センターを運営する一般社団法人北海道ブックシェアリングの竹次奈映さん。お気に入りの写真集『ニッポンのはたらく人たち』を持って。
[店舗紹介]2020年4月、江別の大麻銀座商店街にオープン!
小中学校の図書館を応援する「北海道学校図書館づくりサポートセンター」
[2020.7.27]
学校図書館づくりに孤軍奮闘する司書教諭をサポート
月に一度、古本市「ブックストリート」を開催する江別市の大麻銀座商店街。
北海道の読書環境改善に力を注ぐ一般社団法人北海道ブックシェアリングの事務所も同商店街にあり、本を軸にしたまちづくりが進んでいる。
そこに今また新たな展開があり、全国から注目を集めている。北海道ブックシェアリング代表の荒井宏明さんが店主を務めていた古書店「ブックバード」を改装し、2020年4月から「北海道学校図書館づくりサポートセンター」をオープンした。
来館は予約制。来館希望日の2週間前までに申し込む。詳細は下記の公式サイトまで。
北海道学校図書館づくりサポートセンター | bookshare
同センターの主な対象は、北海道にある小中学校の学校図書館で活動する司書教諭や学校司書、図書ボランティアたち。
「学外の組織が学校の先生のためにサポートセンターを?」と意外に思われる方もいるかもしれない。
ここで学校図書館の仕組みを簡単に説明すると、文部科学省の取り決めにより12学級以上の学校図書館は司書教諭資格を持っている教員たちに任されている。公共図書館と異なり、学校図書館は子どもたちの学びのサポートや考える力を育む教育機関としての機能が期待されている。
だが実際には、学校側から「○○さん、図書館、頼むね」と任された司書教諭たちも通常業務に追われる多忙な教員の一人に他ならない。
日々の授業や行事の準備、部活の顧問、保護者対応に追われ(現在ならこれにコロナ対策も加わり)、"プラスα"にあたる司書業務は肩に重くのしかかっている現状だ。
(2015年の学校図書館法改正後はこの状況を改善するために専門職員である「学校司書」をすべての学校に「置くよう努めなければならない」(第六条)とされているが、北海道の実情はかなり厳しい)
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こうした背景を踏まえて、子どもたちのためにどんな本を置いたらいいのか、PC上の図書館管理システムは何を使えばいいのか、悩みを共有しづらい環境にいる現場の司書教諭を応援するためにできた新しい施設、それが北海道学校図書館づくりサポートセンターなのである。
見本図書約2500冊を展示、実物を見て購入を決められる
ここから先は、同センターの竹次奈映さんと一緒に見ていこう。
旧古書店だったセンターの中には書棚がずらり。小中学校の学校図書館向けの見本図書が展示されている。
「通常、司書の先生たちは年に2回ほど札幌で開催される本の展示・販売会や学校に届くカタログを見て、自分のところに入れる図書を決めるんですが、その展示・販売会に行きそびれたり、地元に書店がないまちの先生たちは、新刊の実物を見る機会がなくなってしまうんですね。
私たち北海道ブックシェアリングが4年前に学校図書館の現状調査のために道内各地を回ったときも"新刊本の見本を持って来てほしい"という声をたくさんいただきました。それならば思いきって皆さんがいつでも新刊を見ることができる場所を常設しよう、というのがサポートセンター設立の動機です」
各分類に分かれている見本図書。学校図書に強い出版社からおすすめ本がダンボールで送られてきて、委託期間が過ぎたら返品し、また新刊が送られてくるサイクルを繰り返す。現在、展示点数は約2500冊。
「2500円や3800円など価格が高い学校図書は、売れ残りを心配する一般の本屋さんではなかなか店頭に並びません。そうなると先生たちがカタログを見て気になった本があっても、その本が本当に授業で使えるのか、生徒たちに伝えたいメッセージがきちんと書かれているのかを店頭で確認できない。
そのフラストレーションを解消するためにも、ここに来たら自分で内容を確かめてから購入を決めることができる。その一連の流れを後押ししています」
