今週の北海道書店ナビはBOOKニュースをお届け!
[NEWS 01]全国の個性派出版社が大集合!
「ヨマサル市2021」が札幌市内4店舗でスタート!
紀伊國屋書店札幌本店では1階の入口左手にコーナーを設置。担当の林下沙代さんは「普段は取り扱えない本を幅広く展開できるのが魅力です」と語る。
「ヨマサル」とは「読む」が変形した北海道弁。「読書に関心があるけれど何を読んだらいいかわからない」という人たちに「思わず読んじゃう=読まさる本」との出会いをつくるフェア「ヨマサル市2021」が、7月の第二週から始まった。コロナ禍で始まった昨年に続いて2回目の開催となる。
開催書店は北海道大学生協書籍部クラーク店、MARUZEN&ジュンク堂書店札幌店、紀伊國屋書店札幌本店、三省堂書店札幌店の4店舗。全国の個性派出版社から集まった本が店頭に並んでいる。
第477回 BOOKニュース:「全国のヨマサル本、集めました!」フェア開催中!
出版社や書店、地域の枠を超えるこの意欲的なフェアを企画した実行委員会のメンバーは、札幌在住の下郷沙季さんと東京都在住の文平由美さん。元は市内の出版社で同僚だった二人だが文平さんが都内の出版社に転職してからは二人とも仕事に追われ、2021年の開催自体をどうするか決めかねていたところに、突如「強力な助っ人」が現れたという。
その「助っ人」とは、宮城県石巻市からやってきた一般社団法人職員の山内楓花さん。まちづくりの中でも教育に関する仕事に従事していたが「ちょっと遠くに行きたくなって」行き先を探していたときに、東日本大震災のボランティア活動で現地に通っていた下郷さんのことを知人から聞きつけた。
「出版社に勤める下郷さんの話を聞いて、すごく興味が湧きました。一度、本に関わる仕事もしてみたかったので、私に何かできることはないかと会ったこともない下郷さんにメールしてみたんです」
渡りに船、とはまさにこのこと。「山内さんが来てくれるならヨマサル市を継続できる!」と下郷さんたちも喜び、マッチングが見事成立。2021年5月から山内さんが札幌に滞在し、ヨマサル市開催に向けて本格的に動き出したという。
●ヨマサル市2021開催書店 ※初参加は★
北海道大学生協書籍部クラーク店/MARUZEN&ジュンク堂書店札幌店/紀伊國屋書店札幌本店/★三省堂書店札幌店
※各店舗のフェア期間は1~2カ月を予定。
今年の参加出版社は、北海道から沖縄まで全48社。「昨年も参加してくれた出版社に加えて、今年は書店員さんからおすすめの出版社も教えてもらい声をかけました」(下郷さん)。
●ヨマサル市2021 参加出版社一覧 ※初参加は★
【北海道】亜璃西社/かりん舎/寿郎社/スロウ編集部/内山企画/中西出版/柏艪舎/北海道大学出版会/ミツイパブリッシング/★淡濱社/★ビッグイシューさっぽろ/★北海道新聞社
【宮城】荒蝦夷
【東京】亜紀書房/朝日出版社/アルテスパブリッシング/カンゼン/共和国/クオン/クルミド出版/コトニ社/ころから/左右社/三輪社/新曜社/青弓社/青土社/★早稲田大学出版部/タバブックス/旅と思索社/トランスビュー/中野商店/ナナロク社/NUMABOOKS/ビーナイス/百万年書房/ポット出版/堀之内出版/本の雑誌社/吉川弘文館/雷鳥社/★夏葉社
【大阪】西日本出版社/★どく社
【兵庫】ライツ社
【福岡】★弦書房/★石風社
【沖縄】ボーダーインク
さらに今年は山内さんが開催書店の担当者にインタビューしたフリーペーパーも制作した。本格的なインタビューはこれが初挑戦だったという山内さんは「これまで書店は単に本を買いに行く場所だと思っていましたが、書店員さんたちのこだわりや創意工夫、"売れない本を輝かせたい"とか"どの本とどの本を隣り合わせにするか考える"というお話を聞いて本屋の見方が変わりました」と語る。
