今週の北海道書店ナビは、特におすすめしたい地元出版社の新刊3冊をピックアップ!
[新刊紹介 01]マッチラベルが語る昭和の活気
『さっぽろ燐寸(マッチ)ラベルグラフィティー』(亜璃西社)
- さっぽろ燐寸(マッチ)ラベルグラフィティー
上ヶ島オサム 和田由美編 亜璃西社 - 2021年8月に出版。札幌出身のマッチラベルコレクターが集めた大正から昭和30年代にかけた燐寸(マッチ)ラベル約1,200枚を掲載。札幌のまち文化に詳しいエッセイスト和田由美による書き下ろし解説付き。
札幌のまち文化を記録する亜璃西社の「グラフィティー」シリーズ6冊目にあたる本書の著者は、マッチラベルコレクターの上ヶ島オサムさん。
2021年の初めに「以前から気になっていた」亜璃西社に自ら企画を持ち込み、「いつかマッチラベルの本を出したいと思っていた」同社と意気投合。本書の出版が実現した。同社の編集者、井上哲さんにお話をうかがった。
「構成は、まず当社代表の和田が《喫茶店》や《食べ処(どころ)》《買い物処》といったジャンル分けをして、それに沿って膨大な上ヶ島コレクションの中から約1200枚の掲載ラベルを絞り込んでいきました。
当時のマッチはショップカードがわりですから、青果店からホテルまでありとあらゆる業種が作った、なんでもアリの世界。デザインにも遊び心があり、一枚一枚見ていくうちに"札幌ってすごく元気のいいまちだったんだ!"と当時の活気を感じます。
昭和の時代を知らない若い世代の方々が見ても、楽しい一冊になっていると思います」
当時のラベルデザインはほぼ手描き。現代にも通じるデザインが多く、キャッチコピーも思わず口に出して読んでしまう。
「マルミヤ」は現在の丸美珈琲の代表、後藤栄二郎さんの祖父が街中で開いていた帽子専門店。「祖父の店に間違いないです。驚きました。早速、本を買って親戚で回覧します!」(後藤さん)
「札幌愛、北海道愛を感じるグラフィティーシリーズが大好き」と語り、本書もすぐに購入したプランナーの佐藤栄一さん。
「パソコンもフォントもスキャナーもない時代にこれらのマッチを手描きでデザインした方々の技術力がすごい。一枚一枚が生きてますよね。可能ならば、ポスターサイズに拡大した展示を見てみたいくらい」と絶賛する。
余市生まれの佐藤さんだが高校・大学時代は札幌が特別な遊び場だった。見知った店のラベルを見つけると当時自分は何をしていたか、ありし日の情景がよみがえるという。
「コマツ靴店」のラベルにはおそらく特約店だったのだろう、小樽の老舗長靴メーカー「三馬」の文字が。その下の「岩井靴店」は今も札幌市民におなじみの靴屋さんだ。
「こうやって本を見ながら会話が立ち上るのも、グラフィティシリーズのいいところ。マッチ世代のおふくろがこの本を見たら、どんな思い出話が飛び出すのか、今度聞いてみようと思います」
[NEWS 02]「力になりたい」その一念で半世紀
『精神保健福祉の実践 北海道十勝・帯広での五〇年』(寿郎社)
- 精神保健福祉の実践 北海道十勝・帯広での五〇年
小栗静雄 「へぐり語録」編集委員会編 寿郎社 - 北海道十勝地方で精神科のソーシャルワーカーとして働いてきたベテランPSW、「へぐりさん」こと、小栗静雄さんの一代記。徹頭徹尾、現場主義を貫く熱血PSWを慕う仲間による「へぐり語録」も収録。
少し「重たい」と思われるかもしれないテーマだが、大切な、そしてちょっぴり型破りの一冊が今年7月、札幌の寿郎社から出版された。
PSW(Psychiatric Social Worker)とは「精神保健福祉士」と言われる国家資格。「精神障害者」と呼ばれる人たちを対象とするソーシャルワーカーを指す。
1945年生まれの小栗静雄さんも福祉系大学で資格を取得し、生まれ故郷の帯広で精神科を有する総合病院に勤めるところから、半世紀にわたるソーシャルワーカー人生の幕を開けている。
本書の企画は2020年秋に始まった。小栗さんのPSW仲間が「ユニークな名言が多く、いろんな人に"師匠"とも慕われるへぐりさんの語録本を出したい」と寿郎社を訪れ、編集者の土井寿郎さんが「語録だけでなく小栗さん本人を紹介する伝記形式にしては」と逆提案。
「生涯忘れられない苦さを刻む教訓となった」体験談も包み隠さず、本人の筆によって明かされる渾身の一冊が完成した。
第一部は小栗さんによる《精神科ソーシャルワーカー五〇年》。第二部が《仲間が紡ぐ「へぐり語録」》。目次からすでに小栗さんの人柄が見えてくる。
歯に衣着せぬ物言いと飄々とした自然体を我がものとする小栗さんには同業者のファンも多く、本書発売後は「小栗さんの本が出たなら買わなきゃ!」「他の福祉関係者にも読ませたい」といった反響が続々。5冊、10冊のまとめ買いも少なくないという。
道外からも「全く同じ時間、私も精神医療と戦い続けてきました。現在も現場に身を置いています。とても参考になりました」(山梨市、PSW、男性)と共感の声が寄せられている。
《編集者土肥さんからのメッセージ》
「この本は、精神保健福祉士という一般にはなじみのうすい職業についてのものですが、読んでいただければわかるようにPSWの仕事は多岐に渡る《雑用》の集積です。
ともすれば、《雑用の海》の中でおぼれそうになったり、どこか違うところに流されていったりする中で、著者がただ一つ指針としているのは、愚直なまでの《精神障害者の力になりたい》という思いのみ。
その一念で隘路を切り開いていく小栗さんのパッションが全編にあふれた本書は、どんな職業の方が読んでも得るものがあると確信しています」
[NEWS 03]短歌、写真、エッセイで今の心境を一冊に
『キャンサーギフト 礼文の花降る丘へ』(北海道新聞社)
- キャンサーギフト 礼文の花降る丘へ
杣田美野里 北海道新聞社 - 5年前から肺がんの治療を続ける礼文島在住の写真家が今年はじめに余命宣告を受けた。そこから自身で「いつもの編集者」に持ち込んだのが、このフォトエッセイ。短歌とともに今の心境を写し出す。2021年8月31日刊。
本書の著者、植物写真家の杣田美野里(そまだ・みのり)さんには、2018年3月に「本のフルコース」にご登場いただいた。
その時の「ごちそうさまトーク」でも病室の窓から見た光景を歌った一首にそっと触れている。
2018年に出版された短歌写真集『礼文短歌 蕊』(北海道新聞社)は両手で包み込めそうな小さな判型がとても魅力的だったが、ご本人が「最後の一冊」と語る本書はそれよりも二回りほど大きく、礼文島でさまざまな開花の姿を見せる草花の写真が胸に迫ってくる。
ブックデザインは、札幌のデザイナー佐藤守功さん。写真と文章が一体化し、短歌を包み込む余白が静かな声で語りかけてくる。すばらしいお仕事をなさっている。
『礼文短歌 蕊』巻末には、歌人であり三浦綾子記念文学館の田中綾館長が心のこもった解説文を寄せている。
咲きながら一世(ひとよ)のおわりに降るものを
キャンサーギフト とわたしは呼ぼう