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第516回 出版社のSNS活用ケース紹介 亜璃西社編

河合さんと井上さん

2019年に刊行以来、版を重ねる『さっぽろ野鳥観察手帖』の著者、河井大輔さん(写真右)がゲストの回より。進行役は編集者の井上哲さん。

[出版社のSNS活用ケース紹介]
動画配信は10年継続が目標、インスタフォロワー数5千人突破!
亜璃西社 YouTube &Instagram 編

[2021.5.31]

映像ディレクターからの持ち込み企画で2019年8月から配信

書店・出版業界のSNS活用術を紹介するシリーズ2回目は、札幌で創業33年を数える出版社、亜璃西社さんにご協力いただいた。

第512回 書店のSNS活用ケース紹介 俊カフェ&書肆吉成編

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エッセイストでもある和田由美さんを代表とする同社は社員5名。2021年で創刊30周年を迎えたロングセラー『北海道キャンプ場ガイド』や、「写真集のような図鑑」というコンセプトが大ヒットした『さっぽろ野鳥観察手帖』といったネイチャー系ガイド本を得意としている。

郷土史にまつわる本も多く、故・堀淳一氏による『地図の中の札幌』をはじめとする地図エッセイ三部作や、港湾から北海道史をひもとく関口信一郎著『北海道みなとまちの歴史』、関秀志著『北海道開拓の素朴な疑問を関先生に聞いてみた』も刊行。北海道の"知るひとぞ知る専門家たち"とがっぷり四つに組んだ本づくりを続けている。

YouTubeを始めた時期は、2019年8月の『さっぽろ野鳥観察手帖』発売直後。初回は著者の河井大輔さんと野鳥カメラマンの佐藤義則さんをゲストに、新刊の特徴やバードウォッチングの魅力を解説した。

①著者が語る『さっぽろ野鳥観察手帖』の魅力#野鳥#図鑑#バードウォッチング#北海道#札幌市#野鳥の会#ネイチャーガイド#バーダー#亜璃西社#出版 - YouTube

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『さっぽろ野鳥観察手帖』 表紙画像

斬新な真っ赤な表紙が目印の『さっぽろ野鳥観察手帖』。発売から1年8カ月経った2021年5月でも紀伊國屋書店札幌本店〈自然科学書〉の週間売上ランキング3位に入った。

第476回 BOOKニュース:この本に注目!『さっぽろ野鳥観察手帖』

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「北海道で長きにわたり読者や書店、著者からの信頼を勝ち得てきた亜璃西社さんが持つ情報には、他にはない厚みと重みがある。それをデジタルの世界に持ち込んだら、きっと面白いものが出来上がる。そんな予感がしました」
そう語るのは、動画の撮影・編集をしている札幌の映像ディレクター吉雄孝紀さんだ。実は、亜璃西社のYouTube配信は同社とつきあいが長い吉雄さんからの持ち込み企画。
アメリカの非営利公共放送局NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)が多様性に溢れる音声メディア「ポッドキャスト」でリスナーの支持を集めた先例もある。
誰もがどこからでもYouTubeを楽しめるグローバルな時代にこそ、ディープなローカル情報を発信したいと、友人でもある編集者、井上哲さんがいる亜璃西社に話を持ちかけた。

札幌版「タモリ倶楽部」の雰囲気で目標は10年継続

これまでアップした動画は2021年5月末現在で40本。各本の著者を招いて2時間近く収録した内容を、数本に分けて編集している。一本が15分前後とやや長めだが、そこには吉雄さんの狙いがあるという。

「YouTube初期の頃はYouTuberたちが短時間に何か奇抜なことや気の利いたことをしてチャンネル登録数を集めるものでしたが、近年は収録時間や内容も広がり、聞き手が関心を持つ内容であれば対談などの長時間配信もありになってきました。亜璃西社の場合も持っている情報がディープなものばかりですからそれが通用すると思い、時間制限は設けませんでした」

札幌の地名

最も視聴回数が多い動画は『札幌の地名がわかる本』の編者である関秀志さんがゲストの回。2020年4月に前後編をアップし、3千回近く見られている。

①札幌の地名に隠された意外な歴史〈前編〉―編者・関秀志先生が語る『札幌の地名か?わかる本』の魅力とは - YouTube

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地質研究者が語る「札幌の自然地名」:【札幌の山々】編 ① - YouTube

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地質・宮坂

同書の執筆陣の一人、地質学者・宮坂省吾さんの回は5回シリーズ。トータルで約4千回視聴されている。

「関先生や宮坂先生は普段あまり表に出ない方々なので、本がメディアに取り上げられるたびに"この著者はどんな人だろう?"と名前を検索している人がいるんでしょうね。動画が検索エンジンに引っかかり、視聴回数も増えていくという流れだと思います」と井上さんは分析する。

構成で心がけていることは「絵素材をふんだんに用意すること」。話し手の表情だけでは視聴者の集中力が切れてしまう。著作権をクリアした野鳥写真や地図などのビジュアル素材をすぐに用意できる出版社の強みを活かしている。

