おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第281回 キコキコ商會 末木 繁久さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が 腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.54 キコキコ商會 末木 繁久さん

取材はキコキコ商會さんが懇意にしている札幌市西区のレトロスペース坂会館さんにご協力いただきました。

[本日のフルコース]
小さくても可能性は無限大! 「めくるめく豆本の世界」フルコース

[2016.7.11]

書店ナビ タテ5・5cm×ヨコ4・5cm、手のひらにのるほどの小さな「豆本」を札幌で企画・出版している「キコキコ商會」の末木繁久(すえき・しげひさ)さんにご登場いただきました。 2000年から「等本社(などまめしゃ)」の屋号で豆本を作り始め、2002年には中島公園の近くで喫茶「キコキコ商店」をオープン。 いまは喫茶店をお休みし、「キコキコ商會」に改名後、工房での制作に一本化。展示会と自社サイトで豆本販売を続けておられます。

末木さんの奥さま、智佳子さんが描いた豆本『キコキコぼうや』。 「音が良くて、ここから屋号をとりました」

末木 小さいころから紙でなにかをつくるのが好きで、ノートの切れはしで本もどきを作っては友達と回し読みをしたりして、いまとやっていることはほとんど変わってないですね(笑)。 豆本だからといって、大型の本を縮小コピーしてホッチキスで綴じたりしているわけではありません。 「どんな本を作りたいか」というオリジナルの企画を考えるところから始めて、作者の選定・依頼、版下づくり、印刷(ちゃんと印刷所に出しています)、製本、装丁、そしてケースを作るまで、ほぼ自分ひとりで手を動かして作っています。 手のひらにのるハードカバーの本、それが僕がつくる豆本です。

フルコースを依頼するきっかけは、2016年5月に行われたレトロスペース坂会館での展示会だった。多彩なタイトルと緻密なつくりに驚き、思わずその場で「豆本フルコースをつくってください!」とお願いした。

[本日のフルコース]
小さくても可能性は無限大! 「めくるめく豆本の世界」フルコース

※価格は税込みです

前菜 そのテーマの導入となる読みやすい入門書 はなげ   末木智佳子 絵本です。ある日おこったふしぎな話。ブラシ職人による特製「はなげ」ブラシ(手植え・馬毛)もあります。 豆本・ブラシ・箱入りセット5500円 豆本のみ(ケース付き)2200円
書店ナビ これまでキコキコ商會さんから出版された豆本は、2016年7月時点で91種類。末木さん自身が企画・執筆されたものもあれば、他の方の著書もあり、内容も実用書からアート本、職人の手仕事を紹介するものなど実に多彩です…と、マジメにご紹介しようと思ったら、うわー、いきなりすごい!なんですか、「はなげ」の豆本って!
末木 最初から"飛び道具"を出してスミマセン(笑)。作者は僕の奥さんで、あるときふっと頭にわいたようで、一気に描き上げて見せてくれました。 こういう内容の絵本なので本体の面白さを上まわる仕掛けをしたくなって、知り合いのブラシ職人、埼玉県にある青山工房の青山大輔さんに「はなげの豆本に付けるブラシを作って」と依頼したら、これが出来てきました。 全長11cmで、ブラシは馬毛だから静電気が起きなくて、ものもいいんです。机の上など身のまわりのほこりをはらえます。

「奥のブラシは、はなげが短くトリミングされていて、手前のは伸ばし放題」。

書店ナビ 青山さん、こういう遊びにつきあってくれるところが、お茶目ですね。
末木 ええ、実用性と遊びの境目のギリギリを狙って作ってくれました。こういうコラボ商品は他にも「はりねずみ りっちょ左衛門」があり、青山さんとは「これからも面白いものを作りたいね」と話しています。
●青山工房 http://aoyamakobo.sakura.ne.jp/
サラダ いろどりも中味も多彩なわくわく本 はん画 札幌1   末木繁久 札幌にまつわる事柄を版画にしました。1冊に23枚収録。4集のシリーズです。 1冊2200円。
書店ナビ 豆本は一般書店では販売されていないので、私たちの目に触れる機会が少なくてもったいないですね。
末木 東京の神保町や青山には豆本専門店があり、豆本ファンは全国にいらっしゃいます。北海道のお客様に限らず、皆さまからよく聞かれるのは、「北海道や札幌をテーマにしたものはないの?」。 「なるほど、そういえばなかったな」と思い作ったのが、この「はん画札幌シリーズ」です。ありきたりのガイド本にはしたくなくて、自分なりに札幌のことを調べてモチーフを選んでいるうちに4集に増えました。 これ、一枚一枚刷ってるんです。パソコンの出力ではなく、紙の凹凸で刷る紙版画です。ナゾの使命感に駆り立てられて、手間も時間も相当かけてしまいました。

