「アートアウトドアヴィレッジ栗山」を運営する(株)TCA東日本営業部札幌営業所の佐久間志織さんにご案内いただいた。
[本のある空間紹介]
栗山町でキャンプ×学校×読書のマッチングを楽しめる!
2023年7月1日、旧継立中学校にグランドオープン
複合型アウトドア施設「アートアウトドアヴィレッジ栗山」
[2023.8.14]
コロナ禍で人材サービス会社がキャンプ場運営をスタート
放課後の部活動で賑わったグラウンドはテントサイトに生まれ変わり、定時のチャイムが響き渡った校舎からは今、ファミリーやキャンプ仲間の笑い声が聞こえてくるーー。
2023年夏、栗山町の旧継立中学校を活用した複合型アウトドア施設「アートアウトドアヴィレッジ栗山」(以下、ヴィレッジ栗山)が7月1日のグランドオープン以来、口コミで評判を呼んでいる。
しかも書店ナビとしてはブックカフェの選書の充実ぶりがすごいと聞きつけ、早速現地を訪れた。
今回の主役はこちら、平成26(2014)年3月に廃校になった栗山町立継立(つぎたて)中学校。
町内の野球少年団も使っているグラウンド。
ヴィレッジ栗山を経営するのは、観光業界向けの人材派遣サービスを展開している株式会社ティーシーエイ(大阪本社)。
アウトドア業界に参入したきっかけは新型コロナウイルスだったと札幌営業所コーディネーターの佐久間志織さんが解説してくれた。
「人の動きが止まったコロナ禍の中、ほぼ全ての余暇も止まり、社内で改めて今自分たちにできること・したいことを話し合いました。そのときに出てきたキーワードが、アクティヴィティです。
文部科学省が発信するサイト『廃校プロジェクト』を通じて和歌山県の信太(しのだ)小学校を体験型オートキャンプ場『SHINODA BASE』に再生したのを皮切りに、キャンプ場運営事業に乗り出しました」
そこから北海道でも、と同社の札幌営業所が動き出し、2021年9月から「廃校プロジェクト」にエントリーしていた栗山町と継立中学校跡地を再生するプロジェクトが始動する。
「継立中学校の魅力は校舎もグラウンドも広大なところ。使えるスペースが広い分、キャンプだけでなくアートやブックカフェといった複合型のイメージを広げやすかったです。それになんといっても栗山の皆さんがあたたかくて! 『町をあげてここを活用していこう』というオープンな姿勢で私たちを受け入れてくださったことが、とても心強かったです」
校舎を活用できるアドバンテージを反映した全天候対応のハイブリッドサイト(2サイト)を用意(要予約)。
元調理室はブックカフェに。窓から見えるグラウンドがテントサイトになり、50張のフリーサイトは事前予約(電話080-7537-5728)でも当日来場でも利用できる。
アウトドア好き担当者が提案した「感動」の5つの選書テーマ
複合型機能の中にブックカフェを設けることは早くから構想にあったという。無論本を大量に取り扱うとなると、選書を含め取次会社の協力が必要となる。
「この場所を大人も子どもも成長を楽しめるキャンプ場にしたくて、その教科書がわりに本を置きたいと考えていました。キーワードは〈始まりやきっかけとなる場〉。このことを日販の山田さんにご相談したら、こちらの期待をはるかに上回る提案書を作ってきてくださって感動しました。社内でも『これは楽しみだね!』と一気に盛り上がりました」
そう語る佐久間さんの言葉に「自分の方こそこんなにやりがいのある機会をいただいて…」と隣で話を聞いていた人物が恐縮する。日本出版販売株式会社北海道支店の山田光明さんだ。
「感動の提案書」とは一体どういう内容だったのだろうか。
一階の受付にも本が並んでいる。奥の男性が日販に入社3年目の山田さん(顔出しは「恥ずかしい」そう)。ヴィレッジ栗山のプレオープンには一利用者として宿泊も楽しんだ。