配信を始めて1年10カ月。撮影担当の吉雄さんが"発見"したことがある。
「僕とは長いつきあいの井上さんですが、彼がこんなに名司会者だとは思いませんでした。言葉数が多いわけではないんですが、ヘンな知ったかぶりやわざとらしさがなく、視聴者を自然に著者の世界に誘ってくれる。僕は長年テレビ局で番組を制作してきましたが、この話術はプロのアナウンサーでもできる人は限られている。言ってみれば、『タモリ倶楽部』のタモリさんクラス。素晴らしい聞き手です」

南極

2019年に出版した『南極あすか新聞1987――初越冬の記録』は1987年2月から309日間にわたり南極・あすか基地で高木知敬(たかぎ・ともゆき)さん(写真右)が発行した手書き新聞を書籍化したもの。

「南極あすか新聞」

「南極あすか新聞」原本。本業は稚内の医師である高木さんが「なぜ南極に?」「越冬隊で医師は毎日何をしている?」、皆が気になる疑問を井上さんが投げかけていく。

越冬生活が伝わる貴重な写真

書籍には越冬生活が伝わる貴重な写真も収録されている。

高木知敬、南極あすか基地・初越冬の記録『南極あすか新聞1987』を語る◇PART1〈前編〉 - YouTube

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現在は新刊や既刊本にからめた内容が中心だが、井上さんは「今後、未来の著者候補となるような方々にも出ていただいて動画から書籍化という方法も考えてみたい」と新たな本づくりの可能性を探っている。
提案者である吉雄さんも「目標は10年間続けること。長く続けていくためには動画配信にかかる制作時間や手間をかけすぎないという判断も大切です」と継続のコツを語ってくれた。

「北海道キャンプ場ガイド」Instagramフォロワー数5千人突破!

2019年8月、井上さんたちがYouTube配信を始めた同じ頃、亜璃西社の若手編集者、加藤太一さんがInstagramを開始した。
アカウント名は「北海道キャンプ場ガイド」。1992年の創刊以来、累計発行部数28万部を超える亜璃西社の看板本専用のアカウントだ。

https://www.instagram.com/hokkaidocampingareasguide/

21-22 北海道キャンプ場ガイド
亜璃西社
新たなキャンプ場11カ所を加えた全道327施設を紹介。グーグルマップにリンクするQRコードも掲載され、立ち寄りたくなる温泉やグルメ情報も満載!

本書未掲載の画像を使った「かもめ島キャンプ場」(上)と「千歳市防災学習交流施設 防災の森」(下)の投稿画面。コロナの影響でキャンプ人気が高まり、道外のフォロワーも少なくないという。

こちらも同書の2019年版が出たタイミングで更新をスタート。
「本をつくるためにキャンプ場1カ所につき撮影する枚数は100枚以上。本では2~4枚しか掲載できず、"もったいない"の一言でした。でもInstagramがあれば"これも載せたかった"という画像を紹介できる。そこが魅力です」と加藤さんは語る。

当初はフォロワー数が100名程度だったが投稿頻度を上げ、ハッシュタグを増やすことでアクセスも徐々に上昇。キャンプ場名は言うに及ばず、思いつく限りのハッシュタグを掲載した。一部紹介すると…

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「これでもまだ絞り込んでいるくらい。検索ワードが多いほど見られる可能性も上がります」
その結果が、2021年5月時点でフォロワー数5千人を突破。読書カードにも「Instagramを見て買いました!」という声が増え、2021年版は発売一カ月にして増刷が決定した。

出版社にとってのメリットはまだある。それはInstagramなら、これまであまり聞く機会のなかった読者の生の声をリアルタイムで感じとれること。
「書名で検索すれば買った方の投稿を見つけることができますし、『いいね!』を押してくれた人のタイムラインから今人気を集めているキャンプ情報の動向を読み取ることもできます」

読者との距離を一気に縮められるSNSの魅力を、加藤さんもダイレクトに感じているようだ。「キャンプ場ガイド」アカウント開設の数カ月後には亜璃西社名のアカウントも新設した。

「インスタを始める前はSNS自体にあまり惹かれなくて、自分の性格から言えば、なんなら距離を置きたいくらい(笑)。それに "今さら始めるなんて、ちょっと遅すぎるかな"という不安もありましたが、実際にやってみると、まだまだできることがいっぱいあるという印象です。遅く始めるということはそれだけ潜在的な読者も多い。いつからでも始めていいと思います」

YouTubeとFacebookを担当する井上さんも、改めて自社アカウントを持つ心得をこう語る。
「吉雄さんから声をかけてもらった時、"しゃべりのプロじゃない自分たちに気のきいたことが言えるのか"と心配しましたが、そこまで気負わずに自分たちが話せる情報を話す、くらいの気持ちで始めたほうがいい。まずは毛嫌いしないでやってみる。それに尽きるのかもしれません」

亜璃西社が得意とする話題、バードウォッチングや地名、キャンプ情報はどれもニッチな分野だが、その分「気に入ってくれた人は長くつきあってくれる」嗜好性も強い。
地域の色を長く濃く打ち出していきたい出版社にとって、いつからでも始められるSNSは優しい追い風になりそうだ。

株式会社 亜璃西社(ありすしゃ)

www.alicesha.co.jp

公式チャンネル

www.youtube.com

facebook

https://www.facebook.com/SapporoAlicesha/

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