札幌駅や西区のシンボル三角山、札幌農学校2代目教頭のウィリアム・ホイーラーなど末木さんセレクトの題材が光る札幌シリーズ。

末木 この豆本をプレゼントされたという北大の先生から「感動しました!」と電話がかかってきたこともあります。新聞のコラムに書いてくださって、それを見た読者の方からお手紙をいただいたときは、作ってよかったと思いました。調子にのって今年の7月、新作の小樽シリーズも出しました。
スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本 そんな話   森雅之 北海道浦河町生まれの漫画家、森さんのはじめての豆本作品。かわいくてせつなくて、動物たちのちょっといい話が6本。すべて描き下ろしです。 1冊2300円。
書店ナビ 詩情あふれるタッチでファンが多い北海道出身・在住の森雅之さん。末木さんとお知り合いなんですね。
末木 喫茶店をやっていたころからおつきあいがあり、「ぼくも豆本をつくりたいなあ」とおっしゃって、後日ハガキサイズの原画が届きました。 6つのお話はすべて色枠で囲まれたレイアウトで、この色枠も森さんの手描きです。

森作品は詩のようなせりふも重要。「絵とは別に文字だけの原画もいただきました」

書店ナビ 「あとがき」を読むと、森さんが豆本のサイズ感をとても大事にして描かれたことが伝わってきました。
末木 そうなんです。豆本はこのサイズだから表現できる世界観があり、見るほうも通常の本とは異なる集中力で見るようになる。作品の意図がより深く、よりストレートに伝わるところが面白いんです。
肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本 小林重予作品集 心の庭で~ 3.君と約束 小林重予 札幌在住の造形作家、小林重予さんの「日記画」60点と6つのことばを1冊にまとめました。6冊セットの全集用の特製化粧箱(1000円)も作りました。 1冊2500円
書店ナビ 木や自然物、金属やガラス、紙や糸など多彩な素材を用いた造形作品を国内外で発表し続けている小林さん。札幌ドームや札幌ステラプレイスにも作品が常設展示されています。
末木 ご本人に初めてお会いしたのは2009年のことでした。北海道立文学館で開かれた小林さんの展覧会を最終日に見に行ったら、泣きそうになるくらい感動してしまって。 会場にいたご本人とも話がはずみ、森雅之さんの豆本のこともご存知だったので、「私も豆本を作りたい!」と言っていただき、こういう形になりました。 小林さんの毎日を綴った366枚の日記画を編むということは作品集をつくるのと同じこと。作品にふさわしい装丁で完成度を高めたいと思い、6集ともすべて違うタッチの装丁を考えました。ご本人もとても喜んでくださって、粘った甲斐がありました。 「1」が2012年11月にできて、最後の「6」が2015年8月に完成。4年間の歳月をかけて作った、キコキコ商會としても渾身の作品集です。

作品集3の装丁はイメージに合うものを探して東京の繊維街で見つけたテキスタルを使用。

一般書籍と同じように、本は装丁家がいてはじめてモノとして完成する。末木さんは編集者兼デザイナー兼装丁家の1人何役もこなしている。

「植物を題材にすることが多い小林さんの作風を考えて、花のしおりも付けました」

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで 楽しい珈琲帳 其の一 末木智佳子 珈琲通の方はもちろんのこと、珈琲についてもっと知りたいという初心者の方も楽しめます。限定の特別版は同じ本を縮小した超豆本とのセット、特製化粧箱付きです。 単体1700円 超豆本とのセット5000円
書店ナビ 《デザート》にはスイーツに欠かせないコーヒー本をセレクトしてくださいました。喫茶店「キコキコ商店」をやっていた末木夫妻ですから、やはりコーヒーのことはお任せあれ、ですか。
末木 コーヒーは僕というより奥さんの担当で、コーノ式円錐ドリッパーを開発された故・河野敏夫さんから直々にコーヒーの入れ方を教わっています。この本も会長がお元気だったときに監修していただきました。 みなさんが案外誤解したまま覚えていらっしゃることが多いコーヒーの基本を掲載しています。

珈琲サイフォン株式会社二代目社長、故・河野敏夫さんが監修。其の二も出版されている。

書店ナビ そしてまた「はなげブラシ」のようなすごいものがありますね。3・5cm×4・6cmの通常版を1cm四方にした縮小版!これぞ豆本職人の腕の見せどころ、お見それいたしました。

驚異の1cm本!「や、これはさすがに作ったボクも読めないです(笑)」

ごちそうさまトーク 誰かとつながりながらつくる
書店ナビ 豆本、勝手に誤解していた気がします。もっと私的な詩やイラストをまとめたもの、というパーソナルなイメージを抱いていましたが、キコキコ商會さんが出版している豆本は、もっと"開かれた"感じがします。
末木 このデジタル時代にあえてローテクなことをやっている自覚はありますが、手作りだからといって自分の殻に閉じこもってしまうのはとても恐い。 森さん、小林さんたちのように誰かとつながりながら、その人にしかつくれない世界を豆本という形におさめていきたいと思っています。

「早く出版100冊目にたどりつきたい。そのときはなにか記念企画も考えたいです」

書店ナビ 小さい誌面が秘めた可能性は無限大。豆本の面白さに目覚めさせてくれたフルコース、ごちそうさまでした!
●キコキコ商會 http://www012.upp.so-net.ne.jp/fks/kikokiko/ 《今後の展示会のお知らせ》 9月17日~11月、市立小樽文学館にて展示会予定。 詳細は決まり次第、上記の公式サイトでお知らせします。
注目記事
(株)コア・アソシエイツ
〒065-0023
北海道札幌市東区東区北23条東8丁目3−1
011-702-3993
お問い合わせ