フリーペーパーには各担当者が推すヨマサル本の紹介も載っている。「コロナがあけたら書店に行くきっかけにしてもらえたらうれしいです」
札幌・東京の出版社に勤務する二人が企画したフェアを、石巻の女性が海を渡って手伝いにやってきた。紹介されるのは全国の出版社が腕によりをかけて世に送り出したラインナップだ。
縮こまっていた頭もからだも伸ばしてくれそうな「ヨマサル市2021」に、あなたも出かけてみませんか。
[NEWS 02]氷室冴子青春文学賞オンラインイベントレポート
2人の受賞作家が語る「物語の役割」「氷室作品の魅力」
2021年7月4日に開かれた「第3回氷室冴子青春文学賞記念オンラインイベント」。第1回大賞受賞作家の櫻井とりおさんと第2回大賞を受賞し、2021年6月に受賞作を改稿・改題した『ブラザーズ・ブラジャー』を刊行したばかりの佐原ひかりさんによるトークライブが行われた。
氷室冴子青春文学賞から生まれた2冊。2021年の第三回は大賞・準大賞ともに該当作なしだった。
- 虹いろ図書館のへびおとこ
櫻井とりお 河出書房新社 - 第1回氷室冴子青春文学賞大賞受賞作。いじめがきっかけで学校に行けなくなった小学6年生の火村ほのか。たどり着いたおんぼろ図書館で顔の半分がみどり色の司書、謎の少年、そしてたくさんの本に出会い、ほのかの世界は少しずつ動き出す!2019年11月の刊行以来、新人作家ながら7刷に突入し、累計発行部数2万4千部の傑作小説!
- ブラザーズ・ブラジャー
佐原ひかり 河出書房新社 - 義理の弟・晴彦がブラジャーを着けているところに遭遇した高校生のちぐさ。「おしゃれでやってるんだよ!」と言う晴彦にちぐさは…?第2回氷室冴子青春文学賞大賞「きみのゆくえに愛を手を」を加筆・改題した表題作と、「好き」という気持ちを貫きたい晴彦の葛藤を描く書き下ろし続編「ブラザーズ・ブルー」を収録。
トークの進行はNPO法人氷室冴子青春文学賞事務局長の栗林千奈美さん。以下に印象深かったやりとりを抜粋してお届けする。
うつみさんはイヌガミさんの気持ちを
どこまでわかってたんだろうか問題
栗林:お互いの受賞作品を読まれて、お好きな登場人物を教えてください。
櫻井:『ブラザーズ・ブラジャー』は主人公のちぐさちゃんもすごくいいんですけど、私が好きだったのはモブだと思っていた友達の絵美ちゃん。2人が言い合う場面は、コミュニケーションがうまくとれない10代の中で強さやしんどいことを厭わない感じがすごくいいと思いました。
興味深いのは、書き下ろしの「ブラザーズ・ブルー」に出てくる晴彦くんのお父さん。あの「わかっていない感じ」が面白い(笑)。身近にいたら迷惑だと思うんですが、小説はそういうキャラクターの方が面白いんですよね。
佐原:『虹いろ図書館のへびおとこ』は司書のイヌガミさんの同僚、うつみさんが気になりました。イヌガミさんからチケットをもらうシーン、うつみさんはどこまでイヌガミさんの気持ちをわかっていたのか(笑)。私はあのスマートさは、わかっていたんじゃないかなと読みました。
それと主人公のほのかちゃんがイヌガミさんに気持ちを伝える場面。そのときにイヌガミさんから言われた一言を、あとになってほのかちゃんがもう一度ふり返る。その肯定感も好きでした。
『虹いろ図書館のへびおとこ』の熱烈なファンであるいわた書店の及川昌子さんが企画したコラボ商品「本を読むときのハンドクリーム」。クリームに櫻井さん書き下ろしの短編がついている。クリームはいわた書店のサイトで好評発売中!