本の注文は2万円以上ならその場で注文してもいいし、気になった本の選書リストを作って一度学校に持ち帰ってもいい。
「"どれどれ?"という気軽な気持ちで一度ぜひ、来ていただきたいです!」と竹次さん。北海道に初めて誕生した学校図書館づくりサポートセンターへの来館を呼びかけている。
自然科学系の本は小学生に人気が高く、熱心に見て行く先生が多い。「調べ学習用のミニトマト栽培の本もいろんな種類が出ていて選びがいがあります」
スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんの本は、今年度になって複数の出版社から発行されている。
持続可能な開発目標SDGsも大事な話題。「1 貧困をなくそう」の棚に千歳の児童文学作家、栗沢まりさんの『15歳、ぬけがら』も置いてある。
知恵を分かち合う空間でExcel手入力からの脱”ガラパゴス"
さらに特筆すべきは、同センターでは実際にPCを使ってキハラ社の学校図書館管理システム「エリーゼ・エッグ4」を体験することができる。
聞けば、学校によっては蔵書の登録や貸出・返却情報を集約する管理システムが"ガラパゴス化"しているところもあり、「1万冊近くの管理をExcelに手入力するのに2年かかった」実例もあったという。
「先生たちは皆さんお忙しいですし、他の学校がどうしているのかという情報もなかなか入ってこない。まずは既存のシステムを使えばどれだけ便利なのかを知ってもらうところから始めていけたらと思っています」
同センターでは学校図書館づくりに必要な備品づくりもレクチャーしてくれる。これは牛乳パックで作る本立て。複数個作りたいときは北海道ブックシェアリングのボランティアさんたちが手伝ってくれるという。なんと無料!
うまくいっている他校の事例を知りたい司書教諭も多いだろう。ある小学校では学校司書が本を読んでもらうための工夫を凝らし、子どもたちが意欲的に借りていくことでさらに司書の工夫にも力が入る。「子どもたちと司書さんがお互いを高め合っている。すばらしい空間です」(竹次さん)
大学時代は北海道ブックシェアリング代表の荒井氏の教え子だったという竹次さん。
「身内話で恐縮ですが、本会代表の荒井が図書館、書店、本のことをオールマイティーに語れる人なので、じゃあ自分は何ができるのかなと考えたときに、やっぱり小さい頃に本を読んで楽しかった経験が今の自分の土台になっていると感じました。
あの楽しさを今の子どもたちにも知ってもらいたいし、そのために子どもたちの読書環境整備に関わりたい。そう思ったタイミングでサポートセンター立ち上げの話が持ち上がり、現場を任されたときはとてもうれしかったです」
ブックシェアリングに就職後、司書教諭の資格を取り、現在は小樽にある絵本・児童文学研究センターに通う勉強家の竹次さん。プロレスも好き。
2020年4月15日のオープン以来、残念ながらコロナ禍で利用者は少ないが、札幌の厚別区や苫小牧市、夫の実家が北海道だという鎌倉市の学校司書たちが同センターを訪れた。
共通しているのは「皆さん、学校図書館のことを話せるひとがまわりにいないこと」。話し始めたらあれもこれもと話題が膨らみ、滞在時間が2時間以上の人も少なくない。学校司書や司書教諭たちの孤独を受け止める場になっている。
学校関係者以外の利用に関しては「一般開放日を週に一度つくりますので、詳細は公式サイトをご覧ください」とのこと。
近隣の学童2件から「子どもたちが夢中になれる図鑑を注文したい」という依頼もあり、利用の幅が広がっている。
2008年にボランティア団体として設立して以来、北海道の読書環境の改善に奔走する北海道ブックシェアリングが、その歩みのなかでも大きな足跡となるであろう「北海道学校図書館づくりサポートセンター」。
こうしたセンターを一般社団法人が運営するのは全国初。しかも文科省で決められた学校図書館の司書配置が全国平均を大きく下回る北海道での挑戦を、全国の図書館関係者が見守っている。
見本図書もある。知恵を貸してくれる人もいる。あとは自身が動き出せば、息詰まった現場を変えられる突破口が見つかるかもしれない。
ここが北海道の図書館人のベースキャンプとなる未来を信じて、竹次さんたちがあなたの来館を待っている。