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第564回 BOOKニュース 2022年12月編

[BOOKニュース]

【NEWS01】
札幌出身の詩人、文月悠光さん6年ぶりの詩集
『パラレルワールドのようなもの』刊行!

2022年11月、札幌出身の詩人、文月悠光(ふづき・ゆみ)さんが6年ぶりに詩集『パラレルワールドのようなもの』を刊行した。
文月さんは16歳で現代詩手帖賞を受賞、高校3年のときに発表した第1詩集『適切な世界での適切ならざる私』で中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少18歳で受賞した。
4作目の詩集となる本書には「現代詩手帖」の連載を含め、2016年から2022年にかけて執筆した詩26篇が収録されている。

パラレルワールドのようなもの
文月悠光  思潮社
「今日、一篇、文月悠光の詩を読む。
すると明日が来る。生きようと思う日が。」(小池昌代)
「正気でない文月さんの帯を書くなんて私にはできない……。
ただ、女に生まれてよかったと初めて思ったの」(夏木マリ)

札幌本店で刊行記念イベント

2022年12月4日には紀伊國屋書店札幌本店で刊行記念イベントが開催された。

気になる書名は、2021年夏の東京オリンピック開催中に物議を醸した国際オリンピック委員会(IOC)の広報担当者の発言に「衝撃を受け」書いた詩「パラレルワールドのようなもの」を表題にした。

IOC広報担当者の発言とはーー五輪開催中の定例カンファレンスで新型コロナウィルスの感染者急増と五輪開催の関連性を問われたIOC広報のマーク・アダムス氏が、感染対策を徹底している選手村を「パラレルワールド(並行世界)のようなもの」(原文は"living in a different parallel world" )と形容したことが、日々の感染対策に疲弊する人々の神経を逆撫で "炎上"した。

果たして選手村がパラレルワールドなのか、自分たちの日常がそうなのか。おりしも20代から30代へと移り変わる文月さんの中でさまざまな思いが渦巻いたことが、本書のあとがきにも綴られている。

コロナ禍でのマスク&消毒生活、「東京2020」のロゴに囲まれたまちで2021年に行われたオリンピック、「幸せそう」な女性を狙った小田急線刺傷事件、初めてのマンモ・子宮頸がん検査、16歳のときに書いた詩「私は〝すべて〟を覚えている」へのアンサー、逝ったひとたちへの思いなど……収録されている26篇の詩からは私小説的な題材や時事的な話題が渾然一体となり、生の意味を問いかけてくる。

「傷」や「痛み」を語る詩も少なくなく、朗読会で文月さんは「(本書が出版されるまでの6年間を通して)傷ついたあとの自分は傷つく以前の自分と決定的に変わってしまっている。それをどう書くかがこの詩集であり、それは詩でなければできなかった。詩の言葉があることでつらい経験を乗り越えられた。そう思います」と振り返った。

書店ナビライターが特に印象に残ったのは、「見えない傷口のために」にあったこの2行。

「満たされる」とは
自分を最高の相棒にすることだ。

客席には文月さんの朗読に合わせて買ったばかりの詩集に静かに目を走らせる女性が多く、もがきながらも自分や世界に向き合うことをやめない文月さんの言葉が、井戸の水さながらに一人一人の中に染み渡っていくように思われた。

文月悠光

fuzukiyumi.com

【NEWS02】
元弘栄堂書店スタッフが作るシマエナガグッズ
「トエブック」が再び書店で好評発売中!

紀伊國屋書店札幌本店情報をもう一つ。
2022年9月30日に3店舗中最後の店舗であるパセオ店が閉店した札幌弘栄堂書店。その店頭に可愛らしいシマエナガグッズが置いてあったことを覚えているだろうか。

弘栄堂書店パセオ店で展開していたトエブックコーナー。

弘栄堂書店パセオ店で展開していたトエブックコーナー。

実はこれ、同店スタッフの坂胤美さんが「トエブック」という屋号で展開していたオリジナルグッズ。
トートバッグから始まり、ブックカバーや封筒、巾着など次々とアイテムを増やしていき、シマエナガ好き界隈の人気者になっていた。

その「トエブック」がこの冬、書店に復活!紀伊國屋書店札幌本店1階で販売されている。

大丸に近い側の入口から入って新刊の平台横にコーナーを発見!

