5冊で「いただきます!」フルコース本
書店員が腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ
Vol.26 「ブクブク交換さっぽろ」主宰 みやち ゆかさん
本業はグラフィックデザイナーのみやちさん。名刺には「つくるひと、たべるひと。」とあり、今回のフルコースも「つくるひと」仕立てを用意してくれた。
[本日のフルコース] そこにあるだけで幸せ! 本をプロダクトとしても楽しむフルコース 〜「つくるひと」仕立て〜[2015.11.23]
書店ナビ | 2010年に東京で始まった本を交換するイベント、その名も「ブクブク交換」を札幌で展開しているみやちゆかさんにご登場いただきました。 紹介文を書いたフセンを貼り付けた本を並べて、順にプレゼンし、立ち読みタイムを経て、最後は気になった本を交換する(他の人とかぶった場合はじゃんけんで決める!)。 2人以上いればできる「ブクブク交換」、ずばり魅力はなんでしょう? |
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みやち | 紹介者とその本の出逢いや、なぜその本を選んだのかなど、個人のコトバをその場のみんなで聞けること、自分が普段読まないジャンルの本に出会えるところだと思います。 少人数でもいいですし、20人近くいても欲しい本を選びがいがある。それぞれの良さがあるので、興味がある方はぜひご参加ください! ●ブクブク交換さっぽろFacebookアカウントはこちら。 |
書店ナビ | 今回のフルコースは、グラフィックデザイナーであるみやちさんが「プロダクト」としても一目惚れした愛蔵書をお持ちいただきました。 |
みやち | どれも思いいれがあるので、ずっと手放しくたくない(交換はできない)、お気に入りのコたちばかりです。 |
前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書
野菜美 奥田實 新潮社 普段わたしたちが見ている野菜は、一生のうちの一瞬の姿でしかないことを知る大型野菜図鑑。美しい写真のコラージュと、見たこともなかったアノ野菜のあんな姿こんな姿がいっぱい。写真集としても楽しめますが、見ているうちに「こんな形なの!?」という発見の連続に感動します。なぜこの本を《前菜》に選んだのか。「野菜」だからサラダ感覚で召し上がってください。
書店ナビ | これはすごい! じゃがいももキャベツもみんな、私たちが知ってる《いつものかれら》じゃないですね。 |
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野菜ごとに原寸大を無視した大胆なアップと成長過程がわかるコラージュで紹介されている。
みやち | 以前、こちらのフルコース企画でジュンク堂書店旭川店の高田さんが「クローズドミステリ 〜美味は閉じ込められた中に〜」をご紹介していましたよね。 ブクブク交換を旭川のジュンク堂さんで開いたとき、高田さんがイベント終了後に店内ツアーをしてくださり、そのときに見つけたのがこの『野菜美』でした。あまりにも面白かったので思わず「私、買って帰ります!」と(笑)。 |
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書店ナビ | それは高田さんもツアーのしがいがあったと思います。書店とブクブク交換のコラボ、これからも増えるといいですね。 |
スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本
SEASONS Blexbolex Enchanted Lion books みているだけで幸せな気持ちになる本、といえば絵本。海外の絵本はアート作品のようなものも多いので、旅行の際は必ず本屋さんに立ち寄ります。この本も幼児向けの単語にあわせて素敵なイラストが描かれているので、イラストと、色と、版画のようなインクのかすれをぼんやりながめているだけで楽しめます。ちなみに私は新書の場合、本の「匂い」も非常に大切だと思っていて、この本の匂いはとてもいいです。
みやち | ニューヨークに遊びに行ったときに本屋さんで見つけました。児童書ですが、単色の重なり具合や、わざとインクがかすれるようなザラついた質感がたまらない。 |
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書店ナビ | たとえば“SURPRISE”(驚き)のイラストを読み解くと、雪解けに芽吹く花を見つけての“SURPRISE”とは、素敵ですね。絵を見ながらいくらでも物語がつくれそうです。 |
人物の表情が描かれていないところも読み手の想像力をかきたてる。
みやち | 最後のページは「GROWING UP」(成長)で終わる、そういうところも大好きです。 |
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魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく
PLATES + DISHES Stephen Schacher Princeton Architectural Press どんな美しい景色を眺めるよりも、アメリカの日常が垣間見えてくる最高の写真集!…というのは少々大げさですが、小さなダイナー(ファミレスと喫茶店の中間みたいな感じ?)のワンプレートと、特に素晴らしい美人ばかりではない店のスタッフを見開きで楽しむ本。コーヒーの付け合わせや調味料、スタッフの服装を見ていると、なんとなくその店に行ったことがあるような心地になります。ペーパーバックであるところも、とてもいいのです。