そばにいたら迷惑…だけど好き!(櫻井)
一番好きなヒロインの名前をペンネームに(佐原)
栗林:お二人が影響を受けた作品や作家さんを教えてください。
櫻井:長くなって申し訳ないんですが、文学上好きな男女ベスト3を考えてきました。男性の方は3位が『比類なきジーヴス』の主人公、天才従者のジーヴス。2位がはやみねかおるさんが書く名探偵夢水清志郎シリーズの夢水清志郎。本格ミステリの入門としてすばらしいシリーズですし、誰も傷つけない名探偵。
そして第1位がドストエフスキーの『悪霊』のスタヴローギン!この人も近くにいたら困る大悪人ですが、すごくかっこいい!たまりません。
女性の方は、3位が『ゴールデンカムイ』のアシリパさん。アイヌの命運を背負って立つ少女。杉元のようなタフな男と少女の組み合わせがツボです。
2位は北村薫さんのミステリー『円紫さんと私』シリーズの《わたし》です。このシリーズは新作が出るたびに主人公も成長していって、最新作では子どもがいるお母さんになっています。表紙イラストを高野文子さんが描かれていて、実はそのイラストが私と佐原さんを担当してくださっている河出書房新社の編集者さんに似ているんです(笑)。
そして女性主人公の第1位は『赤毛のアン』のアン・シャーリー。少女小説が描いてきた女の子の枠におさまらない主人公です。
こう見ると、男女ともに「そばにいたら迷惑…だけど好き!」というところが共通項かもしれません。
佐原:私は作家さんで言うと、瀬尾まいこさんと豊島ミホさんです。瀬尾さんはシリアスなこともひょうひょうと、ちょっとハズして書く文体。それに影響を受けているという自覚があります。豊島さんが描く主人公たちは、少女の心とからだの主体性のリアルさにガツンときました。
好きな作品は私は少女漫画育ちで、草川為さんの『ガートルードのレシピ』(白泉社)の女子高生・佐原漱が一番好きな主人公。自分のペンネームもそこからいただきました。
佐原さんは人造悪魔の少年ガートルードに巻き込まれていろいろな目に遭うんですが、とてもフェアな精神を持っていて、誰とでもフェアな関係を築いていこうとする。たくましさや健やかさもあって、私自身がこういう人でありたいし、こういうヒロインを書いていきたい。同時に自己矛盾を抱えている人や一筋縄ではいかない人も書いていきたいです。
世の中がキレイゴトでいっぱいじゃないことは
みんな、もう知っている。だから書く!
栗林:自分にとって譲れないことは何ですか?
佐原:小説を書くうえでも実生活でも、聞こえのいい言葉は信用しないようにしています。「絆が」とか「仲間が」とか(笑)。もちろん言葉自体はいい意味ですが、使い方によってはその上澄みだけをすくっている気がして。
何かいいことを書いたとき、「キレイゴトだよ」という人もいるけれど、世の中がキレイゴトでいっぱいじゃないことはみんな、もう知っていると思うんです。とりをさんも私も少年少女読者を想定しているので、なるべくならキレイゴトを描き続ける、そこに向かっていく意志は貫きたい。
櫻井:わかります。私たちの作品に共通しているのは正義のほう、健やかなほうに呼応していることじゃないかなと感じます。登場人物も冷ややかに距離を置いたり、わけ知り顔で批評するような人たちじゃないということは、とても大事ですよね。
栗林:氷室冴子さんの作品もそうでした。「これは理想かもしれないけれど、そうありたい」という願いが書かれていて、櫻井さんも佐原さんも全く異なる作品ですが氷室作品の精神が受け継がれていると感じています。
満員電車でも物語に没頭する幸せを(櫻井)
「世界の外」へ連れ出してくれる物語(佐原)
栗林:物語が果たす役割について、どのようにお考えですか?