大丸に近い側の入口から入って新刊の平台横にコーナーを発見!

「トエブックは弘栄堂での棚作りがあったからこそ生まれた活動です。書店員時代に知り合えたみなさんにご尽力いただき、こうして今も活動が続けられるのがとてもありがたいです」(坂さん)

現在、他店での取り扱いの話も進んでいるという。「うちでも置きたい!」という方はぜひ下記のInstaへお問い合わせを!

トエブック/シマエナガ(instagram)

【NEWS03】
札幌の出版社、亜璃西社&寿郎社が共同で
「Seesaw Books」棚オーナーに!

2022年10月30日から開店2年目に突入した札幌・北18条の新刊書店「Seesaw Books」。
元は個人宅だった建物の2階を住みかを失った人のためのシェルターにし、「まちの居場所」や「共有地」といった視点からも注目を集めている。

それらの話題と共に「もっと広まったらいいな」と思うのが棚オーナー制度の導入である。

店の奥にある棚オーナーコーナー。

店の奥にある棚オーナーコーナー。最初は開店資金を募るクラウドファンディングのリターンの一つとして「オーナー権」を購入する形だったが、一年契約が終了した今はひと月3850円で新たなオーナーを募集中。3カ月~1年単位で申し込める。

レンタルした棚ではオーナーが「好きな本を好きな価格で」提供し、1冊の売上につき100円がシェルターの運営にあてられる(例:購入時は1000円だった古本を500円の値付けをして、それが売れると棚オーナーに400円、Seesaw Bookには100円が入る)。

ラインナップもレイアウトもオーナー次第

ラインナップもレイアウトもオーナー次第。「皆さんの自己表現のスペースにしてもらえたら」(Seesaw Books店主 神輝哉さん)

棚オーナーの面々は自費出版のZINEを作るクリエイターや本好き会社員、読み終えた本を並べるカフェ「みちみち種や」や町民有志が選んだ「下川選書」などさまざま。

そこに11月から新たに、札幌の老舗出版社である亜璃西社と寿郎社が加わった。

ひと棚を共同で借りている亜璃西社と寿郎社。

ひと棚を共同で借りている亜璃西社と寿郎社。過去にも「北の出版人」というトークイベントを共に展開するなど札幌の出版社は距離が近い。

寿郎社はSeesaw Booksオープン時にも申し込んだがすでに枠が埋まっていた経緯もあり、今回は念願の棚オーナーに。編集者の下郷沙季さんのアイデアで、仲のいい亜璃西社に声をかけたという。

「アンタップトホステルに泊まる旅行者の方々に札幌の出版社の本を見てもらいたい」(寿郎社の土肥寿郎さん)、「出版社単位でまとめて見てもらうことで自分たちの持ち味を伝えたい」(亜璃西社の井上哲さん)と、2社ともに期待を寄せている。

通常、書店で本を販売すると売価の5~6割が出版社の取り分となる。そう考えると、棚という「小さなお店」を持つことで自社の取り分は9割近くになり、社名を印象づける以上の収穫がありそうだ。
また、「共同で棚を持つ」というアイデアも棚オーナーになるハードルを下げる好例になるのではないだろうか。

Seesaw Booksと母体のアンタップトホステルでは「おおきな食卓」と題した炊き出し&無料ヘアカットや、フードロス対策と働く場の創出を兼ねたビッグイシューさっぽろの「夜のパン屋さん」も不定期に行っている。最新情報はTwitterをチェック!

株式会社 亜璃西社(ありすしゃ)

www.alicesha.co.jp

寿郎社 北海道札幌市の出版社

www.ju-rousha.com

Seesaw Books/シーソーブックス (@seesawbooks_n18) / Twitter

twitter.com

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