5冊で「いただきます!」フルコース本 北海道書店ナビ

書店員や出版・書籍関係者が腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

第272回 実験書店ブックバード & 走る本屋さん

[店舗紹介]実験書店ブックバード & 走る本屋さん 

2016年2月10日、江別市大麻座商店街に開店した書店「ブックバード」。

[2016.5.9]

夜6時からシャッターを開ける人文書専門店

書店ナビ 「泊まれる本屋」や「一種類の本しか置かない本屋」など、従来にはなかった切り口の書店経営が注目を集めるいま、札幌の隣にある江別市の実験書店「ブックバード」の存在もまたユニークです。 この「夜6時から10時までしか開いていない人文書専門店」を始めた人物は、元書店員の荒井宏明さん。NPO法人北海道ブックシェアリングの代表を務め、北海道や東北の読書環境を整備する活動を続けています。 荒井さん、開店のいきさつを教えてください。
荒井 WEBマガジン「航」にも「北海道のシャッター通りに本屋をつくる」という詳しい記事を投稿しましたが、北海道で増えている「無書店自治体」に対する社会実験の一環として始めました。 札幌のベッドタウンである江別の大麻座商店街は店舗の3分の1が閉店しているシャッター通りです。これをなんとかしたいという地元の方々と協力しながら、これまで古本市やビブリオバトルで盛り上げる「大麻座商店街ブックストリート」を定期的に開いてきました。今の場所は空き店舗で、ブックストリートのバックヤードがわりに使われていました。
書店ナビ 「ブックバード」さんは以前、大谷地にあったくすみ書房さんの一画で店を構えていらっしゃいましたね。くすみさんの閉店に伴い、そちらも一度店じまいをすることに。
荒井 先ほど「無書店自治体」に対する取り組みといいましたが、実はこちらのほうが主役である「走る本屋さん事業」を始めたくて移動図書館車の駐車場を借りたら、この事務所兼店舗がついてきた。 じゃあ"移動しない書店"も開こうかと、「ブックバード」を復活することになりました。

店は約10坪。内装は電気工事以外ほとんど荒井さんのDIY。「全部で6万円もかかってないんじゃないかなあ」

本州と北海道をつなぐ移動図書館「やまびこ号」

書店ナビ 「やまびこ号」は"旅する図書館"ですね。もとは東日本大震災で甚大な被害を受けた陸前高田市に、滋賀県の東近江図書館さんが寄贈した移動図書館車でした。 その後、荒井さんたち北海道ブックシェアリングが贈ったログハウスでの仮設図書館開館が軌道に乗った陸前高田市でその役目を終えた「やまびこ号」を、今度は逆に荒井さんが譲り受けたとか。 滋賀県から岩手県にわたり、そして北海道へ。さまざまなまちを走ってきたやまびこ号のこれからの予定は?
荒井 陸運局への届け出も終えて、これからは喜茂別(きもべつ)町(取材後の2016年4月19日に訪問)や妹背牛(もせうし)町、新篠津(しんしのつ)村、白糠(しらぬか)町、西興部(にしおこっぺ)村など地元に専門書店がない自治体をまわります。移動図書館車ができることはなにか、これから検証していきたいです。

出番を待つ移動図書館車「やまびこ号」。「個人で移動図書館車を所有しているのは日本で僕くらいかもしれません」

「書店のないまちで育つ子どもたちに読書の機会を広げたい」。荒井さんと親しいくすみ書房の元店主、久住邦晴さんの願いでもある。

"できる範囲"経営に不便を面白がる書店好きが反応

書店ナビ 話を「ブックバード」に戻しましょう。約10坪の店内に置いてあるのは、一般書店で敬遠されがちな人文書と写真集や画集などのアート系が3000冊。古書と一部新刊書も取り扱っています。
荒井 古書の仕入れ古書店さんから、新刊は作家の落合恵子さんが代表を務める「子どもの文化普及委員会」などのツテを頼って仕入れています。道内の出版社は僕の好みで、亜璃西社さんや寿郎社さんの本を置いています。

書棚の上には荒井さんのお母様が作った木製クラフトが。

店内唯一の家具であるソファーは旭川の家具メーカーのもの。

低い棚には絵本コーナー。親子連れでも長居できる。

荒井 営業時間が月曜から土曜の午後6時から10時までなのは、たった一人の店番である僕が日中、北海道ブックシェアリングや大学の非常勤講師の仕事、フリーの編集業務で動き回っているから。 僕がこの実験書店でもうひとつ試そうと思っていることは「気持ち的にも経済的にも追いつめられない書店経営」の実現です。店の準備も営業時間も"できる範囲"でやる。日曜・祝日もお休みをいただいています。
書店ナビ 気になるお客様の入りはどうですか?
荒井 この商店街は夕方5時以降になると人通りがなくなり、他の店の灯りも消えます。それでもわざわざ「ネットで見たから」とか「人づてに聞いて」と、当店を目当てに札幌や小樽から来てくださるお客様には本当に感謝しています。 クレジットカードも図書カードも使えなくて、店頭注文も受けつけない(笑)。一般書店では考えられないこの不便さを珍しがり面白がってくださる人たちが集まってきてくれてるな、という印象です。
書店ナビ なんでも揃っている大型書店で漫然と時間をつぶすのとは対照的な、"ないものはない"不便を面白がる書店の過ごし方。 店を開けた翌3月は売上ゼロの日がないというお話からも、今後さらに深めていきたいブックバードらしさが見えてきそうですね。
荒井 営業が苦戦をするのは始める前から"織り込み"済み。焦って結果を求めずに僕も楽しみながらやっていきたいです。

三省堂書店の人文書担当だった経験が今に活きている荒井さん。

無書店のまちを走り出した本屋さんを応援!

荒井 いまはまだ棚の整理に手をつけられない状態ですが(取材は2016年3月下旬)、たまにお客様が「この本はこっちだね」と並べ替えてくださったりして、案外そういう"お客様に棚をつくってもらう日"なんていう企画もありかもしれませんね。

リピーターを飽きさせない工夫も今後の課題になる。

書店ナビ それは面白そう!書店好きの心をくすぐりますね。 北海道ブックシェアリングでは、この4月から本格的に「北海道の無書店自治体を走る本屋さん事業」をスタートしています。 北海道書店ナビではこれからも引き続き、その様子を皆さんにお知らせして、北海道の読書環境の整備を応援してまいります。今後の続報をお楽しみに!

荒井宏明(あらい・ひろあき)さん

1963年北見市生まれ。書店員、ケーブルテレビ局員、新聞記者を経て、現在、一般社団法人北海道ブックシェアリング代表理事。札幌在住。札幌大谷大学社会学部非常勤講師(情報資料論・ボランティア論)。著書に『なぜなに札幌の不思議100』(北海道新聞社)、『さっぽろいいね!』(TOエンタテインメント)。北海道生涯学習審議員、北海道子ども読書推進会議委員。 ●「ブックバード」や「走る本屋さん事業」を含めた 北海道ブックシェアリングの活動がわかる公式ブログ ●荒井宏明さんのFacebook ●荒井さんにつくっていただいた 「5冊でいただきます!フルコース本   図書館をもっと楽しむための本」はこちらからご覧いただけます。

●「ブックバード

住所 〒069-0852北海道江別市大麻東町13-45
アクセス JR函館本線 大麻駅
営業時間 月~土 18:00~22:00
(株)コア・アソシエイツ
〒065-0023
北海道札幌市東区東区北23条東8丁目3−1
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