櫻井:現実の社会に対して物語はシミュレーションの役割があると思います。先ほどからお伝えしている"すごくイヤな人だけど魅力的な人は存在する"とかね。そういう体験を頭の中で積み重ねていくと自分のバックグラウンドが豊かになり、現実でそういう人にあっても思い至ることができる。
あとは「没入感」です。私自身の経験ですが満員電車で通勤中も文庫を読めば、たとえ数十分間でも現実と離れて幸せな気持ちになれる。物語が持つ、すごく大きな役割だと思います。
佐原:ボードレールの詩に「ANY WHERE OUT OF THE WORLD」という一編があって、日本語で言えば「世界の外ならどこへでも」。現実に日常生活から出ていくのはすごく難しいけれど、物語はそこに穴を作って連れ出してくれるもの。書く側としては「連れていくぞ!」という気持ちでのぞんでいます。
あとは聞こえのいい言葉を吐く人たちへの対抗手段としての物語もあると思います。そこにごまかされない心を養える。
『虹いろ図書館』シリーズは『虹いろ図書館のひなとゆん』も刊行。2021年11月には第三弾も出版予定。佐原さんの応募作が大賞を受賞したときの「激論・氷室冴子青春文学賞最終選考レポ」は下記のリンクから読むことができる。朝倉かすみ・久美沙織・柚木麻子の審査員たちが各応募作をどう評価したのか、『ブラザーズ・ブラジャー』読了組が読んでも面白い!
ハゲvsブラ!激論・氷室冴子青春文学賞最終選考レポ|monokaki編集部|monokaki―小説の書き方、小説のコツ/書きたい気持ちに火がつく。
「小説を書くっていうのは、
究極のところ祝福すること、祈ること」
栗林:参加者から事前に質問もいただきました。氷室作品でお好きな作品はなんですか?
佐原:『多恵子ガール』と『なぎさボーイ』は女子男子がお互いを神格化しているところがしっかり描かれていて、すごいと思いました。ものすごい嫉妬を表現するのに"奥歯の詰め物が取れた"というくだりがあって、それを読んでいる私の体にもグッときたことを覚えています。
未完の『銀の海 金の大地』シリーズは、14歳の少女が心身の主体性を持って世界を押し上げていく姿に胸が熱くなります。「心に金の砂をもつ」とか「私という名の王国」という章タイトルもすごくいい。
櫻井:私は『いもうと物語』を読んだのが岩見沢での授賞式の後だったんですが、「岩見沢に行く前に読めばよかった!」と反省しきりでした。それまで思い描いていた氷室冴子像がいい意味で崩れて、「こんなに野太い、地に足のついた少女の視点を描かれていたんだ」と驚きました。
栗林:氷室冴子青春文学賞はおふたりの作品のように、氷室さんが作品に込めた思いを次の世代につなげていきたいと考えています。
その願いを込めて、氷室さんのエッセイ集『ホンの幸せ』(集英社)に収録されている「『いもうと物語』自作を語る」の一説を、ここで朗読させていただきます。
でも小説を書くっていうのは、究極のところ祝福すること、祈ること、それに尽きるんじゃないかとも思います。
人が生まれ落ちて、生きて、成長していくなかで、世界がその人にとって、もっとも優しく美しい時期を書きたかったし、書いている間じゅう幸福でした。
栗林:最後になりますが、櫻井さん、佐原さんの今後の目標を教えてください。
佐原:小説を読む人たちは時間やお金を犠牲にして読んでいる。そう思うと、そこに応えるようなものを書いていきたい。中身については青春小説に限らず、人が変化する瞬間を描いていきたいです。
櫻井:氷室冴子青春文学賞に応募すると、私のように運命が変わる人間が出てきます。それまでは本当に何度も何度も落ちました。「へびおとこ」も落ちてます。やめなくてよかった。いつか、子どもたちが読める時代小説も書いてみたいです。書いたものを人に見せたいと思っている人は、どうぞ自分のマインドにしたがってそのまま突っ走ってほしいです。