳から小6までの子どもたちへの児童書・絵本プレゼントなどが行われた。
[本日のフルコース] 血縁が巻き起こすミステリーで 北欧5カ国を巡るフルコース前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書
雪の女 レーナ・レヘトライネン 東京創元社 ミステリー度は低いですが、フィンランドの生活描写が興味深い。親しみを持てる主人公の女性警察官マリアに共感しながら気軽に読めます。
書店ナビ | 著者のレーナ・レヘトライネン女史は1964年フィンランド生まれ。12歳で作家デビューした天才肌で、この〈マリア・カッリオシリーズ〉が代表作。2013年に出版された本書が邦訳一作目とは、まだまだ日本の読者には新しい作家さんですね。 どのへんがお好きでしたか? |
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橋本 | ただ事件の真相を追っているだけだったら、こんなに厚い本にはならなかった。ミステリーの本筋と平行して、フィンランドのライフスタイル――移動手段がスキーだとか個人の家にサウナが付いている――とか、マリアの心情がとても丁寧に描かれているところに好感を持ちました。 |
書店ナビ | 警察という男社会の女警官、大変そうです。 |
橋本 | 上司は認めてくれているのにイヤな同僚がいたりして(笑)。そこをどう乗り越えていくか、働く女性としてのマリアの成長にも注目です。 |
スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本
湖のほとりで カリン・フォッスム PHP研究所 ノルウェーの小さな村に起きた少女失踪事件。村独特の閉鎖的な空気の中でじわじわと真実に近づいていく過程をお楽しみください。
橋本 | 評判を聞いて探しまわったんですが、まず驚いたのは意外な出版社から出ていること。PHP研究所というとビジネスや実用書のイメージが強かったので、そういうところがわざわざ出すくらいなのだからきっと面白いに違いないと思って手に取ったら、期待どおりでした。 ミステリーをネタバレしないようにご紹介するのはとてももどかしいんですが(笑)、ベテランと若手の捜査員コンビが少女失踪事件の聞き込みをしていくうちに村人たち一人一人の秘密が明らかに…ラストに大きなドラマが待ちかまえています。 |
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書店ナビ | ネット検索すると、2007年にイタリア人監督によって映画化され、「イタリアのアカデミー賞と呼ばれるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で史上最多となる10部門で最優秀賞を受賞した」とのこと(日本では2009年に公開終了)。DVD化されているこちらも気になります。 |
「著者のカリン・フォッスムさんはノルウェーで“犯罪小説の女王”と言われているそうです」
魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく
湿地 アーナルデュル・インドリダソン 東京創元社 アイスランドのレイキャビックで起きたありふれた事件が過去の未解決事件の記憶を呼び覚ます。現在と過去を行き来する物語を簡潔かつ力強いタッチで一気に読ませます。
橋本 | この本は、ドシンとくる事件の重さもさることながら、余分な装飾のない力強い文章がすごいんです。聞き込みで双子のおばあちゃんが出て来る場面を読んでいるとそのまま映像が浮かんできます。 「ずさんで不器用、典型的なアイスランドの殺人」に導かれ、終始雨の中、物語が進んでいきます。 |
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書店ナビ | 「ずさんで不器用」。同じ北国の住人としては寒い土地で繊細さが要求される犯罪は難しそうなのが、なんとなくわかる気がします。 |
海外小説は登場人物の名前が覚えられないから苦手という声も多い。「この本も捜査官のコンビが《エーレンデュル》と《エーリンボルク》(笑)。慣れるまでちょっと大変ですが、最後まで読む価値があるので頑張ってください」
肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本
ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(上) スティーグ・ラーソン 早川書房 舞台はスウェーデンのとある孤島。地元の名士一族に関する失踪事件の調査依頼を受けた主人公ミカエルと、風変わりなサイバーオタク・リスベットのコンビに心底ハマるシリーズ第一弾。
書店ナビ | カラフルな表紙が印象的な文庫も出ていますが、橋本さんにお持ちいただいた本書はソフトカバー大判のほうですね。 |
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橋本 | 去年の北海道ブックフェスのときに古書市で見つけました(笑)。 魚料理の『湿地』がムダを削ぎ落とした文章のお手本なら、こちらは登場人物を徹底的に肉付けして、全員に共感できるところまで高めた理想型。 血縁に縛られた事件の陰惨さは、まさに“肉料理”。今回のフルコース選びで真っ先にここが決まりました。 |
書店ナビ | 映画はスウェーデン版3部作とハリウッド版1作があります。 ご覧になりましたか? |
橋本 | スウェーデン版の1作目を見ました。リスベットファンとしてはちょっと原作への思いが強すぎて…。 |
書店ナビ | ハリウッド版のリスベットを演じたルーニー・マーラー、200%の力を出し切っていました。原作とは異なる結末もあれはあれで完成されているので、よかったら見てみてください。 |
「1の上下巻を読んだあとすぐ残りの4冊も寝る間も惜しんで読みふけりました」
デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで
特捜部Q ―檻の中の女― ユッシ・エーズラ・オールスン 早川書房 デンマーク発の警察小説シリーズ第一弾。へんてこな登場人物たちのユーモア満載の会話に笑い、同時に本格的なミステリーも楽しめます。最後には感動もして後口さっぱり!
書店ナビ | ここまでネタバレにならないようそっとしておきましたが、実はフルコースのタイトルに「血縁が巻き起こす」と付いています(笑)。 でも本書の場合、コペンハーゲン警察のはみ出し刑事カール・マーク本人の“血縁”がかなり込み入っているようですね。 |
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橋本 | そうなんです。カールの奥さんには連れ子がいて、自宅にはなぜかゲイの同居人。シリーズが続くにつれて下半身付随になった元同僚も同居に加わります。 血縁ではありませんが、カールの部下アサドの変人ぶりが大好き! 二人のかけあいを皆さんにもぜひ読んでほしいです。 |
「カールを取り巻く、込み入った人間関係が人物紹介からも読み取れます」
ごちそうさまトーク 女性の立場を尊重する北欧ミステリー
書店ナビ | 今北欧5カ国をめぐるフルコースを振り返って、なにか思わぬ共通点はありましたか? |
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橋本 | 舞台になったまちの大小はありますが、どの話も突き詰めていけば家族の物語。だから身近に感じて共感しやすかったのかなあと思います。 あと、特に『ミレニアム』はそうでしたが頭脳明晰で戦う女性像が描かれていたりして北欧ミステリーは女性の立場を尊重しているように感じました。 |
書店ナビ | 実際に北欧を訪ねた経験はありますか? |
橋本 | 8年前の新婚旅行でスウェーデン、フィンランド、デンマークをまわりました。スウェーデンはマジメでキレイ好きが多い都会。デンマークの人たちは自分たちが楽しいのが一番大事みたい(笑)。フィンランドは環境がよくて、人もとてもあたたかかったです。 |
書店ナビ | 北欧とミステリーをこよなく愛する橋本さん作のフルコース、ごちそうさまでした! 江別港での北海道ブックフェスイベントは終了しましたが、北海道ブックフェスは全道各地で9月30日まで開催中です。カフェや雑貨店が期間限定の本屋になる「ミセナカ書店」や本のフリマなど、まだまだイベントが目白押し。公式サイトでご確認のうえ、ぜひぜひお近くの会場にお運びください。 |