「私自身、山登りやキャンプが好きなので〈本とアウトドア〉はずっとやりたいと思っていた企画でした。佐久間さんから場のコンセプトを聞いた瞬間にスイッチが入って(笑)。利用者さんの〈心の旅〉につながるような本を提案できたら、という思いで5つの選書テーマを膨らませていきました」
アートアウトドアヴィレッジ栗山 5つの選書テーマ
1)「食べる」
アウトドアに限らず人生の楽しみの一つは食べること。キャンプごはんだけでなく世界の食やおうちごはんなど幅広い食の本をセレクト。
2)「育つ」
学校という場所の特性と「始まりの場」というコンセプトを受け止めて、SDGsや郷土史など「大人にこそ知ってほしい」ラインナップを。
3)「つくる」
今後ここで行われるアーティスト滞在型のプロジェクト「アーティスト・イン・レジデンス」やワークショップと相性がいい、いろんな分野の「つくる」本。
4)「触れる」
成長を後押しする「遊び」と「学ぶ」のハードルを下げる。
5)「往(ゆ)く」
キャンプ体験や読書を通じてここではないどこかに往く、そこから帰って来ていつもの見慣れた景色と出会い直す、そんな〈往きてかえりし物語〉がここから始まるように。
2階のブックカフェスペース。校内にある本は全部で800冊近く。
学校時代にレコードをしまっていた棚をそのまま絵本棚に。
この充実のラインナップを前に、実際の利用者の反応はどうだろうか。佐久間さんに聞いた。
「お子さんが本を見ながら「次はここに行きたい!」とか「これ食べてみたい!」「これやってみたい!」と目を輝かせたり、お父さんが『十五少年漂流記』を懐かしそうに手に取って「パパはこれを読んで冒険に出たくなったんだよ」とお子さんに話していたり。私たちが思い描いていた読書の時間が始まっています」
場のコンセプトの芯を捉えた選書がヴィレッジ栗山に流れる時間をさらに忘れられないものにしているようだ。
手に取りやすい写真集や山田さんが好きな外国文学のコーナーも。
学校といえば怪談。書店とは異なるランダムな並びが好奇心を駆り立てる。 どの本も販売用なので本気で読みたい時は購入後にじっくりと!
学校の思い出を懐かしみ、新しい町民の交流の場に
取材時はグランドオープンから約3週間が過ぎていた。120 組以上の利用を通して課題や次の目標も見えてきた。
「まずは、まだまだ足りていない広報に力を入れてこの場所を知っていただくこと。キャンパーの方々だけでなく、栗山町の皆さんが交流できるような企画も増やしていきたいです」
「今並べている本をもっと気軽に買ってもらえる工夫も必要。栗山や北海道にゆかりのある作家さんのトークイベントもやってみたいです」と語る佐久間さん。
受付では炭や網、食材なども販売中。「入れ忘れた」「BBQがしたくなった」ときも安心。
「捨てるな、活かせ」をスローガンに校舎の廃材も薪にして200円で販売。「一枚一枚手作業で釘を抜くのがひと苦労でした(笑)。しっかり乾いているのでよく燃えます」(佐久間さん)
1階の「オモイデルーム」には継立中学校の歴史を物語る思い出の品を陳列。
卒業生たちやその家族が「この写真、おじいちゃんだね!」「こいつと試合したなぁ」などなど懐かしい話が飛び交う場に。
栗山といえば、この方のサインも。もちろん著書も置いてある。
栗山町には現在まちの本屋さんは駅前にある金岩商店だけだという。
今後「本のある空間」としてもどれだけ存在感をアピールできるかが、アートアウトドアヴィレッジ栗山の利用が広がる鍵になるかもしれない。
渾身の選書がまちづくり関係者の勉強にもなるブックカフェの名は、「焚き火」という。佐久間さんが命名した。
2023年7月、人口約1万1000人の小さなまちにあたたかい読書の炎が灯ったばかりだ。応援の薪を足しに、ぜひ足を運んでもらいたい。
ART×OUTDOOR VILLAGE 栗山 | アートアウトドアヴィレッジ栗山