書店ナビ | 左ページにワンプレート、右ページに女性スタッフの統一されたデザインがなおさらお店の個性を引き立たせていますね。 |
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ワンプレートに卵が3つ!ページをめくるたびにカロリー度外視のアメリカンボリュームに圧倒される。
みやち | この本は専門学校生のころにデザイン書コーナーで買いました。当時2000円を本一冊に使うにはかなりの金額でしたが、思いきって。大好きなアメリカの空気を感じられて、なにより「特別美味しそうでも、美人でもない(失礼!)」、それがカッコイイことに衝撃を受けて。(ぱらぱらめくって)このおばあちゃんが特に最高です。 |
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みやちさんを釘付けにしたオチャメなおばあちゃん。若いもんには負けてない。
みやち | あまりにも気に入ってしまって、このおばあちゃんのページをコピーしてコラージュ作品を作りました。 |
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肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本
Le grimoire enchanté Brigitte Bulard-Cordeau Chêne 箱に入った金箔押しの3冊組。この本自体がコース仕立てになっていて、Entrée(前菜)、Plats(メイン)、Desserts(デセール)の3冊で構成されています。コラージュが面白く、アンティークのような古びた紙を全ページの背景にひいていたり、小口が金色に輝いていたりと、ビジュアルに凝った3冊です。ただし内容はすべてフランス語で書かれているので、さっぱりわかりません(笑)。それでも私の手元にいてくれるだけでいい、美しいセット本です。
書店ナビ | 取材班を含め、いまここに4人の大人が揃っていますが、フランス語の壁が高く、誰も読めません(笑)。お役に立てなくてスミマセン。 |
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みやち | いいんです(笑)。見ているだけでうっとりしますから。 |
3冊をそれぞれ開いてみるみやちさんと取材班。食材に限らずさまざまなイラストが載っていて、誌面デザインもめくるごとに違う。
みやち | 代官山の蔦屋書店ができたとき、本のコンシェルジュがいることを知り、「どうせ行くならコンシェルジュに本を選んでもらいたいなあ」と思い、はじめて訪問をした時に声をかけたんです。 「私はデザインと食べることが好きなので、この2つをカバーしたおすすめ本を教えてください」と。 そうしたら、そのコンシェルジュさん自身が「ちょうど昨日から《デザイン&フード》という棚を作ったばかりです」と教えてくださって! 「そのなかでもイチオシはどれですか?」と聞いたら、「1セットしか入荷していないこちらです」と言われたのが、この3冊本でした。 |
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書店ナビ | それはもう買うしかない!運命の出会いでしたね。 |
デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで
閑休自在 悠々自滴 異口同飲 西村佳也・長谷川 好男 美術出版社 お気に入りの珈琲店のマスターが教えてくれました。「渋い男がバーで読んでいそうな一冊」といった趣の古書。12年間に渡って連載されたウイスキーの新聞広告を原寸大でまとめたもの(なので本自体が細長い)。時事ネタをからめた文章も面白く、寝る前に数ページ繰るだけでも良い。
書店ナビ | サントリー山崎の名コピー「なにも足さない。なにも引かない。」で知られるコピーライターの西村さんと、アートディレクター長谷川さんの黄金コンビによるサントリー山崎の新聞広告集です。 |
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みやち | サントリー山崎の広告がスタートした1986年は、私の生まれ年。奥付にはまだ写植だったことや紙の指定まで細かく書かれているところも、グラフィックデザイナーとしてツボでした。 |
新聞広告専用の書体を使っていることや写植指定データも詳しく記載されている奥付。
ごちそうさまトーク 紙と内容のマリアージュに感動!
みやち | 5冊を振り返ると、自分はやっぱり紙が好きなんだなあ、と感じました。どの本も内容にピッタリの紙を使っていて、それが本の魅力をいっそう深めている。 同じようにグラフィックデザインのお仕事でも、コンセプトやそのお店の雰囲気は、紙の手触りや色味からも伝わっていきます。なのでお客様から提示される予算を超えても、「コレ!」という紙があれば時々ダダをこねて提案します(笑)「それでいきましょう」とお客様に言っていただけたときは、最高です! |
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書店ナビ | そんな紙好きのみやちさんが広める「ブクブク交換」、今後参加してみたいです。どの本も素敵な購入エピソードが詰まったフルコース、ごちそうさまでした! |