アルバイトをしていた書肆吉成丸ヨ池内GATE6F店にて。クローバーの「夏葉社」ポップは加納さん作。
[応援企画]札幌にちいさな新刊書店ができるまで
「かの書房」のチャレンジを追う《スタートアップ前編》
[2018.9.3]
【2018年12月5日追記】
かの書房さんのオープンは延期となりました。
詳細は、11月10日に更新された
かの書房ブログ記事「オープン延期のおしらせ」でご確認ください。
https://kano-syobo.hatenablog.com/entry/2018/11/10/151832
資金繰りに難航し、延期を決意した時点で真っ先に
クラウドファンディングの支援者の方々に報告し、
SNS上でも「弁明の余地もありません」と明かしたところ
多くの励ましの声が届いているようです。
今後も引き続き、北海道書店ナビでは
かの書房さんの動向を見守り、応援してまいります。
"つぶやき"の海で見つけた「札幌で新刊書店をオープンします」
「新刊書店のオープンって何をするんだっけ?」 書店と出版社をつなぐ取次会社の社員が思わずそう自問してしまうほど久しぶりの出来事が、いま札幌で起きようとしている。 北海道書店ナビがTwitterで見つけた店主のつぶやきによると、2018年12月、札幌市豊平区でわずか8坪の新刊書店がオープンするというのである。
近年の札幌市内の新店情報といえば、2017年5月中央区にオープンした「俊カフェ」は、詩人の谷川俊太郎氏公認の私設記念館兼ブックカフェ。詩作や朗読イベントを積極的に行っている。
www.syoten-navi.com
2018年2月には東区で古書店を営む「書肆吉成(しょし・よしなり) 」が同じく中央区に姉妹店「書肆吉成丸ヨ池内GATE店」を開店した。古本の他、店主が厳選した詩・写真・人文系出版社11社の新刊も置いている。 www.syoten-navi.com
こうした個性派店舗の系譜に連なりそうなうれしい新店情報、しかも今度は《新刊だけ》で勝負しようというツワモノとは、一体どんな人物なのか。
Twitterで連絡を取り、取材協力していただいた俊カフェで待ち合わせをしたその人はなんと、まだ30代に入ったばかりの加納あすかさん。
現在は開店準備と日中の書店アルバイト、さらに倉庫仕分けのトリプルワークで大忙しのところ、時間をいただいて詳しい話をうかがった。
本を読むことをあきらめない、毎週土曜は図書館の日
北海道中部の道東寄りに位置する上士幌(かみしほろ)町出身の加納さん。「祖父、母、2歳上の姉が揃って本好き」で、幼い頃から本が身近にある家庭で育ったという。
小学生のとき、友達の家が営んでいたまち唯一の本屋が閉店した。
そこで加納ファミリーは「毎週土曜は図書館の日」と決め、さらには車で片道40分はかかる隣町、音更町の本屋に通うなどして一家の豊かな読書環境を保ち続けた。
やがて大学生になったあすかさんは札幌国際大学心理学科に進学し、「いつか書店をやれたら」という夢はこのときすでに芽吹いていた。大学卒業後は販売やサービス業を経験し、2015年からサッポロファクトリーに入っていたあすか書房に就職した。
初めての書店勤めで覚えることは多かったが、会社が仕入れやフェアの企画を現場に任せてくれる方針で「やりがいのある職場でした」と振り返る。
知念実希人サイン本で書店員の醍醐味に開眼!頑張るはずが…
転機は2017年夏に訪れた。知念実希人(ちねん・みきと)氏の新作『崩れる脳を抱きしめて』のプルーフ(出版前のゲラ)を読み、読後の感動が冷めないうちに綴った(とっても長い)感想メールが、出版元である実業之日本社の担当者の心を動かした。
謝辞と一緒に「販促で札幌をまわるとき、作家と一緒にお店に寄らせてもらってもいいですか?」という願ったりの返事があり、同年の秋、知念氏の来店が実現。販促用にサイン本も数冊いただいた。
このサイン本が、加納さんの人生の扉を開けた。
「知念先生のサイン本あります!」と店頭やSNSで告知すると、「本はもう持っているんだけど、どうしてもサインが見たくて」という熱烈なファンが店頭を訪れ、女子高校生が「今月のおこづかいがなくなるー!」と言いながら満面の笑みを浮かべて買っていく姿を目の当たりにした。
自分が勧めたい本を、目の前で、お客様に喜んで買っていただけるーー。
サイン本の威力を実感するとともに、仕事の醍醐味が全身をかけめぐった。
「よしっ、これからもっといろんな企画を立てて頑張ろう!」
自分用に書いてもらったサイン本。この一冊から書店員魂に火がついた。
崩れる脳を抱きしめて
知念実希人 実業之日本社
「今世紀最高の恋愛ミステリー!! 」と謳う作家デビュー5周年、実業之日本社創業120周年記念作品。広島から神奈川の病院に実習に来た研修医の碓氷は、脳腫瘍を患う女性ユカリと心を通わせる。実習を終え広島に帰った碓氷のもとにユカリの死の知らせが届く――。感動のラスト20ページは圧巻!
ところが、である。やる気に燃えるあすかさんの書店道は、ここから想定外に動き出す。ほどなくして経営者から苦渋の決断がスタッフ全員に伝えられた。
2018年2月、あすか書房は閉店します--。 「もうその時点で全身やる気になってましたから、社長の話を聞いて "えええええーっ!"ですよね(笑)。でもかえってそこで気持ちが固まりました。昔から思い立ったら引かない性格。こうなったら自分で本屋をやろう! 素直にそう思えたんです」
(次週2018年9月10日更新に続く)
twitter.com ●加納あすか
上士幌町出身。高校時代に熱気球操縦士ライセンスを取得。当時全国に二人しかいなかった女子高生操縦士として話題を集めた。現在も地元の熱気球クラブに所属。